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掴めそうで掴めない葉

届かない手紙を贈る者

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 私達の仕事は、心の手紙を送る事。
 心から心へと渡し船となる事。そこに、一切の感情を持たない事を義務付けられている。

 私達の仕事は、それだけでは無い。
 渡ることの無い手紙を読み、焼却し、想いを天へと渡す事。私はどちらかと言うと、後者の仕事が好きだ。どんな人がどの様にその人へと渡したのか、覗くことができるから。
 本当は、そういう気持ちを持ってはいけないけれど、この仕事は拝見する時だけは感情を持ってもいいとされている。
 ただ、独断で何かをするのはいけない。


 私は2階の窓際の作業机へ向かって椅子に座る。ジリジリと暑い日差しが机に当たってたのか、机がとても熱い。
 私は影になっている場所に、大量の手紙を置いて1つ目の手紙を手に取る。薄い空色で深い青のシーリングスタンプがされた可愛い手紙。
 金色のペンで、『Raimu』と書いてある。宛名は、『Rito』と書いてある。私は手紙をあけて読み始める。


〖りとへ

 りと、どうして先にいっちゃうの?
 私まってたんだよ?
 死にたいって、何度も言ってたのは私の方なのに、なんで りと が先にあっちに行くの?

 悩みを聞けなかった私がいけないのは分かってる。でも、少しくらい私に頼ったって良かったじゃない!
 悲しいって、寂しいって、辛いって、苦しいって言ってよ!
 もうここに居ない りと を、どうやって怒っていいのか、分からないよ。

 りと の気持ちを分かろうとしても、あなたがいないなら、分かりっこないじゃない。
 なんで今更私に、生きてなんて言うの?
 こんなんじゃ、早く りと の所へ行けないじゃん。寂しくても苦しくても辛くても知らないよ?


 りと の好きだった紙モノ集め。私もしてみたよ。私が好きな紙と、りと の目の色のホリゾンブルーにしたよ。
 そっちに届くかは分からないけど、届けばいいなって、選んだよ。
 りと のせいで、私はまだ生きるけど、迎えに来てもいいんだからね?

 らいむ〗


 私は丁寧に元の形の手紙に戻して、読了済みの木の箱に置く。
 これはたまにある、この世にはもう居ない者への手紙のよう。この人は、大きな悲しみを乗り越えたのか、強気に言っているけれど涙の跡があった。
 本当は、辛かったのだろう。消えたいと、言えなくなったかもしれないけれど、素敵な日がいつか来るように私は願いを込める。

 次は、便箋。薄桃色の便箋。
 作業机に置かれたレターナイフを取って、慣れた手つきで開ける。
 筆で『鶴乃』と書いてある。宛名は、『竜郎』と書いてある。私は便箋を読み始めた。


〖拝啓、竜郎さんへ

 竜郎さんのお陰で、畳が綺麗になりました。
 とても綺麗な畳を下さって、喜びを隠せません。
 また、街を歩いてお店でも見ましょう。

 体調の方は、いかがでしょうか。
 まだ寒いので、気を付けてくださいね。  鶴乃〗


 私は丁寧に便箋を戻して、読了済みの木の箱へ置いた。綺麗な字で、1枚しかないその便箋には優しさと気遣いや、いろんな優しい気持ちが入っていた。
 私は、上にあった次の便箋を手に取って、レターナイフで切ってから読み始める。


〖拝啓、竜郎さんへ

 身体の方は大丈夫でしょうか。
 とても、心配です。
 倒れたと聞きました。入院が必要と風の噂で聞きましたが、本当なのでしょうか。

 今度、そちらへ向かわせて欲しいのですが、どこの病院なのか教えて下さい。

 まだまだ春になっていないので、体調管理はしっかりして下さいね。  鶴乃〗


 私は丁寧に便箋を戻して、読了済みの木の箱へ置いた。これはさっきの『鶴乃』という人物が『竜郎』という者へ向けた手紙なのだろう。
 こうして渡ることの無い手紙としてここに来ているという事は、おそらく『竜郎』は亡くなったのだろう。
 その倒れた事によって、治らなかったのか、それとも合併してしまったのか、受け取れなくなったのかもしれない。

 次は黒の手紙に赤のシーリングスタンプがしてある手紙。白いペンで『Karen』と書いてある。宛名は『Daniel』と書いてある。私は手紙をあけて読み始める。


〖ダニエルへ

 ご機嫌いかが?
 最近休みがちですけれど、何かあったのかしら?
 あなたが居ないと、生活に張合いがないのよ。
 早く復帰しなさい。
 じゃないと、私は暇で死んでしまうわ?
 医者を呼ばせたから、もうなれない手紙は書かないでおくわ。

 手紙はいつ届くか分からないけど、誕生日おめでとう。
 それだけよ。
          カレン〗


 私は丁寧に手紙を元の形に戻して読了済みの木の箱へ置いた。
 この手紙は、お嬢様と使用人の手紙のように見える。それも、この『カレン』という者は、『ダニエル』という者に好意を抱いているように見える。少し幼稚く見えるその言い様がまだ、成長しきれていない様にも見える。
 それも、書いては消してを繰り返したのか、紙がよれている。


 この手紙もここに来て私が読んでいるということは、つまりそういう事だろう。今回の手紙は病気や怪我の手紙が多い気がする。
 気のせいなのか分からないけれど、何故か少し寂しい気持ちになった。
 



「ムーンダストさん?」

「はい、どうかしましたか?」

「いえ、もう営業時間が終わるので、帰る支度を…」

「あ、もうそんな時間に…」

「フフフ♪仕事熱心もいいけれど、時間はきっちり見ておくように。」
 まだこんなにも量があるのに、中々進まないものなのだと、ため息がこぼれた。



 遺された人の想いは、なんて儚いんだろう と、そう口にした。


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