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掴めそうで掴めない葉
貴女の永らえる理由(一角獣)
しおりを挟む「首吊りってなんだか、首輪に繋がれたリードに反抗してるみたいだよね」
幼なじみの彼女は突然そう言った。私には意味が分からなくて、「そう?」としか言えなかった。
「フフフ♪別に、死にたがってるから。とかじゃないからね?
ちょっとそう思っただけ。」
そう私に伝える彼女の顔は髪の毛で見えなかった。
「水咲(みずさ)は、私の推論を何度も聞いてくれてるけど、それはどうして?」
「急だねw」
「うん。で、どうして?」
「う、う~ん、分かんない。
華淑(かすみ)のことが好きだから?」
「え?!…あ、そ、そうなんだ…」
毛先がピンクムーン色の彼女は、そっぽを向いて顔が読み取れないようにしていた。
「じゃあ、どうして華淑は、私にその推論を言ってくれるの?」
「…それは、よく分かんない。」
「そっか…じゃあ、華淑の推論は推測に過ぎないのに、なんでそんなに、想像が出来るの?」
「そ、それは…別に…」
言葉が留まる彼女をじっと見ていたけれど、何も言えなさそうだった。
「いいよ、大丈夫。
ちょっと思っただけだから、気にしないで?」
「…うん、ごめんね」
「じゃあ、帰ろっか」
「うん。」
「また、会える時は連絡して?」
「うん、分かってる」
「何か言いたそうだけど、どうしたの?」
「…いや、なんでもない。」
「なんでもないって言ってる時は何かあるんでしょ?
ほら、言いなさい~!」
「ほんとに、なんでもないからっ!」
そう言って走って帰る彼女の背中をただ見つめていた。
「水咲、私ねこの人生の前の記憶達があるって言ったらどうする?」
その言葉は突然に言い放たれた。私の家でお茶をして、何もそんな雰囲気は無かったのに、本当に急だった。
「…えっと?
突然どうしたの?」
「いや、えっと…前、聞いてきたから…。」
なんの事かよく分からなくて、「そうだっけ?」と言った。
「…覚えてないなら言わないけど…」
「ごめん、覚えてないかも…
でも、教えて欲しいな?」
そう言うと、俯いて紅茶が入ったコップを両手で持ってポソポソと話してくれた。
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知らない生命体と、戦う戦争。
普通の人間は歯向かう事すら出来ないから、神からの恵み…そう。その生命体と闘う事の出来る人間の形をした女の子を産み落としたの。
綺麗だと思うかもしれないけど、違うよ。
普通の人間と変わりないのに、身体能力の高さもあるし、魔法の様にみえるそれは、人間が踏み込んでいい領域じゃない。禁忌だから。」
「ちょ、ちょっと待って!
どういう事?!前世が分かる、とか…よく、分からないし、なんでそんなのが分かるの?!」
意味が分からなかった。でも、嘘で言ってるようには見えなくて、余計に彼女の事が怖くなった。
「…ごめん。いいよ、続けて?」
そう言って、聞こうとした。でも、私がさっき言ったことは、彼女を華淑を否定する言葉だと気づかなかったんだ。
一瞬悲痛な顔をして、私に笑顔を見せる華淑は、「ううん。なんでもない。」と言う。その姿は、諦めたような、すごく儚くて…怖かった。
「何でもなくないよね?
教えてよ。何があったの?」
「いいの。もう、いいから。」
私は、華淑の腕を握ろうとした時、ビクッとして私を避けた。
それがとても怖くて、「ねぇ、なんでっ?」と、強く言ってしまう。
「ごめん…また今度遊ぼ?」
私はそう言って、家から足早に出た。
華淑の心は、なんにも分からなかった。いや、分かり合えないんだと感じた。
でも、それでも友達を辞めたいだとか思わない。逆に、友達でいたい。
あれから、華淑は心を閉ざした様だった。何よりも、華淑の目が怖かった。笑っているようで、笑ってなかった。悲しい、寂しい目をしていた。
華淑のじっと私を見る目は日に日に増えた。
華淑はある日、私の元から消える前に一言言う。
「私は、あと94回も人生を経験しなきゃならないの。
そこに、水咲は何度も私の元へ来るのに、何にも覚えてないなんてね」
そう言って、静かに笑った顔は何処か、見た事あるような気がした。
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