42歳のしがない教師が戦隊ものの悪役に転生したら、年下イケメンヒーローのレッドから溺愛されてしまいました。

緋芭(あげは)まりあ

文字の大きさ
上 下
17 / 20

転生前、教師としての竜崎紫央⑤

しおりを挟む
 案の定、姫川の苛立ちが気配から伝わってくる。

 ──紅虎先生ぇ! まったく何も知らずにここへ来たわけじゃないだろうが! 姫川は今、いちばん刺激したらダメなヤツだろう!

 心の中で必死に訴えるが、当然伝わるわけはなく。

「やっぱり肩、痛かったんじゃないんですか?」
 紅虎は撫でる手を止めて、気づかわしげに紫央の肩を抱いた。

 ──はあ!? 

 咄嗟に紫央は紅虎を睨めつけた。
 しかし、瓶底眼鏡越しだったせいで、その視線の意味を誤解されたらしい。
 二人だけしか聴こえないように声を潜めたのはいいが、嬉々として話しかけてくる。

「竜崎先生、そんなに熱く見つめられたら俺、困っちゃいますよ」
 語尾にハートマークでもついてしまいそうなほど、甘美な声で囁かれる。
 背筋にぞくぞくと戦慄が走った。


 ──なんだとぉ!? 少しだけ顔がいいからって、誰もがお前のことを好きだなんて勘違いも甚だしいだろう?


 不機嫌さを隠すことなく、紫央は思い切り眉間に皺を寄せた。
 そして、肩へ回された手を情け容赦なく振り払う。


 ──姫川よ。これで俺たちが無関係だってこと、十分わかったんじゃないか?


 瞬間、目の前の紅虎はひどく悲しそうな顔をしたが、そんなことはどうでもいい。
 それよりも姫川を助けるほうが先決だ。
 妙な達成感を得て、紫央は姫川のほうを振り向く。
 が、そこにあったのは般若の形相をした姫川だった。

「っ!?」
 見なかったふりをして、紫央は紅虎のほうへ向き直る。

「竜崎先生ってやっぱり恥ずかしがり屋なんですね。古き良き、日本男児って感じなんですね」
 うっとりとした紅虎が、「でも俺、そんな先生が好きなんです」なんて抜かしながら、厚かましくも再び紫央の手を握ってきた。
 唖然とした紫央は、傍からみたら完全に二人の世界に浸ったカップルにしか見えないだろう。


 ──な、なんだこの状況は……火に油じゃないか。


 どう転んだとしても、紫央がこの先平穏に職場で働き続けられる道はなさそうだ。
 眩暈がしてくる。

 だいたい紅虎とは、紫央は同じ学年の担任を受け持つ同僚として以外、深い関りはなかったはずだ。
 先ほどから強引に紫央へと押しつけてくる妙な感情は、いったいどこで、どう拗らせてしまった結果なのだろうか。

「……紅虎先生、とりあえず私の話を聞いてもらえませんか?」
 とりあえず姫川の救出が先決だとわかっている。
 しかしそれよりも先に姫川の前で、二人の関係を紅虎の口から否定しておく必要があると感じていた。
 一刻も早く。

「なんですか」
 過剰とも捉えるほど、紅虎は嬉しそうに微笑んだ。
 あからさまな好意に、紫央は本気で眩暈を感じる。
 軽くこめかみに手を当て、周囲に気づかれないよう俯きながらこっそりと嘆息した。

「ご存じかとは思いますが、今、私は姫川の勘違いにより紅虎先生に迫ったことになっているんです」
「……勘違い?」
 紅虎の眉が怪訝そうにぴくりと寄せられる。

「はい」
 躊躇いなく返事した紫央に、どこか紅虎は淋しそうな表情を浮かべた。

 ──いや、普通そこは安堵したような顔をするだろう?

 そう思ったが、姫川の様子が気になるので言葉を続ける。

「すみません。そういうわけで一刻を争う危険な状態なので、とりあえず事実無根ということを、直接紅虎先生から話してもらえないでしょうか?」
 姫川の様子をこまめに横目で観察しながら、紫央は紅虎へ頼みこむ。

「ちょっと言っている意味がわからないんですが、どうして竜崎先生が俺に迫ったことになっていると、問題になるんですか?」
「だって、それは……」
 言いかけたところで紫央は、姫川の想いが本人や大勢の大人たちの前で露呈してしまうことを危惧し、口を噤んでしまう。

「だいたい事実無根、ってなんですか? あ、そっか。俺から迫っているから、たしかに事実とは違いますよね」
 たしかにそうでした、なんて薄ら笑いを浮かべると、紫央を置いて姫川のいる場所へと歩き出す。

「教育者として、姫川には真実を指導しないといけませんね」
 突然振り返るとニヤリとした笑みを口許に浮かべ、聖職者のような至極まっとうな言葉を当たり前に告げた。
 嫌な予感がする。
 小走りで紫央は自分よりも少しだけ逞しいその背中を追いかけ、腕を引いた。

 だが、紅虎の口は間に合わなかったようだ。

「姫川くん。竜崎先生が俺に迫っているって言ったんだって?」
 まるで挑発するような、直接的すぎるもの言いに紫央の全身はたちまち凍りつく。
 フェンス越しに大きく目を見開き、姫川はこの世の終わりのような顔をした。

「それは誰情報? 誰かキミに入れ知恵したのかな? それともどこかでなにかを聞いたのかい?」
 浅慮ない紅虎は言葉のジャブを打つ。
 案の定、フェンスを握る姫川の手が震えている。

 ──紅虎先生! どう考えても、挑発したらダメな場面だろう!


 心の中で紫央は絶叫どころか、激しく怒鳴りつけてやる。
 そして、気づけば紫央自身の身体はフェンスを跨いでいた。





 




 






しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

青少年病棟

BL
性に関する診察・治療を行う病院。 小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。 ※性的描写あり。 ※患者・医師ともに全員男性です。 ※主人公の患者は中学一年生設定。 ※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。

【完結】冷酷無慈悲なラスボス王子はモブの従者を逃がさないっ

北川晶
BL
冷徹王子に殺されるモブ従者の子供時代に転生したので、死亡回避に奔走するけど、なんでか婚約者になって執着溺愛王子から逃げられない話。 ノワールは四歳のときに乙女ゲーム『花びらを恋の数だけ抱きしめて』の世界に転生したと気づいた。自分の役どころは冷酷無慈悲なラスボス王子ネロディアスの従者。従者になってしまうと十八歳でラスボス王子に殺される運命だ。 四歳である今はまだ従者ではない。 死亡回避のためネロディアスにみつからぬようにしていたが、なぜかうまくいかないし、その上婚約することにもなってしまった?? 十八歳で死にたくないので、婚約も従者もごめんです。だけど家の事情で断れない。 こうなったら婚約も従者契約も撤回するよう王子を説得しよう! そう思ったノワールはなんとか策を練るのだが、ネロディアスは撤回どころかもっと執着してきてーー!? クールで理論派、ラスボスからなんとか逃げたいモブ従者のノワールと、そんな従者を絶対逃がさない冷酷無慈悲?なラスボス王子ネロディアスの恋愛頭脳戦。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

宰相閣下の絢爛たる日常

猫宮乾
BL
 クロックストーン王国の若き宰相フェルは、眉目秀麗で卓越した頭脳を持っている――と評判だったが、それは全て努力の結果だった! 完璧主義である僕は、魔術の腕も超一流。ということでそれなりに平穏だったはずが、王道勇者が召喚されたことで、大変な事態に……というファンタジーで、宰相総受け方向です。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

処理中です...