Leaf Memories 〜想いの樹木〜

本棚に住む猫(アメジストの猫又)

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掴めそうで掴めない葉

届かない手紙を贈る者【ムーンダストの記憶】

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〖 私の記憶は、持続的ではありません。なので、私はこの職業につきました。
 消えることがない想いを持った事があるのか、ないのか…それすらもよく分かりません。

 ただ、私は気持ちを共感したり、想像や妄想をする事が出来ます。
 想いを人一倍感じ取ることは出来ないかもしれない。それでも、理解しようとする気持ちは大いにあります。
 なので、誰もが躊躇った名前を捨て花の名前になる事を、私は受け入れました。



 家族も身寄りも目の前から消えてしまったそんな私ですが、定期的に一通の手紙が届く事があります。いつもの送り人の名前が分からない手紙。
 それでも温かな気持ちが伝わるほど、私への愛が綴られています。おそらく、私の家族からなのでしょう。
 送られてくる日は、誕生日や、季節の変わり目、季節の終わりなどです。

 いつも、青い色の手紙を送られてきます。便箋だったり、ハガキだったりです。
 元の名前を書かれないのは、どうしてなのか分かりませんが、少し心苦しいと感じてしまいます。
 いつも終わりの言葉に、「心の優しい貴女に出会えたことを、とても嬉しく思います。」そういう風に書かれている。
 なんだか、すごくおかしく思ってしまう私がいます。〗


 朝起きて、朝食を作って仕事へ行く支度をする。白がベースのチョッキに、ふんわりとした紺色と淡い青色のドレス調になっている制服を着る。
 鏡台の前に立って、黒いリボンで髪を1本に留る。必要最低限の化粧をして、ショルダーバッグを肩にかけて家から出る。

 家からと言っても、会社が建てたマンションみたいなもので、実はすぐそこに会社がある。
 風にあおられるのも、気持ちがいいと感じる。会社に着く前に、ショルダーバッグから支給された黒めの焦げ茶色の革手袋を手にはめる。
 少し暑いけれど、これも仕事の内。もうすぐ夏仕様になるはずだから、それまでの辛抱だ。


 両開きの扉を開けてお店に入る。もう半分の人は出勤してたみたいで、次々に「おはよう」などと挨拶をしてくれる。

「おはようございます。」
 少しお辞儀をして、2階に上がる。
 自分の作業机の隣にあるコート掛けにショルダーバッグを掛ける。そろそろ帽子を被ってきた方がいいのかもしれない。

「ムーンダストさ~ん?
 おはよ~!
 今日も早いね~!」
 元気な声で作業部屋兼、手紙置き場兼、スタッフルームの扉を開ける。

「コチョウランさんも早いじゃないですか。
 私よりも先に出勤してますよね。」
 白い髪に後ろでお団子にした、黄色の細いリボンの女の子が私の手を握る。

「まだ朝礼の時間じゃないのに来てるという事は、早いんですっ!!
 そういえば、お腹減ったらいけないから昼食と間食用のを作ってきましたっ!」
 私に向かって、敬礼する彼女は、私のコート掛けを見て、口をふくらませる。

「むぅ…また、昼食用のご飯持ってきてないんですね。
 ほんっと、ムーンダストさんは、馬鹿ですねぇ。
 一応体力も使うし、頭も使うんだから、糖分も塩分も取らないと…」
 そう言いながら、私の手を引っ張って彼女の作業机へ向かうと、おにぎりを1つ渡された。

「えっと…コチョウランさん?
 私、いらな…」
「いりますっ!
 はい、これ!飲み物は一応温かい飲み物を飲んで下さい!
 ほんっとに、もう!!早死しますからね?」
 そう言って、1階の仕事場に向かって行った。私はおにぎりを作業机に置いて、後を追った。



「では、引き続き昨日の持ち場に行ってください。
 くれぐれも、私情は持ってはいけませんからね。」
 店長がそう言うと、私達は持ち場に散らばった。昨日の残りを持ってきて、読み始める。全部暖かくて、少し苦しくて、涙が出そうになる。
 考察をしてしまう私は、もっと苦しくなる事も分かっているのに、いずれ消えるそのモノを全力で受け止めてしまう。





〖 私の記憶は、持続可能ではありません。
 でも、もっと言うのなら、この世の全ては持続可能でないのかもしれません。
 残すものも、残されるものも、いずれ消えてしまうから。届かないものも、届いたものも、いずれ消えてしまうから。
 それでも、何かを贈ろうと、消えてしまうのに贈りたくなるのは、何故なのか…私には、分かるようで分かりません。


 もし、私へ手紙をくれる送り主に聞けば、分かるのでしょうか?
 もし、その送り主が私の所へ来た時、私に会ってくれるのでしょうか?
 もし、私の最期が来たとしたら、誰が悲しんでくれるのでしょうか?

 ちゃんと私の事を記憶してくれるのか、分かりません。

 それでも、私の名前。ムーンダストの花言葉のように、幸福を贈り届けれているのなら私はとても嬉しいです。〗







 涙が溢れ、こと途切れてしまいそうな震える手が、ノートを閉じるような音がした。




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