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第一章「sinful relations」
番外編「騙す」(交互視点)
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自分を騙すことと、相手を騙すことは、
どちらが、より不実なのだろう。
愛していると、囁きながら、愛していないと言い聞かせている。
(閨の中の睦言なんだよ、紛い言だ。
ぱらぱらと指先から零れる程度の)
吐き出す紫煙が宙に浮かんでは消える。
女の肉体を宿らせる清らかな少女は、時折顔をしかめながら眠っている。
安心して眠れない状況を打破するには、どうすればいいか、
答えは知っているはずなのに、自分を騙す。
真実、救われるのではなく一時楽になれればいい。
そんな弱さを、醜いと思った。
青は、くっと笑いながら、柔らかな肌を引き寄せた。
身勝手な欲は未だ、勢いを失わず彼女ー沙矢ーを求めていた。
「青……」
頬を包む手のひらを感じ目を覚ました沙矢は、
彼女に触れたまま、眠っている青に気づいた。
名を囁くと、彼だと実感する。
吐き出す息が、肩にかかる。長い睫が震えていた。
その寝顔を視界に焼きつけたくて、目を凝らして見つめる。
普段の鋭い表情が僅かに緩んで、彼の素を覗かせていた。
長めの前髪、切れ長の瞳、整った鼻梁、形のよい唇。
寸分の狂いもなく整った彫刻のような美貌を持つ人。
色を名前に持つ彼は、その色がとてもよく似合った。
澄み切った夏の空ではなく、深海の青。
「……ディープブルー」
手と手を取り合って泳ぎきる日がいつか必ず来る。
そう信じて自分を騙し彼を騙す。
愛に執着なんてしていない。
下手な芝居に興じているのだけれど。
気づいて。
悟られたくない。
二つの相反する気持ちが胸からあふれ出している。
広い背中にしがみついた。
ボディーソープと彼自身の匂いが溶け合って眩暈がするほどセクシーだ。
沙矢は、こてんと頬を預けて瞳を閉じた。
膨らみを押しつけているせいで、彼の欲を煽っていることなんて考えもしなかった。
腰の辺りで、かさかさと音が聞こえて、はっと気づいたとき体が反転した。
組み敷かれ見下ろされると、心臓が暴れる。
深遠の瞳が、沙矢を射抜き、懸命に見上げた。
頬、額、首筋、鎖骨へととめどなくキスは続く。
首筋に顔を埋められた時、内部を貫かれた。
熱い。焼き尽くされそうで、息を吐き出す。
擦られ、つぷと混ざった。意識が、朦朧とする。
「っ……あ、青……や……あ」
「何が嫌なんだよ。俺に抱かれるの好きだろ」
言葉と体の両方で責め苛まれ、血が沸騰するようだ。
背に爪を立てれば、更に勢いが激しくなった。
ホテルのベッドは、沙矢の部屋のベッドと違い、軋む音は立てない。
淫らな水音と、息遣いが響くだけだ。
絶え間なく上がる甘い嬌声と。
「私はあなたのこと……」
「言えないよな。すべてを壊したくないもんな」
安っぽいプライドが、邪魔をする。
紛いごとも積み重ねれば、真実に変わるのではないだろうか。
揺れる世界で、ぼんやりと宙を見つめる。
奔放に開かれた両足の間に、彼の体が割り込んでいた。
何故だろう。
彼の自由に抱かれながら、決して無碍に扱われていない気がするのは。
体重をかけないように、体をずらして、沙矢を抱いている。
僅かな隙間を開けて、触れ合っていた。
このやさしさは何より残酷で、沙矢を蝕む。
「好きだよ? 」
無感情の声音が肌に染み渡る。
「……好き……っ!」
無感情に対して、思い切り感情をこめて返す。
それが、沙矢にできる意趣返しだった。
この時間が、あなたに抱かれることが好きなのだと きっと伝わっただろう。
寄せては返す波に飲み込まれる。
荒々しく、時折酷く優しく。
本能で、求め合いながら心は、空しかった。
すべてをさらけ出すには、臆病すぎて、 少しずつ、気持ちを探って時間を重ねていく。
二人にできる唯一のこと。
体がどくんどくんと波打つ。意識が溶けた。
「っ……く」
後を追うように青が、息を吐いて沙矢の上に覆い被さってくる。
行為の後の濃密な気配に彩られた部屋で、
指先を繋いで、二人は、眠りの底へと意識を閉ざした。
昂ぶっているのは、体じゃなくて心。
お互いが、欲して止まないものだった。
どちらが、より不実なのだろう。
愛していると、囁きながら、愛していないと言い聞かせている。
(閨の中の睦言なんだよ、紛い言だ。
ぱらぱらと指先から零れる程度の)
吐き出す紫煙が宙に浮かんでは消える。
女の肉体を宿らせる清らかな少女は、時折顔をしかめながら眠っている。
安心して眠れない状況を打破するには、どうすればいいか、
答えは知っているはずなのに、自分を騙す。
真実、救われるのではなく一時楽になれればいい。
そんな弱さを、醜いと思った。
青は、くっと笑いながら、柔らかな肌を引き寄せた。
身勝手な欲は未だ、勢いを失わず彼女ー沙矢ーを求めていた。
「青……」
頬を包む手のひらを感じ目を覚ました沙矢は、
彼女に触れたまま、眠っている青に気づいた。
名を囁くと、彼だと実感する。
吐き出す息が、肩にかかる。長い睫が震えていた。
その寝顔を視界に焼きつけたくて、目を凝らして見つめる。
普段の鋭い表情が僅かに緩んで、彼の素を覗かせていた。
長めの前髪、切れ長の瞳、整った鼻梁、形のよい唇。
寸分の狂いもなく整った彫刻のような美貌を持つ人。
色を名前に持つ彼は、その色がとてもよく似合った。
澄み切った夏の空ではなく、深海の青。
「……ディープブルー」
手と手を取り合って泳ぎきる日がいつか必ず来る。
そう信じて自分を騙し彼を騙す。
愛に執着なんてしていない。
下手な芝居に興じているのだけれど。
気づいて。
悟られたくない。
二つの相反する気持ちが胸からあふれ出している。
広い背中にしがみついた。
ボディーソープと彼自身の匂いが溶け合って眩暈がするほどセクシーだ。
沙矢は、こてんと頬を預けて瞳を閉じた。
膨らみを押しつけているせいで、彼の欲を煽っていることなんて考えもしなかった。
腰の辺りで、かさかさと音が聞こえて、はっと気づいたとき体が反転した。
組み敷かれ見下ろされると、心臓が暴れる。
深遠の瞳が、沙矢を射抜き、懸命に見上げた。
頬、額、首筋、鎖骨へととめどなくキスは続く。
首筋に顔を埋められた時、内部を貫かれた。
熱い。焼き尽くされそうで、息を吐き出す。
擦られ、つぷと混ざった。意識が、朦朧とする。
「っ……あ、青……や……あ」
「何が嫌なんだよ。俺に抱かれるの好きだろ」
言葉と体の両方で責め苛まれ、血が沸騰するようだ。
背に爪を立てれば、更に勢いが激しくなった。
ホテルのベッドは、沙矢の部屋のベッドと違い、軋む音は立てない。
淫らな水音と、息遣いが響くだけだ。
絶え間なく上がる甘い嬌声と。
「私はあなたのこと……」
「言えないよな。すべてを壊したくないもんな」
安っぽいプライドが、邪魔をする。
紛いごとも積み重ねれば、真実に変わるのではないだろうか。
揺れる世界で、ぼんやりと宙を見つめる。
奔放に開かれた両足の間に、彼の体が割り込んでいた。
何故だろう。
彼の自由に抱かれながら、決して無碍に扱われていない気がするのは。
体重をかけないように、体をずらして、沙矢を抱いている。
僅かな隙間を開けて、触れ合っていた。
このやさしさは何より残酷で、沙矢を蝕む。
「好きだよ? 」
無感情の声音が肌に染み渡る。
「……好き……っ!」
無感情に対して、思い切り感情をこめて返す。
それが、沙矢にできる意趣返しだった。
この時間が、あなたに抱かれることが好きなのだと きっと伝わっただろう。
寄せては返す波に飲み込まれる。
荒々しく、時折酷く優しく。
本能で、求め合いながら心は、空しかった。
すべてをさらけ出すには、臆病すぎて、 少しずつ、気持ちを探って時間を重ねていく。
二人にできる唯一のこと。
体がどくんどくんと波打つ。意識が溶けた。
「っ……く」
後を追うように青が、息を吐いて沙矢の上に覆い被さってくる。
行為の後の濃密な気配に彩られた部屋で、
指先を繋いで、二人は、眠りの底へと意識を閉ざした。
昂ぶっているのは、体じゃなくて心。
お互いが、欲して止まないものだった。
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