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どうして俺は敵に転生してしまったんだろうと思うくらいには、素敵だった。
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一週間ぶりのスターレンジャーとの闘いを控えた土曜の夜。
紫央はラボの最上階にある自室兼、研究室で、明朝の対策を独り遅くまで練っていた。
というのは口実で、実際には壁面一帯にプロジェクターで映し出されたスターレンジャーたちのアイドルパフォーマンスを、何度も繰り返し眺めていた。
「尊いってこういうことなのか……」
コンサートツアー最後の日のアンコールを見終わり、特典映像までじっくり見てしまった紫央は、感嘆のため息ばかりが出る。
スクリーンには赤、青、黄、緑、桃色と五色のメンバーカラーのサイリウムライトが、満点の星空のようにちかちかと会場いっぱいに瞬き、ファンたちが五人の曲を大合唱している映像が流れている。
「すごいな」
覚えたばかりのサビを無意識に紫央は口ずさんでいた。
「ブルーの『AOSHI』さんもイエローの『TOUYA』さんもグリーンの『RIGEL』さんもピンクの『ORUHA』さんも、それからレッドの……」
レッドの名前は「大星」ということを知った。
名は体を表すというが、レッドはまさにアイドルグループのセンターへ立つに相応しい、夜空に輝く一等星のようなスター性がある。
「グループ名だってスターがつくのに、さらに名前にまで星がついてるって、大星さんはどれだけアイドルとして恵まれた存在なんだよ」
間違いなく他の四人のメンバーも煌びやかなアイドルなのだが、それ以上に圧倒的な王子様感が全身から滲み出ているのだ。
白金に近い髪色やアッシュグレイなど目立つ髪色のメンバーがいる中で、全体的に少し長めの前髪にダークブラウンという特段目立ったヘアスタイルでもないのに、なぜか強く惹かれるものがあった。
背が一番高いから?
顔立ちが甘いマスクだから?
歌が五人の中で一番上手いから?
それとも、紫央を……助けてくれたから?
考えても考えても何かしら出てくる理由に、悔しいけれど紫央はたった一度の接触で、完全にスターレンジャーの、レッドの虜になっていたことを認めざるを得ない。
どうして敵なんかに転生してしまったんだろう。そうひどく悔やむ。
「要領の悪さは転生先にも出てしまったってことか」
明日にはコンサートで振るサイリウムがラボへ届くというメールをパソコンで受け取り、部屋の片隅にあるゲーミングチェアで両膝を抱えながら盛大なため息を洩らす。
「どこの世界線で、敵のサイリウムを買ってコンサートに出向く展開があるのかよ」
大きく項垂れた紫央は立てていた両膝に、不貞腐れながら右頬を預ける。
スターレンジャーは番組制作発表の段階で、実際にアイドルとしての活動も並行していくことを発表していた。
毎週日曜日の番組以外にも放映中の一年は、全国各地、海外など視野広く精力的にコンサートツアーを行っていくのだそうだ。
闘いのない平日や土曜日は、大概アイドルの仕事をしているらしい。
「推しは推せるときに推しとけって、姉さんが言ってたけど、本当だよな。三ヵ月もしない内に俺はこの世界から消滅するわけだし、今の内に浴びるようにスターレンジャーの活躍を目に留めておかないと」
悪のマッドサイエンティストとしてヒーローを倒すための研究に没頭し、多忙を極めていた「Dr.リュウ」は、こんなにもスターレンジャーの五人が全方位キラキラと絶え間なく輝いていたことを知っていたのだろうか。
「クィーンがスターブルーに惚れるのもわかるな」
クール系担当のブルーは黒髪の塩顔で、センターに立つレッドより若干背は低いが、次点で目を惹くいい男だ。
ライティングデスクの上にあるデスクトップパソコンでは、五人のプロフィールを開いていた。
その中でも紫央は、何度も画面越しにレッドと視線を合わせてしまう。
「でも、これはあくまで推しとしての気持ちだし」
あの後カフェラウンジでクィーンに、自分たちの待ち受ける未来について説明しようとしたが、エステの予約あるからとすげなくされ、結局話せずじまいとなっていた。
クィーンはスターブルーに好意を抱いていたが、いずれ自身がその手に葬られるとわかったら、いったいどうするのだろうか。
紫央はどことなくもやもやとしながら、気づけば数時間後には日曜日を迎えていた。
数時間後の作戦はなにひとつ考えないままに。
紫央はラボの最上階にある自室兼、研究室で、明朝の対策を独り遅くまで練っていた。
というのは口実で、実際には壁面一帯にプロジェクターで映し出されたスターレンジャーたちのアイドルパフォーマンスを、何度も繰り返し眺めていた。
「尊いってこういうことなのか……」
コンサートツアー最後の日のアンコールを見終わり、特典映像までじっくり見てしまった紫央は、感嘆のため息ばかりが出る。
スクリーンには赤、青、黄、緑、桃色と五色のメンバーカラーのサイリウムライトが、満点の星空のようにちかちかと会場いっぱいに瞬き、ファンたちが五人の曲を大合唱している映像が流れている。
「すごいな」
覚えたばかりのサビを無意識に紫央は口ずさんでいた。
「ブルーの『AOSHI』さんもイエローの『TOUYA』さんもグリーンの『RIGEL』さんもピンクの『ORUHA』さんも、それからレッドの……」
レッドの名前は「大星」ということを知った。
名は体を表すというが、レッドはまさにアイドルグループのセンターへ立つに相応しい、夜空に輝く一等星のようなスター性がある。
「グループ名だってスターがつくのに、さらに名前にまで星がついてるって、大星さんはどれだけアイドルとして恵まれた存在なんだよ」
間違いなく他の四人のメンバーも煌びやかなアイドルなのだが、それ以上に圧倒的な王子様感が全身から滲み出ているのだ。
白金に近い髪色やアッシュグレイなど目立つ髪色のメンバーがいる中で、全体的に少し長めの前髪にダークブラウンという特段目立ったヘアスタイルでもないのに、なぜか強く惹かれるものがあった。
背が一番高いから?
顔立ちが甘いマスクだから?
歌が五人の中で一番上手いから?
それとも、紫央を……助けてくれたから?
考えても考えても何かしら出てくる理由に、悔しいけれど紫央はたった一度の接触で、完全にスターレンジャーの、レッドの虜になっていたことを認めざるを得ない。
どうして敵なんかに転生してしまったんだろう。そうひどく悔やむ。
「要領の悪さは転生先にも出てしまったってことか」
明日にはコンサートで振るサイリウムがラボへ届くというメールをパソコンで受け取り、部屋の片隅にあるゲーミングチェアで両膝を抱えながら盛大なため息を洩らす。
「どこの世界線で、敵のサイリウムを買ってコンサートに出向く展開があるのかよ」
大きく項垂れた紫央は立てていた両膝に、不貞腐れながら右頬を預ける。
スターレンジャーは番組制作発表の段階で、実際にアイドルとしての活動も並行していくことを発表していた。
毎週日曜日の番組以外にも放映中の一年は、全国各地、海外など視野広く精力的にコンサートツアーを行っていくのだそうだ。
闘いのない平日や土曜日は、大概アイドルの仕事をしているらしい。
「推しは推せるときに推しとけって、姉さんが言ってたけど、本当だよな。三ヵ月もしない内に俺はこの世界から消滅するわけだし、今の内に浴びるようにスターレンジャーの活躍を目に留めておかないと」
悪のマッドサイエンティストとしてヒーローを倒すための研究に没頭し、多忙を極めていた「Dr.リュウ」は、こんなにもスターレンジャーの五人が全方位キラキラと絶え間なく輝いていたことを知っていたのだろうか。
「クィーンがスターブルーに惚れるのもわかるな」
クール系担当のブルーは黒髪の塩顔で、センターに立つレッドより若干背は低いが、次点で目を惹くいい男だ。
ライティングデスクの上にあるデスクトップパソコンでは、五人のプロフィールを開いていた。
その中でも紫央は、何度も画面越しにレッドと視線を合わせてしまう。
「でも、これはあくまで推しとしての気持ちだし」
あの後カフェラウンジでクィーンに、自分たちの待ち受ける未来について説明しようとしたが、エステの予約あるからとすげなくされ、結局話せずじまいとなっていた。
クィーンはスターブルーに好意を抱いていたが、いずれ自身がその手に葬られるとわかったら、いったいどうするのだろうか。
紫央はどことなくもやもやとしながら、気づけば数時間後には日曜日を迎えていた。
数時間後の作戦はなにひとつ考えないままに。
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