月の絆~最初で最後の運命のあなた~

大神ルナ

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第2章 背徳

[3] 不満

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「マリア……マリア」

 何度も何度も髪を撫でられて、ゆっくりとあたしは目を覚ました。
 頭の下には固いが、高さのちょうどいいものがある。

「目が覚めたかい? 15分くらい寝てたよ」

 覗き込むように見られて、頭の下にあるのがレンの太ももだという事を理解した。
 まさかの膝枕?
 恥ずかしくなって慌てて体を起こそうとしたけど、彼に肩を押されて戻される。
 あたしは観念して頭を預けた。
 吸血鬼の力に抗おうとするなんて、体力の無駄遣いだ。それに、少しくらくらする。

「ごめんなさい。撮影は?」

「見ての通りだよ」

 視線を向けると、少し恥ずかしくなる。
 髪は濡れて、胸元が少し空いたバスローブという姿が、こんなにも色っぽくあたしの目には映るなんて思いもしなかった。
 反則と言ってもいい。
 一緒に来たときとは違い、青い瞳は明るく輝き、肌の血色がいい。
 髪を撫でられるたびに当たる指先も、さっきよりもほんのりと温かい。

「次の撮影が、もうすぐ始まるんだけど……」

「あ、うん。飲んでく?」

「いや、大丈夫そうだから今はいいよ。 だから、少しでも栄養をとりなさい。廊下の奥に食べ物の自動販売機があるから、食べるといいよ」

 あたしが体を起こすと、レンは自分の財布を差し出した。

「なに?」

「好きに飲み食いしていいよ。別に、これが今日のお礼って訳じゃない。後でレストランには、ちゃんと連れてから安心して」

「小銭くらい持ってる」

「いいから、いいから。この財布は預かっておくよ」

 立ち上がったレンは、よく見慣れた財布をあたしの目の前でちらつかせた。 

「それ、あたしの財布!」

 奪い返そうとしたら、あたしの手は無駄に空を切った。
 例え運動神経がよかったとしても、吸血鬼が相手では特に役立たない。それに、レンはあたしよりも身長が二十センチは高い。
 疲れるだけだから諦めると、レンはさっさと部屋を出ていった。
 手元に残ったのは、レンの財布。
 予定外の借りは作りたくない。
 でも、空腹が酷すぎるあたしは、大きなため息を1つ吐いて彼の財布を手に立ち上がった。
 部屋を出ると、斜め向かい側には確かに何台もの自動販売機が並んでいる。
 飲み物、パンとお菓子、フライドポテトや焼おにぎりまであって、あたしは考え込んだ。
 いっそうの事、悩むモノ全て買ってしまおうか。
 でも、他人の財布からお金を出すとなると心が痛むし、あとで全額返せと言われるのも嫌だ。
 とりあえず、空腹具合から焼きおにぎりを買うためお金を入れた。ボタンを押すと出来上がりまでの時間が表示され、調理が始まる。
 意外と長い調理時間だったからパンを買い、お茶を買った。完璧に油断していたとしか思えない。
 足音にも、気配にも気を配っていなかったから、振り返ったところで思わず悲鳴を上げそうになった。








 


 



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