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その3
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「姉さん、そろそろアルフォンス殿下が限界かもしれません」
ある休日、王宮から帰ってきたテオバルトはお茶をしに私の部屋へやってきた。
席に着くなり溜息混じりに何やら物騒なことを呟く
アルフォンス様が、限界...!?
「ど、どういうこと?執務が大変お忙しいの?そうよね、学業に剣術に執務までこなしているもの、それはそれは大変だわ。しかも最近はきっと恋にもお忙しいでしょうし、心労はたたるばかりよ。あぁ私に何かできることはないかしら」
アルフォンス様が限界だなんてただごとではない。
なにせあの完璧イケメンアルフォンス様だ。
最近は遠くからアルフォンス様を見るだけで、特に変わった様子はないと思っていたけどそうでは無かったみたいだ。
いったいどうしたらよいのか。
あわつく私に、テオバルトは真剣な顔で見つめてくる。
「姉さん、姉さんにできることならあります。殿下は毎夜、昔飲んだ姉さん特製のレモネードを飲みたいとうなされているらしいです。」
「ええ?れ、レモネード?あれは私が作ったのではなくて使用人が作ったものを殿下に差し入れしただけよ」
「姉さんが昔差し入れした姉さん手製のクッキーも食べたいとうなされていました」
「いや私クッキーも作ったことないわ、しかもあれはちょうど貰ったものを横流ししただけ...」
「姉さんが誕生日に作ってくれたケーキも食べたいと言っていました」
「いや作ったことないわよ、アルフォンス様の誕生日にケーキを用意したこともないわ!」
生まれてこのかたキッチンに入ったことがない。その事実を知っているだろう弟は淡々と私の手製を繰り返す。
え?私違う世界線にワープか何かしたのかしら?知らないわ、知らない世界の話をされているわ!
「まあ姉さんの手製は嘘ですが。色々と限界な殿下は甘いものを差し入れてほしいそうですよ。」
コホン、と咳を一つした後、テオバルトは真剣な顔でそう言った。
いや最初からそう言えば言いと思うのだけど。
「姉さんは甘いものがお好きな上に詳しいでしょう。殿下に差し入れをしてあげて下さい。」
テオバルトのその言葉に私は頷く。
確かに私は甘いものが好きだ。大抵のものは適当に生きている私だけれど、甘いものに関しては流行を先取りするほどに熱意がある。
「わかったわ、いくつか選定するから従者にお使いをお願いして届けてもらいましょう。」
「いえ、届けるのは姉さんです。これは絶対です。なにせ殿下は限界を迎えて好きでもない甘いものを欲しているんですから」
「ええ?テオ、私が今アルフォンス様断ちをしているの知っているでしょう。ダメよ、会ってしまったら恋心が暴走して止まらなくなってイクリットをいじめてウチは没落するわ」
「ええ、その殿下断ちのせいでアルフォンス殿下が限界を迎えて暴走しかけているのでとりあえず差し入れしてきて下さい。イクリットさんの家が没落しそうですよ...まぁ別にそこはどうでもいいですけど」
その言葉の後にテオバルトはメイドに目配せをすると、私はなぜかメイド達に出かける準備を施され、あれよあれよと馬車に乗り、あれよあれよと王城に着いていた。
あれ?差し入れは?
そう疑問に思っていたらいつの間にか手に手土産を持っていた。
あれ?選定してなくない?
私何もしてなくない?
あれ?
そう頭にハテナを散りばめていたらいつの間にかアルフォンス様の部屋の前に立っていた。
なにこれ怖い。
怯えているとアルフォンス様付きの護衛が戸を叩く。
ちょっと待って、久しぶりのアルフォンス様なのに心の準備がまだだわ!
私の身なりは今まともかしら、いつの間にか現象が強すぎて色々整っていないのに!
あわあわと心の中をばたつかせながら、縋るように手土産を持つ手に力を入れる。
「殿下、リリアンヌ様がお見えになりました」
そう護衛が言うか早いか、扉が勢いよく開いた。その勢いの良さに驚いていると、さらに驚くことに扉を開けたのはアルフォンス様だった。
「ああ、リリアンヌ、よく来たね。」
完璧イケメンが蕩けるような微笑みを見せたかと思うと、私の腕を優しく引っ張り、自身の腕の中に閉じ込めた。これは所謂抱擁ではないのでしょうか。
ある休日、王宮から帰ってきたテオバルトはお茶をしに私の部屋へやってきた。
席に着くなり溜息混じりに何やら物騒なことを呟く
アルフォンス様が、限界...!?
「ど、どういうこと?執務が大変お忙しいの?そうよね、学業に剣術に執務までこなしているもの、それはそれは大変だわ。しかも最近はきっと恋にもお忙しいでしょうし、心労はたたるばかりよ。あぁ私に何かできることはないかしら」
アルフォンス様が限界だなんてただごとではない。
なにせあの完璧イケメンアルフォンス様だ。
最近は遠くからアルフォンス様を見るだけで、特に変わった様子はないと思っていたけどそうでは無かったみたいだ。
いったいどうしたらよいのか。
あわつく私に、テオバルトは真剣な顔で見つめてくる。
「姉さん、姉さんにできることならあります。殿下は毎夜、昔飲んだ姉さん特製のレモネードを飲みたいとうなされているらしいです。」
「ええ?れ、レモネード?あれは私が作ったのではなくて使用人が作ったものを殿下に差し入れしただけよ」
「姉さんが昔差し入れした姉さん手製のクッキーも食べたいとうなされていました」
「いや私クッキーも作ったことないわ、しかもあれはちょうど貰ったものを横流ししただけ...」
「姉さんが誕生日に作ってくれたケーキも食べたいと言っていました」
「いや作ったことないわよ、アルフォンス様の誕生日にケーキを用意したこともないわ!」
生まれてこのかたキッチンに入ったことがない。その事実を知っているだろう弟は淡々と私の手製を繰り返す。
え?私違う世界線にワープか何かしたのかしら?知らないわ、知らない世界の話をされているわ!
「まあ姉さんの手製は嘘ですが。色々と限界な殿下は甘いものを差し入れてほしいそうですよ。」
コホン、と咳を一つした後、テオバルトは真剣な顔でそう言った。
いや最初からそう言えば言いと思うのだけど。
「姉さんは甘いものがお好きな上に詳しいでしょう。殿下に差し入れをしてあげて下さい。」
テオバルトのその言葉に私は頷く。
確かに私は甘いものが好きだ。大抵のものは適当に生きている私だけれど、甘いものに関しては流行を先取りするほどに熱意がある。
「わかったわ、いくつか選定するから従者にお使いをお願いして届けてもらいましょう。」
「いえ、届けるのは姉さんです。これは絶対です。なにせ殿下は限界を迎えて好きでもない甘いものを欲しているんですから」
「ええ?テオ、私が今アルフォンス様断ちをしているの知っているでしょう。ダメよ、会ってしまったら恋心が暴走して止まらなくなってイクリットをいじめてウチは没落するわ」
「ええ、その殿下断ちのせいでアルフォンス殿下が限界を迎えて暴走しかけているのでとりあえず差し入れしてきて下さい。イクリットさんの家が没落しそうですよ...まぁ別にそこはどうでもいいですけど」
その言葉の後にテオバルトはメイドに目配せをすると、私はなぜかメイド達に出かける準備を施され、あれよあれよと馬車に乗り、あれよあれよと王城に着いていた。
あれ?差し入れは?
そう疑問に思っていたらいつの間にか手に手土産を持っていた。
あれ?選定してなくない?
私何もしてなくない?
あれ?
そう頭にハテナを散りばめていたらいつの間にかアルフォンス様の部屋の前に立っていた。
なにこれ怖い。
怯えているとアルフォンス様付きの護衛が戸を叩く。
ちょっと待って、久しぶりのアルフォンス様なのに心の準備がまだだわ!
私の身なりは今まともかしら、いつの間にか現象が強すぎて色々整っていないのに!
あわあわと心の中をばたつかせながら、縋るように手土産を持つ手に力を入れる。
「殿下、リリアンヌ様がお見えになりました」
そう護衛が言うか早いか、扉が勢いよく開いた。その勢いの良さに驚いていると、さらに驚くことに扉を開けたのはアルフォンス様だった。
「ああ、リリアンヌ、よく来たね。」
完璧イケメンが蕩けるような微笑みを見せたかと思うと、私の腕を優しく引っ張り、自身の腕の中に閉じ込めた。これは所謂抱擁ではないのでしょうか。
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