toy gun

ももんがももたろう

文字の大きさ
上 下
12 / 24
ゲームはクリアを待っている

鈍色之風、金之瞳 4

しおりを挟む
 いや助けてよ!!
 そこは!
 助けてよ!

 しかし助けは来ない。
 やつらは全力疾走で逃げている
 ならどうする? 自分の力でどうにかするしかない!
 
 狼が私の頭めがけて前足を振り下ろす!
 
「うわあっと!」

 とっさに前に転がってしまったがそれは悪手じゃぞ私氏よ。
 敵の足元に転がり込んでどうするつもりだくそったれ。3秒前の私に呪いをかけたい。
 再び狼の足踏み。巨体が生む威力を確かめる気にもならない重厚な打撃音が私の頭の横でなる。気合で横に転がって回避できたのはいいがこのままじゃ明らかにジリ貧だ。やはり15秒前の私に前に転がれない呪いを掛けておくべきだった。今からでも遅くはないか。ピピピピピー!

 呪いを送ったのはいいけどこの世界線では私は前に転がってるので現状は何も変わらない。当たり前である。このファッキンくそったれな状況を打破するために一丁頑張ります!

「いつだって、最後に自分を助けるのは自分自身だ。他力に頼ってちゃあいけないよねッ!」

 前足踏みつけを転がって回避。
 いったい何回転がればいいんだ私は。だが今回の私はちょいと違うぞ。
 地面を踏む、ただそれだけの動作でアスファルトの皹をより深くするその威力に戦慄するけど今はビビッてちゃ駄目だ。
 足踏みを回避した瞬間、地面を踏み、アスファルトを砕くその瞬間を狙うんだ。
 
 今!

 この硬直を逃せば私の死が大きく近づいてくる。
 これ以上近づいてきてもらっては困るからね! 
 ここは思い切っていくよ!

 丸太のように太い脚に組み付くのは至難の技かと思ったけど長くて丈夫な毛が難易度を大きく下げたね!
 
「よっしゃ!」

 毛根を引きちぎる勢いでがっちりグリップ! 強くつかんでも抜けないミラクル毛根に感謝感激雨あられ。
 ちょっと引っ張って虐めてみるか。オラオラ! 

「ガルァ!?」

 ハハッ、驚いてるね。
 でも驚くのはここからだよ!
 腰に下げた銃を抜き、毛を掻き分けた地肌に密着させて、撃つ!

BLAM! BLAM! BLAM! BLAM! BLAM! BLAM!

 弾倉に入っている弾を全部撃つ。
 私が組み付いた多頭狼の前脚、その関節を直接。
 
「ち、ぎ、れ、ろ!!」

 硬い毛を掻き分け、ピタリと間接に銃口をくっつけてからの接射だ。
 弾丸が通った後を回復能力で癒そうとしても無駄だ。
 衝撃とガス、発生する熱で傷口はえらいことになるからね!

「まだか!」

 握った銃を放り投げ、次の銃を取り出す。
 リロードの時間がもったいない!
 
 ありがとう何かよくわからない森で私を襲ってきた間抜け1号! 使わせてもらうよ!

 BLAM! BLAM! BLAM! BLAM! BLAM!

「ハッハア! 千切れた! これで走りにくくなったろ!」

 骨も靭帯も強靭だったけどこれで逃走の糸目が見えた。
 だけど一発弾丸が余ったんだよなぁ。
 どうする? 決まってる。打ち込む!

「くらえや! オラァ!」

 痛みで怯んでる狼の胸倉を掴み胸に銃口をねじ込む。そのまま直ちに引き金を引いた。胸付近の接射だ。発砲時の衝撃波とかがなんかいい感じに心臓をめちゃくちゃにしてくれるかもしれない。してくれるといいなあ。

 どうかいい感じの結果を生み出してくれますようにと、あるかどうかもわからないこの世界の月にお願いをしつつ、狼の体から離れて、そのまま仲間が逃げた方向にダッシュ!

 追いかけてくるか、生きてるかどうかの確認はしたい。

 後ろを振り向いて見て目に飛び込んできた事実に驚愕して思わず立ち止まってしまう。
 見なければよかったと後悔してしまった。そのまま確認なんかしないで走っていればよかったと思ってしまった。

 確かに狼は死んでいた。心臓を打ち抜かれ、前脚の一本を吹き飛ばされた無残な死骸がひび割れ所々地肌が露出したアスファルトの上に横たわっていた。頭の数は一つ。そう、頭の数は一つだ。

 頭が一つになった狼の死骸の周囲を大小様々な大きさの狼が囲っていた。
 その内の一匹が頭を高く上げ、遠吠えをした。
 
「ウウウウウウウウウウウウウウウウ――」

 遠吠えをしている狼の周囲を囲み、一匹、また一匹と合唱のように遠吠えをあげ始めた。
 取り囲む狼の合唱はすぐにやんだが行動はそこで終わらない。一匹、一番初めに合唱を始めた狼が中心でいまだに遠吠えを続ける一匹に突進した。
 突進した相手を吹き飛ばすことはなかった。なぜなら、突進した狼はまるで飲み込まれるように遠吠えを続ける狼の胸に消えてしまったからだ。混ざり合い、体毛はザワザワと揺れ動いた。体毛が寄り合わさり、一つの形をかたどり始めて行く。

「嘘でしょ」

 象った形は狼の頭。
 毛の奥から眼球と牙が薄ら赤い粘液を纏いながら現出。
 紛れもなく二つ頭を持った狼が一頭、天に向かって遠吠えをしている。
 始めの一頭を追いかけるように二頭、三頭と溶け合っていった。

 まずい。
 これは、まずい!

 思わず立ち止まって注視してしまっていた体と意識に鞭打って思考を切り替える。急いで逃げなくては。
 この情報を持っていかないとやばい。
 
 やつらは個にして軍だ。
 一匹やるだけじゃ止まらない。 
     
「まずいぞ」 
  
 遠吠えが止まった。 
 確認のため振り向けばば炎を揺らめかせたような瞳が私を見つめていた。

「ハハ、そんなに見つめられちゃ怖いね。チャーミンぐなお顔が台無しだぜワン公」
「ゴアアアアアアアアアア!」

 咆哮を上げ、軍狼が動き出した。
 
 やっぱり早い。
 デカイ癖に動きも早いとかどうしようもない。
 追いつかれる前に建物の中に入るか!
 あの巨体だから多少は動きを制限できるかも。

「オラアアア!」

 走りながら撃ちきった銃に弾丸を詰め込む。
 革命的リロード速度でただちに満たされた弾倉をくるりと一回転。
 適当な建物のドアノブを打ち抜き強制開錠。そのままヤクザ蹴りでオープンセサミ。建物の構造はどんなだ!?
 目の前には廊下、入り口のすぐ脇に電源が入っていない自動販売機のような機械が一つ。広く清潔そうなカーペットタイルの床は爪がとてもよく食い込むだろう。
 
「外れ引いたか!」
  
 まぁいいや。
 立てこもるんじゃなくて中を通り抜けよう。
 ビルの出入り口が一つだけとは考えにくい。
 
 「とりあえず入り口塞いで……っと」

 塞ぐものは何かあるか? 
 あった! 自動販売機! 君に決めた!

 横から押し込み、ずらしていく。一分一秒が生死の分かれ目なこの状況だとこの速度はかなり危うい。
 軍狼の大地を駆ける音が近づいてくるのがわかる。ここまでか? いや、ここで充分だ。
 
「もう! ここで! いい!」 

 ある程度扉に近づけたら上部によじ登り、揺らし、蹴る。倒れた自販機が扉を開けるのを邪魔するつっかえ棒のような役割を果たしてくれればそれでいい。
 これで何秒もつか。せめて建物を抜けるくらいの時間は稼げると嬉しいんだけどな。

 建物を抜けるために廊下を全力疾走。
 廊下にある倒せるものはすべて倒していく。足止めになるものなら全部だ。
 後は野となれ山となれ。私を追いかけるのはちょっと面倒だぞ! ざまあみろ!
 広い廊下を抜けるとパーティションで区切られたオフィス部屋になっていた。
 机の上を走り、仕切りの上をハードルの要領で飛び越る。後ろから破壊音。来たか……来ちゃったかあ……。はやすぎるよぅ。
 まぁいい気にしたところで狼は止まってくれない。
 次のエリアだコンチクショー!
 
 やけくそ気味にオフィス部屋を出ると次は階段上と下へと続く道。どちらを選ぶ? 決まってる。上だ。
 下の階は地下。出口がある可能性は低い。
 上ならどうだ? 二階には窓がある。そこをぶち抜けばいい。
 だから私は階段を上る。
 
 後ろから来る狼、足音は複数。たぶんばらけてるな。
 それなら都合がいい。まとまって大きく頑丈な一匹よりもばらけて小さく柔らかいほうが対処のしようがある。
 
「ここで狼の数を減らす」

 拳銃を構え、階段の上から下を見下ろすように陣取った。
 踊り場を競い合うように出てきた犬の数は三匹。ただし、頭が二つあった。

「あーそういうこともできちゃう!?」

 じゃあ迎え撃つのやめる!
 そんでもって二階から飛び降りて逃げてやる!
 二階廊下の一番奥、メインストリートの方向に窓発見!
 直ちに飛び降りる!
 オラアアアアアアアア!ッシャアアアアアアアアアアアアアア!

 銃弾打ち込んでガラスを粉々に吹きとばし、そのままダイヴ!下を向けば犬の複数ある頭が私を見ていた。
 あー……まじか、全部じゃなくて一部を残して追いかけたか。
 すっげえ冷静すぎて笑いも起きないぞこれ。もう飛び降りちゃってるんだ。着地してすぐに発砲しよう。覚悟を決めるんだ私。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

戦国時代の武士、VRゲームで食堂を開く

オイシイオコメ
SF
奇跡の保存状態で頭部だけが発見された戦国時代の武士、虎一郎は最新の技術でデータで復元され、VRゲームの世界に甦った。 しかし甦った虎一郎は何をして良いのか分からず、ゲーム会社の会長から「畑でも耕してみたら」と、おすすめされ畑を耕すことに。 農業、食堂、バトルのVRMMOコメディ! ※この小説はサラッと読めるように名前にルビを多めに振ってあります。

DEADNIGHT

CrazyLight Novels
SF
総合 850 PV 達成!ありがとうございます! Season 2 Ground 執筆中 全章執筆終了次第順次公開予定 1396年、5歳の主人公は村で「自由のために戦う」という言葉を耳にする。当時は意味を理解できなかった、16年後、その言葉の重みを知ることになる。 21歳で帝国軍事組織CTIQAに入隊した主人公は、すぐさまDeadNight(DN)という反乱組織との戦いに巻き込まれた。戦場で自身がDN支配地域の出身だと知り、衝撃を受けた。激しい戦闘の中で意識を失った主人公は、目覚めると2063年の未来世界にいた。 そこで主人公は、CTIQAが敗北し、新たな組織CREWが立ち上がったことを知る。DNはさらに強大化しており、CREWの隊長は主人公に協力を求めた。主人公は躊躇しながらも同意し、10年間新しい戦闘技術を学ぶ。 2073年、第21回DVC戦争が勃発。主人公は過去の経験と新しい技術を駆使して戦い、敵陣に単身で乗り込み、敵軍大将軍の代理者を倒した。この勝利により、両軍に退避命令が出された。主人公がCREW本部の総括官に呼び出され、主人公は自分の役割や、この終わりなき戦いの行方について考えを巡らせながら、総括官室へ向かう。それがはじまりだった。

ユニーク職業最弱だと思われてたテイマーが最強だったと知れ渡ってしまったので、多くの人に注目&推しにされるのなぜ?

水まんじゅう
SF
懸賞で、たまたま当たったゲーム「君と紡ぐ世界」でユニーク職業を引き当ててしまった、和泉吉江。 そしてゲームをプイイし、決まった職業がユニーク職業最弱のテイマーという職業だ。ユニーク最弱と罵られながらも、仲間とテイムした魔物たちと強くなっていき罵ったやつらを見返していく物語

最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした

水の入ったペットボトル
SF
 これまであらゆるMMOを最前線攻略してきたが、もう俺(大川優磨)はこの遊び方に満足してしまった。いや、もう楽しいとすら思えない。 ゲームは楽しむためにするものだと思い出した俺は、新作VRMMOを最弱職業『テイマー』で始めることに。 βテストでは最弱職業だと言われていたテイマーだが、主人公の活躍によって評価が上がっていく?  そんな周りの評価など関係なしに、今日も主人公は楽しむことに全力を出す。  この作品は「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています。

AI執事、今日もやらかす ~ポンコツだけど憎めない人工知能との奇妙な共同生活~

鷹栖 透
SF
AI執事アルフレッドは完璧なプレゼン資料を用意するが、主人公の花子は資料を捨て、自らの言葉でプレゼンに挑む。完璧を求めるAIと、不完全さの中にこそ真の創造性を見出す人間の対比を通して、人間の可能性とAIとの関係性を問う感動の物語。崖っぷちのデザイナー花子と、人間を理解しようと奮闘するAI執事アルフレッドの成長は、あなたに温かい涙と、未来への希望をもたらすだろう。

Free Emblem On-line

ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。 VRMMO『Free Emblem Online』 通称『F.E.O』 自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。 ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。 そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。 なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...