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第2章 背徳
[2] 不快
しおりを挟むエレベーターが開いた瞬間、狼呀は野性的な魅力を持つ顔を歪めた。
吸血鬼と血の匂いが鼻を突く。
モデルの仕事上、仕方なく来たが、本当は来たくもなかった。
吸血鬼と同じ空間にいるくらいなら、スカンク10匹に囲まれたほうがましなくらいだ。
それが、狼呀の本音でもある。
エレベーターの前では、狼呀の言わんとしたことが分かったのか、一人の女がくすりと笑った。
「問題は起こさないでね、狼呀」
「そう願うんだったら、はじめから寄生虫どもとの仕事は入れないでくれ……レイラ」
「無理ね。世の中の淑女たちは、吸血鬼の顔とあんたたちの体がお好みなの。雑誌の売り上げに、しっかり貢献しなさい」
仲間内で最も色気のあるレイラは、狼呀の胸を撫で下ろすと、腰を振りながら行ってしまった。
廊下ですれ違う男たちは、みんな物欲しげに見つめている。
だが、手を出す奴はいない。
レイラは、ただセクシーなだけの女ではないのだ。
彼女に触れようものなら、きついお仕置きが待っているだろう。軽く扱えば、命だって危ないかもしれない。
すでに、そのことを理解している同僚たちは、勇気がないのか決して手を出さない。
守る必要がない女性とは頼もしいものだと、狼呀は誇らしげな唸り声をもらした。
「彼女は違ったな」
思わず狼呀の口からこぼれ出た。
昨日の彼女は、自分の知っている女たちとは違った。
目は力強かったが、見た目は狼呀が全力で抱き締めたら壊れてしまいそうだ。
もちろん、レイラもはじめから頼もしかった訳ではない。
最初の頃は地味で目立たず、自信が無さそうに常に怯えている小さな女の子だった。
いつも狼呀の後ろに隠れて、どこに行くにもついて回っていたのが、今ではあんな風になるのだから女とは怖いものだ。
彼女だって、今は誰の目にもとまらなくても、いつかはレイラのように男の視線を集めるようになるかもしれない。
そう考えただけで、間だ見ぬ男どもを残らず噛み殺したくなる。
レイラの時には、芽生えなかった感情だ。
やはり、彼女は自分だけの伴侶。
狼呀は確信した。
必ず見つけ出してやる。
狼は、獲物を追い回すのが得意なのだ。
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