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(4)対応に気をつける相手は……
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「龍ヶ崎様、ご無沙汰しております」
櫻田の声で、颯斗は我に返る。
明らかに今、この男に目が釘付けとなっていた自分に驚愕した。
高二の途中で、このバイトをはじめて三年と少し。
たくさんの接客をこなしてきた颯斗は、華やかで煌びやかなセレブたちの相手でも惑わされることなんてなかったのに。
信じられない。
どうして、と思った。
「いつもの窓際のお席がすぐにご用意できますが、そちらでよろしいでしょうか」
櫻田の言葉に、男の来訪がはじめてではないことを知る。
颯斗も目にしたことはないはずだ。
けれど、見馴れた華やかなセレブたちが霞むほど強烈なオーラに惹きつけられてしまう。
強い吸引力だ。
まるで颯斗は、花の蜜に引き寄せられる虫のようだ。
男はそんな颯斗の困惑をよそに、櫻田の言葉に「ああ」などと、言葉少なに対応していた。
感じが悪いなといつもだったら敬遠するが、その塩対応も妙に男のイメージにぴったりで、不思議と不快を感じない。この男もまた、櫻田よりは年がだいぶ若そうだ。
相変わらずサングラスが邪魔をして男を年齢不詳にさせているが、紫澤よりは年が上に見える。
上品で生まれながらに王子様である紫澤とは、また違うノーブルで華やかな空気をまとっていた。
吸引力のある男、そんな風に形容したらあまりにも雑な言い方かもしれない。
けれど事実なのだから仕方がない。今後は適切な語彙力が適材適所で使えるように、もっと勉強しようと密かに誓う。
「高遠くん?」
心なしか少し唇を尖らせた紫澤に呼ばれ、颯斗の手は目の前の王子様に捉われたままであることに気づく。
「あ、すみません」
謝罪をしながら意識的に視線を手許へ戻した。
そうだ。いまの自分は紫澤に指名されているのだ。
給料をもらっている以上、ほかの客に気を取られている場合ではない。
職務を全うしなければならないのである。
「僕以外に視線を向けたら浮気ですよ?」
咄嗟に紫澤の言葉に返せなかった颯斗は、ははと苦笑しながらも、背に受ける圧倒的オーラが気になってそわそわしていた。
紫澤は落ち着かない颯斗に気づいたのか、手を引いたままレジ裏の誰もいないキッチンカウンターの席へ誘導する。
接客中の櫻田に知られたら注意を受けそうだ。
「とりあえずカウンター席に行きませんか? そして、便利屋のバイトデビューを果たした高遠くんのお話をゆっくり聞かせてほしいです」
カウンターの五つあるスツールの一番手前に腰かけた紫澤は、八十年代の少女マンガから飛び出してきたようなきらりと音のするようなウィンクを見せ、自身の隣のスツールを軽く叩いて颯斗に着席を進めた。
「紫澤様、バイト中なので同席は……」
「大丈夫ですよ。店長には、高遠くんを接客にしてもらうよう断りをいれているんですから」
握ったままの颯斗の手に紫澤はさらに力を込めて、なんとか颯斗を座らせようとする。
いつもスキンシップは過多だが、ここまで強引に事を推し進めようとしない人なので驚きが隠せない。
「でも、」
紫澤に従うまでまだまだ攻防は続きそうだ。その時だった。
櫻田の声で、颯斗は我に返る。
明らかに今、この男に目が釘付けとなっていた自分に驚愕した。
高二の途中で、このバイトをはじめて三年と少し。
たくさんの接客をこなしてきた颯斗は、華やかで煌びやかなセレブたちの相手でも惑わされることなんてなかったのに。
信じられない。
どうして、と思った。
「いつもの窓際のお席がすぐにご用意できますが、そちらでよろしいでしょうか」
櫻田の言葉に、男の来訪がはじめてではないことを知る。
颯斗も目にしたことはないはずだ。
けれど、見馴れた華やかなセレブたちが霞むほど強烈なオーラに惹きつけられてしまう。
強い吸引力だ。
まるで颯斗は、花の蜜に引き寄せられる虫のようだ。
男はそんな颯斗の困惑をよそに、櫻田の言葉に「ああ」などと、言葉少なに対応していた。
感じが悪いなといつもだったら敬遠するが、その塩対応も妙に男のイメージにぴったりで、不思議と不快を感じない。この男もまた、櫻田よりは年がだいぶ若そうだ。
相変わらずサングラスが邪魔をして男を年齢不詳にさせているが、紫澤よりは年が上に見える。
上品で生まれながらに王子様である紫澤とは、また違うノーブルで華やかな空気をまとっていた。
吸引力のある男、そんな風に形容したらあまりにも雑な言い方かもしれない。
けれど事実なのだから仕方がない。今後は適切な語彙力が適材適所で使えるように、もっと勉強しようと密かに誓う。
「高遠くん?」
心なしか少し唇を尖らせた紫澤に呼ばれ、颯斗の手は目の前の王子様に捉われたままであることに気づく。
「あ、すみません」
謝罪をしながら意識的に視線を手許へ戻した。
そうだ。いまの自分は紫澤に指名されているのだ。
給料をもらっている以上、ほかの客に気を取られている場合ではない。
職務を全うしなければならないのである。
「僕以外に視線を向けたら浮気ですよ?」
咄嗟に紫澤の言葉に返せなかった颯斗は、ははと苦笑しながらも、背に受ける圧倒的オーラが気になってそわそわしていた。
紫澤は落ち着かない颯斗に気づいたのか、手を引いたままレジ裏の誰もいないキッチンカウンターの席へ誘導する。
接客中の櫻田に知られたら注意を受けそうだ。
「とりあえずカウンター席に行きませんか? そして、便利屋のバイトデビューを果たした高遠くんのお話をゆっくり聞かせてほしいです」
カウンターの五つあるスツールの一番手前に腰かけた紫澤は、八十年代の少女マンガから飛び出してきたようなきらりと音のするようなウィンクを見せ、自身の隣のスツールを軽く叩いて颯斗に着席を進めた。
「紫澤様、バイト中なので同席は……」
「大丈夫ですよ。店長には、高遠くんを接客にしてもらうよう断りをいれているんですから」
握ったままの颯斗の手に紫澤はさらに力を込めて、なんとか颯斗を座らせようとする。
いつもスキンシップは過多だが、ここまで強引に事を推し進めようとしない人なので驚きが隠せない。
「でも、」
紫澤に従うまでまだまだ攻防は続きそうだ。その時だった。
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