sinful relations

雛瀬智美

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第一章「sinful relations」

第14話番外編「予感」

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 扉を開けると高い音がした。

 服を脱ぎ、浴室の扉を開ける。

 冷えた浴室内で、ぶるりと震えてしまう。

「寒い……」

 シャワーの蛇口をひねる。

 心地よい温かさが身体に降り注ぐ。

 私は、彼の事が本気で好きだ。

 死ぬほど愛している。

 遊びじゃないと呟いた彼。

 真摯な眼差しは嘘偽りなど一つもないとこちらに信じさせた。

『夜が明けたらお前の望む答えをやる。受け止めてくれるか』

(私の望む答えを青はくれるというの? )

 いつも冷静で燃えることなんてないと思えた彼が、

 瞳に宿った切なさを隠しもしないで私を見つめていた。

「信じたい」

 瞳を閉じて熱いシャワーを浴びながら、彼の事だけを思い描いていた。

 シャワーを浴び終えて、部屋に戻ると、

 シャツを肌蹴はだけた姿の彼とすれ違った。

 微かに香る苦くて甘いコロンの香り。

 長身痩躯ちょうしんそうくという表現がぴったり当てはまる体型。

 けれど胸も背中も広く力強いことを知っている。

「……待ってるね」

 そのまま青は浴室へと姿を消した。

 何だかこの静寂がやりづらい。

 とりあえず、ベッドの縁に座ると、

 煙草の箱が置かれていることに気づく。

 また喫煙のまねごとをしたくなったけれど、思いとどまる。

 煙草って吸い始めたら止められなくなるっていうけど。

(何だか私たちみたい)

 いたずらで、置いた場所を移動させてみた。

 寒さに震えてしまう。どうして彼は暖房を入れていなかったのだろう。

 こんな寒い部屋の中で震えていたの。

(互いの肌があれば、暖房より温まれるよね)

 身体は正直だから、すぐ熱くなる。

 私はぎゅっと自分の身体を抱きしめた。

(青……早く来て。私を満たして)

 カチャリ。

 浴室の扉の開く音。

 ドキドキと心臓が高鳴る

 青と過ごす夜はいつだって初めてのような気分だ。

 身体が震え出していた。

「寒い? 」

 バスローブ越しに彼が抱きしめてくる。

「少し」

「寒さだけで震えてるんじゃないんだろ?」

心臓が跳ね上がった。

「……え……その」

「期待に応えてやるよ」

 かあっと頬に熱が顔が集まった。

 唇の端を上げた彼は、例えようもないほど色っぽかった。

「……青」

 彼のバスローブの肩に頬を寄せ、もたれかかった。

 強く抱き返される。

 甘い抱擁に時を奪われる。

「好きなの」

 呟いて、自ら唇を重ね合わせた。

 言葉は返らなかったけど、激しい口づけが返ってくる。

「……っ」

 彼の唇が私を追い求め、口づけで応える。

 高度の熱が入り込み、身体の震えは増すばかり。

 瞳を閉じて彼の背中にしがみつく。

 ふわりと抱き上げられてベッドに降ろされた。

 視界に映るのは天井。彼の表情は背中越しで見えない。

 彼が体勢を変えて、ベッドに肘をついた時、目が合った。

 情欲の炎に溶かされる……。

 柔らかな広いベッドが二人の身体を受け止めている。

 崩れ落ちてしまった理性はどこを探しても今は見当たらない。

 あるのは女の欲望だけ。

 青の物でいたいという感情だけ。

 どくん。どくん。心臓が早鐘を打つ。

「沙矢、好きだ」

 囁ささやいて、彼は唇を舐めた。

 首筋を滑る感触に甘い感覚が沸き起こってくる。

 反ってしまった首筋を吸い上げられる。

 谷間に指が這い、キスを落とされる。

 白い肌に花びらが散っていく。

 自然と胸を突き出す形の格好になっている私に

 彼はふっと目の端と口元で笑みを刻む。ぞくっとした。

 始まる胸への愛撫。

 巧たくみな指先のせいで何度となく形を変えていく。

 敏感な頂点に指と唇で触れられた時、

「ん……あっ」

 たまらず声が漏れてしまった。

 気をよくしたのか、彼は、舌で転がし吸い上げ

 きつく甘噛みしたり、指先で捏ねては弾く。

「んふ……」

 喘ぐ唇が塞がれる。

 艶めかしい舌の動きを追うように舌を絡めた。

 キスを交わす間にも、愛撫はエスカレートしていく。

 胸のふくらみに当てた手はそのままに、足の付け根に触れられる。

「へえ、もう待ちきれないって感じだな」

 思わず瞳を閉じた。

 唇へのキス、胸と秘所への愛撫。

 その壮絶な刺激に朦朧もうろうとする。

 体背中に腕を回した。

 溝の辺りを撫でていた手のひらが突起を弄りだす。

「……っん」

 キスから解放された途端、声が漏れてしまう。

 恥ずかしくなって口元を押さえた。

「こらえるな、もっと声聞かせろよ」

 口元から手を引きはがされ、唇から唇へとささやかれる。

 体がしなる。

 青の魔力は、最初から容赦がなかった。

 逃げられるはずもなかった。

 つぷ……と滴る泉の中へと指が沈む。

「シーツまで濡らしてしょうがないな」

 卑猥な言葉に顔を赤く染めながらも、感じている自分に驚く。

「増やすぞ」

 卑猥な台詞とともに、長い指は秘所の奥へと難なく侵入してきた。

「指でさえこんなに締めるのか、たっぷり絡んでくるな」

 見せつけられた指は、白く糸を引いていて、羞恥で身をよじる。

 付け根から、指先まで舐めて、こちらに邪笑する。

 奥深くを突いた後、浅い場所を往復する。

 ピストンする指の動きは段々と早くなっていく。

「や……っ……も……だめ! 」

 同時に突起に熱く柔らかな粘膜が触れる感触。

 意識が霞む。達してしまった。

 暫くして気がついた時、彼が手を強く握り締めていた。

 息を整えながら見つめると声が降って来た。

「いいか」

 と耳元で囁かれてぴくんと反応する。

 準備を終えた彼自身が、あてがわれている。

 ぎゅっと手を握り返すことでイエスの答えを返すと

 ゆっくりと、彼自身が内へと入ってきた。

 圧倒的な存在感が奥を満たし、その確かな温もりに吐息を吐き出した。

「は……あ」

 ぺろりと耳元を舐めた舌。

 耳朶を甘噛みされたと同時にゆるやかに彼が動き出した。

 揺れる私の世界。

 眩さで何も見えなくなっていく。

 (息つく余裕も与えてくれないのは、もっとあなたに夢中にさせようとしているの? )

 もう充分参っているというのに。

 繰り返される愛撫に、わけが分からなくなり、

 意識を集中させて溺れるしかできない。

 律動を刻みながら激しく揺れる胸の膨らみを揉みしだかれている。

 部屋に響き渡るほど、高らかな嬌声をあげながら昇りつめていった。

 二度目の絶頂に体中が弛緩する。

 意識を取り戻すと、抱き上げられて彼の膝に乗せられる。

 新たに準備を終えていたらしい。

 今度は自分から腰を動かして彼を導いた。

 さっきよりも強烈な快感が体中を襲う。

 結合が深いという事は彼がもっとも近くにいるという事だ。

 下から突き上げられ、背中に爪を立てる。

 汗で滑る指先。湿った肌に抱きつくと、奥を強く突かれた。

 視界が白く染まる。彼が近すぎて、怖いくらい。

「……ああ……青っ」

「……沙矢……くっ」

 耳にダイレクトに響く低音。

 元から囁くような低く甘い声だから、抱き合う時は半端じゃなく妖艶に聞こえる。

 揺さぶられ続け、やがてがくんと彼にもたれる格好で三度目の限界に達した。

 薄い膜越しに放たれる熱を受け止めて。

 奪うように手を引かれて、ようやく天国に辿り着いた。

 彼が、とても優しく笑ったのは気のせいじゃない。 

 意識を手放して眠りに落ちて、目を覚ました時

 隣りから、穏やかな寝息が聞こえてきた。

 腰に絡みつく腕の熱さと強さにびくりとする。

 顔をそっと覗き見れば、心臓が暴れだしてしまう。

(こんな無防備で隙を見せているなんて……だけど、

 抱き合った後の甘く妖艶な雰囲気は心臓に悪いわ! )

 名前を読んだら起きてくれるだろうか。

「青? 」

 まつ毛が震えて、二重の瞼が開いた。

名前と同じ青い瞳が私を映す。

 必死で離れようとしたら、強く腰を捕えられてしまった。

(神秘的な眼差しでこちらを見ないで)

「何で離れる。まだ何も言ってないだろ」

「だって……」

 彼の腕のぬくもりに酔いしれるように息をつく。

 陶然とした気分で、瞳を閉じた。

「今日もう一度会おう」

「……え」

「俺はお前を一旦送った後、大事な用事を済ませてくるから、待っていてくれ。

 追って連絡する」

 驚きすぎて、固まってしまう。大事な用事って何。

(追って連絡するって、まるで業務連絡みたいだわ)

 彼の言葉は、弾丸のように心を撃ち抜いた。

「分かりました」

 頷く。

 ぎこちなくて、ロボットになった気分だ。

 ぼうっとしたまま動かない私の様子を、暫く見ていた彼だったが、

 やがて、諦めたように嘆息した。

 お互いにシャワーを浴びて着替え終わっても、まだショックが抜けきらない。

 呆然としたまま、腕を引かれ、ホテルを出た。

 車でアパートまで送ってくれた時、完全に我に返った。

 ぶるぶると、頭を振る。唇を開こうとするが、言葉が見つからない。

「大丈夫だ。信じて待っていてくれ」

 青は、そう言って、柔らかな仕草で頭を撫でてくれた。

「うん」

(本当に私の思い描いていた現実が訪れるのかもしれない)

 淡い予感が胸をよぎる。笑顔で彼に応えられた。

 少しの不安と、たくさんの期待。

 車が遠ざかるまで、ぶんぶんと大きく手を振った。

 部屋に戻っても

 頬の火照りが収まらない。

 顔をばしゃばしゃ洗ったが、中々冷えてくれず、困った。

 ぺたん、ラグの上に座って、テーブルの上に携帯を置いた。

 少し休んだら、朝食と昼食を兼ねた食事にしよう。

 暫し、足りない睡眠を補うことにした。

 携帯の鳴る音がして、飛び起きる。

 ディスプレイには、『セイ』と表示されている。

「せ……青」

「昨夜は最高だったよ」

 目が覚めた。吐息混じりの声にぞくりとしたものを感じる。

「……っ」

 受話器を握ったまま、俯いた。

「……折り返しの連絡って? 」

「いきなり本題に入らなくてもいいだろう。俺との会話を楽しみたくないのか? 」

 言葉とは裏腹に声は、とてつもなく優しい。

「全然! ただ、どうしていいか分からなくて」

 正直な気持ちだった。

「悪い話ではかけないよ、これからは絶対にな」

「うん」

 ほっ、と息をつく。絶対にと強調した彼を愛おしく感じる。

 どこか、可愛らしいとも思った。

「これから、そっちへ行っても良いか? 」

「散らかってるから、片づけなきゃ。掃除も」

 携帯を顎に挟んだ格好でばたばた、と歩く。

 気が急いていたので、テーブルで足を打つというおまぬけな失態しったいをした。

「い……た……た……っ」

 小指だけじゃなくて踵をぶつけるなんて、私は。

「大丈夫か? 」

「だ、大丈夫。それより笑っているの? 」

 微妙に含み笑いしているような。

「悪いな。落ち着く時間もなかっただろうに。

 玄関まで迎えに行くから出よう」

 申し訳なさそうな彼に、くす、と笑みがこぼれる。

「……分かった」

 通話を終了すると、適当にブランチを摂る。

 トーストに目玉焼きをプラスしてサラダにカップスープもつけた。

 食器の後片付けをし、掃除をし始める。

 彼は中まで入ってこないだろうが、帰って来た時うんざりしたくなかった。

 掃除は思ったより早く済んだので、着替えを選びはじめる。

 マフラーを巻いて、ニットのワンピースを着た。バッグを持って部屋を出る。

 待たせるのは気が引けるので、車が来るのを外で待つことにした。

 これから、そっちへ行っていいかと聞いてきたのだから、

 いつ彼が来てもおかしくないのだ。

 バッグから、取り出した手袋をはめる。

 駐車場で待っていると、やがて青の愛車がやって来た。

 スピードを落とし、車をバックさせてくれる。

 開けてくれた助手席に乗り込むと

「なんだ、待ちきれなかったのか」

「青の様子が早く知りたくて」

 首をかしげると、ふ、と笑む気配があった。

「教えてやるよ、全部」

 唾をのむ。また心臓がうるさくなっていた。

 つばを飲む音が聞こえる。

 シートベルトをして座席を調節したのを確認すると車を走らせ始めた。

「どこへ行くの? 私のことを気遣ってくれたけど青もばたばた忙しかったんじゃない。

 別れてまだ何時間も経っていないんだから」

 もうすぐ夜になる時間だ。辺りは夕闇に支配されている。

 よく考えたら、何時間も寝ていたことになるが、

 朝までほとんど寝ていなかったのだから仕方がない。

「どこへ? 二人が暮らす部屋。忙しいのは慣れているから支障はない。

 お前のいない時間も充実した時間を過ごせたよ」

 一気に情報が流れ込んできて、整理できない。

(暮らす部屋!? さらっと物凄いこと言われたわ)

「着いたら理解できるさ」

 頷く姿はルームミラー越しに見えているだろう。

 ギアの上にある青の手に手を重ねた。

 ぎゅ、と掴まれる。

 停止して走り出しても、手を離せなかった。

 窓から流れる景色を見る。知らない道だ。

 高層マンションが、目の前に立ちはだかっている。

 その地下駐車場へと車は入っていった。

 見えてきた建物の地下へと車を進ませる。

 広いガレージの中で華麗にハンドルを切って青は車を止めた。

 開いた扉。ゆっくりと降りると、

「行こうか」

 瞳を細めて、彼が腕を引いてくれた。

「……ん」

 駐車場から、屋内へと繋がっているエレベーターで目指すフロアへと向かう。

 静かな振動をさせて動き出した箱の中で、沈黙を破ったのは私だった。

「青の暮らしてるマンションじゃなくて新しい所なの? 」

 聞かずとも違う場所だと気づいていたけど、

 もう一度確認せずにいられなかった。

 てっきり、あの部屋に行くのかと思っていたから。

「ああ、あそこは引き払う。二人で暮らすには手狭てぜまだ」

「そんなことないと思うわよ? 」

「長く住んでいたら暮らしに変化はつきものじゃないか? 」

「長く……一緒に……ってええ!? 」

(一緒に暮らすだけでも、どぎまぎしているのに、

 その先のことまで視野に入れるなんて……。変化って結婚して子供ができたらとか)

 勝手に想像して頬が熱くなった。

「着いた、悶々としてないで降りろ」

 たどり着いたフロアで、エレベータの扉がひらく。

 周りをきょろきょろと見ていると違和感に気づく。

「隣の部屋の扉がないわ」

「ワンフロア全部俺、いや俺たちの部屋だ」

「いいの……? 」

「こっちこそ勝手に進めているからな、お前にも後でサインをもらわないと」

 ぶんぶん、と首を振る。青に促うながされ部屋へと誘導されていく。

 かちゃり、と鍵がかかる音を聞いた。青は扉を背中にして立っている。

「もう一回聞くが、俺と住むか? 引っ越しさせてしまうことになるが」

「夢じゃなくて現実よね、だって展開が急すぎて」

「信じてくれていい。現実だ、ほら」

 鞄からすかさず取り出した書類を手渡すと、俺と書類とを見比べ始めた。

「本気なのね……もちろん、あなたと暮らしたいに決まってるわ! 」

「引っ越しに関しては、こちらで手配するから慌ただしく動く必要はない」

「よろしくお願いします」

 ぺこり、と頭を下げる。

 彼とこれから、始まるんだと思って浮き足立っていたが、

 それだけじゃなくて、とっておきのサプライズまで用意されていた。

 一緒に暮らす。

 胸がいっぱいで、つ、と鼻の奥が痺れる。

 勝手に滲む涙を堪えようと鼻をすすった。

「泣くのはもう少し後でいい。嫌ってほど啼くことになる」

「怖くないけど……嫌な予感が」

 舌っ足らずに言っても呆れられるだけかも。

「褒め言葉だな」

 色々な部屋を案内されて、改めて広さと大きさに驚いた。

 リビングにはまだソファとカーテンがあるのみだ。

 床にはラグカーペットが敷かれている。床暖房だろう。

「窓が全面ガラス張りなのね。素敵」

 窓から景色を見渡す。高層階からの眺めは絶景だった。

 もう少しで見事な夜景を見られるだろうけれど、

 何となく気恥ずかしくなりカーテンをさっと引いた。

「どこに何を置くかは二人で決めよう。他にも色々決めなければな」

「うん」

「今日これから予定あるか? 」

「特にはないわ。考えてないというか」

「このままここに泊まらないか。引っ越しするまでに宿泊して

 使い心地を試すことができるんだ」

「なにも、準備してないけど」

「大丈夫だ。車に置いてあるから取ってくる。待ってろ」

「……私も一緒に行く」

「すぐ戻るから、待っててくれ」

「わかった」

 相変わらず用意周到だ。

 袋を抱えて部屋に戻ってきた青の背中に腕を回した。

 ぽす、と袋が床に触れた音がした。

「イヴ一緒だったから、クリスマスまで、過ごせるとは思わなかった」

 とめどなく襲いかかってくる現実リアル。

 出逢ってから八か月が経とうとしていた。

 クリスマスに奇跡って起きるのだろうか。

 サンタクロースは実在すると信じている。

 強く抱擁を交わす。

 包み込まれた頬。視線が絡むと、自然と微笑むことができた。

「これからは、ずっと一緒だ。クリスマスも誕生日も全部」

 どちらともなく、口づけを交わす。

「愛してるわ……大好きな青」

 ありったけの想いを込めた。

「愛してるよ、沙矢」

 キスを幾度も交わしている内に体が、熱を帯びてきた。

 肩を抱かれて、窓辺に立つ。青が軽やかにカーテンを開けた。

 夜空には、たくさんの星たちが瞬いていて、

 真下には夜景が広がっている。

 肩を抱かれて、ソファから立ち上がる。

 ため息が漏れるほど、美しかった。

 彼が隣りにいるからだ。

「あのね……」

 もじもじと上目づかいに見上げたら、訝しげに見下ろされた。

「ん? 」

「きゃっ……何でもない! 」

「はっきり言わないと、今すぐ襲うぞ? 」

 びくっとした。頬が熱を持っている。

(もう、いいのかな。こんな風にしても)

 青の服の裾をおずおずと、掴んだ。

「いいの」 

「帰りたくないんだもの……」

 駄目? と首をかしげら、耳元でありがとうと囁かれる。

「何言ってんだよ今更。着替えまで用意したのに。啼くことになるって言っただろう? 」

「な……」

 ソファに押し倒される。

(青は、私の千歩は先を行っている。少なく見積もってだけど)

 頬から首筋を撫でられて、背中にぞくぞくとしたものが駆け抜けた。

「んん……っ」

 奪われた唇は、舌を絡めた後離れた。

「会社で冷やかされないように気をつけろよ。

 ああ、バスルームも使えるから安心しろ」

 何か言う余裕は欠片もない。

 吐息が弾むほどの激しいキスに眩暈めまいがし、

 体の線をたどる指は次第に大胆な動きをし始めている。

 身もだえる。彼の愛撫を受けては、声と体で啼いていた。



 これまでになく幸せな寝不足が訪れる予感。

 そして、明るい未来への希望を確信して瞳を閉じた。  

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