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第一章「sinful relations」
第8話「透明な雫」(2)
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「……待ったか」
「ううん。ケーキもさっき焼けたところよ」
「荷物、後ろに置けばいい」
こくん、と頷いた沙矢は、後部座席に荷物を置いて助手席に座った。
トランクに入れているので、プレゼントには気づかれなかった。
「何してたの? 別に無理に聞きたいわけじゃないけど」
意味深に唇をゆがめると、沙矢は、きょとんと首をかしげた。
「電話、本当にうれしかったの。8月はまだ会ってなかったでしょう……」
「忙しかったんだ……そっちは変わりはないか」
「変わりないかな。仕事も順調だし」
「そうか……」
シートベルトをしたのを確認してエンジンをかけた。
ギアを入れて出発させる。
何気ない会話を普通にできる。
ただ、お互いの笑みが硬いだけで。
車を停止させた時、ふ、と視線が絡んだ。
揺れる瞳に、胸が締めつけられる。
無垢な表情があまりに美しく、危うくハンドル操作を誤ってしまいそうだった。
マンションにたどり着き、地下駐車場に車を入れる。
トランクから箱を取り出して抱え、後部座席の荷物も箱の上に重ねて持った。
助手席を開け、先に降りると手を差し伸べた。
こわごわと掴んでくる右手に自分の左手を重ねる。
掴んで、歩きだす。
隣を歩いてくれることが、嬉しかった。
俺の方に視線を向けてきた沙矢の意識を反らせたくて、強く手を握りしめる。
幾分、早くなった歩くペースに引きずられるように、ついてくる。
エレベーターの中でも、やはり気になるようで視線をそわそわと泳がせていた。
「あの、自分の荷物は自分で持つわ」
「俺が好きでしていることだから気にするな」
言い含めれば、口をつぐむ。
内心別の言い方ができないのかと悔やむが、後の祭りなのだ。
片手で荷物を抱え、空いている手で沙矢の手を
掴んでいる状態だが、特に不便さは感じなかった。
エレベーターを降りた後のことまで考えていなかったのだが。
「……すまないが、鍵を開けてくれないか? 」
「あ……それなら私が荷物を」
「いいから、開けてくれ」
鍵をポケットから取り出し、渡す。
沙矢が鍵を開ける姿を見守る。開けさせてみたかったという気持ちもあった。
かちゃりと開き、沙矢がドアを開ける。
先に中へ入るのを促し、後から入り鍵を閉める。
明日、彼女を送っていく時名残惜しさとともにドアを開けるのだろう。
リビングに行き、ソファの上に荷物を置く。
手渡すと、沙矢が笑顔で頷いた。
「ケーキ切ってもいい? 」
「ちょうど甘いものが欲しかったんだ」
紙袋を手に提げて、ダイニングキッチンに向かう姿を見送り、ソファにある箱を抱えた。
箱を抱え、寝室へと向かう。
戻ってくると、リビングのテーブルの上にはケーキの入った皿が並べられていた。
「お茶を入れるよ」
そう言い置いてソファに座らせる。
手持無沙汰になった沙矢は、膝の上で手のひらをこすりあわせて宙を見上げていた。
トレイに乗せたカップとソーサーを手に戻ってきた時、
ハンドバッグを抱きしめている姿が目にとまった。
テーブルの上に置く音で、こちらに気づいたらしく、恥ずかしそうに頬を染めた。
「ありがとう……」
「礼を言うのはこっちだ。ケーキ作ってくれただろう」
くし型にカットされたりんごが生地の表面に浮き出ている。
「男の人にケーキとか作ったことなかったの……」
その告白は、単純に嬉しかったが、唇からは裏腹な言葉がこぼれた。
「その初めてのケーキを食べるのが俺でよかったのか」
「な……それこそ好きで作ったんだから、あなたが気にすることじゃないわ」
決然と強い口調で沙矢は言う。
「だな……食べていいか」
「どうぞ」
お茶で口を湿らせ、同じタイミングでケーキを口に運んだ。
ぎごちないムードは、それでも以前よりは格段にマシだと思う。
りんごの風味を感じられる程よい甘さのケーキは、素朴でとても美味だ。
「美味い……」
「よ、よかった」
ほっと息をつく姿。
「紅茶は、どうだ? 」
「ケーキと合ってる……やっぱりすごいセンスね」
「センスという程のものじゃない」
「……でも私じゃ思いつかないわ」
「なあ」
冷えた眼差しで問う。
「え? 」
「お前はこのままでいいのか」
鳴り響く心臓の音を確かに聞いた。
うろたえて、俯いている。
「……あなたにそれを言う資格があるの? 」
顔を上げた沙矢がこちらを射抜く。
どこまでも、見透かされているのではないか。
気持ちを隠していることを察している?
逃げているくせにと、責められている気がして、苛立ちを覚えた。
身勝手すぎるのに、どうにも抑えられなくて。
「ふっ……」
いきなり鷲掴んだ胸元。声を漏らした沙矢は非難をこめて見つめてくる。
「お互い様だろう。俺もお前もずるいんだからな」
表情を見ながら荒々しく揉みしだく。
形を変えるほど揉みくちゃにすれば、表情も変わり鼻から抜ける甘い吐息が聞こえ出す。
「……悪かった」
あっさりと手を離す。
潤んだ眼差しに理性も打ち砕かれてしまいそうだ。
「嫌じゃなかったの……心の準備ができてなかっただけ」
「……ゆっくりしてろ」
置き去りにしてダイニングキッチンを抜ける。
シャワーを浴びて頭をすっきりさせたかった。
浴室に入り、シャワーを浴びていると、暫くして不審な物音がした。
扉を薄く開けば、タオルで肌を隠し、佇んでいる沙矢がいた。
そういうつもりなら、受け入れようじゃないか?
腕を伸ばして、浴室の中へと連れ込む。
浴室の床に、タオルがひら、と落ちた。
照明の中、白い肌がいっそう鮮やかだった。
「っ……あ……あっ」
赤く色づいた実に噛みつく。
歯を立て、吸い上げ、唾液をこすりつけた。
正面から、降り注ぐシャワーが肌を濡らしていく。
上唇を舌でなぞって、唇を合わせる。
角度を変えながら、啄ばむように、掠めるように。
口腔を探り、舌を絡ませて突く。唾液が、いやらしく糸を引いた。
瞳を閉じて、キスを受け入れる沙矢は、本能に突き動かされている。
背中に回ってきた手に力がこもったのを感じた。
「……どんな風に汚されたい? 望み通りにしてやる」
背中を抱いて、頭に手を置いて問いかける。
まだ本気ではない。試しているだけ。
「……あなたの思うようにして」
「無意識でやってるとしたら、相当だな」
感じている表情でも、俺への眼差しは強いままで、身ぶるいがした。
流されてなどいない。全ては、彼女の意思なのだ。
激情の裏に隠された素の顔を知らない自分が、許せなくなる。
見せられないのだ。
「私の望みだもの……」
泣きそうな声で、呟いた沙矢を、ただ包み込むように抱きしめた。
柔らかな弾力が、俺の堅い胸に触れる。
はっとして、肩を押して避けた。
不味い。
沙矢は、大きく眼を見開いている。
照明の下で見える表情は羞恥に染まっていた。
彼女には簡単に欲情する。煽られて陥落してしまう。
他の女だったら一時で醒めていた熱が、未だ引いていないのだ。
理性を総動員させて堪えたことを僅かに悔やむ。
抱いてほしい時に抱けもしない。
こっちが欲しい時には与えてくれるのに。
疲れている時、肌に触れれば癒された。温もりに、生を感じた。
「……先に寝室で待ってる」
首を揺らした沙矢は、俺の手を離した。
扉を開けて立ち去る瞬間、彼女の頬に光る涙が見えた。
シャワーの飛沫で誤魔化せなかったのだ。
浴室を出て、乱暴に髪を拭う。
肌を適当に拭いて、バスタオルを腰に巻いて寝室に向かった。
せめて、抱いている間は、泣かせないように、優しくしてやりたい。
そう言い聞かせても、思うようにはいかないのだろう。
ベッドの縁に腰を下ろして、宙を睨みつける。
足音の次はノックの音。
「入っていいよ」
思わぬ柔らかな声音に自分で驚く。
泣いていたことが嘘のようにすっきりとした表情で、歩いてくる。
隣を勧めれば、距離を取って座った。
じれったくなって肩を抱く。
「……最近、前より優しいよね」
「そんなつもりはないが」
「気づいてないのね」
(本音を吐きもしない男を優しいだなんて評価するな)
押し倒して、真上から見下ろす。
戸惑いに揺れる瞳と、震える指先。 バスタオルの上からでも分かる豊満なふくらみ。
照明をリモコンで消して、ベッドサイドのライトを点けた。
瞳を閉じている様子に、了承を得たと感じバスタオルをはぎ取った。
シャワーを浴びた肌は淡く色づいていた。
互いの唇を吸い合う。
舌で唇をこじ開けて、深く口づける。
舌先を絡めて、唾液が顎を伝うほどに、口腔を侵した。
指先を、秘部まで滑らせれば十分潤っていた。
指にまとわりつく蜜。
耳が、おかしくなる卑猥な音。
「っあ……」
首筋に息を吹きかける。
「素直すぎるんだよ」
肌に直接言葉を投げて、唇を寄せる。
きつく吸って、痕の残す。
無数に刻んだ痕は、幾日で消えるものなのか。
七日目には既に消えているからこそ、同じ場所に痕を重ねる。
じりじりと、熱が上がる肌は甘く香っている。
髪を振り乱し、体を丸める姿に、萎えかけていた欲望の塊が一気に勢いを取り戻した。
タオルの下で張りつめて天を向いている。
膨らみをもみしだく。下から押し上げ、
手のひらの中に納めて、押し返してくる弾力を楽しんだ。
のけぞった首を舌で舐める。
耳たぶを噛んで、側面に舌を沿わせる。
恥じらいながらも声を出しているのは、距離が狭まったということか。
頑ななつぼみが、開かれていく。俺の為に。
側に置きながら、真実欲しいものを差し出さず、繋ぎ止めている。
他の男が彼女を抱くのは想像するのも身の毛がよだつ。
独占欲は尊大だ。我儘で一方的な想い。
指と指を絡めて、下腹へと移動する。
茂みに髪が触れて、背が反った。
「っ……あっ……ふ……ん」
ちら、と見れば爪を噛んで快感を堪えている。
いじらしい。こんな女会ったことがない。
足の間から、肌を辿る。
つま先まで、指の腹で撫で口づけて、舌で啜った。
喘ぎが呻き声になり、自ら大きく足を開いていく。
茂みの側に、唇を寄せてキスを落とす。
ひとしきり高い声。それでもまだ登りつめない。
滴る泉の奥に舌を忍ばせると、くったりと体を弛緩させ動かなくなった。
荒い息遣いが聞こえてくる。
「沙矢……」
肘をついて顔を見れば、官能的な表情が目に飛び込んでくる。
髪を撫でて、ベッドサイドの抽斗を開けた。
避妊具を取り出し、口の端で切る。
自身に纏わせて、沙矢に向き直った。
愛おしい。口に出せない想いをこめて、キスを重ねる。
「っん……」
吐息の甘さに、くらりとした。
ゆっくりと体を寄せて、腰を抱える。
何度か蜜を絡め、擦り合わせて、一気に突き上げた。
「はあ……あっ……ん」
少し動きを止めた後、反応を見ながら動きを再開する。
奥を擦り、出這入りを繰り返す。
恥骨にあたるよう角度を調節し腰を使う。
「だ、……め……あ……あ」
「イイって言えよ」
腰を揺らして、淫らに問いかける。
突きあげながら、つ、と指で蕾を押しつぶす。
激しく腰を揺らして、こちらにリズムを合わせてくる。
絡んで、閉じ込められる。
全部持っていかれそうで、呻いた。
俺が開いた体は、柔軟に受け入れ、こちらも翻弄する。
背中を抱えて、正面から抱きしあう。
真下から突けば、全部が見えているけれど、
快楽に身を任せている沙矢は、気にする余裕はない。
せり上がってくる熱。
動きが早くなる。
中に吐き出した瞬間、背中に腕が絡んだ。
立てられた爪が弧を描いている気がした。
繋がりをほどいて、互いの処理をする。
沙矢の髪を梳く。
意識を飛ばした彼女の頬には大粒の涙が伝っていた。
「……泣かせたくなかったんだけどな」
感じさせすぎたからだとしたら、優越感が浮かぶが。
肩を抱くと、腕が伸びてくる。
それを背中に回させて、しっとりとした肌の感触に酔った。
何度謝っても足りない。
離したくないのは、孤独への恐れゆえだろうか。
相手を独りにさせたくないと思えた時には必ず……。
送っていく車内で、ルームミラー越しに見た彼女は昨日よりも輝いて見えた。
「……次は私の部屋に来て」
「ああ、分かった」
無邪気に笑いかけた姿に、本当の彼女が透けて見えた。
その先にあるお前にいつか触れることができるのか?
あと一度と、願い夜を重ねる度にはまり込んでいる。
これで、体の関係のみと言い切れるのだろうか。
嘘はたやすくつけるのだと思っていた。
それこそ大間違いだったのかもしれない。
結局、渡せなかったワンピースは、いつ渡せばいいのやら。
次の夏になって、このままの関係が続いているとは思えない。
彼女との関係が新しいものになっていたとしたら、
自然と渡せる時が来るだろう。
日々の忙しさにかまけて忘れていないことを祈った。
「ううん。ケーキもさっき焼けたところよ」
「荷物、後ろに置けばいい」
こくん、と頷いた沙矢は、後部座席に荷物を置いて助手席に座った。
トランクに入れているので、プレゼントには気づかれなかった。
「何してたの? 別に無理に聞きたいわけじゃないけど」
意味深に唇をゆがめると、沙矢は、きょとんと首をかしげた。
「電話、本当にうれしかったの。8月はまだ会ってなかったでしょう……」
「忙しかったんだ……そっちは変わりはないか」
「変わりないかな。仕事も順調だし」
「そうか……」
シートベルトをしたのを確認してエンジンをかけた。
ギアを入れて出発させる。
何気ない会話を普通にできる。
ただ、お互いの笑みが硬いだけで。
車を停止させた時、ふ、と視線が絡んだ。
揺れる瞳に、胸が締めつけられる。
無垢な表情があまりに美しく、危うくハンドル操作を誤ってしまいそうだった。
マンションにたどり着き、地下駐車場に車を入れる。
トランクから箱を取り出して抱え、後部座席の荷物も箱の上に重ねて持った。
助手席を開け、先に降りると手を差し伸べた。
こわごわと掴んでくる右手に自分の左手を重ねる。
掴んで、歩きだす。
隣を歩いてくれることが、嬉しかった。
俺の方に視線を向けてきた沙矢の意識を反らせたくて、強く手を握りしめる。
幾分、早くなった歩くペースに引きずられるように、ついてくる。
エレベーターの中でも、やはり気になるようで視線をそわそわと泳がせていた。
「あの、自分の荷物は自分で持つわ」
「俺が好きでしていることだから気にするな」
言い含めれば、口をつぐむ。
内心別の言い方ができないのかと悔やむが、後の祭りなのだ。
片手で荷物を抱え、空いている手で沙矢の手を
掴んでいる状態だが、特に不便さは感じなかった。
エレベーターを降りた後のことまで考えていなかったのだが。
「……すまないが、鍵を開けてくれないか? 」
「あ……それなら私が荷物を」
「いいから、開けてくれ」
鍵をポケットから取り出し、渡す。
沙矢が鍵を開ける姿を見守る。開けさせてみたかったという気持ちもあった。
かちゃりと開き、沙矢がドアを開ける。
先に中へ入るのを促し、後から入り鍵を閉める。
明日、彼女を送っていく時名残惜しさとともにドアを開けるのだろう。
リビングに行き、ソファの上に荷物を置く。
手渡すと、沙矢が笑顔で頷いた。
「ケーキ切ってもいい? 」
「ちょうど甘いものが欲しかったんだ」
紙袋を手に提げて、ダイニングキッチンに向かう姿を見送り、ソファにある箱を抱えた。
箱を抱え、寝室へと向かう。
戻ってくると、リビングのテーブルの上にはケーキの入った皿が並べられていた。
「お茶を入れるよ」
そう言い置いてソファに座らせる。
手持無沙汰になった沙矢は、膝の上で手のひらをこすりあわせて宙を見上げていた。
トレイに乗せたカップとソーサーを手に戻ってきた時、
ハンドバッグを抱きしめている姿が目にとまった。
テーブルの上に置く音で、こちらに気づいたらしく、恥ずかしそうに頬を染めた。
「ありがとう……」
「礼を言うのはこっちだ。ケーキ作ってくれただろう」
くし型にカットされたりんごが生地の表面に浮き出ている。
「男の人にケーキとか作ったことなかったの……」
その告白は、単純に嬉しかったが、唇からは裏腹な言葉がこぼれた。
「その初めてのケーキを食べるのが俺でよかったのか」
「な……それこそ好きで作ったんだから、あなたが気にすることじゃないわ」
決然と強い口調で沙矢は言う。
「だな……食べていいか」
「どうぞ」
お茶で口を湿らせ、同じタイミングでケーキを口に運んだ。
ぎごちないムードは、それでも以前よりは格段にマシだと思う。
りんごの風味を感じられる程よい甘さのケーキは、素朴でとても美味だ。
「美味い……」
「よ、よかった」
ほっと息をつく姿。
「紅茶は、どうだ? 」
「ケーキと合ってる……やっぱりすごいセンスね」
「センスという程のものじゃない」
「……でも私じゃ思いつかないわ」
「なあ」
冷えた眼差しで問う。
「え? 」
「お前はこのままでいいのか」
鳴り響く心臓の音を確かに聞いた。
うろたえて、俯いている。
「……あなたにそれを言う資格があるの? 」
顔を上げた沙矢がこちらを射抜く。
どこまでも、見透かされているのではないか。
気持ちを隠していることを察している?
逃げているくせにと、責められている気がして、苛立ちを覚えた。
身勝手すぎるのに、どうにも抑えられなくて。
「ふっ……」
いきなり鷲掴んだ胸元。声を漏らした沙矢は非難をこめて見つめてくる。
「お互い様だろう。俺もお前もずるいんだからな」
表情を見ながら荒々しく揉みしだく。
形を変えるほど揉みくちゃにすれば、表情も変わり鼻から抜ける甘い吐息が聞こえ出す。
「……悪かった」
あっさりと手を離す。
潤んだ眼差しに理性も打ち砕かれてしまいそうだ。
「嫌じゃなかったの……心の準備ができてなかっただけ」
「……ゆっくりしてろ」
置き去りにしてダイニングキッチンを抜ける。
シャワーを浴びて頭をすっきりさせたかった。
浴室に入り、シャワーを浴びていると、暫くして不審な物音がした。
扉を薄く開けば、タオルで肌を隠し、佇んでいる沙矢がいた。
そういうつもりなら、受け入れようじゃないか?
腕を伸ばして、浴室の中へと連れ込む。
浴室の床に、タオルがひら、と落ちた。
照明の中、白い肌がいっそう鮮やかだった。
「っ……あ……あっ」
赤く色づいた実に噛みつく。
歯を立て、吸い上げ、唾液をこすりつけた。
正面から、降り注ぐシャワーが肌を濡らしていく。
上唇を舌でなぞって、唇を合わせる。
角度を変えながら、啄ばむように、掠めるように。
口腔を探り、舌を絡ませて突く。唾液が、いやらしく糸を引いた。
瞳を閉じて、キスを受け入れる沙矢は、本能に突き動かされている。
背中に回ってきた手に力がこもったのを感じた。
「……どんな風に汚されたい? 望み通りにしてやる」
背中を抱いて、頭に手を置いて問いかける。
まだ本気ではない。試しているだけ。
「……あなたの思うようにして」
「無意識でやってるとしたら、相当だな」
感じている表情でも、俺への眼差しは強いままで、身ぶるいがした。
流されてなどいない。全ては、彼女の意思なのだ。
激情の裏に隠された素の顔を知らない自分が、許せなくなる。
見せられないのだ。
「私の望みだもの……」
泣きそうな声で、呟いた沙矢を、ただ包み込むように抱きしめた。
柔らかな弾力が、俺の堅い胸に触れる。
はっとして、肩を押して避けた。
不味い。
沙矢は、大きく眼を見開いている。
照明の下で見える表情は羞恥に染まっていた。
彼女には簡単に欲情する。煽られて陥落してしまう。
他の女だったら一時で醒めていた熱が、未だ引いていないのだ。
理性を総動員させて堪えたことを僅かに悔やむ。
抱いてほしい時に抱けもしない。
こっちが欲しい時には与えてくれるのに。
疲れている時、肌に触れれば癒された。温もりに、生を感じた。
「……先に寝室で待ってる」
首を揺らした沙矢は、俺の手を離した。
扉を開けて立ち去る瞬間、彼女の頬に光る涙が見えた。
シャワーの飛沫で誤魔化せなかったのだ。
浴室を出て、乱暴に髪を拭う。
肌を適当に拭いて、バスタオルを腰に巻いて寝室に向かった。
せめて、抱いている間は、泣かせないように、優しくしてやりたい。
そう言い聞かせても、思うようにはいかないのだろう。
ベッドの縁に腰を下ろして、宙を睨みつける。
足音の次はノックの音。
「入っていいよ」
思わぬ柔らかな声音に自分で驚く。
泣いていたことが嘘のようにすっきりとした表情で、歩いてくる。
隣を勧めれば、距離を取って座った。
じれったくなって肩を抱く。
「……最近、前より優しいよね」
「そんなつもりはないが」
「気づいてないのね」
(本音を吐きもしない男を優しいだなんて評価するな)
押し倒して、真上から見下ろす。
戸惑いに揺れる瞳と、震える指先。 バスタオルの上からでも分かる豊満なふくらみ。
照明をリモコンで消して、ベッドサイドのライトを点けた。
瞳を閉じている様子に、了承を得たと感じバスタオルをはぎ取った。
シャワーを浴びた肌は淡く色づいていた。
互いの唇を吸い合う。
舌で唇をこじ開けて、深く口づける。
舌先を絡めて、唾液が顎を伝うほどに、口腔を侵した。
指先を、秘部まで滑らせれば十分潤っていた。
指にまとわりつく蜜。
耳が、おかしくなる卑猥な音。
「っあ……」
首筋に息を吹きかける。
「素直すぎるんだよ」
肌に直接言葉を投げて、唇を寄せる。
きつく吸って、痕の残す。
無数に刻んだ痕は、幾日で消えるものなのか。
七日目には既に消えているからこそ、同じ場所に痕を重ねる。
じりじりと、熱が上がる肌は甘く香っている。
髪を振り乱し、体を丸める姿に、萎えかけていた欲望の塊が一気に勢いを取り戻した。
タオルの下で張りつめて天を向いている。
膨らみをもみしだく。下から押し上げ、
手のひらの中に納めて、押し返してくる弾力を楽しんだ。
のけぞった首を舌で舐める。
耳たぶを噛んで、側面に舌を沿わせる。
恥じらいながらも声を出しているのは、距離が狭まったということか。
頑ななつぼみが、開かれていく。俺の為に。
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独占欲は尊大だ。我儘で一方的な想い。
指と指を絡めて、下腹へと移動する。
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「っ……あっ……ふ……ん」
ちら、と見れば爪を噛んで快感を堪えている。
いじらしい。こんな女会ったことがない。
足の間から、肌を辿る。
つま先まで、指の腹で撫で口づけて、舌で啜った。
喘ぎが呻き声になり、自ら大きく足を開いていく。
茂みの側に、唇を寄せてキスを落とす。
ひとしきり高い声。それでもまだ登りつめない。
滴る泉の奥に舌を忍ばせると、くったりと体を弛緩させ動かなくなった。
荒い息遣いが聞こえてくる。
「沙矢……」
肘をついて顔を見れば、官能的な表情が目に飛び込んでくる。
髪を撫でて、ベッドサイドの抽斗を開けた。
避妊具を取り出し、口の端で切る。
自身に纏わせて、沙矢に向き直った。
愛おしい。口に出せない想いをこめて、キスを重ねる。
「っん……」
吐息の甘さに、くらりとした。
ゆっくりと体を寄せて、腰を抱える。
何度か蜜を絡め、擦り合わせて、一気に突き上げた。
「はあ……あっ……ん」
少し動きを止めた後、反応を見ながら動きを再開する。
奥を擦り、出這入りを繰り返す。
恥骨にあたるよう角度を調節し腰を使う。
「だ、……め……あ……あ」
「イイって言えよ」
腰を揺らして、淫らに問いかける。
突きあげながら、つ、と指で蕾を押しつぶす。
激しく腰を揺らして、こちらにリズムを合わせてくる。
絡んで、閉じ込められる。
全部持っていかれそうで、呻いた。
俺が開いた体は、柔軟に受け入れ、こちらも翻弄する。
背中を抱えて、正面から抱きしあう。
真下から突けば、全部が見えているけれど、
快楽に身を任せている沙矢は、気にする余裕はない。
せり上がってくる熱。
動きが早くなる。
中に吐き出した瞬間、背中に腕が絡んだ。
立てられた爪が弧を描いている気がした。
繋がりをほどいて、互いの処理をする。
沙矢の髪を梳く。
意識を飛ばした彼女の頬には大粒の涙が伝っていた。
「……泣かせたくなかったんだけどな」
感じさせすぎたからだとしたら、優越感が浮かぶが。
肩を抱くと、腕が伸びてくる。
それを背中に回させて、しっとりとした肌の感触に酔った。
何度謝っても足りない。
離したくないのは、孤独への恐れゆえだろうか。
相手を独りにさせたくないと思えた時には必ず……。
送っていく車内で、ルームミラー越しに見た彼女は昨日よりも輝いて見えた。
「……次は私の部屋に来て」
「ああ、分かった」
無邪気に笑いかけた姿に、本当の彼女が透けて見えた。
その先にあるお前にいつか触れることができるのか?
あと一度と、願い夜を重ねる度にはまり込んでいる。
これで、体の関係のみと言い切れるのだろうか。
嘘はたやすくつけるのだと思っていた。
それこそ大間違いだったのかもしれない。
結局、渡せなかったワンピースは、いつ渡せばいいのやら。
次の夏になって、このままの関係が続いているとは思えない。
彼女との関係が新しいものになっていたとしたら、
自然と渡せる時が来るだろう。
日々の忙しさにかまけて忘れていないことを祈った。
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お陰様でHOT女性向けランキング31位、人気ランキング132位の記録達成※雪村里帆、性欲旺盛なアラサーOL。ブラック企業から転職した先の会社でドS歳下上司の宮野孝司と出会い、彼の事を考えながら毎晩自慰に耽る。ある日、中学時代に里帆に告白してきた同級生のイケメン・桜庭亮が里帆の部署に異動してきて…⁉︎ドキドキハラハラ淫猥不埒な雪村里帆のめまぐるしい二重恋愛生活が始まる…!優柔不断でドMな里帆は、ドS上司とヤンデレイケメンのどちらを選ぶのか…⁉︎
——もしも恋愛ドラマの濡れ場シーンがカット無しで放映されたら?という妄想も込めて執筆しました。長編です。
※連載当時のものです。
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