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第4章 はじまりの音
[1] お試し期間二日目
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狼呀は昨晩、マリアにメールを送っておいた。
『今日はありがとう。明日は、緑の多い場所にいかないか?』
そう送ると、数分もしないうちにメールが返ってきた。
『わかった』
絵文字も顔文字もない、素っ気ない文章だった。
しかし、狼呀は気に入っていたりする。
正直な話、マリアがギャル文字なんかを使ったり、こちらが理解できない言葉を使ってきたら、どうしようかと思っていたのだ。
だからこそ、マリアらしいメールに安心を覚えていた。
『動きやすい服装で、昨日のステーキ屋の前に十時。お休み、よい夢を……。
狼呀』
返信なんて望んでいなかった。
ただの連絡のつもりだったメール。
携帯を閉じた狼呀は、タオルとボクサーパンツ、スウェットのズボンを手にシャワーを浴びにいった。
だから、気がついたのは寝る直前――。
アラームをセットしようと開いた携帯に、一通のメールが届いていた。
どうせ、どこかの店からのお知らせか、仲間の誰かからだろうと狼呀は思っていたから、狼呀はベットにごろりと寝転び、メールを開いた瞬間に勢いよく体を起こす。
メールの相手は――マリアだった。一気に胸の奥が熱くなる。
『楽しみにしています。あなたも、よい夢を……。
マリア』
狼呀は、すぐにそのメールを保護した。
飽きもせず、朝から昨夜のメールを目覚めのコーヒーを飲みながら見ていると、呆れたようなため息が聞こえてきた。
「携帯見ながらニヤニヤして……気持ち悪いぞ」
「うるさい。お前に俺の気持ちは分からないさ」
「失礼だなぁー。オレだって、初めての子とのメールは楽しみだし、気をつかうし嬉しくもなる」
予想外な答えが返ってきて、長い付き合いの狼呀は驚いた。
「お前でも、そんな風に思うのか」
「狼……オレのことをなんだと思ってんだよ」
「まあ、あれだよ。チャラ男って奴かな」
「ひっでーな。なんだよ、それ」
瑞季は自分の分のコーヒーを入れると、狼呀の向かい側に座った。
「時々、自分でも嫌になるよ。一人の女に落ち着けないところはさ」
「大丈夫だ。お前にも伴侶が見つかれば、そんな悩みもなくなる」
そう言って、狼呀は立ち上がった。
目の端に入った時計が、午前九時三十分をさしていたのだ。
「マリアとの約束があるから、出かけてくる」
キッチンでカップをすすぎ、棚に戻してリビングを出ようとすると、小さな呟きが聞こえてきた。
「オレはもう……出逢えないさ」
聞こえてきた声が、あまりにも弱々しすぎてリビングに戻って、声をかける気にはなれなかった。
お調子者なのが瑞季だ。
ショックな事があっても、悲しい事があっても、笑って女に声をかけて一日中といっていいほど楽しむ。
そんな姿しか知らない。
もちろん狼呀だって四六時中、行動を共にしている訳じゃないから、知らない姿だってあるだろう。
でも、人狼特有の繋がりで、どんな感情も伝わってくる。
「この感情に……覚えはないな」
狼呀は、ぽつりと呟いた。
立ち止まって周りを見てみると、いつの間にか無意識に駐車場に来ていた。
車に乗り込みエンジンをかけると、表示された時間にドキリとする。
午前九時四十五分。
早めに行って待つつもりだったのに、このままでは少し遅れるかもしれない。
狼呀は、一人きりの車内で悪態を吐いた。
自然とアクセルを踏む足に力が入り、運転も荒くなる。
信号に一つ引っ掛かるだけで、頭の中には待ちぼうけの末、帰っていくマリアの姿が浮かんでは消えた。
焦る気持ちとは違い、時間はゆっくりと過ぎ、店に着いた時には約束の時間ちょうどだった。
すでに駐車場にはマリアが来ており、人気のコーヒー店のロゴが入った紙カップを手に立っている。
狼呀はすぐに車を停めると、エンジンを切らずに車から飛び出し、マリアに駆け寄った。
「悪い、待たせたか?」
「平気。いま着いたばっかりだし、モカも美味しいし。これは、あなたの分」
マリアは、柔らかく笑うと紙カップを差し出してきた。
匂いですぐわかる。
(コーヒー。それも、ブラックだ)
昨日のカフェの時に、狼呀の好みを見ていたという事実に、有頂天になりそうだったが、気になることがあった。
(いま着いたばかり?)
でも、髪から覗く耳と、マフラーに埋めていた鼻が赤いのに狼呀は気づいた。
「少しだけなら、そんなに鼻が赤くなる事はないだろ」
「あるでしょ。もう十二月なんだから」
頑固なマリアが可愛くて、とにかく触れたくなった狼呀は、頬に手を伸ばし――。
「冷たいじゃないか」
「ちょっと、馴れ馴れしい!」
そう怒って狼呀の手を振り払おうとしたマリアは、手袋をしていたせいで紙カップを滑り落とした。
しかし、反射神経のいい狼呀は、地面に落ちて中身が零れる前に掴み眉を寄せた。
「中身だって、すっかり冷えてるじゃないか」
「別に、はじめから熱々って訳じゃないんだから……」
「おいで」
狼呀はマリアの手を掴んで車に引っ張っていくと、助手席に押し込んだ。
何か言おうとするマリアを無視して、小走りに運転席側に回り、車に乗り込んで暖房を強めに入れる。
「さて、嘘はなしだ。どれくらい待ってた?」
「別にいいでしょ。遅れた訳じゃないんだから」
気楽な口調で言いながら、マリアは指先を何度も握っては開いてを繰り返している。
寒すぎて痛くなっているのが、それだけで狼呀にも分かった。
両手を伸ばして、マリアの手袋を素早く外し、指先を包み込むように掴むと、彼女の肩が跳ねる。
「なに!」
引き抜こうとマリアは手を引いたが、狼呀は離す気はない。
「冷たいな。痛かっただろ」
伴侶を守りたい気持ちが、昨日よりも高まる。
しばらく親指で手の甲を撫でると、少しづつ肩の強ばりがとれてきて、指先からも力が抜けた。
小さな降伏を感じて、狼呀は琥珀色の瞳を細めて笑った。
「それで、何分待ってた?」
「……まだ聞くの? もうその話は終わったと思ったのに」
「まだ聞いてないからな」
マリアは分かっていない。
伴侶に対して人狼は、かなり過保護で嘘や偽りを許さないのだ。
そこで、自分が人間ではなく人狼だと知ったら、マリアはどんな反応をするかと思う。
聖呀の伴侶は、最初は戸惑っていたものの、聖呀の一途な想いと誠実さに全てを受け入れた。そもそも、初めて出会った時からお互いに好意を抱いていたのだから何の参考にならない。
「……十分だか、十五分くらい待ってたかも」
そう言って、顔を背けたマリアだったが、さっきとは違う意味で耳と頬が赤い。
(待ち合わせ時間より早く来る。これは好意か?)
あまりの嬉しさに我慢が出来なくなって、狼呀は掴んでいた手を持ち上げ、指先にキスをした。
気づくか気づかないかってくらい、軽くかすめるようなキスだ。
だけど、マリアは気づいて狼呀の手の中から引き抜いた。
ゆっくりと目を開けて、彼女に目を向けると、真っ赤な顔をして手袋をはめて、キスされた手をもう片方の手で抱える姿があった。
「あ……」
自分が自然とやらかした事に気づいて、表情に出していないが狼呀は焦っている。
まだ、マリアが心を開ききっていないのに、やり過ぎたと――。
「いや、わるっ」
「とっ……」
「とっ?」
少しだけ涙目になりながら、マリアはそう呟いた。
もしかしたら、車から飛び出していってしまうかもという考えが頭に浮かび、車をロックしようかと思ったが、その音でパニックを起こすかもしれない。
とりあえず何が言いたいのかと、顔を寄せようとすると、狼呀はマリアに肩を押された。
「とっとと出して! あたしの気が変わる前に!!」
彼女はシートベルトを着けた。
怒ってはいるが、すぐに車を降りようとしない事に、少しは二人の関係が前進していると、狼呀は気分よく車を発進させた。
『今日はありがとう。明日は、緑の多い場所にいかないか?』
そう送ると、数分もしないうちにメールが返ってきた。
『わかった』
絵文字も顔文字もない、素っ気ない文章だった。
しかし、狼呀は気に入っていたりする。
正直な話、マリアがギャル文字なんかを使ったり、こちらが理解できない言葉を使ってきたら、どうしようかと思っていたのだ。
だからこそ、マリアらしいメールに安心を覚えていた。
『動きやすい服装で、昨日のステーキ屋の前に十時。お休み、よい夢を……。
狼呀』
返信なんて望んでいなかった。
ただの連絡のつもりだったメール。
携帯を閉じた狼呀は、タオルとボクサーパンツ、スウェットのズボンを手にシャワーを浴びにいった。
だから、気がついたのは寝る直前――。
アラームをセットしようと開いた携帯に、一通のメールが届いていた。
どうせ、どこかの店からのお知らせか、仲間の誰かからだろうと狼呀は思っていたから、狼呀はベットにごろりと寝転び、メールを開いた瞬間に勢いよく体を起こす。
メールの相手は――マリアだった。一気に胸の奥が熱くなる。
『楽しみにしています。あなたも、よい夢を……。
マリア』
狼呀は、すぐにそのメールを保護した。
飽きもせず、朝から昨夜のメールを目覚めのコーヒーを飲みながら見ていると、呆れたようなため息が聞こえてきた。
「携帯見ながらニヤニヤして……気持ち悪いぞ」
「うるさい。お前に俺の気持ちは分からないさ」
「失礼だなぁー。オレだって、初めての子とのメールは楽しみだし、気をつかうし嬉しくもなる」
予想外な答えが返ってきて、長い付き合いの狼呀は驚いた。
「お前でも、そんな風に思うのか」
「狼……オレのことをなんだと思ってんだよ」
「まあ、あれだよ。チャラ男って奴かな」
「ひっでーな。なんだよ、それ」
瑞季は自分の分のコーヒーを入れると、狼呀の向かい側に座った。
「時々、自分でも嫌になるよ。一人の女に落ち着けないところはさ」
「大丈夫だ。お前にも伴侶が見つかれば、そんな悩みもなくなる」
そう言って、狼呀は立ち上がった。
目の端に入った時計が、午前九時三十分をさしていたのだ。
「マリアとの約束があるから、出かけてくる」
キッチンでカップをすすぎ、棚に戻してリビングを出ようとすると、小さな呟きが聞こえてきた。
「オレはもう……出逢えないさ」
聞こえてきた声が、あまりにも弱々しすぎてリビングに戻って、声をかける気にはなれなかった。
お調子者なのが瑞季だ。
ショックな事があっても、悲しい事があっても、笑って女に声をかけて一日中といっていいほど楽しむ。
そんな姿しか知らない。
もちろん狼呀だって四六時中、行動を共にしている訳じゃないから、知らない姿だってあるだろう。
でも、人狼特有の繋がりで、どんな感情も伝わってくる。
「この感情に……覚えはないな」
狼呀は、ぽつりと呟いた。
立ち止まって周りを見てみると、いつの間にか無意識に駐車場に来ていた。
車に乗り込みエンジンをかけると、表示された時間にドキリとする。
午前九時四十五分。
早めに行って待つつもりだったのに、このままでは少し遅れるかもしれない。
狼呀は、一人きりの車内で悪態を吐いた。
自然とアクセルを踏む足に力が入り、運転も荒くなる。
信号に一つ引っ掛かるだけで、頭の中には待ちぼうけの末、帰っていくマリアの姿が浮かんでは消えた。
焦る気持ちとは違い、時間はゆっくりと過ぎ、店に着いた時には約束の時間ちょうどだった。
すでに駐車場にはマリアが来ており、人気のコーヒー店のロゴが入った紙カップを手に立っている。
狼呀はすぐに車を停めると、エンジンを切らずに車から飛び出し、マリアに駆け寄った。
「悪い、待たせたか?」
「平気。いま着いたばっかりだし、モカも美味しいし。これは、あなたの分」
マリアは、柔らかく笑うと紙カップを差し出してきた。
匂いですぐわかる。
(コーヒー。それも、ブラックだ)
昨日のカフェの時に、狼呀の好みを見ていたという事実に、有頂天になりそうだったが、気になることがあった。
(いま着いたばかり?)
でも、髪から覗く耳と、マフラーに埋めていた鼻が赤いのに狼呀は気づいた。
「少しだけなら、そんなに鼻が赤くなる事はないだろ」
「あるでしょ。もう十二月なんだから」
頑固なマリアが可愛くて、とにかく触れたくなった狼呀は、頬に手を伸ばし――。
「冷たいじゃないか」
「ちょっと、馴れ馴れしい!」
そう怒って狼呀の手を振り払おうとしたマリアは、手袋をしていたせいで紙カップを滑り落とした。
しかし、反射神経のいい狼呀は、地面に落ちて中身が零れる前に掴み眉を寄せた。
「中身だって、すっかり冷えてるじゃないか」
「別に、はじめから熱々って訳じゃないんだから……」
「おいで」
狼呀はマリアの手を掴んで車に引っ張っていくと、助手席に押し込んだ。
何か言おうとするマリアを無視して、小走りに運転席側に回り、車に乗り込んで暖房を強めに入れる。
「さて、嘘はなしだ。どれくらい待ってた?」
「別にいいでしょ。遅れた訳じゃないんだから」
気楽な口調で言いながら、マリアは指先を何度も握っては開いてを繰り返している。
寒すぎて痛くなっているのが、それだけで狼呀にも分かった。
両手を伸ばして、マリアの手袋を素早く外し、指先を包み込むように掴むと、彼女の肩が跳ねる。
「なに!」
引き抜こうとマリアは手を引いたが、狼呀は離す気はない。
「冷たいな。痛かっただろ」
伴侶を守りたい気持ちが、昨日よりも高まる。
しばらく親指で手の甲を撫でると、少しづつ肩の強ばりがとれてきて、指先からも力が抜けた。
小さな降伏を感じて、狼呀は琥珀色の瞳を細めて笑った。
「それで、何分待ってた?」
「……まだ聞くの? もうその話は終わったと思ったのに」
「まだ聞いてないからな」
マリアは分かっていない。
伴侶に対して人狼は、かなり過保護で嘘や偽りを許さないのだ。
そこで、自分が人間ではなく人狼だと知ったら、マリアはどんな反応をするかと思う。
聖呀の伴侶は、最初は戸惑っていたものの、聖呀の一途な想いと誠実さに全てを受け入れた。そもそも、初めて出会った時からお互いに好意を抱いていたのだから何の参考にならない。
「……十分だか、十五分くらい待ってたかも」
そう言って、顔を背けたマリアだったが、さっきとは違う意味で耳と頬が赤い。
(待ち合わせ時間より早く来る。これは好意か?)
あまりの嬉しさに我慢が出来なくなって、狼呀は掴んでいた手を持ち上げ、指先にキスをした。
気づくか気づかないかってくらい、軽くかすめるようなキスだ。
だけど、マリアは気づいて狼呀の手の中から引き抜いた。
ゆっくりと目を開けて、彼女に目を向けると、真っ赤な顔をして手袋をはめて、キスされた手をもう片方の手で抱える姿があった。
「あ……」
自分が自然とやらかした事に気づいて、表情に出していないが狼呀は焦っている。
まだ、マリアが心を開ききっていないのに、やり過ぎたと――。
「いや、わるっ」
「とっ……」
「とっ?」
少しだけ涙目になりながら、マリアはそう呟いた。
もしかしたら、車から飛び出していってしまうかもという考えが頭に浮かび、車をロックしようかと思ったが、その音でパニックを起こすかもしれない。
とりあえず何が言いたいのかと、顔を寄せようとすると、狼呀はマリアに肩を押された。
「とっとと出して! あたしの気が変わる前に!!」
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