20 / 36
第一章「sinful relations」
番外編「騙す」(交互視点)
しおりを挟む
自分を騙すことと、相手を騙すことは、
どちらが、より不実なのだろう。
愛していると、囁きながら、愛していないと言い聞かせている。
(閨の中の睦言なんだよ、紛い言だ。
ぱらぱらと指先から零れる程度の)
吐き出す紫煙が宙に浮かんでは消える。
女の肉体を宿らせる清らかな少女は、時折顔をしかめながら眠っている。
安心して眠れない状況を打破するには、どうすればいいか、
答えは知っているはずなのに、自分を騙す。
真実、救われるのではなく一時楽になれればいい。
そんな弱さを、醜いと思った。
青は、くっと笑いながら、柔らかな肌を引き寄せた。
身勝手な欲は未だ、勢いを失わず彼女ー沙矢ーを求めていた。
「青……」
頬を包む手のひらを感じ目を覚ました沙矢は、
彼女に触れたまま、眠っている青に気づいた。
名を囁くと、彼だと実感する。
吐き出す息が、肩にかかる。長い睫が震えていた。
その寝顔を視界に焼きつけたくて、目を凝らして見つめる。
普段の鋭い表情が僅かに緩んで、彼の素を覗かせていた。
長めの前髪、切れ長の瞳、整った鼻梁、形のよい唇。
寸分の狂いもなく整った彫刻のような美貌を持つ人。
色を名前に持つ彼は、その色がとてもよく似合った。
澄み切った夏の空ではなく、深海の青。
「……ディープブルー」
手と手を取り合って泳ぎきる日がいつか必ず来る。
そう信じて自分を騙し彼を騙す。
愛に執着なんてしていない。
下手な芝居に興じているのだけれど。
気づいて。
悟られたくない。
二つの相反する気持ちが胸からあふれ出している。
広い背中にしがみついた。
ボディーソープと彼自身の匂いが溶け合って眩暈がするほどセクシーだ。
沙矢は、こてんと頬を預けて瞳を閉じた。
膨らみを押しつけているせいで、彼の欲を煽っていることなんて考えもしなかった。
腰の辺りで、かさかさと音が聞こえて、はっと気づいたとき体が反転した。
組み敷かれ見下ろされると、心臓が暴れる。
深遠の瞳が、沙矢を射抜き、懸命に見上げた。
頬、額、首筋、鎖骨へととめどなくキスは続く。
首筋に顔を埋められた時、内部を貫かれた。
熱い。焼き尽くされそうで、息を吐き出す。
擦られ、つぷと混ざった。意識が、朦朧とする。
「っ……あ、青……や……あ」
「何が嫌なんだよ。俺に抱かれるの好きだろ」
言葉と体の両方で責め苛まれ、血が沸騰するようだ。
背に爪を立てれば、更に勢いが激しくなった。
ホテルのベッドは、沙矢の部屋のベッドと違い、軋む音は立てない。
淫らな水音と、息遣いが響くだけだ。
絶え間なく上がる甘い嬌声と。
「私はあなたのこと……」
「言えないよな。すべてを壊したくないもんな」
安っぽいプライドが、邪魔をする。
紛いごとも積み重ねれば、真実に変わるのではないだろうか。
揺れる世界で、ぼんやりと宙を見つめる。
奔放に開かれた両足の間に、彼の体が割り込んでいた。
何故だろう。
彼の自由に抱かれながら、決して無碍に扱われていない気がするのは。
体重をかけないように、体をずらして、沙矢を抱いている。
僅かな隙間を開けて、触れ合っていた。
このやさしさは何より残酷で、沙矢を蝕む。
「好きだよ? 」
無感情の声音が肌に染み渡る。
「……好き……っ!」
無感情に対して、思い切り感情をこめて返す。
それが、沙矢にできる意趣返しだった。
この時間が、あなたに抱かれることが好きなのだと きっと伝わっただろう。
寄せては返す波に飲み込まれる。
荒々しく、時折酷く優しく。
本能で、求め合いながら心は、空しかった。
すべてをさらけ出すには、臆病すぎて、 少しずつ、気持ちを探って時間を重ねていく。
二人にできる唯一のこと。
体がどくんどくんと波打つ。意識が溶けた。
「っ……く」
後を追うように青が、息を吐いて沙矢の上に覆い被さってくる。
行為の後の濃密な気配に彩られた部屋で、
指先を繋いで、二人は、眠りの底へと意識を閉ざした。
昂ぶっているのは、体じゃなくて心。
お互いが、欲して止まないものだった。
どちらが、より不実なのだろう。
愛していると、囁きながら、愛していないと言い聞かせている。
(閨の中の睦言なんだよ、紛い言だ。
ぱらぱらと指先から零れる程度の)
吐き出す紫煙が宙に浮かんでは消える。
女の肉体を宿らせる清らかな少女は、時折顔をしかめながら眠っている。
安心して眠れない状況を打破するには、どうすればいいか、
答えは知っているはずなのに、自分を騙す。
真実、救われるのではなく一時楽になれればいい。
そんな弱さを、醜いと思った。
青は、くっと笑いながら、柔らかな肌を引き寄せた。
身勝手な欲は未だ、勢いを失わず彼女ー沙矢ーを求めていた。
「青……」
頬を包む手のひらを感じ目を覚ました沙矢は、
彼女に触れたまま、眠っている青に気づいた。
名を囁くと、彼だと実感する。
吐き出す息が、肩にかかる。長い睫が震えていた。
その寝顔を視界に焼きつけたくて、目を凝らして見つめる。
普段の鋭い表情が僅かに緩んで、彼の素を覗かせていた。
長めの前髪、切れ長の瞳、整った鼻梁、形のよい唇。
寸分の狂いもなく整った彫刻のような美貌を持つ人。
色を名前に持つ彼は、その色がとてもよく似合った。
澄み切った夏の空ではなく、深海の青。
「……ディープブルー」
手と手を取り合って泳ぎきる日がいつか必ず来る。
そう信じて自分を騙し彼を騙す。
愛に執着なんてしていない。
下手な芝居に興じているのだけれど。
気づいて。
悟られたくない。
二つの相反する気持ちが胸からあふれ出している。
広い背中にしがみついた。
ボディーソープと彼自身の匂いが溶け合って眩暈がするほどセクシーだ。
沙矢は、こてんと頬を預けて瞳を閉じた。
膨らみを押しつけているせいで、彼の欲を煽っていることなんて考えもしなかった。
腰の辺りで、かさかさと音が聞こえて、はっと気づいたとき体が反転した。
組み敷かれ見下ろされると、心臓が暴れる。
深遠の瞳が、沙矢を射抜き、懸命に見上げた。
頬、額、首筋、鎖骨へととめどなくキスは続く。
首筋に顔を埋められた時、内部を貫かれた。
熱い。焼き尽くされそうで、息を吐き出す。
擦られ、つぷと混ざった。意識が、朦朧とする。
「っ……あ、青……や……あ」
「何が嫌なんだよ。俺に抱かれるの好きだろ」
言葉と体の両方で責め苛まれ、血が沸騰するようだ。
背に爪を立てれば、更に勢いが激しくなった。
ホテルのベッドは、沙矢の部屋のベッドと違い、軋む音は立てない。
淫らな水音と、息遣いが響くだけだ。
絶え間なく上がる甘い嬌声と。
「私はあなたのこと……」
「言えないよな。すべてを壊したくないもんな」
安っぽいプライドが、邪魔をする。
紛いごとも積み重ねれば、真実に変わるのではないだろうか。
揺れる世界で、ぼんやりと宙を見つめる。
奔放に開かれた両足の間に、彼の体が割り込んでいた。
何故だろう。
彼の自由に抱かれながら、決して無碍に扱われていない気がするのは。
体重をかけないように、体をずらして、沙矢を抱いている。
僅かな隙間を開けて、触れ合っていた。
このやさしさは何より残酷で、沙矢を蝕む。
「好きだよ? 」
無感情の声音が肌に染み渡る。
「……好き……っ!」
無感情に対して、思い切り感情をこめて返す。
それが、沙矢にできる意趣返しだった。
この時間が、あなたに抱かれることが好きなのだと きっと伝わっただろう。
寄せては返す波に飲み込まれる。
荒々しく、時折酷く優しく。
本能で、求め合いながら心は、空しかった。
すべてをさらけ出すには、臆病すぎて、 少しずつ、気持ちを探って時間を重ねていく。
二人にできる唯一のこと。
体がどくんどくんと波打つ。意識が溶けた。
「っ……く」
後を追うように青が、息を吐いて沙矢の上に覆い被さってくる。
行為の後の濃密な気配に彩られた部屋で、
指先を繋いで、二人は、眠りの底へと意識を閉ざした。
昂ぶっているのは、体じゃなくて心。
お互いが、欲して止まないものだった。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました
加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
私を溺愛してくれたのは同期の御曹司でした
日下奈緒
恋愛
課長としてキャリアを積む恭香。
若い恋人とラブラブだったが、その恋人に捨てられた。
40歳までには結婚したい!
婚活を決意した恭香を口説き始めたのは、同期で仲のいい柊真だった。
今更あいつに口説かれても……
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
羽村美海
恋愛
古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。
とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。
そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー
住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……?
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
✧天澤美桜•20歳✧
古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様
✧九條 尊•30歳✧
誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
*西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨
※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。
※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。
※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。
✧
✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧
✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧
【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】
社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる