月の絆~最初で最後の運命のあなた~

大神ルナ

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第7章 想いの行方

[5] あたしの魂

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 三度目の行為は、あたしの考えにたいする怒りをぶつけるようなものだった。
 だからといって、ただ苦しくて痛いものじゃない。まるで、一生忘れられないように、狼呀の存在を刻み付ける行為だ。
 肩と首に噛みつかれ、叩きつけられる下半身が奏でる音。
 首筋に感じる熱い吐息と流れる汗。
 初めてのときよりも、強い快感に震えながら一緒に力尽きると、二人でそのままベットに横になった。
 抱き締める腕は、まるであたしを捕らえる牢獄のようだったけど愛しくて、そのまま眠り込んだ。
 目覚めると隣では、狼呀が眉間にシワを寄せて寝ている。
 時間と曜日の感覚は消え失せた。
 でも、もう行かなければならないのはわかる。
 狼呀の腕から抜け出すと、上掛けを胸に引き寄せてぼんやりと座っていた。
 狼呀が起きる前に出ていかなければならないけど、あと一分、あと五分くらい一緒にいたい。
 それどころか、ずっと一緒にいたい。
 自分で放棄しようと誓ったはずなのにおかしな話だ。
 無理な願いなのはわかっている。あたしの我が儘な思いが、狼呀を傷つけたということもわかってる。
 ぐずぐずしていると、どこからか遠吠えが聞こえてきた。
 なんだか聞き覚えがある。
 なにを言っているのかわからないけど、あたしを呼んでいることだけはわかった。

「きっと、ファングね」

 彼が起きないように、静かにベットから抜け出し、脱ぎ散らかした服を身に付けた。
 狼呀の心を少しは、満たしてあげることはできただろうか。
 名残惜しいけど、甘い時間は終わりにしなくちゃいけない。
 満月が終わったら、帰ると冬呀と約束もした。実際は、二日も経っている。
 あたしがここで歓迎されることはないし、冬呀が狼呀を歓迎しないのも感じ取れた。
 二人で一緒の場所にはいられない。
 それに、狼呀は人狼族のアルファで必要とされているから、ここを離れる訳にはいかない。
 狼呀の為と思いながら、本当はあたしが彼を傷つけている。
 あたしは身勝手だ。
 別れるのもつらい。
 狼呀を伴侶だと思うし、愛している。
 だけど、あたしには冬呀の群れが必要だ。
 足音を立てずに眠る狼呀に近づき、目元にかかる髪をどかしてやった。

「んっ……マリア」
 
 名前を呼ばれて、どきりとしたけど、すぐに規則正しい寝息が聞こえてきた。ただの寝言。
 夢にまで、あたしが出ている?
 こんな幸せなことが、他にあるだろうか。
 目元が熱くなってきた。
 もう行かなくちゃ。これ以上いたら、本気で考え直してしまいそうだ。
 眠る狼呀の頬に、別れの口づけをした。

「ありがとう、狼呀」

 こんなあたしを愛してくれて。

「それから……ごめんなさい。さようなら」

 あなたを傷つける事しか出来ない。違う人を選べたらよかったのに。
 お互い、心に空いた部分を埋められる相手と出会えるわけがない。
 けれど、あたしは魂の一部とも言える永遠の伴侶に背を向けた。






 




 



 
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