57 / 78
掴めそうで掴めない葉
届かない手紙を贈る者【ムーンダストの記憶】
しおりを挟む
〖 私の記憶は、持続的ではありません。なので、私はこの職業につきました。
消えることがない想いを持った事があるのか、ないのか…それすらもよく分かりません。
ただ、私は気持ちを共感したり、想像や妄想をする事が出来ます。
想いを人一倍感じ取ることは出来ないかもしれない。それでも、理解しようとする気持ちは大いにあります。
なので、誰もが躊躇った名前を捨て花の名前になる事を、私は受け入れました。
家族も身寄りも目の前から消えてしまったそんな私ですが、定期的に一通の手紙が届く事があります。いつもの送り人の名前が分からない手紙。
それでも温かな気持ちが伝わるほど、私への愛が綴られています。おそらく、私の家族からなのでしょう。
送られてくる日は、誕生日や、季節の変わり目、季節の終わりなどです。
いつも、青い色の手紙を送られてきます。便箋だったり、ハガキだったりです。
元の名前を書かれないのは、どうしてなのか分かりませんが、少し心苦しいと感じてしまいます。
いつも終わりの言葉に、「心の優しい貴女に出会えたことを、とても嬉しく思います。」そういう風に書かれている。
なんだか、すごくおかしく思ってしまう私がいます。〗
朝起きて、朝食を作って仕事へ行く支度をする。白がベースのチョッキに、ふんわりとした紺色と淡い青色のドレス調になっている制服を着る。
鏡台の前に立って、黒いリボンで髪を1本に留る。必要最低限の化粧をして、ショルダーバッグを肩にかけて家から出る。
家からと言っても、会社が建てたマンションみたいなもので、実はすぐそこに会社がある。
風にあおられるのも、気持ちがいいと感じる。会社に着く前に、ショルダーバッグから支給された黒めの焦げ茶色の革手袋を手にはめる。
少し暑いけれど、これも仕事の内。もうすぐ夏仕様になるはずだから、それまでの辛抱だ。
両開きの扉を開けてお店に入る。もう半分の人は出勤してたみたいで、次々に「おはよう」などと挨拶をしてくれる。
「おはようございます。」
少しお辞儀をして、2階に上がる。
自分の作業机の隣にあるコート掛けにショルダーバッグを掛ける。そろそろ帽子を被ってきた方がいいのかもしれない。
「ムーンダストさ~ん?
おはよ~!
今日も早いね~!」
元気な声で作業部屋兼、手紙置き場兼、スタッフルームの扉を開ける。
「コチョウランさんも早いじゃないですか。
私よりも先に出勤してますよね。」
白い髪に後ろでお団子にした、黄色の細いリボンの女の子が私の手を握る。
「まだ朝礼の時間じゃないのに来てるという事は、早いんですっ!!
そういえば、お腹減ったらいけないから昼食と間食用のを作ってきましたっ!」
私に向かって、敬礼する彼女は、私のコート掛けを見て、口をふくらませる。
「むぅ…また、昼食用のご飯持ってきてないんですね。
ほんっと、ムーンダストさんは、馬鹿ですねぇ。
一応体力も使うし、頭も使うんだから、糖分も塩分も取らないと…」
そう言いながら、私の手を引っ張って彼女の作業机へ向かうと、おにぎりを1つ渡された。
「えっと…コチョウランさん?
私、いらな…」
「いりますっ!
はい、これ!飲み物は一応温かい飲み物を飲んで下さい!
ほんっとに、もう!!早死しますからね?」
そう言って、1階の仕事場に向かって行った。私はおにぎりを作業机に置いて、後を追った。
「では、引き続き昨日の持ち場に行ってください。
くれぐれも、私情は持ってはいけませんからね。」
店長がそう言うと、私達は持ち場に散らばった。昨日の残りを持ってきて、読み始める。全部暖かくて、少し苦しくて、涙が出そうになる。
考察をしてしまう私は、もっと苦しくなる事も分かっているのに、いずれ消えるそのモノを全力で受け止めてしまう。
〖 私の記憶は、持続可能ではありません。
でも、もっと言うのなら、この世の全ては持続可能でないのかもしれません。
残すものも、残されるものも、いずれ消えてしまうから。届かないものも、届いたものも、いずれ消えてしまうから。
それでも、何かを贈ろうと、消えてしまうのに贈りたくなるのは、何故なのか…私には、分かるようで分かりません。
もし、私へ手紙をくれる送り主に聞けば、分かるのでしょうか?
もし、その送り主が私の所へ来た時、私に会ってくれるのでしょうか?
もし、私の最期が来たとしたら、誰が悲しんでくれるのでしょうか?
ちゃんと私の事を記憶してくれるのか、分かりません。
それでも、私の名前。ムーンダストの花言葉のように、幸福を贈り届けれているのなら私はとても嬉しいです。〗
涙が溢れ、こと途切れてしまいそうな震える手が、ノートを閉じるような音がした。
消えることがない想いを持った事があるのか、ないのか…それすらもよく分かりません。
ただ、私は気持ちを共感したり、想像や妄想をする事が出来ます。
想いを人一倍感じ取ることは出来ないかもしれない。それでも、理解しようとする気持ちは大いにあります。
なので、誰もが躊躇った名前を捨て花の名前になる事を、私は受け入れました。
家族も身寄りも目の前から消えてしまったそんな私ですが、定期的に一通の手紙が届く事があります。いつもの送り人の名前が分からない手紙。
それでも温かな気持ちが伝わるほど、私への愛が綴られています。おそらく、私の家族からなのでしょう。
送られてくる日は、誕生日や、季節の変わり目、季節の終わりなどです。
いつも、青い色の手紙を送られてきます。便箋だったり、ハガキだったりです。
元の名前を書かれないのは、どうしてなのか分かりませんが、少し心苦しいと感じてしまいます。
いつも終わりの言葉に、「心の優しい貴女に出会えたことを、とても嬉しく思います。」そういう風に書かれている。
なんだか、すごくおかしく思ってしまう私がいます。〗
朝起きて、朝食を作って仕事へ行く支度をする。白がベースのチョッキに、ふんわりとした紺色と淡い青色のドレス調になっている制服を着る。
鏡台の前に立って、黒いリボンで髪を1本に留る。必要最低限の化粧をして、ショルダーバッグを肩にかけて家から出る。
家からと言っても、会社が建てたマンションみたいなもので、実はすぐそこに会社がある。
風にあおられるのも、気持ちがいいと感じる。会社に着く前に、ショルダーバッグから支給された黒めの焦げ茶色の革手袋を手にはめる。
少し暑いけれど、これも仕事の内。もうすぐ夏仕様になるはずだから、それまでの辛抱だ。
両開きの扉を開けてお店に入る。もう半分の人は出勤してたみたいで、次々に「おはよう」などと挨拶をしてくれる。
「おはようございます。」
少しお辞儀をして、2階に上がる。
自分の作業机の隣にあるコート掛けにショルダーバッグを掛ける。そろそろ帽子を被ってきた方がいいのかもしれない。
「ムーンダストさ~ん?
おはよ~!
今日も早いね~!」
元気な声で作業部屋兼、手紙置き場兼、スタッフルームの扉を開ける。
「コチョウランさんも早いじゃないですか。
私よりも先に出勤してますよね。」
白い髪に後ろでお団子にした、黄色の細いリボンの女の子が私の手を握る。
「まだ朝礼の時間じゃないのに来てるという事は、早いんですっ!!
そういえば、お腹減ったらいけないから昼食と間食用のを作ってきましたっ!」
私に向かって、敬礼する彼女は、私のコート掛けを見て、口をふくらませる。
「むぅ…また、昼食用のご飯持ってきてないんですね。
ほんっと、ムーンダストさんは、馬鹿ですねぇ。
一応体力も使うし、頭も使うんだから、糖分も塩分も取らないと…」
そう言いながら、私の手を引っ張って彼女の作業机へ向かうと、おにぎりを1つ渡された。
「えっと…コチョウランさん?
私、いらな…」
「いりますっ!
はい、これ!飲み物は一応温かい飲み物を飲んで下さい!
ほんっとに、もう!!早死しますからね?」
そう言って、1階の仕事場に向かって行った。私はおにぎりを作業机に置いて、後を追った。
「では、引き続き昨日の持ち場に行ってください。
くれぐれも、私情は持ってはいけませんからね。」
店長がそう言うと、私達は持ち場に散らばった。昨日の残りを持ってきて、読み始める。全部暖かくて、少し苦しくて、涙が出そうになる。
考察をしてしまう私は、もっと苦しくなる事も分かっているのに、いずれ消えるそのモノを全力で受け止めてしまう。
〖 私の記憶は、持続可能ではありません。
でも、もっと言うのなら、この世の全ては持続可能でないのかもしれません。
残すものも、残されるものも、いずれ消えてしまうから。届かないものも、届いたものも、いずれ消えてしまうから。
それでも、何かを贈ろうと、消えてしまうのに贈りたくなるのは、何故なのか…私には、分かるようで分かりません。
もし、私へ手紙をくれる送り主に聞けば、分かるのでしょうか?
もし、その送り主が私の所へ来た時、私に会ってくれるのでしょうか?
もし、私の最期が来たとしたら、誰が悲しんでくれるのでしょうか?
ちゃんと私の事を記憶してくれるのか、分かりません。
それでも、私の名前。ムーンダストの花言葉のように、幸福を贈り届けれているのなら私はとても嬉しいです。〗
涙が溢れ、こと途切れてしまいそうな震える手が、ノートを閉じるような音がした。
10
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
Husband's secret (夫の秘密)
設樂理沙
ライト文芸
果たして・・
秘密などあったのだろうか!
むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ
10秒~30秒?
何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。
❦ イラストはAI生成画像 自作

好きな人がいるならちゃんと言ってよ
しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる