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第10章『愛される喜びと独占欲』

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セイは、サーヤの愛らしさに気が触れそうだった。何度、イかせても、己が満足するまではやめられない。恐ろしい女だ。男の嗜虐心を煽り征服欲を燃え上がらせる。



「あ、あん……っ、い、イく」

奥に擦りつけると、襞がまとわりついてくる。射精感が、沸き起こり、吐き出す。サーヤは、今宵3度目の絶頂を迎えた。

窓辺に押しつけた身体から力が抜ける。くったりとした柔肌を押し開き、再び突き上げる。

今宵最初の行為から、1度も抜いていない。

イくと、直接的な表現をしたのは、よほど、嬉しかったのだろうか。俺から愛を告げられて。

「お前は俺のものだ、サーヤ」

「……私はセイのものよ」

「身体は素直だな。ほら、また蜜が溢れ出した」

「やあっ……っ」



蜜口を指でかき回す。繋がった場所から、混ざった体液が溢れ出している。蕾をいじりながら、突いてやると、いい声を出す。

「気持ちよすぎて……感じすぎてしょうがないだろ」

かくかく、と首を振る。

指を口内に入れる。かき混ぜると、サーヤは、思った通りに指をくわえて吸った。

「んむ……っ」



窓に押しつけた肌。豊かな乳房が張りついている。月光に白い肌が、透けている。

奥をかき回す。何時間でも、腰を振り続けられる気がしたが、わずかに残った理性でこらえる。お預けをくらわせて、自分の首を絞めた感もあったので、いくらか暴走はしたが。

「あ、あ、や、イッちゃう! 」

「くっ……」

引き絞られたから、思う存分、吐精した。はじめて抱いた時から、分かっていた。サーヤの身体は、よすぎる。相性もだが、男を狂わせる。

セイは、崩れ落ちた身体を抱きとめ繋がったまま、横抱きにした。長く、胎内ナカに留まりたいという感覚も初めてだった。



サーヤが気がついた時褥の中にいた。

初めは、ここで抱かれて、湯殿で2度目、

部屋に戻ってきて抱かれている。

「えっ……嘘」

ぞくりとした感触に身を起こしかけたが、かなわなかった。セイが、腰に腕を回し、両脚を絡みつけている。彼自身もまだ、胎内ナカにとどまったままだ。



「あ……っ」

急に跳ねた剛直に子宮内で、絡め捕らえようとする蜜襞……。セイは眠っているはずだ。確かな寝息も聞こえてくる。サーヤは動けず戸惑う。声が勝手に漏れる。あれだけ、抱かれて……いや、愛し合っておきながらまだ欲しているのだろうか。



「大きくしないで……っ」

サーヤは自らの締めつけで、セイの剛直を成長させてしまったことに気づかない。

胎内ナカでふくれあがった大きさに

恐れおののきながらも歓喜した。

「……お前が、俺を起こしたんだろ。

締めやがって! 」

いきなり、突き上げられ、サーヤは悲鳴をあげた。繋がった場所からは体液が、溢れかえっている。



「ふぁ……っ」

揺れる視界。腰を打ちつけられ、生理的な涙が頬を伝う。熱い舌が、拭ったのは初めてのことで、目を見開く。

「……セイ」

「サーヤ、もう足りたか? 」

「もう、十分よ……!」

訴える。

セイが、胎内ナカを抉る。角度を変えた動きで、貫かれ続け、サーヤはセイが、吐き出す前に気を飛ばした。

セイが、限界を迎えたのはそのあと。

どっぷり、と吐き出して、サーヤの奥から、

自身を抜いた。

力の抜けた身体が、サーヤの上に覆いかぶさってくる。



「ゆっくり休めよ……身体がもたないだろうから」

サーヤは掴まれていた手首がが解かれたことに寂しく思ったが、わがままは言えなかった。



寝台から、抜け出たセイは、サーヤのそばで着替えを始める。彼は、使用人に着替えを手伝わせたりしないのだと、今更ながら知った。

褥の中、もぞもぞと動く。顔だけ出した状態で、セイを見つめた。

「……この部屋で寝てていいの? 」

「ああ。起きてから食事をここに運んでもらえ。ベルを鳴らせば飛んでくるだろ、シュレイが」



「ありがとう」

「おやすみ、サーヤ。昨夜はいい夜だったな」

「……あ、はい」

「早く俺の子を身ごもってくれたら、

万々歳だな……くっ」

「最後の不気味な笑い、いらないんですけど」

「……んっ」



寝台に片膝をついてセイが、キスを仕掛けた。小鳥がさえずるような、優しいキスに、心までとけそうと、うっとりしかけたサーヤは、

荒々しい舌に絡め取られて、

顔を赤らめる。鼻からは弾んだ吐息が漏れている。



「じゃあな」

「……行ってらっしゃい」

セイは、朝からサーヤの心も身体も溶かしきって、政務に向かった。

昼食を食べ終わったあと、

自室に戻ったサーヤはシュレイを呼んだ。

「セイ様のことですか? 」

言い当てられて、どきりとした。

「宮殿の中にあの人の気配がないわ」

「……実は今日は王宮に行かれたのです。

ああ、前回とは違い夜には戻られますので、

ご安心くださいね」

「別におめかししてなくて、普通の格好だったのに」



ほんのり寂しい気分になったサーヤは、

わがままな子どもじゃないんだからと、自分が恥ずかしくなった。

「お可愛らしいサーヤ様にとっておきの

魔法をかけてあげましょう」

「魔法? 」

シュレイは、サーヤの髪を改めてくし削ってくれ、結わえてくれた。昼食を運んでくれる前に、身繕いを手伝ってくれたのに、再び手を煩わせて申し訳ない気分になる。

怖いことをいう人だが、サーヤを甘やかす時は

細やかな気配りを見せた。

「気分転換になりますでしょう? 」



「あのね、セイが、ぎゅってしてくれたの」

「まぁ、それは、手ですか? 抱きしめられたのですか」

「手首をぎゅっと掴まれてた」

「……セイ様がなさりそうなことですね」

「嬉しかったわ」

「……サーヤ様」

何故か痛ましいものを見る目をされ、困惑した。

「ここ最近、急にお変わりになられましたね」

「わたし、全く変わってないわよ」

ぽんぽんと背中を撫でられる。

「……おいたわしいですが、よいことです。これからもそんなサーヤ様でいてくださいね」

シュレイは、瞳に涙を浮かべている。

「ど、どうしたの? 」

「……戴冠式と結婚式が待ち遠しいですわ」

「私も」

うっとりと微笑むサーヤの頭を撫でてシュレイは、部屋を辞した。



サーヤは、廊下から宮殿の入口に向かう途中、言い争う声が聞こえて来て足を止めた。

(嫌な予感がする。見てはだめ。近づいてはいけない。でも、知らなくちゃ)

1人はシュレイの声。もう1人は誰かわからないが、若い女性の声だった。

そっと、衣装の裾をつまんで、歩いていく。



「サーヤ様……こちらへいらしてはいけません」

シュレイでない別の女官が、足止めをする。

妙に慌てた様子だ。

「お客様なのでしょう。おもてなししなければいけないわ」

正妃に選ばれて、未来も約束された。愛も確かめあった。その自信で思い上がっていたのかもしれない。サーヤは、女官の静止を振り切って声のする方に進み、目を見はった。



「サーヤ様……」

頭を下げるシュレイに首をかしげる。シュレイの向かいに立つ女性は、小さな子供の手を引いていた。とても可愛らしい幼子ににこっ、と笑いかけられ、サーヤは微笑む。

「あなたが、セイ様のご正妃様? 」

サーヤより年上で背の高い女性は、たおやかに微笑みかける。正妃になる予定とは言えなかった。

「……はい」



「まだ、指輪も贈られていらっしゃらないのに? 」

「え……」

「ご無礼な! 指輪はご婚姻の儀で、交わされるのですよ」

シュレイが、いきり立ったのに、呆然とする。

(どうして、こんなに怒ってるの? )

「……あの、あなたは」

「セイ様と長年親しくさせていただいておりました。アーシェと申します」

名を告げる前に、わざわざ言ってのけた。

琥珀の瞳の小さな子供は、彼女の切札だと気づいてしまった。



何も分からないサーヤではなかった。

ここに来るべきではなかったのだ。愚かな自分には辟易する。

(ここに来なければ、守られて……違う、それじゃいけないのよ)

サーヤは、泣きそうな気分で、それでも

微笑んだ。アーシェと名乗った

女性の前で泣くわけには、いかなかったから。



「さあ、ご挨拶なさい、シェリス」

「はじめまして、サーヤ様。シェリスと申します」

4、5歳に見えるその幼児は、にこにこと笑いかける。セイと同じ色彩の瞳。

「はじめまして」

「この子はあの方との間に授かった子です」

ばくばくと心臓が音を立てる。

サーヤは、次第に周りの音が遠ざかっていくのを感じた。

「サーヤ様!!」

シュレイが、心配そうに声をかける。

(どうして、そんな顔で私を見るの……)

気を失ったサーヤは、男性の使用人によって、自室に運ばれ、寝台に寝かされた。



「……っ」

「サーヤ様、申し訳ありません」

汗を拭いてくれたシュレイが、目を伏せる。

「どうして、謝るの。私が勝手に倒れたのよ」

サーヤは、先程のできごとを覚えていた。アーシェという美しい女性と、シェリスという可愛らしい女の子。セイと深く関わっている存在。

「……あの方のことは、私も知りませんでした。セイ様は、サーヤ様に出逢われるまで、

女性に執着したことはなかったのです。

きっと、あの子供もセイ様のお子ではないと思います」



「セイと同じ色をした瞳だったわ」

「セイ様の瞳の色については、ご本人からお聞きくださいませ。

地理と歴史をご存知なら、分かるかもしれませんか」

「……うん」

サーヤは、書物で読んだことを思い出した。

隣国の人間は、琥珀の瞳を持つものが多いことを。

あの鮮やかな琥珀は異国の血を受けた証だった。

初めて会った時に、射抜かれた光り輝く瞳。

「アーシェ様は、お帰りになられたの……? 」

「セイ様をお待ちになるとおっしゃられて……

別の女官が、もてなしております」



シュレイの声色には不愉快が滲んでいた。

「本当のことはセイが、知ってるわ。大丈夫よ」

「サーヤ様、具合がよろしいのなら、

ご夕食をお運びしましょうか」

「セイと食べられないの? 」

セイが帰ってきて共に食べられるのだと思っていた。

「私も少々腸が煮えくり返っておりまして、

あの方には、お灸を据えねばなりません。あの方には、サーヤ様と離れ離れ、お1人で召し上がっていただきましょう。

サーヤ様には、お話し相手もおつけしますけれどね」

「さっきの話ならセイのお子ではないのでしょう。シュレイが、もうこれ以上怒ることはないわ」



「あなたを苦しませたからです。

サーヤ様は、繊細な方だと分かっていました。セイ様の横暴ぶりに傷ついて出て行かれたときも、私は知っていて知らない振りをしました。セイ様には、申しておりませんが」

抱きしめられた腕の中で、サーヤは涙が止まらなくなった。ひっ、く、ひっくとしゃくりあげて背中を撫でる。この人は、守ってくれたんだと、感謝でいっぱいになったのと、胸が苦しいのとで、胸の中はごちゃまぜだった。

「では、この後、お食事を運ばせますので」

「ありがとう」



「サーヤ様の未来は輝きに満ち溢れています。

私が保証いたします」

サーヤは、シュレイが去った後、別の女官が運んできてくれた食事を食べた。なかなか、食事が進まず、半分残してしまい、罪悪感がこみ上げた。食事の片付けに来た女官は気にしないで下さいと言い去り、程なくして桶と布を手にしたシュレイが現れた。



「今日は、ここで綺麗にさせていただきますね」

サーヤが、ぼんやりと、頷き衣装を脱ぐ。 されるがままシュレイに身をつくわれ、粉をはたかれた。肌にまぶされたパウダーは、明かりの下できらきらと輝いた。

(私の未来は輝きに満ちているの……? )

「アーシェ様は、セイ様が追い払われました」

棘が含まれた口調だ。セイは、苛烈な気性があるから、酷いことをしたのかもしれない。

「……私はこれからあの方にお会いして参ります。サーヤ様は、中から鍵をかけておやすみくださいませ」

「……わかったわ」

シュレイの言葉に従い、サーヤは、部屋の内鍵を閉めた。鍵を使ってセイに開けられなければ、これで今宵は、彼を拒むことができる。





時は遡る。

セイは、宮殿に帰って早々、出迎えに出たシュレイに、半ば強引に、客間に連れて行かれていた。顔には、不快と書いてあるが、気にするシュレイではない。客間が開かれ、立ちかわり、セイに挨拶をし女官が出ていく。

目の前には、いた女性が、嬉々とした様子で立ち上がった。

見覚えがないとは、とぼけられなかった。

シュレイが耳打ちし、頷く。



「……セイ様、お帰りなさいませ。

お待ち申しあげておりましたのよ」

抱きつかんばかりで擦り寄ってくる女性を

冷たく見下ろした。

見たものを凍りつかせる眼差しに、びく、と怯む。

(お前などに、かかずらっている暇はない)

「アーシェ、今更、何の用だ」

「あなたに、会いに来たのです。この子と一緒に」

「この子? 」

「王子、お父様ですよ」

アーシェの陰に隠れていた幼子が、前に押しやられて出てきた。

「シェリスと申します、お父様、はじめまして」

舌っ足らずに言う小さな子供。性別は男。セイは、脳裏で整理した上で、子供には、僅かに和らいだ表情を向けた。

「お父様って、誰のことかな、坊や」

「セイ様! 」



セイは、アーシェを睨めつける。

「お前と関係があったのは、

少なくとも6年前と記憶しているが」

アーシェは、目を伏せた。

「この子供は、まだ4つほどだろう」

「……はい」



アーシェは、ぎりっ、と歯ぎしりした。

「見え透いた虚偽で王族を謀たばかるとは、

不敬罪……いや、国家反逆罪かな」

くすっ、とセイが、笑う。

アーシェはきっ、とセイを睨んでいた。



「……悔しかったのです。ハレムを空にしていたセイ様がご正妃を迎えられると、皆が噂する。王宮に馴染んでいる貴族の間では、

皆が知っています」

「来てみればあんな子供……が、正妃だと

名乗る……私はセイ様に深く愛していただいていたのに」



アーシェが、じわりと浮かんだ涙を拭わずセイを見上げている。

「まだ、何か言いたそうだな」

「あなたとの間の子供を授かれないのなら、

せめて同じ瞳の色の子供が欲しかった」

「それで、隣国の男と寝たと」

隣国は、セイの祖母が生まれた国だ。

琥珀の瞳を祖父に見初められて嫁いできた王女。

「……あからさまにおっしゃるのね」

「同じことだろう、お前は、利用しただけだ。

俺の子と偽るためにな」

「……っ」



「挙句の果てに捨てられた。

あ、1度限りの関係だったか。

俺すら、もう少し目をかけてやったのに」

「や、やめて」

「ひとつ教えておいてやる。

王太子の離宮まで、乗り込んできた勇気あるお前に。

俺は、お前も含め過去の女の誰も、

最後まで抱いたことはない。何年前に付き合いがあった

女だろうと、子を身ごもることは不可能だよ……

愛妻のサーヤ以外は」



セイはことさら、いたわり深く言ってのけた。

「……ご慈悲を下さらなかったからお恨みしました」

「ご慈悲? むしろ、ありがたく思ってほしいが」

「どうして、種を下さらなかったの?

期待に打ち震えた瞬間を引き裂かれてとても苦しかった」

セイは、苦いものを飲み込んで

過去を精算しきれていなかったことを悔い、

ここまでの行動に走らせた己の存在の大きさにおののいた。

(いや、アーシェは、王位の血統の子が欲しかったのではなく俺の子であれば、よかったのか? )

「……アーシェ、罪には問わない。

俺も腹が立って言いすぎたしな。詫びとして、

父親を探してやる。だから、逆恨みはやめろ」

「……セイ様……っ」

「同じ色彩の瞳の子が欲しいと思うほど、

俺を想ってくれて、ありがとう。アーシェ姫」

セイが、せめてもと贈った言葉にアーシェはすすり泣いた。





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