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敵同士なのに、どうして俺を助けたの?
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「なんでもないはずがないよねえ」
背伸びした白皙の顔が、ぐんと疑り深く紫央へと迫る。
それから怪訝そうに紫央の顔をじろじろと眺めてきた。
さすが子どもの頃から「リュウ」と生活を共にしていると公言しただけあり、なにかしらの変化を感じ取っているようだ。
「そう言えば、昨日からおかしいことだらけだったんだよね。いつものようにリュウが作ったかんしゃく玉を投げたのに、なぜか瞬間移動の力を使わないでその場にとどまっていたでしょ?」
髪と同じ赤褐色の瞳が、じろり訝るように視線を向けてくる。
まだクィーンには、「リュウ」中の人が変わってしまったことを告白していないが、きっと勘のいい男のことだ。
すでに、いつもと違うことに気づいているはずだろう。
だとしたらこの機会に、紫央が「リュウ」へ転生したことを告白し、来たるべき最終回へ向けて、二人が生き延びるための作戦を立てるのはどうだろうか。
そう独り逡巡していると、クィーンは燃えるような朱色の唇を不服そうに尖らせた。
「昨夜闘いから帰宅したら、研究所の入口にリュウが横たわっていてびっくりしたんだよ」
意識を失くす前、紫央を爆破の衝撃から助けてくれたのはたしかにレッドだった。
それから目が覚めたらこのラボにいたので、その後、どうなったのか正直気になっていたのである。
クィーンが入口の前で紫央を発見してくれたということは──。
敵陣地とわかっていながら、あの男が紫央をここまで送り届けてくれたのだろうか。
あの優しい腕が、途中でどこかに放り投げてくるとも思えない。
けれど、紫央の記憶が正しければ、あの男はこの物語の主役だったはずだ。
だとしたらどうしてあの時、オウンゴールのような爆破を受けた紫央を迷いなく助けてくれたのだろう。
悪の研究組織に勤めるマッドサイエンティストの「Dr.リュウ」とはほぼ毎話、物語の後半でスターレンジャーのメンバーとバトルを繰り広げる宿敵のはず。
しかも爆破が起きた時、転生したことに気づいたばかりの紫央は、あのまま放っておいたらレッド自ら手を下すことなく自滅していっただろうに。
まさか来年三月からの新シリーズの準備ができていないからなどの大人の事情で、あの場は生かされた。なんてことはさすがにないだろうが、いったいどうしてと疑問は覚える。
どこの世界に、ヒーローがいちばんの宿敵を住処まで届けてくれる展開があるだろうか。
もしかしてレッドは、紫央たち悪の組織に実は魂を売ったヒーローだったらどうしよう。
少しだけ逡巡して、そんなバカなと紫央は小さく自嘲する。早朝からテレビで流れる子ども向けのヒーロー番組に、応援してくれる視聴者を裏切るような設定をぶちこんでくるわけがない。ありえない。
これはレッドの企みだ。
多分、間違いない。
ぎゅっと紫央は拳を作った。
「なにがあったかわからないけど、自分が凶悪な魔力を持っているからって、昨日みたいに過信して、丸腰で闘いの場所へ出ていくようなバカな真似はしないでよね」
クィーンの言葉でまたひとつ、テレビの視聴側ではわからない「リュウ」の情報が明らかにされる。
だが当然、肝心な魔力の使用方法については説明がないので、また昨日のような場所へ立つことになったら、同じ展開になるのは否めない。
「ちなみに、魔力を使ってリュウを部屋まで運んだのはあなたの優秀な『助手』である、ボクだからね。あとできっちりこの貸しは返してよ?」
クィーンはようやく踵を降ろすと、ふああと可愛らしいあくびをひとつし、それ以上なにも言わずホテルライクのパウダールームから出ていってしまう。
アイドル戦隊スターレンジャーという最新戦隊シリーズ最大の敵、「Dr.リュウ」に転生して二日目。すでに余命が宣告された竜崎紫央の人生は、スタートから濃厚で難解なものとなっていた。
背伸びした白皙の顔が、ぐんと疑り深く紫央へと迫る。
それから怪訝そうに紫央の顔をじろじろと眺めてきた。
さすが子どもの頃から「リュウ」と生活を共にしていると公言しただけあり、なにかしらの変化を感じ取っているようだ。
「そう言えば、昨日からおかしいことだらけだったんだよね。いつものようにリュウが作ったかんしゃく玉を投げたのに、なぜか瞬間移動の力を使わないでその場にとどまっていたでしょ?」
髪と同じ赤褐色の瞳が、じろり訝るように視線を向けてくる。
まだクィーンには、「リュウ」中の人が変わってしまったことを告白していないが、きっと勘のいい男のことだ。
すでに、いつもと違うことに気づいているはずだろう。
だとしたらこの機会に、紫央が「リュウ」へ転生したことを告白し、来たるべき最終回へ向けて、二人が生き延びるための作戦を立てるのはどうだろうか。
そう独り逡巡していると、クィーンは燃えるような朱色の唇を不服そうに尖らせた。
「昨夜闘いから帰宅したら、研究所の入口にリュウが横たわっていてびっくりしたんだよ」
意識を失くす前、紫央を爆破の衝撃から助けてくれたのはたしかにレッドだった。
それから目が覚めたらこのラボにいたので、その後、どうなったのか正直気になっていたのである。
クィーンが入口の前で紫央を発見してくれたということは──。
敵陣地とわかっていながら、あの男が紫央をここまで送り届けてくれたのだろうか。
あの優しい腕が、途中でどこかに放り投げてくるとも思えない。
けれど、紫央の記憶が正しければ、あの男はこの物語の主役だったはずだ。
だとしたらどうしてあの時、オウンゴールのような爆破を受けた紫央を迷いなく助けてくれたのだろう。
悪の研究組織に勤めるマッドサイエンティストの「Dr.リュウ」とはほぼ毎話、物語の後半でスターレンジャーのメンバーとバトルを繰り広げる宿敵のはず。
しかも爆破が起きた時、転生したことに気づいたばかりの紫央は、あのまま放っておいたらレッド自ら手を下すことなく自滅していっただろうに。
まさか来年三月からの新シリーズの準備ができていないからなどの大人の事情で、あの場は生かされた。なんてことはさすがにないだろうが、いったいどうしてと疑問は覚える。
どこの世界に、ヒーローがいちばんの宿敵を住処まで届けてくれる展開があるだろうか。
もしかしてレッドは、紫央たち悪の組織に実は魂を売ったヒーローだったらどうしよう。
少しだけ逡巡して、そんなバカなと紫央は小さく自嘲する。早朝からテレビで流れる子ども向けのヒーロー番組に、応援してくれる視聴者を裏切るような設定をぶちこんでくるわけがない。ありえない。
これはレッドの企みだ。
多分、間違いない。
ぎゅっと紫央は拳を作った。
「なにがあったかわからないけど、自分が凶悪な魔力を持っているからって、昨日みたいに過信して、丸腰で闘いの場所へ出ていくようなバカな真似はしないでよね」
クィーンの言葉でまたひとつ、テレビの視聴側ではわからない「リュウ」の情報が明らかにされる。
だが当然、肝心な魔力の使用方法については説明がないので、また昨日のような場所へ立つことになったら、同じ展開になるのは否めない。
「ちなみに、魔力を使ってリュウを部屋まで運んだのはあなたの優秀な『助手』である、ボクだからね。あとできっちりこの貸しは返してよ?」
クィーンはようやく踵を降ろすと、ふああと可愛らしいあくびをひとつし、それ以上なにも言わずホテルライクのパウダールームから出ていってしまう。
アイドル戦隊スターレンジャーという最新戦隊シリーズ最大の敵、「Dr.リュウ」に転生して二日目。すでに余命が宣告された竜崎紫央の人生は、スタートから濃厚で難解なものとなっていた。
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