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外伝「記憶の揺りかご」1

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お遊びで書いた記憶喪失物語。ダーク。暴力描写あり。
ちょっと切ない展開にはなりますが、短めですぐ片が付くのでそこまでではないかな。
お読みになるのは本編後を強くおすすめします。









清廉な雰囲気がただよう神殿で起きた惨劇に
目を疑った。神の御許(みもと)であっては、
ならない事態だ。
サーヤをわずかの時間、一人でいさせてしまった挙句この有様。
おびただしい血が床に溢れていた。
血に染まった花嫁衣裳が遠目に分かり、近づくと鮮明になった。
「サーヤ!!」
 
隣には、自らの腹に刃を突き立て絶命した男。
あの日、国外追放したはずの男ーキョウーの亡骸があった。
セイは、うめく。
心の中に冷たい風が吹き抜ける。
血に濡れていても尚、サーヤは美しかった。鳥肌が立つほどに。
あの日、セイを一目で捕らえた夜明けの瞳が、閉じられたまま開かない。
瑠璃色(ラピスラズリ)の眼差しが、セイを見つめ返さない。
彼は血に濡れたサーヤを抱き上げた。
後ろから駆けつけていた宮廷医に、声をかける。
「……宮廷医、サーヤを診てくれ」
セイは、泣き笑いの表情で言った。
「セイ様……、サーヤ様は生きておられます。
傷は幸いにも浅いようです。意識は戻られてはいませんが、命には別状はありませんよ」
あたたかいでしょう。
あなたの大切な花嫁は……。
宮廷医の言葉が、セイの壊れかけた心の欠片を拾い上げるようだった。
「……そっか。サーヤを失わずにすんだんだな」
腹の子は、失われただろう。そして、彼女はその事実を知ったら、絶望する。
セイが、何より大切なのは、腹の子よりサーヤ自身だった。そう、彼女さえいれば、またやり直せる。
 恐らく、見たくもない光景を目にして、深い傷を負った。
たとえ、憎悪している存在でも、自らが命を絶つ姿など見たくもなかったはずだ。
「早急に治療してやってくれ。身体より深く傷を負った心まで治してやりたいんだ」
「……はい、王太子殿下」
 
 



時は遡る。
戴冠式と、結婚式が終わった後サーヤは、
部屋に一人でいた。
ここは、セイが元々使っていた部屋だ。
サーヤが穏やかに過ごせるようにと部屋の前には警備を置いていない。
他の場所には、警備の者達が無数にいるから、
もしものことはない。誰もがそう信じていた。
「すまないな。すぐ戻るから。呼んだら女官が来るから待っていてくれ」
「皆様にご挨拶してきて……私も一緒に行けなくてごめんなさい」
神殿での儀式の直後、吐き気をもよおしたサーヤは、セイに連れられて王宮に戻った。
「事情は分かっているから大丈夫だ。やはり部屋に女官も置いとくか。男性の警備の方がいいか」
「……すぐ戻ってくるんでしょ。平気よ」
「わかった」
先程まで、頭上に輝いていたティアラは、
負担になるからと外してテーブルに置いている。
サーヤはセイが出ていくと同時に部屋の内鍵をかけた。
 
セイが、部屋を出ていっていくらか時が過ぎた頃だった。
突然、騒々しい物音がした。
 
 
開け放たれた扉から、1人の男が現れた。
(鍵……どうして!?)
「……っ! 」
悲鳴をあげようとしたが、かなわなかった。
口元に手巾を押しつけられ、そのまま気を失ってしまった。
気がついた時、王宮にほど近い神殿の中にいた。ここは、さっきまでいた場所だ。
指輪を交換しセイと愛を誓った。
(攫われたんだ……)
厳重警備された王宮に忍び込んだ大胆不敵な輩は、かつて教えてくれていた
外国語の教師……キョウだった。
縛られた身体は、動かない。サーヤのそばにいる男は、一方的に話し始めた。
「鍵なんてねぇ、簡単に開けられるよ」
「……キョウ」
彼が上着のポケットから取り出したものを見て驚く。それは、針金だった。
鍵穴に差し込んで鍵を開けたのだ。
 
「シーク・セイから、すべてを奪ってやる。愛しい女、腹の子供、約束された玉座……をね。
君を失った彼は、慟哭し自我を失うだろうね。絶望に突き落とされて、何もかも壊すよね……。
私は君を犯して殺して、共に逝くから、その後が見られなくて残念だけど」
サーヤは、この男は、おかしくなっていると感じた。
「俺は、君に手を出すことはできないんだ。王太子……今は国王陛下か。
あいつに制裁を受けた時、男性機能が不全になっちゃってね、女を抱けない身体になった」
縄で縛られたサーヤは、キョウの憎悪に満ちた眼差しに、凍りつきそうだった。
「それでね……好色で有名なガクを呼んだから」
キョウの後ろから現れた男は端正な面をしていたが、下卑た眼差しのせいで台無しだった。
「この子を犯して、壊してやってよ。思いきり出していいからさ」
「こんな上玉めったにお目にかかれませんよ」
ガクが、舌なめずりした。
「こ、来ないで!」
サーヤは、叫んだ。
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