42歳のしがない教師が戦隊ものの悪役に転生したら、年下イケメンヒーローのレッドから溺愛されてしまいました。

助けてくれたのは、まさか──最大のライバル？！

「どう、して？」
「いつもお前が、俺を倒すのは自分しかいないと宣言してるからだろ。俺が倒す前に、別の原因で死なれたら困る」
　真剣なまなざしを見せる男は目鼻立ちがくっきりと整っていた。
　至近距離では目の毒になりそうなほど、キラキラと存在自体が発光していて、同じ男だというのに見惚れてしまいそうだった。

　どこかで見覚えのある顔だったが、教え子も含め、今どきの若い子たちは、どの時代でも流行りのアイドルなどに容姿を似せる傾向がある。
   既視感を覚えるのは、歳を取った証拠だと高校生の甥っ子にもバカにされたばかりだ。
　そこでふと、もうひとつ重要なことを思い出した。

　そうだ。
   この世界は高校生の甥っ子と、にわかではない腐女子の姉が毎週日曜の朝に熱を上げていた戦隊シリーズの物語と、まるで世界が酷似しているのだ。
   いや、酷似ではなく、まさにそのものである。
　この男の顔は、昼はアイドル。夜は、地球侵略を阻止するために結成された「アイドル戦隊スターレンジャー」の「スターレッド」なのだ。
　先週放送分も、アイドルとして活躍する五人のレンジャーたちが、物語の後半になると都心のオフィス街で敵と闘いはじめていた。
　そうでないと、この既視感は説明できない。
　でも、どうしてこの世界に転生してしまったのだろう。
　いや、まだ確実に転生したという確信できる証拠は、どこにもないのだが。

 　目の前に拡がる光景は、見馴れているものだった。が、明らかにどこか異質さを持って殺伐としている。
　少なくとも、今までの世界は紫央がどれだけぼんやりしていても、命の危険に晒されることはなかったはずだ。


　ではやっぱり、紫央はこの世界になんらかの人物として転生してしまったのだろうか──。
　

　途端、生徒を助けるために屋上のフェンスを越えてからずっと、極限まで張り詰めていた緊張が解けていく。
　

「おい、大丈夫か？　死なないでくれ！」
　低い美声が紫央の生死をひどく懸念する。
　信じられない。
　生徒を庇い五階から足を滑らせたときだって、誰もそんなふうに紫央へ声をかけてくれるものはいなかったのに。

　この世界の紫央は、愛されたキャラクターなのだろうか。
　うらやましい。
　そう思った瞬間、安堵した紫央の意識がふっと遠のく。
　自分がこの物語の何者に転生し、どうしてこの世界へ生まれ変わったのかその理由を知らないままに。