上 下
55 / 73
掴めそうで掴めない葉

貴女の永らえる理由(一角獣)

しおりを挟む



「首吊りってなんだか、首輪に繋がれたリードに反抗してるみたいだよね」

 幼なじみの彼女は突然そう言った。私には意味が分からなくて、「そう?」としか言えなかった。

「フフフ♪別に、死にたがってるから。とかじゃないからね?
 ちょっとそう思っただけ。」
 そう私に伝える彼女の顔は髪の毛で見えなかった。


「水咲(みずさ)は、私の推論を何度も聞いてくれてるけど、それはどうして?」
「急だね‪w」
「うん。で、どうして?」
「う、う~ん、分かんない。
 華淑(かすみ)のことが好きだから?」
「え?!…あ、そ、そうなんだ…」
 毛先がピンクムーン色の彼女は、そっぽを向いて顔が読み取れないようにしていた。

「じゃあ、どうして華淑は、私にその推論を言ってくれるの?」
「…それは、よく分かんない。」
「そっか…じゃあ、華淑の推論は推測に過ぎないのに、なんでそんなに、想像が出来るの?」
「そ、それは…別に…」
 言葉が留まる彼女をじっと見ていたけれど、何も言えなさそうだった。

「いいよ、大丈夫。
 ちょっと思っただけだから、気にしないで?」
「…うん、ごめんね」
「じゃあ、帰ろっか」
「うん。」
「また、会える時は連絡して?」
「うん、分かってる」
「何か言いたそうだけど、どうしたの?」
「…いや、なんでもない。」
「なんでもないって言ってる時は何かあるんでしょ?
 ほら、言いなさい~!」
「ほんとに、なんでもないからっ!」
 そう言って走って帰る彼女の背中をただ見つめていた。


「水咲、私ねこの人生の前の記憶達があるって言ったらどうする?」
 その言葉は突然に言い放たれた。私の家でお茶をして、何もそんな雰囲気は無かったのに、本当に急だった。

「…えっと?
 突然どうしたの?」
「いや、えっと…前、聞いてきたから…。」
 なんの事かよく分からなくて、「そうだっけ?」と言った。

「…覚えてないなら言わないけど…」
「ごめん、覚えてないかも…
 でも、教えて欲しいな?」
 そう言うと、俯いて紅茶が入ったコップを両手で持ってポソポソと話してくれた。

「私はね、神様候補らしいんだ。
 私の1番古い人生は人間だった、だったんだけど…変なの。
 この世界とは違った世界だった。
 戦争が何度かある世界で、なんの戦争かと言うと、人間同士じゃないんだ。
 知らない生命体と、戦う戦争。
 普通の人間は歯向かう事すら出来ないから、神からの恵み…そう。その生命体と闘う事の出来る人間の形をした女の子を産み落としたの。
 綺麗だと思うかもしれないけど、違うよ。
 普通の人間と変わりないのに、身体能力の高さもあるし、魔法の様にみえるそれは、人間が踏み込んでいい領域じゃない。禁忌だから。」
「ちょ、ちょっと待って!
 どういう事?!前世が分かる、とか…よく、分からないし、なんでそんなのが分かるの?!」
 意味が分からなかった。でも、嘘で言ってるようには見えなくて、余計に彼女の事が怖くなった。

「…ごめん。いいよ、続けて?」
 そう言って、聞こうとした。でも、私がさっき言ったことは、彼女を華淑を否定する言葉だと気づかなかったんだ。
 一瞬悲痛な顔をして、私に笑顔を見せる華淑は、「ううん。なんでもない。」と言う。その姿は、諦めたような、すごく儚くて…怖かった。

「何でもなくないよね?
 教えてよ。何があったの?」
「いいの。もう、いいから。」
 私は、華淑の腕を握ろうとした時、ビクッとして私を避けた。
 それがとても怖くて、「ねぇ、なんでっ?」と、強く言ってしまう。

「ごめん…また今度遊ぼ?」
 私はそう言って、家から足早に出た。
 華淑の心は、なんにも分からなかった。いや、分かり合えないんだと感じた。
 でも、それでも友達を辞めたいだとか思わない。逆に、友達でいたい。



 あれから、華淑は心を閉ざした様だった。何よりも、華淑の目が怖かった。笑っているようで、笑ってなかった。悲しい、寂しい目をしていた。
 華淑のじっと私を見る目は日に日に増えた。



 華淑はある日、私の元から消える前に一言言う。

「私は、あと94回も人生を経験しなきゃならないの。
 そこに、水咲は何度も私の元へ来るのに、何にも覚えてないなんてね」


 そう言って、静かに笑った顔は何処か、見た事あるような気がした。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness

碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞> 住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。 看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。 最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。 どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……? 神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――? 定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。 過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

[完結]子供のままの婚約者

日向はび
恋愛
セレナは幼い頃ら婚約者のマルクが大好きだった。 16歳になった今でもその想いは変わらない。ずっとずっと好きなのだ。たとえ、彼が自分と同じ身長のまま時を止めてしまっていたとしても。 そんなセレナに、父は婚約破棄をするといいだした。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

日本酒バー「はなやぎ」のおみちびき

山いい奈
ライト文芸
小柳世都が切り盛りする大阪の日本酒バー「はなやぎ」。 世都はときおり、サービスでタロットカードでお客さまを占い、悩みを聞いたり、ほんの少し背中を押したりする。 恋愛体質のお客さま、未来の姑と巧く行かないお客さま、辞令が出て転職を悩むお客さま、などなど。 店員の坂道龍平、そしてご常連の高階さんに見守られ、世都は今日も奮闘する。 世都と龍平の関係は。 高階さんの思惑は。 そして家族とは。 優しく、暖かく、そして少し切ない物語。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

形だけの妻ですので

hana
恋愛
結婚半年で夫のワルツは堂々と不倫をした。 相手は伯爵令嬢のアリアナ。 栗色の長い髪が印象的な、しかし狡猾そうな女性だった。 形だけの妻である私は黙認を強制されるが……

処理中です...