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その4

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「んん、リリー、いい臭いだね」

すん、と私の首筋に顔をうずめながら、アルフォンス様が喋る。
首筋に吐息が当たってくすぐったい。

「あ、あ、あの、ででででで、殿下...?ひゃっ!」

あの抱擁の後、私はあれよあれよと一人がけのソファに誘導され、あれよあれよとアルフォンス様に後ろ抱きにして座らせられ、あれよあれよと首筋に...いやちょっと!なっ、舐めっ...!

「リリー、可愛いね。どうしてそんなに赤くなってるの?食べちゃいたい」

「ひぃっ!」

今度は耳元で囁かれて、言いようのないゾクゾク感が体を支配する。
アルフォンス様の心地良い低音で脳がクラクラしそうよ。れ、冷静になって私!

「アルフォンス、さま...あ、あの。離れて...恥ずかしいですわ」

羞恥で涙目になりながらも振り向いてアルフォンス様の目を見ながら離れたいと訴えると、アルフォンス様は少しだけフリーズした後にさらに抱きしめる力を強めてきた。
えっ、何、やめて!心臓がもたない!

「だめだよリリー、そんな顔しちゃ。襲われたいの?」


スリスリと鼻筋を首に擦り付けながらアルフォンス様がため息を吐く。
また襲うゾワゾワ感になす術もない。
ど、どうしてこんな事に。

アルフォンス様、イクリットがこれをみたら誤解されますよ!
婚約者でも恋人でもない私に対してこんなことをしてるなんて、、、待って婚約者でも恋人でもない人にこんなことしてるの?もしかして誰にでも...?

今のこの現状にハッとしながら、今度はとてつもない悲壮感に襲われる。
さっきまではドキドキで心臓が爆発するのかと思ってたのに、一気に体が冷めた。

「離してください、アルフォンス様」

幾分冷静さを取り戻し、先ほどよりも数倍冷たい声が出て、それに気づいたアルフォンス様がピクリと反応する。

「リリー?」

戸惑いがちにこちらを伺って少しだけ体の拘束が解かれたけど、それでも私を離す気はないらしい。

「アルフォンス様、婚約者でもない人間と二人きりになってはいけませんわ。ましてやこんな、あっ、こっ、あ、愛し合ってる恋人のような体勢で過ごすなどっ...!」

自分達の現状の体勢について言葉に出すと、冷静になったはずの体がまた羞恥で赤くなる。恥ずかしいし悲しいし、もう感情がぐちゃぐちゃだわ!

それに対してアルフォンス様がきょとんとした顔をしながらこちらを見つめてくる。
普段の完璧なイケメンからは想像できないほどレアで可愛い顔だわ。何これ大好き。

「リリー、僕たちは婚約者同士だし、少なくとも僕はリリーと愛し合ってるつもりなんだけど...」

リリーは違うの?


耳元でアルフォンス様の声がそのまま音として通り抜けた。
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