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狂ったモノに生まれる葉
終わりを知らない盲滅法
しおりを挟む「付き合う事を建前に付き合ってください。」
なんとも意味不明な事を言ったこの人は、僕の苦手な高嶺の花の人だった。
最初、この人は馬鹿なのだろうかと何度も頭に過ぎる。でも、真剣な目で僕を見る目は、それほど切羽詰まった事なのだろうと感じてしまう。
「えっと…建前というのは?」
率直な疑問をぶつける。
「それは…その……好きな人が居ないから…です…」
この人は小さくモゴモゴと恥ずかしそうに言う。好きな人がいないから僕と付き合うなんて、気が知れない。本当に馬鹿なのだろうか…と、考えていると、この人は、手を振るえさせて俯く。
「えっと…好きな人が居ないから僕を選んだのはどういう…」
「そ、それはっ……え、えっと、き、君が適材適所だからですっ!!
な、なので…お願い…します。
と、友達という名目でいいのでっ、そ、外では付き合ってる風にするだけでいいので…」
「わ、分かったよ。」
僕が承諾した瞬間、目をうるうるさせながらこっちを向く。
「じゃ、じゃあ!まずは、名前呼びから始めましょう!
…私の名前、知ってますか?」
「えっ…あ、知ってはいるよ?
学校中の生徒が知ってるんじゃないかな?」
実はあまり覚えてなくて、汗が出る。
「そうなの?!
えっと、君の名前は、栗川 仁人君!…だよね?」
「えっ、あ、よく知ってたね…」
話した事なんてほぼ無いのに、なんで覚えてるのか全く謎だけど、もしかしたら話した人の名前は全部覚えてるのかもしれない。
「あ、貴女は、國慈さん…だよね。」
自信がなくて小さくなる声の裏腹にこの人は嬉しそうに、「そう!私は國慈だよ♪」と笑う。
「じゃあ、下の名前は?」
意地悪そうに笑って僕を見つめる。
「え…、ご、ごめん。そこまでは知らなくて…」
はぁ… と、小さくため息をすると共に、僕に近寄るこの人は、本当に何を考えてるのか分からない。
「國慈 苺花。
分かりましたか?」
近寄ってくるこの人から後退りをし続けて、カシャンと、網のフェンスに背中が当たる。
「わ、分かった。えっと、國慈さん」
「苺花」
「い、苺花さん」
「さん は要らないです。」
「い、苺花………さん」
「はぁ、まぁいいです。
なるべくカップルに見えるようにして下さい。
あ、仁人君だけは敬語じゃなくタメ口の方がカップルに近いですよね」
この人は、なんでそんなに主導権を握れるのか分からない。まぁ、僕が元々自分が弱いからなのもあるかもしれないけど。
「じゃあ、仁人君。
迎えに来るから、教室に待っててね♪」
「は、はい…。」
これが、僕達の本当の出会いだ。
「苺花…。
僕ね、昔、苺花の事、苦手でさ。
君の事を馬鹿なんじゃないかって思ってたんだ。」
『ちょっと!私馬鹿だと思われてたの?!』
「フフフ♪苺花、そんなに怒らないでよ。
でも、君がいけないんだよ?」
『どうして?』
「君が、付き合うのを建前に付き合ってください。だなんて言うからさ」
『そ、それは…っ
もう!』
僕らは一緒に笑う。なんて素敵な事なんだろう。と、感じてしまう。
苺花は僕に初めて屋上に呼んだ時、僕の事をずっと見てて、ずっと好きでいてくれたからこそ、大人になった今でも僕達はこんなに仲がよくて、羨ましがられる。
だからこそ、僕はたまに意地悪でこういう話をしてしまう。
「あ、覚えてる?
パフェ食べに行った時。」
『あ!2人とも甘すぎて全部食べるのに必死だったやつ?』
「僕、すごく疲れちゃったんだよね」
『う~ん、私は楽しかったよ?』
「君はあの時元気だったからなぁ。
僕はどちらかと言うと、体力も元気もあまり無かった。」
『もぉ!そう言って、私のおかげで明るくなった人は誰なのかなぁ?』
「うぅ、苺花のおかげだと思ってるよ。」
「失礼しま~す。栗川さん?誰とお話しされてるんですか?」
「あぁ、今日も妻の苺花が来てくれて…」
「…え、えぇ、そうですね。
今日も お、お綺麗で、お二人共羨ましいです。」
「フフフ♪苺花、また今日も羨ましいって言われたね。」
「じゃ、じゃあ、栗川さん。
体温測りましょうね。」
「はーい。
い、苺花、そんなに見つめられると恥ずかしいよ。」
「じゃあ、体温計が鳴るまでそのままにしててくださいね?」
「はーい」
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