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助けてくれたのはお家芸なのだろうか。

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「どうしたの?」
 ごとっ、という瓶の底がテーブルに反響する音がして、紫央は視線を向けた。
 許可を待つことなく声の主は、図々しく紫央の相向かいに座る。

「……クィーン」
「なんだか最近調子がよくないみたいだけど、次の戦いの準備は大丈夫?」
 気遣わしげに声をかけてきたクィーンの今日の服装は、ボンテージだ。この数日、ラボの中でもこの姿でいるところをよく見かけるので、これが制服みたいなものなのかもしれない。
 闘いの日以外、正直どこでなにをしているのか詳細は不明だが。

「あ、ああ。まあ、そこそこに……」
 早速紫央は、痛いところを突かれてしまう。

「そっか。リュウは無敵だから、全力を出さなくてもレッドくらいすぐに倒せるもんね」
 なんてことないように言ってのけたクィーンは、そのまま「スピリタス」とラベルに記載された瓶の中身を平然と煽る。
 え、ウソだろ、と紫央はラベルを二度見した。

「おい。いま、ストレートで呑んだのか?」
 慌てて紫央はその場に立ちあがり、瓶を掴んだ。
 すると、紫央も呑みたいのだと勘違いいしたのだろう。
 呑みかけの瓶を唐突に紫央へ突き出してくる。


「なに言ってるの? いつものことでしょ。リュウだってよく好んで呑んでるじゃない」
 「いや、俺は普通の人だから……」
 言いかけて、外見はいま「Dr.リュウ」なのだと咄嗟に口を噤んだ。
 スピリタスは世界で一番度数の高い酒と言われている。
 度数の高さ故、前世では危険物扱いされる類の飲み物なので、ストレートで呑むなんてありえないのに。

 普通に見えて、やはりどこかこの世界はおかしいのかもしれない。

「めずらしいね。リュウが遠慮するなんて」
 輝くアーモンドアイが上目遣いで、じっくり紫央の顔を観察してきた。
 闘いの翌朝にも思ったが、クィーンの目力は紫央のなにもかもを見透かしていそうで少し怖い。
 

「そんなことはない、が……」
 なるべく不自然にならないようにクィーンから視線を外す。

 ここ最近の紫央調べだと、「Dr.リュウ」の「助手」と名乗るクィーンは、その実相棒で、時にトリックスターとなって物語をにぎやかす存在だという。
 先日のかんしゃく玉の件を思うと、たしかに同意しかない。

 また脇役のせいか、クィーンの公式情報はあまり出回っていなかった。
   けれど、スターレンジャーたちの熱狂的なファンだという女性のSNSには、なぜかクィーンの色恋沙汰事情が言及されていたのだ。
 
 なんでも、クィーンは敵であるスターブルーに助けられてから恋心を抱いているらしい。
 ありがちな恋のはじまりだ。
 スターレンジャーたちは、敵味方関係なく困った人を助けるのがお家芸なのだろうか。
 
 同時に紫央は、自身がレッドに助けられたのと同じ手口であることに気がつく。

 紫央は、レッドにときめいてなんていない。
 敵に助けられるなんて思ってもみなかったから、いわ、誰かに助けてもらったことが初めてで、ただびっくりしただけで……。
 

 レッドに助けられたときの眼差しと、腕の温かさをふいに紫央はじわじわと思い出していた。
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