Leaf Memories 〜想いの樹木〜

本棚に住む猫(アメジストの猫又)

文字の大きさ
上 下
70 / 79
幸せを願う葉

いつか、深い闇に2人ぼっちの2人に差し出す光を【一番星】

しおりを挟む


 俺は、大罪を犯した。
 この明けない夜を何とかしたくて、あのパンドラの箱を見つけようと、知ろうと、研究をし続けた。


『それは、何百年も前の男が犯した罪からだった。』


 だから、知ろうと思った。
 記述では、それしか書かれていなかった。最果ての監獄へと捉えられ、箱庭で大切な物を忘れる呪いを受けながら生き続ける。
 そんな呪いと監獄だけの罰で済んでいるという事に、腹が立った。
 何が面白くてこの世界を、夜の世界にしたのか…、そんな事も知る由もなく、箱庭でぬくぬくと暮らしてるだけなのは、本当に腹が立った。
 死ねない体になったとしても、それだけの事。


『それなら、ずっと苦しめられる体にすればいいのに。』


 だが、何があったのか屈辱すら感じるその監獄へと俺は追いやられた。

 最果ての監獄は、小綺麗で、一人の女が召使いとして使われてるらしい。
 伯爵気分で本当、より一層憎悪が増した。綺麗な花も、綺麗な建物も、綺麗な噴水すらある。
 これだけの事を、この女1人でしてるのかと考えると、イライラした。
 そこら辺の伯爵でもしない事を、悠々と命令して、反省の色もないのか。と、口に出してしまうところだった。
 この女には、何も悪くないのだから。


「私、初めてなんです。
 ここに、人が来るなんて。」

 綺麗な声で、聞き入ってしまいそうになるくらい、透明で消え入りそうな儚い声だった。

「そう…か?
 俺は、こんな監獄、初めて来たが…誰も来ないなんて信じられん。」

 素の話し方になって、謝ろうと口に出す直前に「ふふふ♪いいですよ、その話し方。久しぶりにその話し方を聞いたので、そのままで。」と、寂しそうに聞こえた事は、聞き間違えなのか、気のせいなのか…そんなもの分からなかった。

「そう…か。
 了解した。
 俺は…、ディザイア。
 どう呼んでもいい。
 あんたは…」
「ディザイアさん。分かりました。
 じゃあ、ここの部屋がディザイアさんのお部屋になります。
 私は、これから、用事があるので、ゆっくりして下さい。
 ご飯はどうしますか?」

 名前を聞きそびれたが、フルで言われるのは久しぶりのようで、少し気恥ずかしかった。

「あ、俺は…どういう風でもいいが…あんたは、どういう風にいつも食事をとってるんだ?」

 少し寂しそうにする女は、笑顔を絶えないように悲しそうな笑顔を向ける。

「実は、私も彼も、ご飯はあまり取らないんです。」

 「なので…」と、付け加えて俺を見つめる。きっと、俺に合わせようと思ってるようだ。

「あ~、そうなのか。
 少食な感じか?」

 また、悲しそうな顔をするその顔は、何故か苦しそうに見えた。

「少食というよりかは、何も食べなくても私達は生きていけるんです。
 だから、食べない時も少なからずあるんです。」
「それは、どういう事だ?」

 至極真っ当な率直な疑問だった。

「私達は、死ねない体なので」
「……っ」

 息を飲んだ。
 という事は、この女は少なからず、あの男と同じくらい死ねない時間を…
 召使いなのに、何故そこまでして…

「確か、召使いは、交代制もあったと記述に書いてあったが…、もしかして…」
「はい。私は、ずっと、彼の元にいます。」
「っ?!
 な、なぜだ!
 なぜ!
 そんな事までして、あの男元にいるんだっ!!
 最低な奴なのにっ!
 俺たちは…あの男で……っ」

 怒鳴りながらも、女に、今までの溜めていた負の感情を吐き出す。
 そんな中、優しく俺を包み込む様に俺の言葉を真っ直ぐ受け止めた。そんな姿が目に入る度、目を逸らしたくなる。いつの間にか、言葉は止まっていて、涙が溜まっていた。

「ごめんなさい。
 ……私は、彼の元にずっと居なくちゃいけないと、そう思ったので、いるんです。」
「そんな事ないっ!
 あんたはっ、何も罪を犯してない!
 なら、ならっ!!
 ……………。」

 微笑むその顔には、決意を決めているような。強い信念があるような。それでいて、とてつもない、悲しみの海にいるような目をしていた。

「もう。行かないと…」
「あ、えっと、あんたの名前…」
「私は、スピカです。
 彼は、ケフェウス。彼を、憎まないで。」

 そう言うと、小走りでどこかへ行ってしまった。「彼を、憎まないで」なんて、よく分からなかった。あと、あの男に名前があったなんて、知らなかった。当然ではあるが、名前なんてある事に普通に驚いた。
 スピカは、何故そこまでして、あの男を守りたいのか分からなかった。俺たちをこんな目にした張本人に、何故そこまでして情けをかけるのか分からなかった。

 本物の太陽が上がらないこの世界にした奴を、誰が許すと思う。
 そんな奴に、どうして、こんなにも、優遇されているのか、気味が悪かった。



 少しすると、楽しそうなスピカの声が聞こえた。そして、歌を歌う声が聞こえて、その歌を聴きながら、これからどうするか考えた。

 復讐?今の状況を楽しむ?そんな事は出来ない。あの男がいるこの空間に、何が楽しむだ。
 俺は、この箱庭から出られる事はあるのか分からない。刑期は知らされなかったからだ。

 ただ、妙な事に、好きな物を持って行っても、好きな物を取り寄せていいと言われた。



 俺は、これからどうすべきか、分からないが、スピカの歌声だけを聴きながら、ベッドに転がった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

【完結】側妃は愛されるのをやめました

なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」  私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。  なのに……彼は。 「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」  私のため。  そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。    このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?  否。  そのような恥を晒す気は無い。 「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」  側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。  今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。 「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」  これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。  華々しく、私の人生を謳歌しよう。  全ては、廃妃となるために。    ◇◇◇  設定はゆるめです。  読んでくださると嬉しいです!

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

それでも好きだった。

下菊みこと
恋愛
諦めたはずなのに、少し情が残ってたお話。 主人公は婚約者と上手くいっていない。いつも彼の幼馴染が邪魔をしてくる。主人公は、婚約解消を決意する。しかしその後元婚約者となった彼から手紙が来て、さらにメイドから彼のその後を聞いてしまった。その時に感じた思いとは。 小説家になろう様でも投稿しています。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~

緑谷めい
恋愛
 ドーラは金で買われたも同然の妻だった――  レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。 ※ 全10話完結予定

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

処理中です...