9 / 20
転生した世界は、わりと暮らしやすい。
しおりを挟む
「この世界にもパソコンがあって助かったな」
とても日曜朝の光景とは思えない壮絶な闘いから六日。
ラボの二階にある大型カフェラウンジの窓際の席で、白衣を着た紫央はノートパソコンを広げながら小さく安堵していた。
幸いなことに紫央の転生先「アイドル戦隊スターレンジャー」の世界では、教師として生きていた時代と大きく変わりがないことを今しがた知ったのだ。
思えば、リアルタイムで放映していたものを目にしていたのだから、世俗が反映されているのも納得である。
当然、モバイルフォンやパソコンなどの通信機器も存在するので、情報を獲得する手段にはあまり不便さを感じない。
「大変お待たせいたしました」
上から落ちてきた声に、ふと紫央はパソコンをいじる手を止め、顔を上げる。
「Dr.リュウ様がオーダーされました、トマトとチキンのサンドイッチとブレンドコーヒーでございます」
執事服を着た若い男性店員が運んできたものをスマートに一礼した後、それぞれ音を立てずにそっとテーブルへ置いていく。
「恐れ入ります」
紫央もぺこりと会釈すると掌を合わせ、まずはホットコーヒーから口づけた。
コクとまろやかさとなめらかさの比率が、今日も絶妙の割合でブレンドされている。舌に残る苦味が味わい深い。
ここ数日で、紫央は心からコーヒーをおいしいと思うようになっていた。
もちろんそれはコーヒーだけではない。ともに頼んだサンドイッチだってそうだ。
紫央の知っているサンドイッチよりどこか上品で、ただ腹を満たすだけの食事ではなく、心から「おいしい」と感じられるほど手の込んだ作りになっているのだ。
ラボに住んでいるというだけで、三食無償で提供されている紫央だったが、いまのところ、どの食事もとりあえずというものがない。
いや、それは食事だけの話ではない。
掃除、洗濯、炊事、買い物に至るまで、生きるためにしなければならないことすべてを、先ほどの執事のような人物がどれも図ったように済ませてくれるのだ。
紫央がすることといえば、ただラボに籠ってスターレンジャーを倒すための新しい武器の開発や特殊能力などの研究に勤しむだけ。
大学卒業後、有機化学を専攻しそのまま研究室に残りたかった紫央としては、まさに夢のような環境だった。が、魔法に関しては門外漢なので、研究といってもいまのところさっぱりなのである。
転生二日目にクィーンが話していた、かんしゃく玉のストックやプロトタイプ、そして関係書類を「Dr.リュウ」の使用していた研究室から発見したが、さすがマッドサイエンティストの異名を持つだけあってその書類の解読は超絶難解のものだった。
魔法について造作がないので仕方ないのかもしれないが、訳もわからず分解して、ラボを爆破させてしまうほうが不安だ。
だからとりあえずまずは、パソコンの検索機能などを利用し「Dr.リュウ」という人物を知ることからはじめてみた。
さすがに瞬間移動や特殊能力などを操る方法は情報に上がっていなかったが、スターレンジャーたちの活躍の記事や動画から、「Dr.リュウ」の人となりがなんとなく見えてくる。
雑な言い方になるが、はっきり言って相当強い。
同時に、めちゃくちゃ悪者だ。
凶悪だ。
それはそうだ。
レッドにとって、スターレンジャーにとって、最後に倒すべき最大の敵。ラスボスとして「Dr.リュウ」は君臨しているのだから。
元の世界で生徒からも同僚の教師からも必要とされていなかった昼行燈の紫央とは、なにもかもが違うのだ。
とても日曜朝の光景とは思えない壮絶な闘いから六日。
ラボの二階にある大型カフェラウンジの窓際の席で、白衣を着た紫央はノートパソコンを広げながら小さく安堵していた。
幸いなことに紫央の転生先「アイドル戦隊スターレンジャー」の世界では、教師として生きていた時代と大きく変わりがないことを今しがた知ったのだ。
思えば、リアルタイムで放映していたものを目にしていたのだから、世俗が反映されているのも納得である。
当然、モバイルフォンやパソコンなどの通信機器も存在するので、情報を獲得する手段にはあまり不便さを感じない。
「大変お待たせいたしました」
上から落ちてきた声に、ふと紫央はパソコンをいじる手を止め、顔を上げる。
「Dr.リュウ様がオーダーされました、トマトとチキンのサンドイッチとブレンドコーヒーでございます」
執事服を着た若い男性店員が運んできたものをスマートに一礼した後、それぞれ音を立てずにそっとテーブルへ置いていく。
「恐れ入ります」
紫央もぺこりと会釈すると掌を合わせ、まずはホットコーヒーから口づけた。
コクとまろやかさとなめらかさの比率が、今日も絶妙の割合でブレンドされている。舌に残る苦味が味わい深い。
ここ数日で、紫央は心からコーヒーをおいしいと思うようになっていた。
もちろんそれはコーヒーだけではない。ともに頼んだサンドイッチだってそうだ。
紫央の知っているサンドイッチよりどこか上品で、ただ腹を満たすだけの食事ではなく、心から「おいしい」と感じられるほど手の込んだ作りになっているのだ。
ラボに住んでいるというだけで、三食無償で提供されている紫央だったが、いまのところ、どの食事もとりあえずというものがない。
いや、それは食事だけの話ではない。
掃除、洗濯、炊事、買い物に至るまで、生きるためにしなければならないことすべてを、先ほどの執事のような人物がどれも図ったように済ませてくれるのだ。
紫央がすることといえば、ただラボに籠ってスターレンジャーを倒すための新しい武器の開発や特殊能力などの研究に勤しむだけ。
大学卒業後、有機化学を専攻しそのまま研究室に残りたかった紫央としては、まさに夢のような環境だった。が、魔法に関しては門外漢なので、研究といってもいまのところさっぱりなのである。
転生二日目にクィーンが話していた、かんしゃく玉のストックやプロトタイプ、そして関係書類を「Dr.リュウ」の使用していた研究室から発見したが、さすがマッドサイエンティストの異名を持つだけあってその書類の解読は超絶難解のものだった。
魔法について造作がないので仕方ないのかもしれないが、訳もわからず分解して、ラボを爆破させてしまうほうが不安だ。
だからとりあえずまずは、パソコンの検索機能などを利用し「Dr.リュウ」という人物を知ることからはじめてみた。
さすがに瞬間移動や特殊能力などを操る方法は情報に上がっていなかったが、スターレンジャーたちの活躍の記事や動画から、「Dr.リュウ」の人となりがなんとなく見えてくる。
雑な言い方になるが、はっきり言って相当強い。
同時に、めちゃくちゃ悪者だ。
凶悪だ。
それはそうだ。
レッドにとって、スターレンジャーにとって、最後に倒すべき最大の敵。ラスボスとして「Dr.リュウ」は君臨しているのだから。
元の世界で生徒からも同僚の教師からも必要とされていなかった昼行燈の紫央とは、なにもかもが違うのだ。
10
お気に入りに追加
119
あなたにおすすめの小説

青少年病棟
暖
BL
性に関する診察・治療を行う病院。
小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。
※性的描写あり。
※患者・医師ともに全員男性です。
※主人公の患者は中学一年生設定。
※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

宰相閣下の絢爛たる日常
猫宮乾
BL
クロックストーン王国の若き宰相フェルは、眉目秀麗で卓越した頭脳を持っている――と評判だったが、それは全て努力の結果だった! 完璧主義である僕は、魔術の腕も超一流。ということでそれなりに平穏だったはずが、王道勇者が召喚されたことで、大変な事態に……というファンタジーで、宰相総受け方向です。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた
やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。
俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。
独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。
好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け
ムーンライトノベルズにも掲載しています。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる