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綺麗な実をつける葉
欠落した少女、充足した彼女
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『気持ち悪い』
そう口にした。
誰に向かう事も無い、何も無い空虚なボクの世界は、言葉を吸い込んでボクの心に穢れを侵攻させていく。
「あなたは女の子なんだから、可愛くいなさい。」
「あなたは女の子でも、自分の道をしっかり持ってて偉いわね。」
そう口にされる。
誰もが【私】を観て、穢れのない純白でいて、それでも真紅のような綺麗で触ると壊れてしまいそうだと、いずれ消えてしまう【私】を褒めちぎる。
「大好きです」
そう口にされるのは慣れてしまった。
でも、その時はダメだったんだ。
「ご、めん、な…さい…っ」
吐き気と目眩と動悸。そして、息が出来なくて咄嗟に胸の辺りを抑えて必死に早めに歩いて誰もいない場所へと向かう。
『大丈夫。…大丈夫。……大丈夫。』
口に出すと、不思議と頑張れる気がして、誰も来ない女子トイレにうずくまる。
吐く息が上がりながら深呼吸をし続ける。
そういう時は、いつも携帯のメモやノート、なんでもいいから今頭の中いっぱいに出てきてる気持ちを吐き出す。
身体が楽になっていつもの【私】に戻ると、最後まであの子の話を聞いてなかったと思い出す。
戻ろうと思って足を踏み込んでやめた。明らかに【私】の様子がおかしかったからだ。
絶対、心配されて気がつくとお付き合いしていた。なんて、よくある事だ。
「また明日にしよう。」と、小さく呟いて帰る準備をする。帰る支度をしてから呼ばれてよかった。
教室に向かう時にばったり会うだなんてよくある事。足早に下駄箱に向かって靴を取り出して、早く早く家に帰れるように。と、それだけを考えて汗が流れていく感覚がする。
「っ!」
「やっと、追いついた。梓さん!」
咄嗟に目を逸らしてしまい、いたたまれない空気が2人を包む。
「……っ、ごめんなさい。最後まで聞かずに帰ってしまって」
「違うっ!違います、梓さん、大丈夫…なんですか?ずっと、苦しそう…です。」
【私】は、ようやく口に出せた言葉を遮られて、この子の言葉を理解していて理解が出来てなかった。汗ばかりが流れて、この子が怖かった。言葉が出てこない【私】は、震えた声で答える。
「ど、うしてそう思うの?」
「…?だって、梓さんを見てきた私なんですよ?いつも消えてしまいそうな貴女は、本当は押し殺して自分を消してるようにしか見えなかった!」
「そんな事ない!」と、言いたかった。でも、強く声を荒らげて言う言葉は【私】にはありえない事だから口にすることなんて出来ない。こんなの、〖ボク〗が言う言葉だ。声を荒らげるなんて、汚らしいから。綺麗じゃないから。可愛くないから。こんなの【私】じゃない。
「…、私普通だよ?
勉強ばかりしてて、そう見えちゃったんだと思うな。
だから、心配しないで?」
笑いながら、〖ボク〗は笑えてなかった。『この子になら、いいのかな?』『分かって、くれるよね?』『違う。誰もボクを認めなかった!』『皆っ、嫌いだ!』『皆っ敵なんだっ!』頭の中でボクの声は、空虚な世界に溶け込んで黒く黒く、暗く暗く分からなくなっていく。
「っ!分からないですよっ!
本当なら、貴女は、貴女…は…」
「ごめんね、私家に帰らないと…
これからも、お友達、続けてくれると嬉しいな。
じゃあ、私行くね?また明日♪」
あの子は何を言えば、何を伝えればいいのか分からなくなった様で、言葉を失っていたみたいだった。
【私】は、その隙を見て走るように、あの子との距離を遠く遠く離していく。
家に帰って、両親に挨拶をして部屋に篭もる。あの子は、あの時、【私】になんて言おうとしたのだろうか。〖ボク〗ではない【私】に、【私】ではない〖ボク〗に、まるで悲しそうに、同情ではない純粋に気持ちを共鳴して、泣きそうな顔をしていた気がする。
『到底、ボクを受け止めきれる人間だとは思わないなぁ。
でも…』
「嫌いじゃ…ぁ、苦手だな。」
今、ボクは【私】と〖ボク〗が交じっていた。何を意味するのかは分からないけれど、何が始まるかも分からないけれど、でも、それでも、確かなものがあった。
【私】が、もしくは、ボクが、欠落してしまう気がする。
あの子は、次の日になっても、その次の日になっても、あの続きの言葉を【私】に言ってくれなかった。気にしていない訳では無い。でも、それを聞けば【私】も〖ボク〗も何もかも分からなくなってしまう気がした。それなら、私は、何も聞かない。あの時の言葉の続きはあの時の事は、消えた事にしておく。あの子が、続きを言っても何も分からない。知らない。聞かない。口にしないでおく。
そう。これは、ずっとしてきた事。都合のいい言葉を理解する。受け止める。覚えた上で忘れておく。0から100を理解する。私がしてきた事だ。
ボクには出来ないこと。出来ることは、ひたすら言葉を呟いて、ひたすら受け止めて砕けて、繋ぎ止めて、生きながらえて、また、綺麗な言葉を聞いて、ずっとずっと、子供のまま時が止まった様に、ぬいぐるみを抱えて、涙を浮かべる。
『痛い。痛いよ…。
苦しいの。ずっと、ずっと、苦しい…っ
【私】と何も変わらないのに。〖ボク〗は、何も認められない。
なんで…っ、ボク、頑張ってるよ?
皆、皆の言葉、聞いて、【私】になったのに、ずっとずっと、ボクは〖ボク〗のまま消えてくれないっ!
【私】がずっと護って、〖ボク〗を護ってくれるのに、なんで、〖ボク〗が出てくるの…?
苦しいよ。消えちゃうよ…。見えないよ。何もかも、【私】も〖ボク〗も全部、全部。消えちゃうのっ…? 』
いつの間にか、ベッドにうずくまって涙が静かに流れていく。制服を脱いで、動きやすい格好に変えながら、涙だけが静かに流れていく。
勉強をする気になれなくて、教科書を眺めながら課題を見る。ぎこちない笑い声を出して、深呼吸をする。静かに、数をゆっくり数える。
「ふぅ…よし。大丈夫。」
私の中で、少しずつ【私】が さらさら と、何かが流れていって、〖ボク〗が ドロドロ と、何かが吸い込んで空虚な世界が静かに白く色づいて、私も確かに消えてしまうような気がした。
そう口にした。
誰に向かう事も無い、何も無い空虚なボクの世界は、言葉を吸い込んでボクの心に穢れを侵攻させていく。
「あなたは女の子なんだから、可愛くいなさい。」
「あなたは女の子でも、自分の道をしっかり持ってて偉いわね。」
そう口にされる。
誰もが【私】を観て、穢れのない純白でいて、それでも真紅のような綺麗で触ると壊れてしまいそうだと、いずれ消えてしまう【私】を褒めちぎる。
「大好きです」
そう口にされるのは慣れてしまった。
でも、その時はダメだったんだ。
「ご、めん、な…さい…っ」
吐き気と目眩と動悸。そして、息が出来なくて咄嗟に胸の辺りを抑えて必死に早めに歩いて誰もいない場所へと向かう。
『大丈夫。…大丈夫。……大丈夫。』
口に出すと、不思議と頑張れる気がして、誰も来ない女子トイレにうずくまる。
吐く息が上がりながら深呼吸をし続ける。
そういう時は、いつも携帯のメモやノート、なんでもいいから今頭の中いっぱいに出てきてる気持ちを吐き出す。
身体が楽になっていつもの【私】に戻ると、最後まであの子の話を聞いてなかったと思い出す。
戻ろうと思って足を踏み込んでやめた。明らかに【私】の様子がおかしかったからだ。
絶対、心配されて気がつくとお付き合いしていた。なんて、よくある事だ。
「また明日にしよう。」と、小さく呟いて帰る準備をする。帰る支度をしてから呼ばれてよかった。
教室に向かう時にばったり会うだなんてよくある事。足早に下駄箱に向かって靴を取り出して、早く早く家に帰れるように。と、それだけを考えて汗が流れていく感覚がする。
「っ!」
「やっと、追いついた。梓さん!」
咄嗟に目を逸らしてしまい、いたたまれない空気が2人を包む。
「……っ、ごめんなさい。最後まで聞かずに帰ってしまって」
「違うっ!違います、梓さん、大丈夫…なんですか?ずっと、苦しそう…です。」
【私】は、ようやく口に出せた言葉を遮られて、この子の言葉を理解していて理解が出来てなかった。汗ばかりが流れて、この子が怖かった。言葉が出てこない【私】は、震えた声で答える。
「ど、うしてそう思うの?」
「…?だって、梓さんを見てきた私なんですよ?いつも消えてしまいそうな貴女は、本当は押し殺して自分を消してるようにしか見えなかった!」
「そんな事ない!」と、言いたかった。でも、強く声を荒らげて言う言葉は【私】にはありえない事だから口にすることなんて出来ない。こんなの、〖ボク〗が言う言葉だ。声を荒らげるなんて、汚らしいから。綺麗じゃないから。可愛くないから。こんなの【私】じゃない。
「…、私普通だよ?
勉強ばかりしてて、そう見えちゃったんだと思うな。
だから、心配しないで?」
笑いながら、〖ボク〗は笑えてなかった。『この子になら、いいのかな?』『分かって、くれるよね?』『違う。誰もボクを認めなかった!』『皆っ、嫌いだ!』『皆っ敵なんだっ!』頭の中でボクの声は、空虚な世界に溶け込んで黒く黒く、暗く暗く分からなくなっていく。
「っ!分からないですよっ!
本当なら、貴女は、貴女…は…」
「ごめんね、私家に帰らないと…
これからも、お友達、続けてくれると嬉しいな。
じゃあ、私行くね?また明日♪」
あの子は何を言えば、何を伝えればいいのか分からなくなった様で、言葉を失っていたみたいだった。
【私】は、その隙を見て走るように、あの子との距離を遠く遠く離していく。
家に帰って、両親に挨拶をして部屋に篭もる。あの子は、あの時、【私】になんて言おうとしたのだろうか。〖ボク〗ではない【私】に、【私】ではない〖ボク〗に、まるで悲しそうに、同情ではない純粋に気持ちを共鳴して、泣きそうな顔をしていた気がする。
『到底、ボクを受け止めきれる人間だとは思わないなぁ。
でも…』
「嫌いじゃ…ぁ、苦手だな。」
今、ボクは【私】と〖ボク〗が交じっていた。何を意味するのかは分からないけれど、何が始まるかも分からないけれど、でも、それでも、確かなものがあった。
【私】が、もしくは、ボクが、欠落してしまう気がする。
あの子は、次の日になっても、その次の日になっても、あの続きの言葉を【私】に言ってくれなかった。気にしていない訳では無い。でも、それを聞けば【私】も〖ボク〗も何もかも分からなくなってしまう気がした。それなら、私は、何も聞かない。あの時の言葉の続きはあの時の事は、消えた事にしておく。あの子が、続きを言っても何も分からない。知らない。聞かない。口にしないでおく。
そう。これは、ずっとしてきた事。都合のいい言葉を理解する。受け止める。覚えた上で忘れておく。0から100を理解する。私がしてきた事だ。
ボクには出来ないこと。出来ることは、ひたすら言葉を呟いて、ひたすら受け止めて砕けて、繋ぎ止めて、生きながらえて、また、綺麗な言葉を聞いて、ずっとずっと、子供のまま時が止まった様に、ぬいぐるみを抱えて、涙を浮かべる。
『痛い。痛いよ…。
苦しいの。ずっと、ずっと、苦しい…っ
【私】と何も変わらないのに。〖ボク〗は、何も認められない。
なんで…っ、ボク、頑張ってるよ?
皆、皆の言葉、聞いて、【私】になったのに、ずっとずっと、ボクは〖ボク〗のまま消えてくれないっ!
【私】がずっと護って、〖ボク〗を護ってくれるのに、なんで、〖ボク〗が出てくるの…?
苦しいよ。消えちゃうよ…。見えないよ。何もかも、【私】も〖ボク〗も全部、全部。消えちゃうのっ…? 』
いつの間にか、ベッドにうずくまって涙が静かに流れていく。制服を脱いで、動きやすい格好に変えながら、涙だけが静かに流れていく。
勉強をする気になれなくて、教科書を眺めながら課題を見る。ぎこちない笑い声を出して、深呼吸をする。静かに、数をゆっくり数える。
「ふぅ…よし。大丈夫。」
私の中で、少しずつ【私】が さらさら と、何かが流れていって、〖ボク〗が ドロドロ と、何かが吸い込んで空虚な世界が静かに白く色づいて、私も確かに消えてしまうような気がした。
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