Leaf Memories 〜想いの樹木〜

本棚に住む猫(アメジストの猫又)

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強まる想いが光る葉

〖愛してる〗そう言えていたら。伝えていたら

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 僕らには、有限という命を痛感させられている人種だ。
 なぜ、こんな悲しい言い方をするかと言うと、僕らはある願いを、捧げ過ぎているから。
 【大勢の他人の幸せを願う事】その願いを捧げると、ユリシスという青い蝶の刻印を身体のどこかに現れる。その刻印が示すのは、寿命と引き換えに【自分以外の幸せ】の願いが叶っているから。想いが強ければ強い程、蝶の数も大きさも変わっていく。


 そんな中で、僕らは出会った。自分の願いで寿命を使うほど想いが強い僕と君は出会えたんだ。
 フワフワとした表情にキラキラとした目をした君は、奇跡だという程愚かで馬鹿な僕の想いを受け取った。

 同じユリシスの刻印をされている者同士が付き合うだなんて不毛な事を、僕らは何も思わずただ日々を笑って、幸せに暮らして、ただただひたすらに自分の願いを捧げる。

 君は、一言言った。
「私が先に死んじゃった時は、どうする?」
 思ってもみない事を口にする君に、動揺はしなくて落ち着いた声で伝えた。

「その時が来るなら、僕はいつも以上に願い続けるよ。
 君にすぐ追いつけるまで」
 君は僕を見て、思ってもみなかった答えにビックリしたのか、僕を見つめながら僕の服の裾を握る。

「……ねぇ、好き?」
 優しい微笑みへと表情を変えて、君は僕に問う。

「うん。結婚して幸せにすると決めてるくらい。」
「なに…それっ
 そういうのは、言わない約束でしょ」
「そんな約束した事ないでーす」
 僕のこの気持ちが、君に届けばいいのにと、もう1つの願いが出来た事は、君に届かなければいいのにと一緒に笑い合いながら思う。




「ねぇ、あとどのくらいかな?」
「さぁ?」
「ねぇ、あなたの方はどう?」
「うーん、さぁ?
 分かんないや」
「願いを捧げる頻度、落ちてるからかな?
 私は、前よりも蝶が増える量が減ったかも」
「僕は少し頻度が増えて、小さな蝶が増えてるよ」
 そう。これは、君への願いを誤魔化すために何度も何度も、【皆が幸せであるように】と願ったから。
 それでも、君への願いは隠せなくて小さな蝶へと変わっていく。


「ねぇ、もし、寝て起きたらあなたが死んでいたとすると……ううん。なんでもない。なんでもないや」
 そう言って少し笑う君は、眉を下げて笑って見せる。

「どうしたの?」
 その後の言葉が思いつかなかったのか、それとも悲しくなったのか…どれにしても、最後の言葉を知りたいと思った。

「いや、ちょっと思っただけだよ」
「そっか」
 なんて返そうか分からなくなって、聞き出せなかった。
 君のなんとも言えないその顔がなんなのか、僕には全く分からないでいる。それなら、君が…もしくは僕が死ぬまでには、教えてくれるのを待つとしよう。



「ねぇ、好きだよ。」
「どうしたの?」
 また、突然君から言われる。

「ううん。なんでもない。」
「そっか」
 最近その言葉が増えている気がした。



「好きだよ」
「へ?!あ、ありがと」
 顔を真っ赤にして照れる君は可愛くて愛おしくなる。好きだと、何度も心の中で言う。
 でも、そんな特別な言葉だからこそ、何度も僕には言えないでいる。




「ねぇ、好きだよ。」
「うん。僕も」
「う、うんっ
 大好きっ」
「うん。僕も。」
 照れて僕にデレる君を、誰にも見せたくないと感じる僕は、本当。独占欲に塗れてるんだと感じる。



「ねぇ、好き。大好き。
 ずっと、好き。」
 感情が爆発するかのように、僕に言う君は、何故かポロポロと涙を流していた。
 その涙には、青く光る粒子が混ざっていて驚いた。

「もう。終わりになるから」
「どういう…?」
「嘘…ついてたから。戒め。」
 渡されたのは薄い茶色のブックノート。

「本当は、ずっとずっとお願いしてた。【皆が、幸輝こうきが幸せになりますように】って、ずっとずっとお願いしたから、もう私は居なくなっちゃう。
 だから…っ」
 静かに涙を流す君は、僕の幸福を願っていた事を伝える。君を横切った青い蝶に驚いていると、君が僕を触る。

「こうして、ずっとずっと、好きって言えたら良かったのに、皆の幸福を、幸輝の幸福を願わずにいられなくて…、ごめんね」
「それは…」
「大好き。」
 僕を抱きしめる君は暖かくて、涙が溢れていく中、青い蝶が僕らを取り巻いていく。

「僕…は、これからどうしたらいいんだよ…
 君がいないと…」
「大丈夫。
 幸輝なら生きていけるでしょ?
 ほら、前言ってた、願い続けて私に追いつくって。」
「…っ。愛してる。」
「?!わ、私もっ!」
 こんな時にもかかわらず、盛大に照れる君に笑ってやれるほど、僕はすごい人間でもない。

「愛してる。愛してるんだよ。
 さき、愛してる。」
「うん。わたしも、愛し────」


 青い蝶が、辺りから消え…いや、空気に溶けて、僕と抱きしめていたその僅かな温もりを残して、消えていった。


 さきから聞ける、「愛してる」のその言葉をやっと聞けたのに。僕は後悔したんだ。

 僕は、やっと気づいた。こんなに愛の言葉を唱えても伝えきれてない事に。
 もっと早く、もっとずっと…この気持ちを、言えていたら、こんなずるい僕が産まれなかったのかなと、思った。


〖さきの為に、もっと生きないと〗
 なんて、馬鹿な事を考えてしまった。


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