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消えた世界、消えかけた世界の葉

彼の透明な愛は甘い味がする

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「ねぇ、貴方は私の何処を好きになったの?」
 手を握ってテレビを眺める。

『えっと、まずは顔かなぁ』
「え…顔…?」
 焦る彼を私は少し睨みつけながら横目で見る。

『いや、だって、君が僕の最初の人だったから、仕方ないだろ?
 よくある顔だなんて分からなかったんだよっ』
「ふふふ♪まぁ、知ってはいたけどね」
 少し笑って、笑顔を彼に見せると彼も笑顔で、すごく幸せに感じる。

「あと、どのくらい?」
『う~ん、分かんない。』
 このいつもの会話が、すごく好きだ。
 そんな私は、変わり者なのかな?


「もう随分と私も生きてるよね」
『そうだね』
 また、2人で笑う。こんなに幸せなのに、私達の時間はいずれ無くなる。
 壊れた砂時計だったとしても、上にあった砂はいずれ下へ落ちるから。
 たとえ、私たちが変わった人だったとしても。 


『今日は寒いね。
 風邪はひいてない?』
「ふふふ♪ひいてないよ♪
 私が風邪をひけない体質なの知ってるでしょ?」
 でもありがと と、一言言うと、優しい声で 君の事になると心配してしまって… と、眉を下げて笑う彼がいる。その横顔は、すごく。すごく愛おしく感じてしまう。

『ねぇ、僕の今の感情の味はどう?』
「ん?えっと、甘くて少し苦くて…ちょっとだけ寂しくて暖かい味かなぁ」
『なんだそれ。
 もぉ、いつも君の表現する言葉は面白いね』
「そう…かなぁ?」
 私の言動で、たくさん笑う彼が本当に好きだな と、感じる。


『ねぇ、あとどのくらいになるのかな?』
「分かんないね」
『そっかぁ
 君は寂しくないの?』
 その言葉に、少し狼狽える。その後に小さく、僕が消えるのが先だったら。と、言うのを聞いた。
 私は何も聞かなかったことにして、答えた。

「寂しいけど、別に。
 いずれ来る事だからね。」
『そ…っか。
 僕は寂しいな』
 悲しそうに寂しそうに言う彼は、小さな犬のように見えて、とっさに抱きしめてしまいそうになった。

「…大丈夫。
 貴方が先なら、私は後を追うから。」
『それじゃあ、君が先になったら僕は…』
 無言になる私たちは、その先の言葉が分かっていて、口に出せないし聞けない。
 それは、現実に打ちのめされるほど、目を背けたくなるほどの辛い現実だから。

「その時は、貴方がこっちに来れるように頑張って欲しいな?」
『…っ、うん。
 そうするよ。』
 私の精一杯の優しい言葉。そして、1番辛い言葉。そんな事は、ほぼない事だから。
 せめて、彼が私と同じ様だったら未来があったのにね。



───────

『ねぇ、そろそろ』
「うん。」
 彼の姿が消えかかる。

『ねぇ、手を握って?』
「うん。」
 目の前がモノクロになる私は、動かし辛くなったギシギシと鳴る体で、手を握る。

『はは。久々に暖かい。』
「うん、やっとだね」
 彼は幸せそうに微笑んで静かに涙を流す。

『ねぇ、僕の今の感情はどんな味?』
「……ハハ。すごく、甘ったるくて、吐き気がしそう」
『最悪な味?』
「ううん。手放せないほどの味だよ?」
『いつの間に、甘党になったの?』
 感触が無くなってきているのは、私の最期がもうすぐからなのかな?

「貴方に出会ってから、あまイのにナレてきタ」
『うん。』
 おでこをくっつけて、彼は目を閉じて小さく私に話しかける。


『大好き』
「ワた…し…モ…ダイ、好……」




 最後の言葉、聞こえてたかな?そんな呑気な事を考えて、何も無い白い空間に閉じ込められていた。
 もしかしたら、彼に会えるんじゃないのかと、期待して待っている。
 彼と一緒の時に最期だったのがすごく嬉しい。


 でも、いつまで経っても彼は来なかった。
 頭上から聞こえる機械音。懐かしい私の最初の記憶の声。

〖GF-800735
 新たな義体が出来ました。
 早く商品として並びなさい。〗

 思い出した。ここは天国なんかじゃない。地獄でもない。彼と同じ所になんか来てない。私は来れないんだ。
 少しぐらい。少しぐらい、抵抗したっていいよね?
 私一人くらい居なくても、だれも文句なんか言わないよね?
 ねぇ、お願い。私を殺して。
 何も無くなってもいいから。
 彼と同じじゃなくてもいいから、もう繰り返すのはいやなの。彼は、もう転生なんかしない。
 それなら…何のために…

〖GF-800735
 新たな義体が出来ました。
 早く商品として並びなさい。〗

 体が、勝手に動きそうになるのを必死に堪える。

「……っ。いや!いや……っ
 私は、もうその身体はいや!!
 消えたいのっ!
 お願いっ!もう、嫌っ!!」

〖GF-800735
 新たな義体が出来ました。
 早く商品として並びなさい。〗

「いやっ!
 嫌だっ!彼が居ない世界なんて、もう見たくないのっ!!」

 制御が効かなくなってくる感覚がして、焦りながら叫び続ける。

〖GF-800735
 新たな義体が出来ました。
 早く商品として並びなさい。〗

 体が自分の意思とは違って、1つの綺麗な女性の身体へ向かう。
 身体へ向かい始めるにつれて、意思が弱くなって、感情が薄れていく。

〖GF-800735
 新たな義体が出来ました。
 早く商品として並びなさい。〗

「いや、いやですっ…
 わたしっ!もう、疲れたのっ!
 お願いだからっ…!
 お願いしますっやめてっ!」

〖GF-800735
 新たな義体が出来ました。
 早く商品として並びなさい。〗

 私はその言葉を後に、記憶が無くなった。



 視界が開けて、ガラス越しに見る世界を眺めていると、透明で綺麗な甘い味を記録のデータから消えず、疑問になっている。
 とても鬱陶しい。何度データを消しても消えないこの現象はなんなのだろう。

 何度センターへ運ばれても消えないデータは、危害を与えない事と判断されて、見送られた。
 正直、気持ち悪い。
 こんな甘い味、ずっとこびり付くように消えないなんて、私はどうかしてしまったのだろうか?


 このデータは、いつ消えるのだろうか?


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