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第一章「sinful relations」
第11話「プレゼント」
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名前を呼んで、と彼にねだった。
消え入りそうな声で、泣き叫びながら。
赤い月に狂った夜から、積極的になっている自分に驚愕している。
卑猥な要求をされても、飲んでしまうのは、『好き』で片付けられないほど愛しているから。
僅かな憎しみは掻き消され、激しい愛情が、この体に芽生えて焼きつくした。
昔の自分なんてもはや思いだせやしない。
ぼんやりしていると携帯が着信を知らせた。
「今日、会える? 」
どくん、心臓が打ち震える。
どうして声を聞くだけで、こんなにも胸がときめくのだろう。
「……うん」
「誕生日なんだ」
これじゃ即答したのか、空返事なのか、分からない。
青は気に留めずにぽつりぽつりと続きを話す。
まるで、ゆっくりと話したがっているかのように。
「プレゼント用意してないわ。ごめんなさい」
「普通の恋人同士じゃないんだから、そんなこと気にしなくていいんだよ」
その言葉に胸に痛みを覚えたけれど、今までの青と違う気がするのは、気のせいだろうか?
「そうよね」
「会えるだけでいい」
素っ気ない言葉でも奇妙に嬉しかった。
ひと月前の月の夜、大胆にも青を誘った。
あの時、青を引き寄せられるか、嫌われてしまうか大きな賭けをしていた。
反応が怖かったけど、なるようにしかならないと思い切った。
今日、青はどんな顔をしているのだろう。
関係が良い方向に動けばいい。
ツーツーツー。
会話が終了したスマートフォンを握り締め、祈っていた。
私は彼が来るまでに、プレゼントの準備をしなければと思い、 服を着替えて、外出をした。
折角なら喜んでもらえる物を渡したい。
彼の姿を思い出しながら、色々な店を回る。
そんなに高価なものは買えないけど、彼に似合うとっておきの物が見つかれば良い。
ドキドキしていた。
その時ふと立ち寄ったアクセサリーショップで視界に飛び込んできたもの。
トップ部分は、クロスで、革紐がついたチョーカー。
これだと思った。
手に取り確かめ、気づけばすぐにレジに向かう自分がいた。
プレゼント用の包装をしてもらう。
カードには私の名前と彼の名前。
包装されたチョーカーを大事に抱えて店を出る。
スーパーに立ち寄り、買い物をして、急いで家に帰ると丁度携帯が鳴り響いた。
「8時にはそっちに行けそうだけど、大丈夫か? 」
「大丈夫。待ってるね」
青の声は心なしか普段より優しく感じた。
急いで夕食の準備をする。
青の好きなパスタと野菜サラダ。常時買い置きしているシャンパン。
もちろんあれ以来私は飲んでいないので、彼が飲む専用だ。
特に豪勢でもない普通の食事。
誕生日だからと特別なことをしたら、別れた後が辛い。
ろうそくを立てたケーキでお互いの誕生日を祝う。
このまま関係が続けばいつかそんな日が来るのだろうか。
ぼんやりと頭に思い浮かべる。
意識しないようにするほどに考えてしまうのが、虚しい。
茹で終わったパスタにソースを絡める。
時間通りに彼が来るなら温かい内に食べられるだろう。
今は7時50分だ。
シャンパンとグラスをテーブルに置き、サラダを盛りつける。
ドレッシングはサラダオイルにお醤油等を混ぜた自家製だ。
青が自然の物が好きなので、自分もなるべく食事には気をつけるようにしていたら、お肌の調子もよくなった。
『どうせ食べるなら美味しくて体にもいいものが食べたいだろ?』と言っていた青。
プレゼントを包装した袋を膝に抱いて椅子に座る。
もうそろそろ彼が来る時間。
壁にかけられた時計を見てそわそわする。
待ち遠しい。早く顔が見たい。
どんな音も聞き逃さないように、耳をすませる。
階段を上がる足音。 長身だから歩幅が広い。
チャイムの音が鳴る。
「青」
ばたばたと落ち着きなく駆け出した。
ドアの鍵を開け、青を迎え入れる。
「会いたかった」
私の台詞を奪われた。 どうして彼の声を聞くだけでこんなに満たされるの。
不安が全部掻き消されてしまうの?
それは彼の魔力のせいだわ。
抱きつく寸前で体を引っ込める。
青は、微かに微笑んでいた。
「お祝いしましょう」
「ああ」
椅子をすすめると優雅な仕草で腰を下ろした。
それから、静かに食事を終えた。
「……美味かった」
完食してくれた青に、ホッと胸をなでおろした。
プレゼントのことを言わなければと、少し焦って口を開く。
「あれから用意したの」
少し上ずっている声に、興奮してしまっている自分を知る。
かさり。立ち上がる時、自分の椅子に預けた袋を手渡す。
緊張で、手が汗ばんでいる。
「開けてもいい? 」
「どうぞ」
丁寧に袋が開封され、チョーカーが取り出される。
目を細め、青は手に取り暫くそれを眺めていた。
私の心臓は高い音を立てている。
どんな反応をされるだろう。
「ありがとう」
青は私を真っ直ぐ見つめていた。
つけてあげたいと思い、手を伸ばそうとするのを 遮るように自分でチョーカーをつけた。
「気に入ったよ」
淡々とした呟きにも喜びで心は舞い躍る。
「良かった」
青はまたそれをじっと見つめた後、衣服の中にチョーカーをしまいこんだ。
それは私を閉じ込めてくれたみたいな錯覚を起こす。
相変わらず妄想が激しすぎる。
「美味しそうだな」
並べられた料理を見た青が呟く。
「凝ったものじゃないけどね」
「沙矢はどんなことにも手を抜かないから、好きだ」
「え……? 」
「俺の好みも全部頭に入れて、好きになれるよう努力していて、
……いつかはちゃんと言わなきゃ駄目だな」
期待しても良いの?
来年のこの日もあなたは一緒にいるって。
「本当にありがとう。最高の誕生日だよ」
頭を引き寄せられて、彼の胸の鼓動を聞く。
刹那の甘い抱擁が、永遠にも等しく感じる。 願望ゆえの錯覚だと、知っていたけれど。
ぽろぽろと涙が零れて手のひらに落ちる。
「もう夜だが、お前がいいなら出かけないか? 」
耳元でささやかれた言葉に、目を見開く。
壁時計を確認した後こくんと頷く。骨ばった手のひらに触れた。
少し低い温度は男の人だからだろうか。指先が僅かに触れ合う。
「自分の誕生日を特に嬉しいとか祝ってほしいとは思ってなかったんだが」
途切れた言葉の先をプラスの方向に考えてみる。
気づけば、笑みを浮かべて、頷いていた。
「先に車で待ってて。すぐに行くわ」
空気と混ざり合う位低い囁きを残し青は部屋の扉を開けた。
ベッドの下のハンドバッグを引き寄せる。
自分の誕生日を祝ってもらうことよりも、
青の誕生日を祝える方がずっと嬉しい。
誕生日は特別なはずで、親密な関係じゃないと伝えたりしないものだと思う。
きっと、意味があることなんだって信じてみたい。
鏡でメイクと、髪を確認し、部屋を出た。
青の車が駐車してある場所まで行くと、
中から、助手席のドアを開いてくれる。
すっかり慣れてしまった行為をすんなりと受け入れる。
彼以外でも男性は皆こんなにスマートな行動をするのだろうか。
分からないし、知りたいとも特に思わなかった。
車は高速に乗った。ウィンカーを出して軽やかに前後の車両の間に入っていく。
車を運転している時の青は、どきっとしてしまうくらい静かだ。
普段から感情が読み取りにくいけれど、車を運転する時はまた違って、
彼が別の世界に行って一人置いていかれたような感覚に陥る。
時に会話をすることもあるが、車内では、より緊張を伴った。
単に運転に集中しているだけなのかもしれない。
この空間は二人で過ごすどの場所よりも狭い密室。
(青もどきどきしてる? )
「……気まぐれなんかじゃないってことは、分かってくれるか」
ふいに掛けられた言葉の意味を探り、
「そうだったらいいなって思ってたから」
「ありがとう」
はにかんで、ふるふると首を振る。そっと重ねられた手のひらに、ほわ、と心が温かくなった。
「言葉が足りないズルい男を受け入れてくれて、感謝してる」
少し硬い口調で、彼は言った。
瞳が潤んできて泣きたくないと、前方を強く見据えた。
切ないって安易に表現できないくらい、狂おしくなる。
車が停車して、助手席の扉が開く。 差しのべられた手を取る前に、きょとんと見上げて座席から立ち上がる。
車内から外に出ると、夜でももう大分涼しくなったと感じた。
空気を吸い込んで、深呼吸する。
出逢ってからもう5ヶ月と少し経つのだけど、時間を無駄にはしていないはずだ。
細く長い指先が絡んで、先へと誘導する。
通い慣れたホテル。ここは会員制の極めてプライベートな場所だ。
フロントでキーを受け取り、彼は開いている方の手で私の手を強く握りしめた。
乗り込んだエレベーター内でそわそわして隣りにいる長身を見つめる。
青はエレベーターを降りるまで、一度もこちらを向くことなく、前方を見据えていた。
青は、部屋に入ると、ジャケットを脱ぎ捨て、タイを緩めた。
強い視線を感じ、少しうろたえる。
研ぎ澄まされた刃物のように眩くて、鋭利な眼差し。
体から力が抜けて、ハンドバッグを床に投げ出した。そのままベッドに、すとん、と腰を下ろした。
心臓がざわついている。食い入るような視線に、追いつめられてしまう。
くいと持ち上げられた顎。整った造作が迫り、後ろの壁に体を凭れかけた。
手首が、掴まれている。放そうと思えば放すことができる微妙な力加減だが、
逃げたいと言うより、このまま捕まっていたいと思った。
「いい物をくれたな」
口の端が上がっている。
青は、私が贈ったチョーカーのヘッド部分を手のひらに乗せて、唇を寄せた。
何故か、どきんと胸が高鳴った。
「……喜んでもらえてよかった」
ほっ、と胸をなでおろして微笑む。交差された指先から、熱い痺れが伝わってくる。
彼の不安定な体勢が気になり、ベッドのシーツをぽんぽんと叩いて隣りを勧めた。
「吸っていいか? 」
「ええ」
煙草をくわえ、火をつける。ひとつひとつの動作が様になり絵になる人。
あまりに見すぎるのも失礼だしと別の方向を見ていると、紫煙が途切れた。
灰皿には、揉み消された煙草。
ほぼ最初と同じ長さなのは、フィルターを噛んだ程度で火を消したからだろう。
「……お前に甘えてるみたいだな」
「あなたが甘えるって似合わないわ」
「誕生日に側にいてほしいなんて、俺は言える立場じゃない」
「……それって彼女でもないのにずうずうしいのかな。
教えてもらえて嬉しくて、取り乱してたなんて知らないでしょう? 」
「……沙矢」
苦しそうな声。
恐る恐る伸ばされた指が、頬を撫でて離れる。
「一方的にしてもらってばかりだな」
「だったら、私の誕生日に一緒にいられたら祝って」
涙声にならないよう気をつけていたけど、声を荒げてしまったのは事実だ。
情けなくて唇を噛む。心が、繋がっていないことに打ちのめされる。
「ああ……分かった」
「……おめでとうってちゃんと言いたかったのに」
潤んだ目元に、唇が触れた。ぞくりとする。
「悪い」
飲み干すように雫が、掬われる。
耳元に落ちた謝罪の言葉に頭を振る。
強く抱き寄せられて、嗚咽を噛み殺す。
「……私と居たいって思ってくれたの? 」
「ああ」
それだけで、天にも昇る心地になった。
「もう一つのプレゼント受け取ってくれる? 」
勇気を出して、問いかけてみる。腕の中で、彼の胸に頬を押しつけていた。
深く、息を吐く音。
顔を上げたら、彼は薄く笑っていた。
頷いて、衣服を脱いで、ブラジャーを外す。
とても勇気が必要な行動だけれど、彼の前では大胆になれるのだ。
ゆっくりと、抱きつく。腕を回して首に絡める。
ワイシャツの生地が肌に擦れて、淡い感覚が湧いてくる。
頂きが、早くも固く張り詰めていた。チョーカーの金属が髪に触れる。
本当にあげたかったプレゼントは、私。
首筋に頬を押し付けていると、ぐいと腰を抱えこまれる。
彼が、私の顔に影を重ねた。
唇が触れる寸前で止まる。私の出方を見定めているようだった。
息を飲みこんで唇を重ね合わせた。
軽いリップノイズ。ゆっくりと触れて離すと頭を押さえつけられた。
そのまま深く重なる。吐息が、漏れるほどの濃厚なキス。
無我夢中で、応える。乱暴に髪を掻きまぜられる。
熱い唇と手が、首筋から降りていく。
白くなる思考で、わけが分からなくなりそうな中、肌に唇が触れたのを感じた。
輪郭をなぞられ、頂きに吐息がかかる。
何度となく遠くへいく寸前で引きとめられ、悶えた後、
ようやく唇が肝心の部分を愛撫し始める。
体が震え、指を噛む。濡れた感覚は、彼の唾液だけじゃなく、私の奥が潤ったからだった。
「……っ……ああ……駄目っ」
歯を立てられた瞬間、ぐったりと体が傾いだ。
掴まれた腕。横たえられた体。
うっすらと瞳を開けた時、ベッドに肘をついて見下ろされていた。
上半身裸の青からは、汗と香水の混じった独特の匂い。
首筋にかけられたチョーカーが、光を弾いて目を庇う。
すぐに灯りを消されて、室内は暗闇に閉ざされた。
さら、と髪の一筋が掬われて、どきんとする。
「最後まで楽しませろ。プレゼントくれるんじゃなかったのか? 」
頬が火照り、目も潤んできた。結局、私から彼に渡すのは無理だったということ。
「いい。十分だ。それだけ煽ってもらえたんだからな」
耳を食まれる。舌が這って肌があわ立っ。
「こっちから、奪えばいいってことだろう? 」
「ふ……っ……っあ」
下から押し上げ、荒々しく揉みしだかれる。
手のひらに包まれている方は指の腹で頂きを擦られて、片方は舌で挟まれている。
せめて自分から、あげるという意思を見せたいと両腕を上向けて伸ばしていた。
感じとってくれた?
溜息をついた青が、頭を横に振る。
「……これ以上はないプレゼントだよ。呆れるくらいにな」
「喜んで……くれたの?」
「教えてやろうか?」
傲慢な唇が、覆いかぶさってくる。
甘さを含んだキスを降らせながら、太腿に指を沿わせていく。
ぞく、と駈け上ってくる。腰が揺れて、唇から卑猥な吐息。
この時間を楽しんで味わっている。私自身をじわり、じわり捕食しているのだ。
脇を舌がなぞる。秘所に指が、忍び込んで音を立てた。
掻き出す音。長い指はあくまでも冷静にこちらを追いつめていた。
「……っ……や……あ」
指よりも唇で直接触れられるのは苦手だった。
「何が嫌だって? これだけ貪欲に震えているくせに? 」
「い、言わないで……そんな……あっ……ふ」
いきなり吸い上げられた頂きから、体の奥に電流が流れた。
ふくらみを揉みしだかれ、深く唇が重なる。
指が最奥を突いた時、目眩を覚え、瞬く間に意識が白く染まった。
舌舐めずりする姿に眼が釘づけになる。ベルトを外す音が鮮明に聞こえてきて枕に顔を押しつけた。
知っているし、これから彼を受け入れるのだけれど、冷静に見つめることはできない。
包装を破る音の後、ベッドに体重がかかった。
私の部屋のベッドのように、音はしない。
しなやかな背中に指を伸ばす。彼を形作るすべてが艶めかしかった。
何故かかあっと体が熱くなって恥ずかしい。
火照りを冷まして、いいえ、もっと熱くなりたい。
瞳を閉じる。
「っ……青」
いきなり抱きしめられて、すっぽりと包みこまれる。
誕生日だから、うんと優しくしてくれるの?
広い背中に腕を回した。しっとりと汗ばんだ肌の上で指が滑った。
「今だけ思う存分、甘えておけ」
不器用な台詞に、涙がこぼれる。
猛り、昂ぶっている熱をぎりぎりの所で宥めすかし、一時の抱擁を分け合う。
泣けてくるのを止められない。温かった。でも、僅かでいい。
溺れてしまう。
「私をあなたに、あげる」
頭を上げた彼に、緩く微笑んで頷く。
挑発的な唇が首筋を甘噛みした瞬間、突き入れられた。
彼の動きに合わせて、体が弾む。
奥に熱く堅い欲望が、ぶつかり、掻きまぜる。揺れる胸を掴まれた。
「無垢なお前を汚すのは、罪悪感があったが」
「……っ……どういう」
「お前を汚すほどに、結局俺が汚れていることに気づいて開き直ったさ」
腕を引かれて、肘をシーツについて、腰を浮かせる。
鏡に映したように向かい合わせの体勢で、貫かれる。
体勢は変化したもののその間一度も私の中から、昂ぶりは抜け出ていなかった。
「ああ……っ……ん」
緩慢な動作に、じれったく感じ始めた頃に動きが勢いを増す。
波音が高まり、低い呻きになる。
片手がきついくらい繋がれていて、胸が詰まる。
近づきたくて抱きついたら、ぐっ、と深くねじ込まれた。
「っああっ」
「欲しかったんだろ? 」
鋭く繰り出され、腕に、爪を立てた。
薄膜越しに、飛沫が放たれる。
何度も繰り返されたそれが、私の中で混ざってしまう。
荒い息をついて、ぐったりと凭れかかる。
「……バレてない振りをしてるとしたら、お前は、大人だな」
微かなアルコールの匂いに、瞬きする。
車を運転するはずの青が、お酒を飲んでいるのだ。
ぼんやりと瞼をこする。
彼が傾けるグラスにはビールより色が濃い液体が注がれていた。
「お酒飲んで大丈夫なの? 」
「ああ。すぐ帰るわけじゃないからな」
酔いが醒めるまでは一緒にいられるということだ。
からん、涼しげな氷の音がする。
いつの間にお酒を用意したんだろう。
肌にシーツを巻きつけている私と違い、彼はバスローブを着ているのも気にかかった。
「今日くらいゆっくりしてもいいだろう」
自分に言い聞かせているみたいだった。
もぞもぞとシーツの中で足を動かす。
けだるくて、起き上がるのが辛い。
「ん……っ」
引き寄せられ、アルコール味のキスを受ける。
「まだ朝は来ない。残念なのか、幸いなのかは分からないがな」
瞼を伏せて、俯く。
(幸いなのよ。少なくとも、私にとってはだけれど)
きっと、私は、満面の笑みを浮かべているのだろう。
顔を伏せているせいで、彼の表情は見えなかったけれど、これでよかったのだ。
消え入りそうな声で、泣き叫びながら。
赤い月に狂った夜から、積極的になっている自分に驚愕している。
卑猥な要求をされても、飲んでしまうのは、『好き』で片付けられないほど愛しているから。
僅かな憎しみは掻き消され、激しい愛情が、この体に芽生えて焼きつくした。
昔の自分なんてもはや思いだせやしない。
ぼんやりしていると携帯が着信を知らせた。
「今日、会える? 」
どくん、心臓が打ち震える。
どうして声を聞くだけで、こんなにも胸がときめくのだろう。
「……うん」
「誕生日なんだ」
これじゃ即答したのか、空返事なのか、分からない。
青は気に留めずにぽつりぽつりと続きを話す。
まるで、ゆっくりと話したがっているかのように。
「プレゼント用意してないわ。ごめんなさい」
「普通の恋人同士じゃないんだから、そんなこと気にしなくていいんだよ」
その言葉に胸に痛みを覚えたけれど、今までの青と違う気がするのは、気のせいだろうか?
「そうよね」
「会えるだけでいい」
素っ気ない言葉でも奇妙に嬉しかった。
ひと月前の月の夜、大胆にも青を誘った。
あの時、青を引き寄せられるか、嫌われてしまうか大きな賭けをしていた。
反応が怖かったけど、なるようにしかならないと思い切った。
今日、青はどんな顔をしているのだろう。
関係が良い方向に動けばいい。
ツーツーツー。
会話が終了したスマートフォンを握り締め、祈っていた。
私は彼が来るまでに、プレゼントの準備をしなければと思い、 服を着替えて、外出をした。
折角なら喜んでもらえる物を渡したい。
彼の姿を思い出しながら、色々な店を回る。
そんなに高価なものは買えないけど、彼に似合うとっておきの物が見つかれば良い。
ドキドキしていた。
その時ふと立ち寄ったアクセサリーショップで視界に飛び込んできたもの。
トップ部分は、クロスで、革紐がついたチョーカー。
これだと思った。
手に取り確かめ、気づけばすぐにレジに向かう自分がいた。
プレゼント用の包装をしてもらう。
カードには私の名前と彼の名前。
包装されたチョーカーを大事に抱えて店を出る。
スーパーに立ち寄り、買い物をして、急いで家に帰ると丁度携帯が鳴り響いた。
「8時にはそっちに行けそうだけど、大丈夫か? 」
「大丈夫。待ってるね」
青の声は心なしか普段より優しく感じた。
急いで夕食の準備をする。
青の好きなパスタと野菜サラダ。常時買い置きしているシャンパン。
もちろんあれ以来私は飲んでいないので、彼が飲む専用だ。
特に豪勢でもない普通の食事。
誕生日だからと特別なことをしたら、別れた後が辛い。
ろうそくを立てたケーキでお互いの誕生日を祝う。
このまま関係が続けばいつかそんな日が来るのだろうか。
ぼんやりと頭に思い浮かべる。
意識しないようにするほどに考えてしまうのが、虚しい。
茹で終わったパスタにソースを絡める。
時間通りに彼が来るなら温かい内に食べられるだろう。
今は7時50分だ。
シャンパンとグラスをテーブルに置き、サラダを盛りつける。
ドレッシングはサラダオイルにお醤油等を混ぜた自家製だ。
青が自然の物が好きなので、自分もなるべく食事には気をつけるようにしていたら、お肌の調子もよくなった。
『どうせ食べるなら美味しくて体にもいいものが食べたいだろ?』と言っていた青。
プレゼントを包装した袋を膝に抱いて椅子に座る。
もうそろそろ彼が来る時間。
壁にかけられた時計を見てそわそわする。
待ち遠しい。早く顔が見たい。
どんな音も聞き逃さないように、耳をすませる。
階段を上がる足音。 長身だから歩幅が広い。
チャイムの音が鳴る。
「青」
ばたばたと落ち着きなく駆け出した。
ドアの鍵を開け、青を迎え入れる。
「会いたかった」
私の台詞を奪われた。 どうして彼の声を聞くだけでこんなに満たされるの。
不安が全部掻き消されてしまうの?
それは彼の魔力のせいだわ。
抱きつく寸前で体を引っ込める。
青は、微かに微笑んでいた。
「お祝いしましょう」
「ああ」
椅子をすすめると優雅な仕草で腰を下ろした。
それから、静かに食事を終えた。
「……美味かった」
完食してくれた青に、ホッと胸をなでおろした。
プレゼントのことを言わなければと、少し焦って口を開く。
「あれから用意したの」
少し上ずっている声に、興奮してしまっている自分を知る。
かさり。立ち上がる時、自分の椅子に預けた袋を手渡す。
緊張で、手が汗ばんでいる。
「開けてもいい? 」
「どうぞ」
丁寧に袋が開封され、チョーカーが取り出される。
目を細め、青は手に取り暫くそれを眺めていた。
私の心臓は高い音を立てている。
どんな反応をされるだろう。
「ありがとう」
青は私を真っ直ぐ見つめていた。
つけてあげたいと思い、手を伸ばそうとするのを 遮るように自分でチョーカーをつけた。
「気に入ったよ」
淡々とした呟きにも喜びで心は舞い躍る。
「良かった」
青はまたそれをじっと見つめた後、衣服の中にチョーカーをしまいこんだ。
それは私を閉じ込めてくれたみたいな錯覚を起こす。
相変わらず妄想が激しすぎる。
「美味しそうだな」
並べられた料理を見た青が呟く。
「凝ったものじゃないけどね」
「沙矢はどんなことにも手を抜かないから、好きだ」
「え……? 」
「俺の好みも全部頭に入れて、好きになれるよう努力していて、
……いつかはちゃんと言わなきゃ駄目だな」
期待しても良いの?
来年のこの日もあなたは一緒にいるって。
「本当にありがとう。最高の誕生日だよ」
頭を引き寄せられて、彼の胸の鼓動を聞く。
刹那の甘い抱擁が、永遠にも等しく感じる。 願望ゆえの錯覚だと、知っていたけれど。
ぽろぽろと涙が零れて手のひらに落ちる。
「もう夜だが、お前がいいなら出かけないか? 」
耳元でささやかれた言葉に、目を見開く。
壁時計を確認した後こくんと頷く。骨ばった手のひらに触れた。
少し低い温度は男の人だからだろうか。指先が僅かに触れ合う。
「自分の誕生日を特に嬉しいとか祝ってほしいとは思ってなかったんだが」
途切れた言葉の先をプラスの方向に考えてみる。
気づけば、笑みを浮かべて、頷いていた。
「先に車で待ってて。すぐに行くわ」
空気と混ざり合う位低い囁きを残し青は部屋の扉を開けた。
ベッドの下のハンドバッグを引き寄せる。
自分の誕生日を祝ってもらうことよりも、
青の誕生日を祝える方がずっと嬉しい。
誕生日は特別なはずで、親密な関係じゃないと伝えたりしないものだと思う。
きっと、意味があることなんだって信じてみたい。
鏡でメイクと、髪を確認し、部屋を出た。
青の車が駐車してある場所まで行くと、
中から、助手席のドアを開いてくれる。
すっかり慣れてしまった行為をすんなりと受け入れる。
彼以外でも男性は皆こんなにスマートな行動をするのだろうか。
分からないし、知りたいとも特に思わなかった。
車は高速に乗った。ウィンカーを出して軽やかに前後の車両の間に入っていく。
車を運転している時の青は、どきっとしてしまうくらい静かだ。
普段から感情が読み取りにくいけれど、車を運転する時はまた違って、
彼が別の世界に行って一人置いていかれたような感覚に陥る。
時に会話をすることもあるが、車内では、より緊張を伴った。
単に運転に集中しているだけなのかもしれない。
この空間は二人で過ごすどの場所よりも狭い密室。
(青もどきどきしてる? )
「……気まぐれなんかじゃないってことは、分かってくれるか」
ふいに掛けられた言葉の意味を探り、
「そうだったらいいなって思ってたから」
「ありがとう」
はにかんで、ふるふると首を振る。そっと重ねられた手のひらに、ほわ、と心が温かくなった。
「言葉が足りないズルい男を受け入れてくれて、感謝してる」
少し硬い口調で、彼は言った。
瞳が潤んできて泣きたくないと、前方を強く見据えた。
切ないって安易に表現できないくらい、狂おしくなる。
車が停車して、助手席の扉が開く。 差しのべられた手を取る前に、きょとんと見上げて座席から立ち上がる。
車内から外に出ると、夜でももう大分涼しくなったと感じた。
空気を吸い込んで、深呼吸する。
出逢ってからもう5ヶ月と少し経つのだけど、時間を無駄にはしていないはずだ。
細く長い指先が絡んで、先へと誘導する。
通い慣れたホテル。ここは会員制の極めてプライベートな場所だ。
フロントでキーを受け取り、彼は開いている方の手で私の手を強く握りしめた。
乗り込んだエレベーター内でそわそわして隣りにいる長身を見つめる。
青はエレベーターを降りるまで、一度もこちらを向くことなく、前方を見据えていた。
青は、部屋に入ると、ジャケットを脱ぎ捨て、タイを緩めた。
強い視線を感じ、少しうろたえる。
研ぎ澄まされた刃物のように眩くて、鋭利な眼差し。
体から力が抜けて、ハンドバッグを床に投げ出した。そのままベッドに、すとん、と腰を下ろした。
心臓がざわついている。食い入るような視線に、追いつめられてしまう。
くいと持ち上げられた顎。整った造作が迫り、後ろの壁に体を凭れかけた。
手首が、掴まれている。放そうと思えば放すことができる微妙な力加減だが、
逃げたいと言うより、このまま捕まっていたいと思った。
「いい物をくれたな」
口の端が上がっている。
青は、私が贈ったチョーカーのヘッド部分を手のひらに乗せて、唇を寄せた。
何故か、どきんと胸が高鳴った。
「……喜んでもらえてよかった」
ほっ、と胸をなでおろして微笑む。交差された指先から、熱い痺れが伝わってくる。
彼の不安定な体勢が気になり、ベッドのシーツをぽんぽんと叩いて隣りを勧めた。
「吸っていいか? 」
「ええ」
煙草をくわえ、火をつける。ひとつひとつの動作が様になり絵になる人。
あまりに見すぎるのも失礼だしと別の方向を見ていると、紫煙が途切れた。
灰皿には、揉み消された煙草。
ほぼ最初と同じ長さなのは、フィルターを噛んだ程度で火を消したからだろう。
「……お前に甘えてるみたいだな」
「あなたが甘えるって似合わないわ」
「誕生日に側にいてほしいなんて、俺は言える立場じゃない」
「……それって彼女でもないのにずうずうしいのかな。
教えてもらえて嬉しくて、取り乱してたなんて知らないでしょう? 」
「……沙矢」
苦しそうな声。
恐る恐る伸ばされた指が、頬を撫でて離れる。
「一方的にしてもらってばかりだな」
「だったら、私の誕生日に一緒にいられたら祝って」
涙声にならないよう気をつけていたけど、声を荒げてしまったのは事実だ。
情けなくて唇を噛む。心が、繋がっていないことに打ちのめされる。
「ああ……分かった」
「……おめでとうってちゃんと言いたかったのに」
潤んだ目元に、唇が触れた。ぞくりとする。
「悪い」
飲み干すように雫が、掬われる。
耳元に落ちた謝罪の言葉に頭を振る。
強く抱き寄せられて、嗚咽を噛み殺す。
「……私と居たいって思ってくれたの? 」
「ああ」
それだけで、天にも昇る心地になった。
「もう一つのプレゼント受け取ってくれる? 」
勇気を出して、問いかけてみる。腕の中で、彼の胸に頬を押しつけていた。
深く、息を吐く音。
顔を上げたら、彼は薄く笑っていた。
頷いて、衣服を脱いで、ブラジャーを外す。
とても勇気が必要な行動だけれど、彼の前では大胆になれるのだ。
ゆっくりと、抱きつく。腕を回して首に絡める。
ワイシャツの生地が肌に擦れて、淡い感覚が湧いてくる。
頂きが、早くも固く張り詰めていた。チョーカーの金属が髪に触れる。
本当にあげたかったプレゼントは、私。
首筋に頬を押し付けていると、ぐいと腰を抱えこまれる。
彼が、私の顔に影を重ねた。
唇が触れる寸前で止まる。私の出方を見定めているようだった。
息を飲みこんで唇を重ね合わせた。
軽いリップノイズ。ゆっくりと触れて離すと頭を押さえつけられた。
そのまま深く重なる。吐息が、漏れるほどの濃厚なキス。
無我夢中で、応える。乱暴に髪を掻きまぜられる。
熱い唇と手が、首筋から降りていく。
白くなる思考で、わけが分からなくなりそうな中、肌に唇が触れたのを感じた。
輪郭をなぞられ、頂きに吐息がかかる。
何度となく遠くへいく寸前で引きとめられ、悶えた後、
ようやく唇が肝心の部分を愛撫し始める。
体が震え、指を噛む。濡れた感覚は、彼の唾液だけじゃなく、私の奥が潤ったからだった。
「……っ……ああ……駄目っ」
歯を立てられた瞬間、ぐったりと体が傾いだ。
掴まれた腕。横たえられた体。
うっすらと瞳を開けた時、ベッドに肘をついて見下ろされていた。
上半身裸の青からは、汗と香水の混じった独特の匂い。
首筋にかけられたチョーカーが、光を弾いて目を庇う。
すぐに灯りを消されて、室内は暗闇に閉ざされた。
さら、と髪の一筋が掬われて、どきんとする。
「最後まで楽しませろ。プレゼントくれるんじゃなかったのか? 」
頬が火照り、目も潤んできた。結局、私から彼に渡すのは無理だったということ。
「いい。十分だ。それだけ煽ってもらえたんだからな」
耳を食まれる。舌が這って肌があわ立っ。
「こっちから、奪えばいいってことだろう? 」
「ふ……っ……っあ」
下から押し上げ、荒々しく揉みしだかれる。
手のひらに包まれている方は指の腹で頂きを擦られて、片方は舌で挟まれている。
せめて自分から、あげるという意思を見せたいと両腕を上向けて伸ばしていた。
感じとってくれた?
溜息をついた青が、頭を横に振る。
「……これ以上はないプレゼントだよ。呆れるくらいにな」
「喜んで……くれたの?」
「教えてやろうか?」
傲慢な唇が、覆いかぶさってくる。
甘さを含んだキスを降らせながら、太腿に指を沿わせていく。
ぞく、と駈け上ってくる。腰が揺れて、唇から卑猥な吐息。
この時間を楽しんで味わっている。私自身をじわり、じわり捕食しているのだ。
脇を舌がなぞる。秘所に指が、忍び込んで音を立てた。
掻き出す音。長い指はあくまでも冷静にこちらを追いつめていた。
「……っ……や……あ」
指よりも唇で直接触れられるのは苦手だった。
「何が嫌だって? これだけ貪欲に震えているくせに? 」
「い、言わないで……そんな……あっ……ふ」
いきなり吸い上げられた頂きから、体の奥に電流が流れた。
ふくらみを揉みしだかれ、深く唇が重なる。
指が最奥を突いた時、目眩を覚え、瞬く間に意識が白く染まった。
舌舐めずりする姿に眼が釘づけになる。ベルトを外す音が鮮明に聞こえてきて枕に顔を押しつけた。
知っているし、これから彼を受け入れるのだけれど、冷静に見つめることはできない。
包装を破る音の後、ベッドに体重がかかった。
私の部屋のベッドのように、音はしない。
しなやかな背中に指を伸ばす。彼を形作るすべてが艶めかしかった。
何故かかあっと体が熱くなって恥ずかしい。
火照りを冷まして、いいえ、もっと熱くなりたい。
瞳を閉じる。
「っ……青」
いきなり抱きしめられて、すっぽりと包みこまれる。
誕生日だから、うんと優しくしてくれるの?
広い背中に腕を回した。しっとりと汗ばんだ肌の上で指が滑った。
「今だけ思う存分、甘えておけ」
不器用な台詞に、涙がこぼれる。
猛り、昂ぶっている熱をぎりぎりの所で宥めすかし、一時の抱擁を分け合う。
泣けてくるのを止められない。温かった。でも、僅かでいい。
溺れてしまう。
「私をあなたに、あげる」
頭を上げた彼に、緩く微笑んで頷く。
挑発的な唇が首筋を甘噛みした瞬間、突き入れられた。
彼の動きに合わせて、体が弾む。
奥に熱く堅い欲望が、ぶつかり、掻きまぜる。揺れる胸を掴まれた。
「無垢なお前を汚すのは、罪悪感があったが」
「……っ……どういう」
「お前を汚すほどに、結局俺が汚れていることに気づいて開き直ったさ」
腕を引かれて、肘をシーツについて、腰を浮かせる。
鏡に映したように向かい合わせの体勢で、貫かれる。
体勢は変化したもののその間一度も私の中から、昂ぶりは抜け出ていなかった。
「ああ……っ……ん」
緩慢な動作に、じれったく感じ始めた頃に動きが勢いを増す。
波音が高まり、低い呻きになる。
片手がきついくらい繋がれていて、胸が詰まる。
近づきたくて抱きついたら、ぐっ、と深くねじ込まれた。
「っああっ」
「欲しかったんだろ? 」
鋭く繰り出され、腕に、爪を立てた。
薄膜越しに、飛沫が放たれる。
何度も繰り返されたそれが、私の中で混ざってしまう。
荒い息をついて、ぐったりと凭れかかる。
「……バレてない振りをしてるとしたら、お前は、大人だな」
微かなアルコールの匂いに、瞬きする。
車を運転するはずの青が、お酒を飲んでいるのだ。
ぼんやりと瞼をこする。
彼が傾けるグラスにはビールより色が濃い液体が注がれていた。
「お酒飲んで大丈夫なの? 」
「ああ。すぐ帰るわけじゃないからな」
酔いが醒めるまでは一緒にいられるということだ。
からん、涼しげな氷の音がする。
いつの間にお酒を用意したんだろう。
肌にシーツを巻きつけている私と違い、彼はバスローブを着ているのも気にかかった。
「今日くらいゆっくりしてもいいだろう」
自分に言い聞かせているみたいだった。
もぞもぞとシーツの中で足を動かす。
けだるくて、起き上がるのが辛い。
「ん……っ」
引き寄せられ、アルコール味のキスを受ける。
「まだ朝は来ない。残念なのか、幸いなのかは分からないがな」
瞼を伏せて、俯く。
(幸いなのよ。少なくとも、私にとってはだけれど)
きっと、私は、満面の笑みを浮かべているのだろう。
顔を伏せているせいで、彼の表情は見えなかったけれど、これでよかったのだ。
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