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第一章「sinful relations」
番外編『ドラッグ』
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※序盤から星明かりまでの時間軸のパラレル的なお話です。
出逢ってからさほど多くの時間を共有したわけではない。
いつのまにやら麻薬のような彼の存在に身も心も蝕まれていた。
お互い、訪れたホテルの部屋のベッドに背を向けて座っている。
小さく息を吐きだす。
私は、沈黙が耐え切れなくなって、口を開いた。
「……ずっと、このままなのかな?」
ゆっくり視線を上向けると、眉をしかめられる。
固く引き結ばれた口元が怖い。
暫し沈黙が続き、怒っているのかと不安に思う。
「……、大した度胸だな」
「っ……!」
視線の鋭さに、怖気おじけづきそうになった。
口の端を歪め、彼は笑っているが、どこか恐ろしい。
膝の上に置いた手を強くつかまれる。
掌から伝わる震えに、彼はどう感じているのだろうと思った。
「嫌なら抵抗しろよ」
意思を持って、組み敷かれる。
大きな体が視界を覆い、肩先に彼の頭がぶつかってきた。愛しい重み。
耳元に熱い息を感じて、思わず目をつむった。
体が内側から震える。
ぶるぶると頭を振って抱きついた。
「涙を堪えているようで、もっと啼かせたくなる」
さらりと言われ、心臓が高鳴る。
我慢するなと言って、私を啼かせるのだ。
恥ずかしくてたまらないのに、
彼は私の卑猥な姿を見るのが好きなようだった。
「っ……だ、だめ」
ワンピースを捲り上げた大きな手が胸を包む。
開いている方の手は、下腹に触れ秘めたる部分を弄いじっていた。
「俺に抱かれて、傷を受けても気づかない振りをしているんだろ」
「違う……わ」
傷つけていると自覚している彼のほうが、よほど苦しいはずだ。
愛しいから、憎めない。
彼に、触れられるのが怖いのではなく戻れないのが分かってて、
逃げることを選ばない自分が、恐ろしい。
「っ……あ」
ブラの上から、ふくらみを揉みしだかれ、体が熱くなる。
身を捩ると、大きな体で押さえつけられた。
「執着しているのは確かだよ、お前という存在に」
「それでも、嬉しいもの」
いきなり、キスで唇を塞がれた。
ねっとりと絡む舌の動きに翻弄される。
差し出せば、絡め取られ、白い糸が二人の間で繋がっていた。
「はあ……っ」
キスが、ふいに終わり、肩で息を整える。
荒い息が、かかる。
薄明かりの下で、彼の瞳は獣のように獰猛だった。
ブラが外され、肌が空気にさらされる。
視線が注がれていたそこに、唇が触れた。
いきなり吸い上げられ、電流が走る。
「触れるほどに硬くなるな」
舌で転がされ、唇に食まれる。
反対側は、指先でこねられて形を変えていた。
両方共硬さを増し、まるで彼に触れられて悦んでいるみたいだ。
ふくらみの間に頭を埋めながら、下腹部も侵略されていた。
声にならない声をあげて、もだえても容赦なく攻められる。
膝を押し開かれ、下着も脱がされ肌をさらけ出した私に対し、
彼は未だ衣服を乱れさせてもいない。
危うい二人の関係を表しているようで、おかしい。
「青……」
ぽろりとこぼれた彼の名前。
声が濡れているのに気づいてはっとした時には遅かった。
「……お前の涙に欲情を煽られるよ」
自嘲気味に笑い、彼はつぶやいた。
ばさり、シャツを放る音。
スラックスのベルトを外す様子をとらえ、
やっと彼が、私と同じ状態になったと感じた。
細身なだけじゃなく、絶妙なバランスが取れた美しい裸身。
私を奪いつくした青という人がそこにいる。
覆いかぶさってきた彼が、背中に腕を回しきつく抱きしめられる。
息もできないほどに、熱くて儚い抱擁。
背中に腕を回すと、口元から小さな呻き声が漏れた。
「あなたこそ、泣いているみたい……」
彼は、訝しむように眉をひそめた。
「心が泣き叫んでいるんだわ」
言い過ぎたかもしれない。
それでも、自分のことにもっと気づいてほしかった。
「……俺は、沙矢ほど感情が豊かじゃない」
じゅうぶん、彼は感情が豊かだ。
表に出すのが上手じゃないだけ。
「……私はあなたに抱かれるのが嬉しい。
この時間が、好きで失いたくないって思うの」
「俺なんかに、お前は……」
涙を堪えるように、微笑んだ。
「分かってないんだから」
頬を包む手に手を添える。
彼の表情を確かめたくて瞳を凝らしていると、間接照明が消えた。
彼の前髪が、秘所にかかる。
舌で滴る泉をすくわれ、蕾は指でこね回される。
「あっ……もうだめ」
これ以上触れられたら、独りで、のぼりつめてしまう。
それが、怖かった。
一度達した方が、楽だから、イカセてくれようとしてるのだとわかっていても、
置き去りにされているみたいで不安だった。
(……嫌なの)
今宵も私の思いを知らず、容赦なく、快楽へと導かれるのだ。
「綺麗だよ」
彼は、甘い秘め事のように耳元で囁いて、中に指を侵入させた。
かき混ぜられた途端、めまいがした。
抗えない快楽の波に、引きずり込まれ、脳裏が白く濁った。
気がついた時、彼は側にいなくて、伸ばした腕は空を切った。
「青……」
闇の中、準備をする音が響く。
乱暴に、髪がかき混ぜられて、ほろりと涙がこぼれた。
首筋に彼の息が、吹きかかる。
手を彷徨わせていると掴まれたので、うなづいた。
身体を少し浮かせて、ゆっくりと彼自身が入ってくる。
「はっ……あ」
ナカを満たされた時、一つ、吐息が漏れた。
首筋にしがみつくと汗で滑る。
「ま、待っ……」
最後まで言うこともできず、奥を穿たれる。
鼻から抜ける息は、自分でも信じられないほど甘い。
媚びているようで、嫌になる。
唇がキスで塞がれ喘ぎ声を封じられる。
執拗なほど繰り返される濃厚なキス。
舌を絡め、吸われ、ナカを突き上げられ、意識が白く濁りはじめる。
イキたくない。
意識では抗うのに、快楽の階段を駆け上がるスピードは止まらない。
頂きを食まれ、ふくらみを揉みしだかれれば、きゅんと下腹がうずいた。
「く……っ」
「やっ……あ」
眉をしかめ、汗を散らした彼が、いきなり奥を突き上げ始める。
緩やかさなんてかけらもなく獰猛な勢いで、内部を穿つ。
卑猥な水音は、お互いが奏でるものだ。
きっと、それが、興奮材料になり更に行為を激しくさせている。
背中にしがみつき、腰を浮かせると、より一層彼自身を感じるようだった。
痛くて切ない繋がり。
私の動きを察してか、抱え起こされ膝の上で抱かれる格好になった。
あぐらをかいた彼に、両脚を絡める。
太くて、大きくて熱いものは、幾度と無く奥と外とを行き来する。
「……うれし……いっ」
抱かれている時間が、たまらなく好きだ。
心なんて見えなくても、確かに彼はそこにいて
私と体を交わしている。
それが、何よりの歓びだった。
「そういうのが調子に乗らせるんだ」
嘲るような言葉に、びくりとした。背筋が震える。
涙を意地で振り切って、しがみついた。
(その言葉で、私こそ調子に乗るわ)
「いくぞ」
「あああっ……」
大きく突き上げた後、彼が腰をぶるりと震わせたのがわかった。
隔たりを介して、熱の証が放たれ、私は意識を飛ばす。
たくましい肉体が、覆い被さってくる。
強く抱きしめられたことに気づかないままに眠りに落ちた。
カーテンの隙間から差し込む光に、目を細める。ぼんやりと、瞼を擦る。
ベッドに体が、沈み込んでいる感覚。
昨夜からのことを思い返すと、頬から全身に熱が走った。
長い腕の主は、こちらの腰に腕を巻きつけながら、眠っている。
朝陽が陰影をつくり、長い睫を際立たせてていた。
寝顔を見つめられる機会なんてそうそうない。
気づかれないように、その美しい造作を観察する。
(表情がないと、冷たくさえ感じられるほど整っているのよね)
陽光に照らし出された髪の色は、黒より淡い色。
濃い茶色に近かった。そして、彼の瞳の色の真実を
知っているけれど、黙っている。
名前の通りの青い瞳だと私は知っていた。
見つめ続けていて気づかれたら、大変だ。
多分、彼は熟睡しているわけじゃない。
思い至った私は慌てて、背中を向けて、体を離した。
(同じシーツをかけているので、離れられる距離は限られているけれど)
その瞬間だった。
「離れるな」
意外な言葉に、きょとんとする。
「えっ……!?」
寝起きのかすれた声は、すさまじい色香で心臓の音を高鳴らせた。
回された腕は、しっとりとしている。
熱を込められた抱擁に思え、目元が潤む。
(なんて、罪な人)
心の中でひっそりと泣く。
小憎こにくらしささえ感じる。
(あなたが、そのつもりなら私も覚悟があるんだから)
「ん……」
唇が重なる。
次第に互いの唇が熱く、濡れてくるのを感じた。
冷めた彼の唇が、熱を帯びると幸せな気持ちになる。
私の熱を彼に全部与えられたらいいのに。
(凍えないで……大好きな青)
もつれ合いながら、シーツに沈む。
繰り返されるキスと抱擁にめまいがして、溶けてしまいそうだった。
泣きじゃくりながら、しがみついて今宵も未来あしたの夢を見る。
彼の存在は麻薬だと、言い聞かせていたが、
見た夢は、優しすぎるものだった。
この夢のような日々が現実となればいいと願うしかない。
意識が覚醒した瞬間、腕に重みを感じた。
胸元に頬を預けて、眠る存在に気づく。
(沙……矢)
心中つぶやいて、髪に指をすべらせる。
柔らかな黒髪が、朝日に照らされて輝いていた。
静脈に打ち込んだ針から、体内に染みこんでいく麻薬のような女だ。
(いや、むしろ……優しく体に作用する薬なのか
……副作用は、”離れられない”
彼女に癒され救われている自分を既に認めている)
この想いに早く気づいてほしい。気づかれたくない。
相反する想いが交錯していた。
気づかぬ振り、騙された振りは、とうに疲れ果てているというのに。
壊れるほどに抱き殺そうと幾度思い、行動にはできなかったか。
壊したら、もう触れ合えなくなる。
沙矢を何も知らないままに終わってしまうのは、受け入れ難い。
抱かれている間、彼女は蕩けそうな甘い声で啼き狂う。
切羽詰った声で喘ぎながら、確かに俺を求め、責めているようにも感じた。
好きだ、愛していると言葉にすればきっと簡単なのだろう。
同じベッドの中で背を震わせながら、
泣く女を愛おしいという気持ちに偽りは何ひとつない。
これ以上時間が、砂となって零れ落ちないように己の中で誓った。
出逢ってからさほど多くの時間を共有したわけではない。
いつのまにやら麻薬のような彼の存在に身も心も蝕まれていた。
お互い、訪れたホテルの部屋のベッドに背を向けて座っている。
小さく息を吐きだす。
私は、沈黙が耐え切れなくなって、口を開いた。
「……ずっと、このままなのかな?」
ゆっくり視線を上向けると、眉をしかめられる。
固く引き結ばれた口元が怖い。
暫し沈黙が続き、怒っているのかと不安に思う。
「……、大した度胸だな」
「っ……!」
視線の鋭さに、怖気おじけづきそうになった。
口の端を歪め、彼は笑っているが、どこか恐ろしい。
膝の上に置いた手を強くつかまれる。
掌から伝わる震えに、彼はどう感じているのだろうと思った。
「嫌なら抵抗しろよ」
意思を持って、組み敷かれる。
大きな体が視界を覆い、肩先に彼の頭がぶつかってきた。愛しい重み。
耳元に熱い息を感じて、思わず目をつむった。
体が内側から震える。
ぶるぶると頭を振って抱きついた。
「涙を堪えているようで、もっと啼かせたくなる」
さらりと言われ、心臓が高鳴る。
我慢するなと言って、私を啼かせるのだ。
恥ずかしくてたまらないのに、
彼は私の卑猥な姿を見るのが好きなようだった。
「っ……だ、だめ」
ワンピースを捲り上げた大きな手が胸を包む。
開いている方の手は、下腹に触れ秘めたる部分を弄いじっていた。
「俺に抱かれて、傷を受けても気づかない振りをしているんだろ」
「違う……わ」
傷つけていると自覚している彼のほうが、よほど苦しいはずだ。
愛しいから、憎めない。
彼に、触れられるのが怖いのではなく戻れないのが分かってて、
逃げることを選ばない自分が、恐ろしい。
「っ……あ」
ブラの上から、ふくらみを揉みしだかれ、体が熱くなる。
身を捩ると、大きな体で押さえつけられた。
「執着しているのは確かだよ、お前という存在に」
「それでも、嬉しいもの」
いきなり、キスで唇を塞がれた。
ねっとりと絡む舌の動きに翻弄される。
差し出せば、絡め取られ、白い糸が二人の間で繋がっていた。
「はあ……っ」
キスが、ふいに終わり、肩で息を整える。
荒い息が、かかる。
薄明かりの下で、彼の瞳は獣のように獰猛だった。
ブラが外され、肌が空気にさらされる。
視線が注がれていたそこに、唇が触れた。
いきなり吸い上げられ、電流が走る。
「触れるほどに硬くなるな」
舌で転がされ、唇に食まれる。
反対側は、指先でこねられて形を変えていた。
両方共硬さを増し、まるで彼に触れられて悦んでいるみたいだ。
ふくらみの間に頭を埋めながら、下腹部も侵略されていた。
声にならない声をあげて、もだえても容赦なく攻められる。
膝を押し開かれ、下着も脱がされ肌をさらけ出した私に対し、
彼は未だ衣服を乱れさせてもいない。
危うい二人の関係を表しているようで、おかしい。
「青……」
ぽろりとこぼれた彼の名前。
声が濡れているのに気づいてはっとした時には遅かった。
「……お前の涙に欲情を煽られるよ」
自嘲気味に笑い、彼はつぶやいた。
ばさり、シャツを放る音。
スラックスのベルトを外す様子をとらえ、
やっと彼が、私と同じ状態になったと感じた。
細身なだけじゃなく、絶妙なバランスが取れた美しい裸身。
私を奪いつくした青という人がそこにいる。
覆いかぶさってきた彼が、背中に腕を回しきつく抱きしめられる。
息もできないほどに、熱くて儚い抱擁。
背中に腕を回すと、口元から小さな呻き声が漏れた。
「あなたこそ、泣いているみたい……」
彼は、訝しむように眉をひそめた。
「心が泣き叫んでいるんだわ」
言い過ぎたかもしれない。
それでも、自分のことにもっと気づいてほしかった。
「……俺は、沙矢ほど感情が豊かじゃない」
じゅうぶん、彼は感情が豊かだ。
表に出すのが上手じゃないだけ。
「……私はあなたに抱かれるのが嬉しい。
この時間が、好きで失いたくないって思うの」
「俺なんかに、お前は……」
涙を堪えるように、微笑んだ。
「分かってないんだから」
頬を包む手に手を添える。
彼の表情を確かめたくて瞳を凝らしていると、間接照明が消えた。
彼の前髪が、秘所にかかる。
舌で滴る泉をすくわれ、蕾は指でこね回される。
「あっ……もうだめ」
これ以上触れられたら、独りで、のぼりつめてしまう。
それが、怖かった。
一度達した方が、楽だから、イカセてくれようとしてるのだとわかっていても、
置き去りにされているみたいで不安だった。
(……嫌なの)
今宵も私の思いを知らず、容赦なく、快楽へと導かれるのだ。
「綺麗だよ」
彼は、甘い秘め事のように耳元で囁いて、中に指を侵入させた。
かき混ぜられた途端、めまいがした。
抗えない快楽の波に、引きずり込まれ、脳裏が白く濁った。
気がついた時、彼は側にいなくて、伸ばした腕は空を切った。
「青……」
闇の中、準備をする音が響く。
乱暴に、髪がかき混ぜられて、ほろりと涙がこぼれた。
首筋に彼の息が、吹きかかる。
手を彷徨わせていると掴まれたので、うなづいた。
身体を少し浮かせて、ゆっくりと彼自身が入ってくる。
「はっ……あ」
ナカを満たされた時、一つ、吐息が漏れた。
首筋にしがみつくと汗で滑る。
「ま、待っ……」
最後まで言うこともできず、奥を穿たれる。
鼻から抜ける息は、自分でも信じられないほど甘い。
媚びているようで、嫌になる。
唇がキスで塞がれ喘ぎ声を封じられる。
執拗なほど繰り返される濃厚なキス。
舌を絡め、吸われ、ナカを突き上げられ、意識が白く濁りはじめる。
イキたくない。
意識では抗うのに、快楽の階段を駆け上がるスピードは止まらない。
頂きを食まれ、ふくらみを揉みしだかれれば、きゅんと下腹がうずいた。
「く……っ」
「やっ……あ」
眉をしかめ、汗を散らした彼が、いきなり奥を突き上げ始める。
緩やかさなんてかけらもなく獰猛な勢いで、内部を穿つ。
卑猥な水音は、お互いが奏でるものだ。
きっと、それが、興奮材料になり更に行為を激しくさせている。
背中にしがみつき、腰を浮かせると、より一層彼自身を感じるようだった。
痛くて切ない繋がり。
私の動きを察してか、抱え起こされ膝の上で抱かれる格好になった。
あぐらをかいた彼に、両脚を絡める。
太くて、大きくて熱いものは、幾度と無く奥と外とを行き来する。
「……うれし……いっ」
抱かれている時間が、たまらなく好きだ。
心なんて見えなくても、確かに彼はそこにいて
私と体を交わしている。
それが、何よりの歓びだった。
「そういうのが調子に乗らせるんだ」
嘲るような言葉に、びくりとした。背筋が震える。
涙を意地で振り切って、しがみついた。
(その言葉で、私こそ調子に乗るわ)
「いくぞ」
「あああっ……」
大きく突き上げた後、彼が腰をぶるりと震わせたのがわかった。
隔たりを介して、熱の証が放たれ、私は意識を飛ばす。
たくましい肉体が、覆い被さってくる。
強く抱きしめられたことに気づかないままに眠りに落ちた。
カーテンの隙間から差し込む光に、目を細める。ぼんやりと、瞼を擦る。
ベッドに体が、沈み込んでいる感覚。
昨夜からのことを思い返すと、頬から全身に熱が走った。
長い腕の主は、こちらの腰に腕を巻きつけながら、眠っている。
朝陽が陰影をつくり、長い睫を際立たせてていた。
寝顔を見つめられる機会なんてそうそうない。
気づかれないように、その美しい造作を観察する。
(表情がないと、冷たくさえ感じられるほど整っているのよね)
陽光に照らし出された髪の色は、黒より淡い色。
濃い茶色に近かった。そして、彼の瞳の色の真実を
知っているけれど、黙っている。
名前の通りの青い瞳だと私は知っていた。
見つめ続けていて気づかれたら、大変だ。
多分、彼は熟睡しているわけじゃない。
思い至った私は慌てて、背中を向けて、体を離した。
(同じシーツをかけているので、離れられる距離は限られているけれど)
その瞬間だった。
「離れるな」
意外な言葉に、きょとんとする。
「えっ……!?」
寝起きのかすれた声は、すさまじい色香で心臓の音を高鳴らせた。
回された腕は、しっとりとしている。
熱を込められた抱擁に思え、目元が潤む。
(なんて、罪な人)
心の中でひっそりと泣く。
小憎こにくらしささえ感じる。
(あなたが、そのつもりなら私も覚悟があるんだから)
「ん……」
唇が重なる。
次第に互いの唇が熱く、濡れてくるのを感じた。
冷めた彼の唇が、熱を帯びると幸せな気持ちになる。
私の熱を彼に全部与えられたらいいのに。
(凍えないで……大好きな青)
もつれ合いながら、シーツに沈む。
繰り返されるキスと抱擁にめまいがして、溶けてしまいそうだった。
泣きじゃくりながら、しがみついて今宵も未来あしたの夢を見る。
彼の存在は麻薬だと、言い聞かせていたが、
見た夢は、優しすぎるものだった。
この夢のような日々が現実となればいいと願うしかない。
意識が覚醒した瞬間、腕に重みを感じた。
胸元に頬を預けて、眠る存在に気づく。
(沙……矢)
心中つぶやいて、髪に指をすべらせる。
柔らかな黒髪が、朝日に照らされて輝いていた。
静脈に打ち込んだ針から、体内に染みこんでいく麻薬のような女だ。
(いや、むしろ……優しく体に作用する薬なのか
……副作用は、”離れられない”
彼女に癒され救われている自分を既に認めている)
この想いに早く気づいてほしい。気づかれたくない。
相反する想いが交錯していた。
気づかぬ振り、騙された振りは、とうに疲れ果てているというのに。
壊れるほどに抱き殺そうと幾度思い、行動にはできなかったか。
壊したら、もう触れ合えなくなる。
沙矢を何も知らないままに終わってしまうのは、受け入れ難い。
抱かれている間、彼女は蕩けそうな甘い声で啼き狂う。
切羽詰った声で喘ぎながら、確かに俺を求め、責めているようにも感じた。
好きだ、愛していると言葉にすればきっと簡単なのだろう。
同じベッドの中で背を震わせながら、
泣く女を愛おしいという気持ちに偽りは何ひとつない。
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