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推しは遠くから見ていられるだけでもいいのだ。多分。
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「ボクのことをなにじろじろ見てるの? それ以上見たら、拝観料取るけど」
そんなつもりは毛頭ないのに、知らずの内にクィーンのことを食い入るように見つめていたようだ。
「視界へ入る距離にいるのに、わざわざ金取るのか?」
勝手に前の席へ座ったのはクィーンなのに、とは睨む顔が怖くて、モブ以下の紫央は言い返せない。
「当たり前でしょ。毎週日曜日、スターブルー様に逢うためだけにこのボディをエステとジムでメンテナンスして、たっぷりお金かけてるんだから」
前世でシングルマザーだった紫央の二つ上の姉が、よくデート前に呟いていたセリフをクィーンも口にする。
さすがにクィーンの中へ姉が転生している、なんてことは考えらえないが。
けれど、我が法律と言わんばかりの腐女子の姉の性格を考えると、一抹の不安がよぎった。
同時期に、姉の推せる作品がほかにもあったような気もして、そちらの可能性を祈る。
「……た、大変だな」
若干、姉が転生した可能性に脅えながら相槌を打つ。
「好きな人の前では、少しでもかわいくいたいから苦でもなんでもないよ」
そんな紫央の様子に気づくことなく、クィーンは目に星をたくさん浮かべながらどこかを見つめている。
完全に恋するものの、それだ。
「だって、好きなんだもん」
クィーンはそう言うと、サンドイッチを頬張る紫央に極限まで顔を近づけてきた。
「敵同士なのに闘いの最中に、転んで怪我して動けなかったボクをスターブルー様は助けてくれたんだよ! 敵なのに信じられないでしょ!」
当時を思い出したのだろうか。きゃあ、と叫ぶ白皙の美貌がみるみる内にトマトのように真っ赤に染まっていく。
「さらに、闘いの途中なのにボクを安全な場所まで非難させてくれたんだよぉ。紳士的すぎるし、これはブルーしか勝たんでしょ!」
ヒートアップしていくクィーンに、紫央は嫌な既視感を覚える。
やっぱり紫央の姉も、同じタイミングで転生しているのだろうか。
気の強い姉の顔を思い浮かべるだけでも、ぞっとするので、そこで思考を強制終了する。
「リュウは俺のことバカにしてるでしょ?」
「バカになんてしてない。クィーンはスターブルー推しなんだな。でも敵同士だと、結ばれることはできないだろう?」
自分から口にしておいて、紫央の脳裏にはまたしてもレッドの顔が脳裏にちらつき、少し胸の奥のほうがきゅっとなった。
別に紫央は、レッドのことなんてどうも思っていないのに。
おかしい。
きっとクィーンがブルーに助けられた、なんて過去を話したせいだ。
「結ばれたら嬉しいけど、ボクだって立場をわきまえてるから、眺められるだけでもいいの」
「完全に恋する乙女だな」
食べかけのサンドイッチを皿に置くと、今にも嘆息が洩れそうな口に、ぐっと紫央は冷めたコーヒーを流し込んでいく。
きゅっとなった胸の奥のほうの気持ちも、一緒に。
そうして紫央たち悪役側の命のリミットをクィーンに説明するには、もしかしなくても今この瞬間が絶好のタイミングではないかと思った。
純粋に恋心を抱いているだろうクィーンの気持ちを利用するようで忍びないが、背に腹は代えられない。
とりあえず生き延びなければ、はじまる恋だってはじまらないかもしれないのだ。
なんて、四十二年の人生なにもラブハプニングが起こらなかった紫央が言っても説得力はないけれど。
とにかくクィーンのような若者の未来を断ってしまうのは、教職者としての観点からも許しがたいことだった。
そんなつもりは毛頭ないのに、知らずの内にクィーンのことを食い入るように見つめていたようだ。
「視界へ入る距離にいるのに、わざわざ金取るのか?」
勝手に前の席へ座ったのはクィーンなのに、とは睨む顔が怖くて、モブ以下の紫央は言い返せない。
「当たり前でしょ。毎週日曜日、スターブルー様に逢うためだけにこのボディをエステとジムでメンテナンスして、たっぷりお金かけてるんだから」
前世でシングルマザーだった紫央の二つ上の姉が、よくデート前に呟いていたセリフをクィーンも口にする。
さすがにクィーンの中へ姉が転生している、なんてことは考えらえないが。
けれど、我が法律と言わんばかりの腐女子の姉の性格を考えると、一抹の不安がよぎった。
同時期に、姉の推せる作品がほかにもあったような気もして、そちらの可能性を祈る。
「……た、大変だな」
若干、姉が転生した可能性に脅えながら相槌を打つ。
「好きな人の前では、少しでもかわいくいたいから苦でもなんでもないよ」
そんな紫央の様子に気づくことなく、クィーンは目に星をたくさん浮かべながらどこかを見つめている。
完全に恋するものの、それだ。
「だって、好きなんだもん」
クィーンはそう言うと、サンドイッチを頬張る紫央に極限まで顔を近づけてきた。
「敵同士なのに闘いの最中に、転んで怪我して動けなかったボクをスターブルー様は助けてくれたんだよ! 敵なのに信じられないでしょ!」
当時を思い出したのだろうか。きゃあ、と叫ぶ白皙の美貌がみるみる内にトマトのように真っ赤に染まっていく。
「さらに、闘いの途中なのにボクを安全な場所まで非難させてくれたんだよぉ。紳士的すぎるし、これはブルーしか勝たんでしょ!」
ヒートアップしていくクィーンに、紫央は嫌な既視感を覚える。
やっぱり紫央の姉も、同じタイミングで転生しているのだろうか。
気の強い姉の顔を思い浮かべるだけでも、ぞっとするので、そこで思考を強制終了する。
「リュウは俺のことバカにしてるでしょ?」
「バカになんてしてない。クィーンはスターブルー推しなんだな。でも敵同士だと、結ばれることはできないだろう?」
自分から口にしておいて、紫央の脳裏にはまたしてもレッドの顔が脳裏にちらつき、少し胸の奥のほうがきゅっとなった。
別に紫央は、レッドのことなんてどうも思っていないのに。
おかしい。
きっとクィーンがブルーに助けられた、なんて過去を話したせいだ。
「結ばれたら嬉しいけど、ボクだって立場をわきまえてるから、眺められるだけでもいいの」
「完全に恋する乙女だな」
食べかけのサンドイッチを皿に置くと、今にも嘆息が洩れそうな口に、ぐっと紫央は冷めたコーヒーを流し込んでいく。
きゅっとなった胸の奥のほうの気持ちも、一緒に。
そうして紫央たち悪役側の命のリミットをクィーンに説明するには、もしかしなくても今この瞬間が絶好のタイミングではないかと思った。
純粋に恋心を抱いているだろうクィーンの気持ちを利用するようで忍びないが、背に腹は代えられない。
とりあえず生き延びなければ、はじまる恋だってはじまらないかもしれないのだ。
なんて、四十二年の人生なにもラブハプニングが起こらなかった紫央が言っても説得力はないけれど。
とにかくクィーンのような若者の未来を断ってしまうのは、教職者としての観点からも許しがたいことだった。
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