3 / 20
『Dr.リュウ』の素晴らしき美貌の相方、現る。
しおりを挟む
「な、なんだお前は!?」
気が動転した紫央は情けない声とともに、とうとうその場へと座りこんでしまう。
「なんだお前は、ってひどくない? もう随分と長いこと、ボクだけが天才マッドサイエンティストである『Dr.リュウ』の素晴らしき助手だというのに」
口を尖らせ不満を浮かべた「助手」と名乗るその男は、警戒する五人の男たちに向け、なんの躊躇いもなく唐突に、小型の球体を連続して投げこんだ。
こちらは口上などなく、本当に突然、遠方にボールでも投げ込むように、だ。
途端、空に閃光のような稲光が走る。
時間差で爆発音が聴こえ、激しい衝撃と共に地割れが起きた。
座位の姿勢を取っていた紫央の地面も下から突き上げられるように激しくぐらぐらと揺れ、その場に座っていられなくなる。
手榴弾でも投げ込んだのだろうか。それにしては衝撃が大きすぎる。
生憎、紫央は腰が抜けたせいで立ちあがりたくても、その場へ立ち上がることができない。
どがっ、ぼこっという破裂音と共に、そう遠くはない距離の地面が陥没したことを察する。さらにそこから大量の地下水が弧を描きながら飛沫を吹き出す音がして、夢にしては妙にリアルすぎる感覚に独り脅えてしまう。
まずい。
たとえこれが夢だとしても、全身で受けるものがリアルすぎて逃げ出したくなる。
いや、本能が今すぐ逃げろと警告している。
その時だった。今にも耳の鼓膜が破れそうなほどの最大量の衝撃音が紫央の臀部の奥深くから轟く。紫央の耳はぼうっと水の溜まった時のように違和を感じ、目の前がチカチカと光った。
ああ、もうダメだ。
逃げないと、と頭では分かっているのに、まるで身体が重石のようになって動かない。
留まることを知らぬ衝撃が、いま紫央の四十二年の人生が。無理やり幕を閉じようとしている。
死の間際、人は走馬灯を見るというが紫央の場合はリアルすぎる悪夢で終わっていくようだ。
「危ない! 今すぐ離れろ!」
必死に叫ぶ低い声が紫央の耳に届いた。
わかってる、と即座に言い返したつもりだが、恐怖で震えて声にならない。
どうして神様は死の間際に、とんだ試練を紫央へ与えたのだろうか。今まで、同僚教師や生徒たちから昼行燈という不名誉なあだ名をつけられるくらい人生を無気力で生きてきた罰なのだろうか。
いや、でもそういえばここへ来る前に紫央が学校の屋上にいたのは……。
たちまち紫央の脳裏に、この場へくる直前の映像が走馬灯のように流れる。
普段立ち入り禁止となっている屋上へ紫央がわざわざ出向いた経緯。
そして出向いてからの出来事。
ショートフィルムのトーキーのようにあっとういう間に再生されていく。
高く聳える屋上のフェンス。
震えながらそれを乗り越え高所へ立つ、幼さの残るブレザーを着た少年。
そして自らもフェンスを跨ぎ、必死にその少年へと手を伸ばす紫央。
その紫央を助けにきた後輩の教師。
フェンスの向こう側に並ぶ野次馬や警察。
次の瞬間、五階の建物の淵からずるりと滑った少年の足。
助けようと全身を動かした時には、既に遅し。
紫央はバランスを大きく崩し、なにもない自由な空へ鳥のように飛びあがることはできず。
無念ではあるが、そのまま校舎から……地上へと旅立ってしまったのだ。
「……そうだ。俺、生徒を助けようとして屋上から落ちたんだった」
ということは、ここは死後の世界。もしくは、転生先の世界という認識でいいのだろうか。
信じられないが。
閃いた自己推理に感心していると、「おい」と怒気を孕んだような声と共に、大きな腕に攫われていった。
途端、僅かな背後で連続した爆破音と大きな縦揺れの地響きが起きる。
視線を轟音のほうへ向けると、先ほどまで紫央が座っていた場所に大きく亀裂が入っていた。
はっと紫央は息を呑む。
あのままあの場所にいたら……。
たちまち身の毛がよだつ思いがした。
「大丈夫か」
案じるような声をかけられ、気づけば紫央は、純白のナポレオンジャケットを着た男の腕の中だった。
しかもセンターに立っていた、センターから―の証、レッドを纏ういちばん目を惹く男。
気が動転した紫央は情けない声とともに、とうとうその場へと座りこんでしまう。
「なんだお前は、ってひどくない? もう随分と長いこと、ボクだけが天才マッドサイエンティストである『Dr.リュウ』の素晴らしき助手だというのに」
口を尖らせ不満を浮かべた「助手」と名乗るその男は、警戒する五人の男たちに向け、なんの躊躇いもなく唐突に、小型の球体を連続して投げこんだ。
こちらは口上などなく、本当に突然、遠方にボールでも投げ込むように、だ。
途端、空に閃光のような稲光が走る。
時間差で爆発音が聴こえ、激しい衝撃と共に地割れが起きた。
座位の姿勢を取っていた紫央の地面も下から突き上げられるように激しくぐらぐらと揺れ、その場に座っていられなくなる。
手榴弾でも投げ込んだのだろうか。それにしては衝撃が大きすぎる。
生憎、紫央は腰が抜けたせいで立ちあがりたくても、その場へ立ち上がることができない。
どがっ、ぼこっという破裂音と共に、そう遠くはない距離の地面が陥没したことを察する。さらにそこから大量の地下水が弧を描きながら飛沫を吹き出す音がして、夢にしては妙にリアルすぎる感覚に独り脅えてしまう。
まずい。
たとえこれが夢だとしても、全身で受けるものがリアルすぎて逃げ出したくなる。
いや、本能が今すぐ逃げろと警告している。
その時だった。今にも耳の鼓膜が破れそうなほどの最大量の衝撃音が紫央の臀部の奥深くから轟く。紫央の耳はぼうっと水の溜まった時のように違和を感じ、目の前がチカチカと光った。
ああ、もうダメだ。
逃げないと、と頭では分かっているのに、まるで身体が重石のようになって動かない。
留まることを知らぬ衝撃が、いま紫央の四十二年の人生が。無理やり幕を閉じようとしている。
死の間際、人は走馬灯を見るというが紫央の場合はリアルすぎる悪夢で終わっていくようだ。
「危ない! 今すぐ離れろ!」
必死に叫ぶ低い声が紫央の耳に届いた。
わかってる、と即座に言い返したつもりだが、恐怖で震えて声にならない。
どうして神様は死の間際に、とんだ試練を紫央へ与えたのだろうか。今まで、同僚教師や生徒たちから昼行燈という不名誉なあだ名をつけられるくらい人生を無気力で生きてきた罰なのだろうか。
いや、でもそういえばここへ来る前に紫央が学校の屋上にいたのは……。
たちまち紫央の脳裏に、この場へくる直前の映像が走馬灯のように流れる。
普段立ち入り禁止となっている屋上へ紫央がわざわざ出向いた経緯。
そして出向いてからの出来事。
ショートフィルムのトーキーのようにあっとういう間に再生されていく。
高く聳える屋上のフェンス。
震えながらそれを乗り越え高所へ立つ、幼さの残るブレザーを着た少年。
そして自らもフェンスを跨ぎ、必死にその少年へと手を伸ばす紫央。
その紫央を助けにきた後輩の教師。
フェンスの向こう側に並ぶ野次馬や警察。
次の瞬間、五階の建物の淵からずるりと滑った少年の足。
助けようと全身を動かした時には、既に遅し。
紫央はバランスを大きく崩し、なにもない自由な空へ鳥のように飛びあがることはできず。
無念ではあるが、そのまま校舎から……地上へと旅立ってしまったのだ。
「……そうだ。俺、生徒を助けようとして屋上から落ちたんだった」
ということは、ここは死後の世界。もしくは、転生先の世界という認識でいいのだろうか。
信じられないが。
閃いた自己推理に感心していると、「おい」と怒気を孕んだような声と共に、大きな腕に攫われていった。
途端、僅かな背後で連続した爆破音と大きな縦揺れの地響きが起きる。
視線を轟音のほうへ向けると、先ほどまで紫央が座っていた場所に大きく亀裂が入っていた。
はっと紫央は息を呑む。
あのままあの場所にいたら……。
たちまち身の毛がよだつ思いがした。
「大丈夫か」
案じるような声をかけられ、気づけば紫央は、純白のナポレオンジャケットを着た男の腕の中だった。
しかもセンターに立っていた、センターから―の証、レッドを纏ういちばん目を惹く男。
10
お気に入りに追加
121
あなたにおすすめの小説
異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)
藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!?
手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
【完結】囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。
竜鳴躍
BL
サンベリルは、オレンジ色のふわふわした髪に菫色の瞳が可愛らしいバスティン王国の双子の王子の弟。
溺愛する父王と理知的で美しい母(男)の間に生まれた。兄のプリンシパルが強く逞しいのに比べ、サンベリルは母以上に小柄な上に童顔で、いつまでも年齢より下の扱いを受けるのが不満だった。
みんなに溺愛される王子は、周辺諸国から妃にと望まれるが、遠くから王子を狙っていた背むしの男にある日攫われてしまい――――。
囚われた先で出会った騎士を介抱して、ともに脱出するサンベリル。
サンベリルは優しい家族の下に帰れるのか。
真実に愛する人と結ばれることが出来るのか。
☆ちょっと短くなりそうだったので短編に変更しました。→長編に再修正
⭐残酷表現あります。
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
王子様のご帰還です
小都
BL
目が覚めたらそこは、知らない国だった。
平凡に日々を過ごし無事高校3年間を終えた翌日、何もかもが違う場所で目が覚めた。
そして言われる。「おかえりなさい、王子」と・・・。
何も知らない僕に皆が強引に王子と言い、迎えに来た強引な婚約者は・・・男!?
異世界転移 王子×王子・・・?
こちらは個人サイトからの再録になります。
十年以上前の作品をそのまま移してますので変だったらすみません。
きっと、君は知らない
mahiro
BL
前世、というのだろうか。
俺は前、日本という国で暮らしていて、あの日は中学時代にお世話になった先輩の結婚式に参列していた。
大人になった先輩と綺麗な女性の幸せそうな姿に胸を痛めながら見つめていると二人の間に産まれたという女の子がひとりで車道に向かい歩いている姿が目に入った。
皆が主役の二人に夢中で子供の存在に気付いておらず、俺は慌ててその子供のもとへと向かった。
あと少しで追い付くというタイミングで大型の車がこちらに向かってくるのが見え、慌ててその子供の手を掴み、彼らのいる方へと突き飛ばした。
次の瞬間、俺は驚く先輩の目と合ったような気がするが、俺の意識はそこで途絶えてしまった。
次に目が覚めたのは見知らぬ世界で、聞いたことのない言葉が行き交っていた。
それから暫く様子を見ていたが、どうやら俺は異世界に転生したらしく………?
転生者は隠しボス
アロカルネ
BL
魔法と科学が同時に発展した世界があった。
発展し続ける対極のものに、二つの勢力が生まれたのは必定だったのかもしれない。
やがて、発展した魔法こそが覇権を握るべきと謳う者たちの中から魔王が産まれ
科学こそが覇権を握るべきだという人間たちの間で勇者が産まれ
二つの強大な存在は覇権を握り合うために争いを繰り広げていく。
そして、それはこんな世界とはある意味で全く無関係に
のほほんと生きてきた引き籠もり全開の隠しボスであり、メタい思考な無口な少年の話
注意NLもあるよ。基本はBLだけど
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる