上 下
27 / 36

外伝「記憶の揺りかご」4

しおりを挟む
「はい」
「失礼する」
部屋に入ると寝台に身を起こしたサーヤが部屋を眺めていた。
「……病室にしては、豪華で広い気が」
「……君が安心して休めるように広い部屋を用意してもらった」
この部屋から出ればすぐにバレる嘘だったが、そう言わずにいられなかった。
サーヤは疑うこともなく頷いた。
「あなたにお会いしたのが夢のようで」
「現実だ」
「立太子されたあの日、母とともにお披露目の儀式を遠目に見させていただいていました。
私が7歳の頃だったでしょうか。眩く美しくて……王位を継ぐ方なんだ。
庶民には遠い方なんだと幼いながらも思ったものです」
そんなに以前に出逢っていたとは予想外だった。
(話してくれたこともなかった)
セイの立太子式は、15の頃のことだ。彼が初めて女性を知ったのは、その日の夜のこと。
王家のしきたりで、性教育を実践で学ばされた。
その日に、欲を制御する術も身につけた。傷つけずに、女を抱く方法を。
「……あの日から12年が経とうとしている。幼い少女も大人になったんだな」
「……今年19歳ですもの」
セイは、サーヤに寝台の横にあるテーブルに置かれていた手鏡を渡した。
自分の顔を見ているかと思ったが、予想外のことを言った。
「琥珀の瞳が、とっても綺麗……あ、無礼で申し訳ありません」
鏡に映ったセイを見ていた。正面からサーヤを見つめているセイは、どんなふうに見えただろう。
「美しい瑠璃色(ラピスラズリ)の瞳の君に言われると、こそばゆいな」
「きらきら輝いている御方に、そんなこと言われると照れます」
記憶を失っていて、言葉遣いも違うが、確かにセイの愛した少女に違いなかった。
 
「……今日はお仕事休みだったかしら……どうしよう」
「働き者だな。まだ入院中だぞ。雇い先には連絡してあるからゆっくりしていろ」
「ありがとうございます」
「……わたし」
「どうした?」
「大切な人を忘れている気がする。その人はきっと自分の命より大事で、愛おしい人だったはずなのに」
セイは、びくっとした。サーヤは、悲しげな光を瞳に宿している。
(……大切なことは覚えているじゃないか。
一番大事なものを手放さなかったことは嬉しいが切ない。歯がゆい)
「陛下、泣かないで 」
「泣いてなどいない」
細い指が、眦の涙を拭う。
胸が苦しくなるほど優しい仕草だった。
「ごめんなさい。私も泣きそうです。何だかお腹の中が空っぽで変なんです。
お腹が空いたんじゃなくて……どう言えばいいのかな……そう愛しい人との絆の証がなくなったみたいなの」
 
「ぽっかり穴が空いた感じで寂しい……って何言ってるのかしら。
陛下は助けて下さっただけなのに勝手にべらべらとごめんなさい」
「いいんだ」
サーヤの背中に腕を回す。前に抱きしめたのは随分と前だった気がする。
あの日から何もかも変わってしまった。
サーヤが、生き残れるように頑張ってくれたことを誇りに思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

ねえ、私の本性を暴いてよ♡ オナニークラブで働く女子大生

花野りら
恋愛
オナニークラブとは、個室で男性客のオナニーを見てあげたり手コキする風俗店のひとつ。 女子大生がエッチなアルバイトをしているという背徳感! イケナイことをしている羞恥プレイからの過激なセックスシーンは必読♡

【完結】お義父様と義弟の溺愛が凄すぎる件

百合蝶
恋愛
お母様の再婚でロバーニ・サクチュアリ伯爵の義娘になったアリサ(8歳)。 そこには2歳年下のアレク(6歳)がいた。 いつもツンツンしていて、愛想が悪いが(実話・・・アリサをーーー。) それに引き替え、ロバーニ義父様はとても、いや異常にアリサに構いたがる! いいんだけど触りすぎ。 お母様も呆れからの憎しみも・・・ 溺愛義父様とツンツンアレクに愛されるアリサ。 デビュタントからアリサを気になる、アイザック殿下が現れーーーーー。 アリサはの気持ちは・・・。

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

【R18】××××で魔力供給をする世界に聖女として転移して、イケメン魔法使いに甘やかされ抱かれる話

もなか
恋愛
目を覚ますと、金髪碧眼のイケメン──アースに抱かれていた。 詳しく話を聞くに、どうやら、私は魔法がある異世界に聖女として転移をしてきたようだ。 え? この世界、魔法を使うためには、魔力供給をしなきゃいけないんですか? え? 魔力供給って、××××しなきゃいけないんですか? え? 私、アースさん専用の聖女なんですか? 魔力供給(性行為)をしなきゃいけない聖女が、イケメン魔法使いに甘やかされ、快楽の日々に溺れる物語──。 ※n番煎じの魔力供給もの。18禁シーンばかりの変態度高めな物語です。 ※ムーンライトノベルズにも載せております。ムーンライトノベルズさんの方は、題名が少し変わっております。 ※ヒーローが変態です。ヒロインはちょろいです。 R18作品です。18歳未満の方(高校生も含む)の閲覧は、御遠慮ください。

蛇神様の花わずらい~逆ハー溺愛新婚生活~

ここのえ
恋愛
※ベッドシーン多めで複数プレイなどありますのでご注意ください。 蛇神様の巫女になった美鎖(ミサ)は、同時に三人の蛇神様と結婚することに。 優しくて頼りになる雪影(ユキカゲ)。 ぶっきらぼうで照れ屋な暗夜(アンヤ)。 神様になりたてで好奇心旺盛な穂波(ホナミ)。 三人の花嫁として、美鎖の新しい暮らしが始まる。 ※大人のケータイ官能小説さんに過去置いてあったものの修正版です ※ムーンライトノベルスさんでも公開しています

処理中です...