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『Dr.リュウ』の素晴らしき美貌の相方、現る。

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「な、なんだお前は!?」
 気が動転した紫央は情けない声とともに、とうとうその場へと座りこんでしまう。

「なんだお前は、ってひどくない? もう随分と長いこと、ボクだけが天才マッドサイエンティストである『Dr.リュウ』の素晴らしき助手だというのに」
 口を尖らせ不満を浮かべた「助手」と名乗るその男は、警戒する五人の男たちに向け、なんの躊躇いもなく唐突に、小型の球体を連続して投げこんだ。

 こちらは口上などなく、本当に突然、遠方にボールでも投げ込むように、だ。

 途端、空に閃光のような稲光が走る。
 時間差で爆発音が聴こえ、激しい衝撃と共に地割れが起きた。
 座位の姿勢を取っていた紫央の地面も下から突き上げられるように激しくぐらぐらと揺れ、その場に座っていられなくなる。
 手榴弾でも投げ込んだのだろうか。それにしては衝撃が大きすぎる。
 生憎、紫央は腰が抜けたせいで立ちあがりたくても、その場へ立ち上がることができない。

 どがっ、ぼこっという破裂音と共に、そう遠くはない距離の地面が陥没したことを察する。さらにそこから大量の地下水が弧を描きながら飛沫を吹き出す音がして、夢にしては妙にリアルすぎる感覚に独り脅えてしまう。

 まずい。
 たとえこれが夢だとしても、全身で受けるものがリアルすぎて逃げ出したくなる。
 いや、本能が今すぐ逃げろと警告している。

 その時だった。今にも耳の鼓膜が破れそうなほどの最大量の衝撃音が紫央の臀部の奥深くから轟く。紫央の耳はぼうっと水の溜まった時のように違和を感じ、目の前がチカチカと光った。

 ああ、もうダメだ。

 逃げないと、と頭では分かっているのに、まるで身体が重石のようになって動かない。
 留まることを知らぬ衝撃が、いま紫央の四十二年の人生が。無理やり幕を閉じようとしている。
 死の間際、人は走馬灯を見るというが紫央の場合はリアルすぎる悪夢で終わっていくようだ。

「危ない! 今すぐ離れろ!」
 必死に叫ぶ低い声が紫央の耳に届いた。

 わかってる、と即座に言い返したつもりだが、恐怖で震えて声にならない。

 どうして神様は死の間際に、とんだ試練を紫央へ与えたのだろうか。今まで、同僚教師や生徒たちから昼行燈という不名誉なあだ名をつけられるくらい人生を無気力で生きてきた罰なのだろうか。
 
 いや、でもそういえばここへ来る前に紫央が学校の屋上にいたのは……。

 たちまち紫央の脳裏に、この場へくる直前の映像が走馬灯のように流れる。

   普段立ち入り禁止となっている屋上へ紫央がわざわざ出向いた経緯。
 そして出向いてからの出来事。
 ショートフィルムのトーキーのようにあっとういう間に再生されていく。

 高く聳える屋上のフェンス。
 震えながらそれを乗り越え高所へ立つ、幼さの残るブレザーを着た少年。
   そして自らもフェンスを跨ぎ、必死にその少年へと手を伸ばす紫央。
 その紫央を助けにきた後輩の教師。
 フェンスの向こう側に並ぶ野次馬や警察。
 次の瞬間、五階の建物の淵からずるりと滑った少年の足。
 助けようと全身を動かした時には、既に遅し。
 紫央はバランスを大きく崩し、なにもない自由な空へ鳥のように飛びあがることはできず。
 無念ではあるが、そのまま校舎から……地上へと旅立ってしまったのだ。

「……そうだ。俺、生徒を助けようとして屋上から落ちたんだった」
 ということは、ここは死後の世界。もしくは、転生先の世界という認識でいいのだろうか。
   信じられないが。
 閃いた自己推理に感心していると、「おい」と怒気を孕んだような声と共に、大きな腕に攫われていった。
 途端、僅かな背後で連続した爆破音と大きな縦揺れの地響きが起きる。
 視線を轟音のほうへ向けると、先ほどまで紫央が座っていた場所に大きく亀裂が入っていた。
 
 はっと紫央は息を呑む。
 あのままあの場所にいたら……。
 
 たちまち身の毛がよだつ思いがした。

「大丈夫か」
 案じるような声をかけられ、気づけば紫央は、純白のナポレオンジャケットを着た男の腕の中だった。
 しかもセンターに立っていた、センターから―の証、レッドを纏ういちばん目を惹く男。
 

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