コトバイジリ

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おっさんと昔話

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  よう、ボウズども。

  こんなチンケな山村によく来たな。
   
   テメエらがこの村に伝わる面白れえ昔話を聞きたいつってた連中か?

  おいおい、そんな不審者を見るような目で見るんじゃねぇよ。おっさん傷つくぜぇ?おっさんはピュアなんだよ。

 そんなことより私達の電話に出た婆さんをだせって?

  いいねぇ、吹くねぇ!いい度胸してんじゃねぇか!

  おォっと、悪りぃ悪りぃ。今日テメエらに話をする婆さんの話だったか?

 それなんだがよォ、その婆さん死んじまってよォ。

あぁ、そんな露骨にがっかりしたような顔してんじゃねぇよ。

面倒だが、俺が代わりにその昔話をしてやっからよォ。

  あぁ?なんで俺がその話を知ってんだって?

  なんであんたがその話を知ってるんだって?

  なんだよ俺が知ってたら悪いのかよ。

  まあ、テメエらが言いてぇのはこの話が一子相伝で俺が今からガセネタを掴まそうとしてるんじゃねぇかってことだろ?

 よく調べてんじゃねぇか。まあ心配すんな。俺はその婆さんの息子なんだよ。だから俺もこの話は知ってる。これで納得したか?

   ついでに言っとくと俺がテメエらにこの話をするのはお婆さんの最期の願いでもあんだよ。

   あ?なんだその顔?もしかして同情とかしてくれちゃってる?

  ハッ、お優しいこった。

  だがそんな同情はいらネェよ。そもそも俺は勘当されてたしな。そのくせ自分が死にかけたらこの話を後世に伝えるのが若者の義務?

  笑わせてくれるよなぁ、本当に!

 おっと、悪りぃ。また話がそれた。酒が入ると話がそれてどうもいけネェ。

  まあ、だからよ。

  そんな心配しないで聞いていけよ

  俺らの村に伝わる昔話をな。










 


    


 





   






   昔々、ある村に一人の女の子と一人の木こりの爺さんが住んでたんだと。
 
   その爺さんはどうしようもないぐらいの金の亡者でな、毎日村の近くの祠にいっては「ワシが世界一の大金持ちになれますように」とお祈りをしてらしい。
 
   

   するとある日、爺さんがいつもの様に近くの祠でお祈りをしていますと、突然、あたり一面に、まるで牛乳のように真っ白な霧が立ち込めてしまったんだ。

   それじゃあ家に帰りたくとも帰り道がわからねぇ。仕方がねぇから
「やれやれ、これでは霧がはれるのを待つしかあるまい」
と爺さんは祠の中に腰を下ろして霧がはれるのを待つことにしたんだと。

    すると、信じられるか?どこからともなく不思議な声が聞こえてくるじゃねぇか。 
『力が欲しいかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ  力が欲しいかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』 
ってな。

  その声はまるで、年老いた老婆のもののようにも聞こえるし、それでありながら年若い少年のもののようにも聞こえるんだとよ。
 
   これにはびっくり仰天した爺さん。だがな、爺さんは気付いた。いや、気付いちまったといっていい。「ははあ、これはこの祠の神様のお声に違いない」ってな。

  そこで爺さんは考えるわけだ。この千載一遇の機会は断じて逃すわけにはいかないと。で、もっと考えるわけだ。じゃあその方法は、ってな。

  沢山の大判小判?  山のような金銀財宝? それとも誰も見たことのないような山海珍味か?

  それじゃあ駄目なんだよ。それで得られる金はあくまで一時的。使っていけばいつかは世界一の大金持ちとはいえなくなっちまう。しかも金銀財宝や山海珍味では年月がたてば劣化し価値を失っちまう。
 
言ったろ?爺さんは金の亡者だったんだ。爺さんは世界一の大金持ちで有り続けなければ気がすまなかったんだ。

  だから爺さんは考えた。

考えて、考えて、考えて、考えて。
  
   そして爺さんは考えついてしまったんだ。そうだ、触れた物を全て宝石に変えてしまう力があればって。

   だから爺さんは『声』に向かって叫んじまった。

 「触れた物全てを宝石に変える力が欲しい」
ってな。

 


















ーーーー その願いが何をもたらすかなんて、考えもせずに。


 

  
 


 








  



  ふと爺さんが目を覚ますと爺さんは布団の中にいた。              
 「先ほどのことはやはり夢だったのかのう」
と、おじいさんは実に名残り惜しげにつぶやき布団からゆっくりと這い出ようとして、何気無く掛け布団に手をかけると、


ーーーーなんとまあ、掛け布団が突然まばゆい光で包まれるじゃねぇか。

 「おうおう、これは一体全体どういうことじゃ」
と呆然とするおじいさんの前で、掛け布団を包む光は徐々に弱まり、ついにはその光も消えてしまうと、

   そこにはそれはそれは見事な、掛け布団の形をした紫水晶があったんだと。

「おお、先ほどの出来事は夢じゃなかったのじゃな!」
と、そりゃあもう爺さんは大喜びだわな。おじいさんは次々と家の中のあらゆるものを宝石に変えて行くわけだ。

   タンスはサファイアに、火鉢はルビーに、鍬はエメラルドに、ちゃぶ台は黒真珠に。

   これらの宝石たちは大きさこそ元のもののままではあったがな、その輝きは、まさしく、魂を奪われるような、そんな表現がぴったりくるほど素晴らしいものだったって話だ。

   そんでもって、それぞれの宝石たちには精巧なカットがほどこされててな、角度を変えてみるたびに、キラキラ、キラキラと妖しい輝きを放ち、見る者の目を魅了するんだ。どうだ、凄えだろう?

   街に行ってこれらの宝石たちのうち1つを売るだけで、国が1個買えるほどの値段がつくのは間違いねぇ。
  
  しかも、と。おじいさんはぐるりと家の中を見回すと、だ。家の中で宝石となっているものはまだまだ少ししかないわけだ。

    家の中にあるもの1つ売るだけで国が1個買えるほどの値段になるんだから、この家の中にあるもの全てを宝石にして売った日には、世界一、いや、宇宙一の大金持ちになるのも夢じゃあねぇ。

   爺さんはもう笑いが止まらんわな。だから爺さんはいつかめでたいことがあったときにのむ為に買っておいた秘蔵のお酒を飲むことにしたんだと。そんでもってお酒をおちょこになみなみと注ぎ、いざ飲もうとしたその時。


ーーーーお酒の瓶とおちょこが眩い光に包まれ、それはそれは綺麗なトパーズになったんだよ。中身ごと、な。

「これはどうしたことじゃ」
  おじいさんは呟いた。そんでもって恐ろしくなった。ひょっとしたらこの力は食い物にまで適用されるんじゃないかってな。だから次に実験のために、家の外になっていた大きく真っ赤に熟したリンゴをもいでみたんだ。そしていざ食べようとすると、やっぱり真っ赤な大きなリンゴは眩い光に包まれー

ーーー真っ赤に輝く大きなガーネットのリンゴになった。

「これはどうしたことじゃ‼︎」
   おじいさんは大声で怒鳴った。そりゃもう大パニックさ。もう先ほどまでの高揚した気分など、微塵も残ってるわけがねぇ。なんせ食い物までもが、ご丁寧なことに食おうとした瞬間に宝石になっちまうんだからな。このままでは餓死真っしぐらってわけだ。

さすがに爺さんもこの力は神の恩寵なんかじゃないんじゃないかって疑い始めた。

「くそっ くそっ くそっ 」
おじいさんは苛立たしげにいまでは黒真珠となったちゃぶ台を殴る。そりゃそうだ、自分の人生が戯れに無茶苦茶にされそうなんだから。するとそのちゃぶ台を殴る音でで目を覚ましたのか、隣りの部屋から

「どうしたの?おじいちゃん」                       
と小さな女の子が寝ぼけまなこをこすりながら、トテトテと出てきた。そんな荒れた爺さんを初めてみたのか、とても不安気な顔をしてたんだと。


  そのような顔を愛しい小さな女の子にされては、爺さんもたまらねぇ。爺さんは安心させるように満面の笑みを浮かべ

「何も心配することはないんじゃよ」
と優しく小さな女の子に言うと、その小さな温かい身体をギュッと抱きしめた。






ーーーーー抱きしめて、しまった。


















そして小さな女の子は、眩い光に包まれて。













   突然輝きだした自分の身体に対する恐怖と。













   大好きなおじいちゃんに抱きしめてもらった喜びの入り混じったような。



  







   そんな儚い笑顔を浮かべて。



    







     小さな女の子は。
   




 






  



    宝石の像に、なった。
 


  









    それは、あまりに美しく。

    











   今までに生み出した宝石たちが、『魂を奪われるような』美しさというなら。







  



  小さな女の子は。











    『魂』そのもののような。



 




    そんな美しく、儚い。


      
    









      




   宝石の像にーーーーーーーなって、しまった。


「ひゃ、ひゃ、ひゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

  爺さんの、悲痛な絶叫が村に木霊する。


「ワシのせいだワシのせいだワシのせいだワシのせいだワシのせいだワシのせいだワシのせいだ ワシのせいだワシのせいだワシのせいだワシのせいだワシのせいだワシのせいだワシのせいだワシのせいだワシのせいだわしのせいだわしのせいだわしのせいだわしのせいだわしのせいだワシのせいだワシのせいだわしのせいだわしのせいだわしのせいだわしのせいだわしのせいだワシのせいだワシのせいだわしのせいだわしのせいだわしのせいだわしのせいだわしのせいだワシのせいだワシのせいだわしのせいだわしのせいだわしのせいだわしのせいだわしのせいだあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

   爺さんは髪がぬけるのも気に留めず白髪頭をぐしゃぐしゃと掻き毟る。
   おじいさんの心は自分を責める気持ちでいっぱいだ。そりゃそうだ、その力の本質に何と無く気づきながら、小さな女の子にさわっちまったんだから。

   だが爺さんは考えた。小さな女の子に一度触ったら小さな女の子は宝石になった。だったらもう一度触れば小さな女の子は人間に戻るのでは、と。

    だから爺さんは小さな女の子だったものを、そっと優しくさわる。まるで、壊れものでも扱うかのように、今では壊れものとなった小さな女の子をさわる。

    それでも女の子だったものは、人間には戻らない。

    「ならばワシがこすれば・・・」

     おじいさんは一縷の望みを託すように小さな女の子だったものをこする。何度も何度もこする。

     まるでそうすれば、小さな女の子だったものが再び何事もなかったのように微笑みかけてくれるかのように。



     まるでそうすれば、小さな女の子の身体に再び暖かみがともるかのように。












ーーーーそんな都合のいいことが起こるほど世界は優しくないことを知りながら。

   









  






     果たして、小さな女の子だったものは。






     








        依然として冷たくて。








  







   華麗に綺麗に輝いているままで。






















   ーーーー  決して人間には、戻らなかった。



    ははは、と。心の何処かでわかっていた結末を見て、爺さんの口から乾いた笑みがこぼれる。











 

   もう二度と小さな女の子は戻ってこないことに、気づいてしまったから。

   


  









  自分のせいで、愛する小さな女の子を『殺して』しまったことに、気づいてしまったから。









    そして、爺さんは再び、ははは、と小さく笑って。

 













   「もう何もかも、嫌になった・・・」

     と呟いて。












     自分の身体に、触れた。



  








   





   それからしばらく経って。


     


  




  その村から人の気配は消え。


     








     代わりに村に、人型の宝石が1個、増えた。
  











 










どうだ、面白かったか?これで昔話はしまいだ。

  珍しくねぇか?昔話でこういう終わりかたって。まあ、そこがミソなんだがよ。




おっ、わかるか?良いセンスしてんじゃねぇか。いいねぇいいねぇ。


………。


  ところでテメエらはこの村に何で来たんだ?


  ほう。車、ねぇ。


   なら、この昔話のモデルとなった祠の場所教えてやれるが、どうする。

  
  
  ククッ、そうか行くのか。


   

ああ、済まんな。別にテメエらを笑ったわけじゃねぇ。単純に勇気があるなと思っただけだ。




 だったら一つだけ年長者からの忠告だ。










もし、祠から何か声が聞こえても、決して返事をするんじゃねぇぞ。







 































   そんなことしたら、絶対にロクな死に方なんて出来っこないんだからよぉ。
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