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外伝「記憶の揺りかご」8

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「目を覚ましたら渡そうと思っていたものがある」
「……えっ、これは」
金剛石(ダイヤモンド)が飾られたリボンだった。とても高価そうだ。
「お前が持っていたものだよ。だから、つけていろ」
国王は、サーヤの髪にリボンを飾った。大切なものに触れるような手つきだった。
「……旦那様からの贈り物なのね。私ってお金持ちと結婚したのかしら」
「……お前なら、どんな男でも一瞬で落ちるだろう」
「……陛下は、女性にそういうこと言うの慣れていらっしゃるのね」
「甘い言葉は大事な女にしか言ったことはない」
「過去のご経験上? 」
「……まぁな」
サーヤは、あまり聞きすぎるのもどうかと思ったのでもう聞かなかった。
国王が毎日顔を見せてくれるのは、国民を大事に思うがゆえなのだろう。
 
 
セイは、サーヤの部屋から出ると政務に戻った。
結婚式に起きた惨劇から、
しばらくの間、琥珀の瞳は、暗く陰っていた。
ひと月が経ち、翳りはあの時より増している。
一部の身近な側近や、大王、家族は覗いて
サーヤのことは秘されていた。姿を表さない正妃は、
懐妊しているため休んでいることにしている。
(……流産してしまったがな)
弱った心の有様を悟られぬよう意識するほど、虚ろな心が暴かれるようだった。
 
サーヤが、生き残ってくれただけでいい。今はそれ以上望むんじゃない。
自分に言い聞かせる。
蝕み続けるのは、宮廷医の言葉。
『無理に思い出させようとしてはいけません。
記憶の箱を揺さぶるアイテムを今のサーヤ様にこれ以上見せてはいけません。
あなたの苦しみは想像にかたくないですが焦りは禁物です。
無理に思い出させようとしたら、脳にダメージを受け思い出どころか記憶そのものを手放しかねません。
歯がゆいお気持ちは分かりますが、忍耐強いあなたを信じておりますよ……国王陛下』
「くそっ……」
善良で穏やかで紳士的な男を演じる。容易いことだ。
口調は、戻しても、あくまで他人を装う。国王として、国民を見守っていると、認識させる。
滑稽だった。
身体は、回復してきている。あと1ヶ月もすれば、身体は完治する。
女性として大事な機能も元に戻るらしい。記憶の方は定かではないというのが、笑える。

 
************************************************

 
また夢を見た。
掴めない影。
彼は、苦しんでいる。近づきたくても近づけない。触れたくても触れられなくて
悲しみの海にどっぷりと浸かっているようだった。
サーヤは、彼に謝るしかできない。
愛してくれている人に孤独を背負わせている。
(あなたは、誰。私を痛いくらいに
想ってくれている)
「あぁ……っ! 」
自分の悲鳴で目を覚ました。
「サーヤ! 」
その声を聞きつけて扉を開いたのは、
国王だった。
血相を変えた様子に驚く。
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