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第7章 想いの行方

[4] 叶えたいけど……叶えたくない

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 首を揉みほぐしてやると、マリアは悩ましげな声を漏らした。
 言葉の先を聞きたくなかった。
 嫌な予感しかしない。
 だから、狼呀は肌に触れた。
 今は、感情を爆発させかねない話を聞いて、保護本能が持つ凶暴性を抑えられる自信がない。
 彼女を思っての行動と言い訳を心の中でしながら、首を揉まれて艶やかな声を出す彼女の様子に、狼呀は股間のものをまた固くした。
 こうしたのは、性的なことをするためじゃない。
 それなのに、安心したマリアは両手を狼呀の胸に手を当てて、さらには胸に口づけてきた。
 髪を洗いはじめて、爪を立ててきた瞬間には、危なくタイルの壁に押しつけて中に押し入るところだった。

(昔、夢見た時には、こんなに官能的な行為だとは思わなかった)

 狼呀は丁寧に髪を洗い流し、スポンジを手に取ってボディーソープを泡立てた。
 首から肩、鎖骨から胸に泡立ったスポンジを滑らせて、背中を洗う時には自身の胸に抱き寄せる。
 痛々しい爪痕だけは避け、脇腹と腰を洗って体を離そうとしたら――。

「狼呀……お願いだから聞いて。今を逃したら、あなたに何も伝えずに去らなくちゃいけないから」

 どんなに懇願されても、それだけは受け入れられない。

「なら、去らなければいい。何も気にせず俺の横にいればいいじゃないか!」

 シャワーで二人の体を洗い流し、手早くタオルで水気を拭き取った。その仕草は、言葉とは裏腹に優しい。
 新しく取り出したタオルをマリアの体に巻き付け、自分の腰にも巻き付けると手を引いてベットへと連れていく。言葉が、狼呀の頭の中をぐるぐると回り、幸せだった気分が薄れて酷い気分だ。
 ドライヤーを手に振り返るのに、しばらく時間が必要なほどに。

「髪を乾かすから……座ってくれ」

 マリアは黙ってベットの端に座ると、胸元のタオルを掴んだ。

「あなたの傍に居られれば……とは思ってる。でもね? やっと、本当の自分と居場所を見つけたの」

(やめてくれ!)

 そんな話は聞きたくない。肩を掴んで揺さぶってやりたかった。叫びたかった。
 伴侶の絆以上に、何が大切なんだと……。
 代わりに、マリアの正面から髪を乾かし始めた。まさか、髪を乾かしながら別れ話を聞かなければいけないなんて、昔の自分は考えもしなかっただろう。
 それも、最高に幸せなセックスをした後に。
 震える手で優しく髪を梳かしながら、思わず外国語の悪態が口から飛び出した。

「本当に……ごめんなさい」

 涙を浮かべはじめたマリアに、たまらずキスをした。もう優しくは出来ない。
 シャワーを浴びたばかりだというのに、狼呀はマリアを押し倒すと、タオルを剥ぎ取った。
 乳房をやわやわと揉み上げながら、刻み付けるみたいに首筋を強く吸うと、マリアは背中を矢なりに反らした。

「狼呀……愛してる」

「傍にいる気がないのに、そんなことを言わないでくれ」

 狼呀は、マリアの中を一気に自身で貫いた。
 根元まで一気に呑み込んだマリアの中は、まるでぴったりとした手袋のように、狼呀を包み込む。

「くそっ!」

 首に腕を回して、狼呀の肩に顔を埋めるマリアは、昨日とは違う官能的な喘ぎ声を上げている。
 もう少し中の感触を味わっていたかったが、マリアが艶かしく腰を揺らしはじめたせいで、自然と腰が動きはじめた。

(ああ、一生……マリアとのセックスに飽きることはなかっただろうな)

 狼呀は、自分の胸に擦れる先端の固くなったマリアの胸の感触に酔いながら、そんなことを思った。
 背中の傷に負担が少なくてすむように片手を背中に回して、片手はしっかりと腰を掴んでいい位置に固定する。
 何度も突き上げているうちに、マリアは腰を回しはじめた。

「狼呀……狼呀……」

 耳元で、息を乱しながら呼ばれる名前に抽挿する動きを激しくした。情熱的に愛したいのに、胸の奥にある絶望感と葛藤が消えない。
 伴侶の願いは、なんでも叶えてやりたい。それが、どれだけ自分には痛みになることだとしても。
 ただの人間が、狼呀は羨ましくなってくる。自分勝手に愛せたら、どれだけ幸せなことか。

(いっそ......縛りつけられたら、どんなに) 

 この時間が永遠に続けばいいと願いながらも、押し寄せる絶頂の波には逆らえなかった。







 
 





 
 



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