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第5章『この腕からの開放を求めて』

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驚きが、顔に出ていたかもしれない。慌てて、視線を逸らす。無意味なことだと知っていても。



「……いきなりいなくなって、いきなり、帰ってくるのね」

「嬉しくはないんですか、恋しい人が、帰られるんですよ」

「恋しい人……ね」

渡された手鏡を持つ。髪が油をさして、梳かれていく。こんなふうに、人に世話をされるのは、未だに慣れない。彼女の仕事は、抜かりがなく、徹底していて、サーヤに畏怖を抱かせた。

(寵姫って都合のいい存在なのかもしれない。この広い離宮で、囲われているのは確かに私一人だけれど……)

「さあ、次はお化粧ですよ。今日は念入りにいたしましょうね。サーヤ様の魅力を引き立てるように」



丁寧に、瞼の縁に彩りを添えられ、おしろいをはたかれ、唇には刷毛で紅を塗られる。

「……派手よ、これ」

「いいえ、華やかです。あの方を虜にしてしまえばよろしいのですよ。まぁ、その後は保証致しかねませんが」

いたずらなシュレイの微笑みに、図られたと悟る。いかにも女という雰囲気に仕立てられ、

セイの前に差し出される。

「……されないわよ、あの人は」

「元々、お美しいサーヤ様ですけど、

今の姿は本当に艶やかで、セイ様もこれまで以上に愛してくださるでしょう」

どんな確信なのだろう。無理矢理に、子供が大人ぶって、おかしい気もする。元々、自分の顔が、大人びていると思ったことはない。

セイの隣にいると、違いを認識させられる。大人で妖艶で、嫉妬を覚えるくらい秀麗な美貌の持ち主。美しさ故に、年齢を感じさせない男ではあるけれど。



「あなたは、私の味方なの? 」

「もちろんですわ」

即答されても疑念は拭えない。セイへの恋心をかき消せないように導いて、彼の思うがままに、その手に落ちるのが望みなのではないか。



「ありがとう……少し1人にしてくれるかしら」

「では、朝食は後ほどお持ちしますね」

「あの人はいつ頃帰ってくるの」

「昼食の時間にはお戻りになられます」

そう、言いおいて、シュレイが、サーヤの元を去る。朝食が運ばれてきても、無造作に口に運び味がしなかった。



「今帰ったぞ」

「お、おかえりなさい」

2週間ぶりに帰ってきたファシャール・シーク・セイ。

王太子殿下たる彼は、静まり返っていたこの離宮に、

光をもたらすようだった。火の消えたようだったのに。

出迎えに出たサーヤは、頭上から降り注ぐ声に、びく、と肩を震わせた。

「いい子にして待っていたか? 」

世にも希まれな美しい男性は、

腰を屈めると耳元で艶めいた低音をサーヤの耳に直接響かせる。息を詰める。体格差を意識させられて、不覚にもどきりとした。

「お前、俺に言えないやましいことでもあるのか? 」

「いい子なら、言えよ。それとも身体で教えてくれるのか? 」



「偉そうな態度で出ていって、帰ってきた時も偉そうで、なんなの。私を馬鹿にしているの」

「そんなつもりはないんだがな」

くっ、くっ、と喉で笑われ嫌な気分になる。

「……お前は俺のものだってしっかりおしえてやったはずだ」

引き寄せられた肩が熱い。

「あなたは、何故留守にしていたの。私にばかり、話せなんて、勝手にも程があるわ。

2週間もいなかった理由を説明しなさいよ」

「……教えてやるから落ち着けよ、サーヤ」

唇にふきつけられた吐息に、くらくらと目眩いがする。

「素顔の方が美しいが、そうやって、

化粧すると大人びて美しいな。シュレイにも礼を言わねば」

セイは、サーヤの顎を傾けると、唇を重ねた。

何度か角度を重ねてキスが、降る。



「……私はあなたのお人形じゃないわ」

「いっそ、もの言わぬ人形ならどこまでも

俺に隷属させられるのにな」

かっ、と頬に朱がのぼる。どこまで本気なのか分からない。

「ふざけないで……んんっ」

熱い舌が、唇を割る。唾液を啜られ舌を吸われたら、あっけなく身体の力が抜ける。

(また、私を黙らせるの……)

「……教えてやるから、その綺麗な顔を歪めるな。まずは、お仕置きだな」

横抱きにされる。通りがかったシュレイに、セイは、帰還の旨と礼、さらにサーヤが、呆気に取られる言葉をつたえた。シュレイは、言葉を失っていたが、すぐに主に肯定の意を返した。



(昼食はいらない。しばらく二人きりになりたいから、湯殿と部屋には近づくな……ですって)

「下ろしてよ……」

「反抗するとは生意気な小鳥だな」

「誰が小鳥よ」

サーヤは、勢いよく噛みついたが、涼しい顔で、意に返さない。思いどおりにはなるつもりはないが、男の力にはかなわなかった。

連れて行かれた湯殿で、敷布の上に組み敷かれる。あっけなく、剥がれた衣装。首飾りも腕輪も足首の金環もサーヤを飾り立てていたものすべては、瞬時に、取り去られる。

「……せっかく綺麗に着飾ってもらったのに」

「何も着てない方がいい」

首筋を這う手のひら。強引に重ねられた唇に、抵抗して跳ね除けようとしても、セイが許さなかった。手首を捕まれ、暴かれてゆく。



「俺に言えないようなことをしてたのか」

顎を上向かされ、問われる。瞼に蘇る自らの痴態。

「……し、してないわ」

「へえ? 」

「あ、あ、っん」

くちゅり、いきなり埋め込まれた指が、胎内ナカをかき混ぜる。

「……キスひとつで濡れるのか、とんだ淫乱だな」

「……っ! 」

罵られた言葉に、耳を疑う。淫らで乱れた女。

「1人で楽しんで、新たな快楽を覚えたのか」

長い指が、何本も入れられ、胎内ナカでうごめいた。声を漏らしたくなくて手で唇を塞いだ。

「……我慢できるはずもなかったか」

「あ、あなたが仕組んだくせに。シュレイに、媚薬まで塗らせて」



「……知らんな。シュレイが勝手にやったことだ」

「……セイ様を忘れないようにって、シュレイが」

「ご立派な忠義心だな。お前もその意を組んでやったわけだ」

「はぁ……っ、ん」

胎内ナカで、指を動かしながら、蕾を擦られる。溢れんばかりの蜜が、くちゅり、と音を立てた。

「……違うなら反論してみろ。1人でヤってはいないと」

直接的に表現されて、更に羞恥が募る。セイから与えられる快感もあり、肌が、淡く染まっていく。真昼の陽射しの中、全部見られているのだ。



「媚薬は、凄まじい効果だな。慣れた女には、効かまいが」

サーヤは、上目遣いでセイを睨んだ。

「そんな顔して見たら、逆効果だぞ。もっとお前を俺に従わせたくなるだけだ」

秘部を弄られながら、ふくらみを

揉みしだかれる。凶暴なキスが、サーヤの理性を打ち砕いて、心ごとさらう。

「なあ、サーヤ。お前は気が強いが、

本当はいたぶられるのも好きなんだろう? 」

唇を塞がれているので、反論もできない。

潤んだ瞳で見上げても、セイの言う逆効果だろう。



「こんなに興奮して。指を咥えこんで離さないだからな」

破廉恥な言葉ばかり言われる。

キスの合間に紡がれる言葉は、濡れていて、

怖気が走るほど艶があった。

ぷつん、と白い糸が途切れる。セイの瞳は、欲を灯しているようでそれだけ。心が分からない。自分は冷静なままサーヤを快楽に溺れさせる。

「……後で俺にして見せろ」

言葉を感じ取って頭かぶりを振る。

鋭く突き立てられた指。

言葉を封じていた唇が離れた途端、高らかな声を上げていた。

身体が弛緩している。

「……い、いや」

「欲しがっているのはお前だろ」



突きつけられた漲りは、サーヤの内に、押し込まれる。奥まで貫かれて、息が弾む。

「……んんっ」

「サーヤは無理矢理される方が、お気に入りだって気づいたからな」

奥をゆっくり擦っては、出入りを繰り返す。

繋がった場所から、ぱん、ぱんと腰を打ちつける音が響く。

(満たして欲しかったけど……こんなのってない)喉の奥から発せられる意味のない喘ぎを

こらえたい。聞かれたくない。

肩に担がれた脚。

ず、ず、と刺し貫かれる。胎内ナカで暴れる熱は、サーヤを犯し続けた。



目覚めた時、

寝室の寝台の中にいた。腰に回された腕が、きつく拘束している。

「強情なお前を泣かせるのも悪くないな」

「……セイ」

ここまで、ひどい男だっただろうか。悔しくて、泣けなくて唇を噛み締める。血が滲んだ唇に、キスが、落ちる。

「可愛いお前が、自慰で乱れる姿が見たい」

ぞく、震える。逆らえない引力を秘めた声に、

サーヤは、覚悟を決めた。もう、どうでもいい。セイが、腕を引く。起き上がらされて、乾いた笑みを浮かべる。

胸のふくらみと、秘部、両方に手を置いた。先程までの行為で固くなったままの胸の尖りと、

秘部で剥き出しになった蕾を同時に擦った。甘いしびれが駆け抜けて、声が出る。



「あ、あっ」

命じられて、抗えず受け入れてしまった。

(私は壊れてしまったのかもしれない)

胸の尖りを指先で押さえてふくらみを揉む。濡れた蕾から、溝にかけて上下に指を動かした。

何度もイかされた身体は、イきやすく、どくどくと、襞がざわめくのも早い。

「んん……はっ」

「女が、する姿もいいもんだ。これで2度目か? 」

薄目を開ければ、肘をついてこちらを視姦しているセイがいた。口の端を上げているように見える。弄ばれているのは、疑いようがなかった。

くちゅ、と音がした。秘部をいきなり舌でなぶられた。

「ひっ……ああ」

サーヤの指の動きが止まる。蜜を啜られ、蕾もつつかれて、

愉悦がこみあげる。つ、と蜜口に触れた舌が、胎内ナカに

入ってくる。ごく浅い場所で、サーヤを味わっている。

べろん、と舌がえぐる。浅い息を吐き出して、シーツを掴む。

唇からは、唾液さえ垂らしている。1人で行っていた時は、

たどり着けなかった場所に、連れていくセイは容赦がない。

「陥落寸前か? 」

秘部を弄るサーヤの手の上にセイの手が置かれ、彼女の手を操った。がくん、と崩れ落ちた身体に横暴な男が、のしかかる。

横から突き立てられて、がくがくと揺さぶられる。

掴まれたふくらみが、大きな手のひらに揉みしだかれる。

「いやあ……っ」

「ちっとも嫌じゃないだろ。俺のをこの2週間どれだけ、ここに入れてほしかったんだ? 」

この声は、聞いてはいけない。

言葉を受け止めたら、私が私じゃいられなくなる。

サーヤの瞳から零れた涙が、シーツを濡らす。

肉欲は、胎内ナカを抉り、揺すり立てる。ふくらみを手荒に揉まれて、蕾もつねられる。

「や、やめ……」

「俺は寂しかったよ、サーヤ」

下肢を伝う雫は、セイがもたらすものと混ざり合ってある。顎を傾けられ、無理な体勢で、唇を重ねられる。小刻みに舌を振動させて、絡む。とろけた肌から、また蜜が、溢れ出した。



隘路をぐちゅぐちゅにかき回して、凶暴な男の熱が、一気にふくれ上がる。

「……だ、だめっ」

奥ではねた後、飛沫が注がれる。ありったけの欲で汚されて、サーヤは意識を闇の底に沈ませた。

気がついた時夕陽が沈もうとしていた。

サーヤは、そんなに長い時間、翻弄されていたのかと、思った。冷静になった心のうちで。

「……私、知ってるわ。あなたは王宮にいたんでしょ」

「誰から聞いた? 」

「昨日、アイリ姫が、来たの」

「……なるほど」



セイはそれ以上何も言おうとしない。話してくれる約束はどうしたのか。焦れてきたサーヤは、彼に背を向けた。しばしの沈黙が流れ、ようやく、セイが口を開いた。

「戴冠式が、近々行われる……。拒める立場にはない俺は、王位を継承することになった」

ごくり、息を呑む。セイは、真剣に話している。自己中心的に、サーヤを抱いた時とは雰囲気を変えていた。

「王宮で、過ごす間に、お前の実家にも顔を出してきた」



「……お母さんに会ったの? 」

「サーヤが、今どこにいるかを説明して、

金も渡した」

「な、なんですって……」

「なかなか、受け取ってくれようとしなかったがな」

「私、あなたにお金で買われたの……?」

悔しくて、情けない。大粒の涙は、感情を吐露している。

「……金を渡したのはお前を育ててくれたお礼だ」

「あなたのために……あなたに捧げられるために育てられたわけじゃない。お金なんて渡さないでよ。私を贅沢な鳥籠で飼うのが、目的だったの」

口にすればするほど、心の中まで苦味を感じる。

シーツを握りしめた。

「……ご機嫌を損ねてしまったようだ」

「これが、平静でいられるの。優しくしたと思ったら、いなくなって帰ってきて早々、

めちゃくちゃにして……」



すすり泣くサーヤは、強い腕の拘束からは、逃れる術をもたなかった。

「……戴冠式、私、呼ばれなくても市民の中に混ざってあなたを……見てるから」

王位を継承する儀式は、一般の民にもお披露目される。豪奢なローブを纏って、王冠を飾ったセイは、どれだけ輝いているだろうか。

「お前、何言ってるんだ。人の話を最後まで聞け! 」

肩を揺さぶられる。強い視線と言葉が、降り注ぐ。

「戴冠式には、正妃としてお前も出るんだよ。

結婚式も兼ねているからな」

傲慢な物言いは、呆れを通り越して、

笑ってしまう。



「寵姫という名の妾として? 」

「留守にしたことが、それほどまでお前を疲弊させるとは思わなかった。俺の落ち度だ」

自嘲の笑みを浮かべるサーヤに、国王となる男は苦笑いした。

「貧しい平民の私が、一国の王の后になれるなんて、馬鹿馬鹿しい夢は見るものですか」

「……譲れる者がいるなら、王位なんて誰かにくれてやってもいいくらいだ。お前以外欲しくないんだから。俺は王の血統の義務として玉座に収まってやることにした。サーヤを妻にすることを条件にな」

セイの言葉には嘘などないように思えたが、

甘い夢を見て、結局水泡に帰すのは、

何より恐ろしく、サーヤの口からは否定しか漏れない。



「……そんなの無理よ」

「無理なら、それこそこんな国捨ててお前を連れてどこまでも逃げてやるさ」

「……そこまでの価値があるの、私」

「もちろんだ。周りへの説得と、準備のための時間に2週間もかかってしまったのは、さすがに、悔やまれるが」

「……考えさせて。少し混乱しているから」

甘い抱擁をされても、心がまだ、セイを受け入れきれない。

「……あなたになら、何をされてもかまわないとは、思ってた。でも、私は、愛もなく抱かれるのは嫌よ」

「……ふうん」

セイの声色が変化した。気づいたサーヤは慌てたが、いきなり押し入られて声もなく悲鳴をあげた。



「……信じられないなら愛をたっぷり込めて抱いてやる。時間ならいくらでもやるが、

拒否は認めない。俺に、惚れられたら、終わりなんだよ」

わかったか。

耳元を食まれる。

終わりなんだとサーヤは、泣き笑った。

「愛があるなら何されてもかまわないんだろ」

「愛を簡単に口にしないで」

「反抗的な唇は、塞いでやらねばな」

厚めの唇が、重ね合わせられる。絡んできた舌が、

サーヤの口内を蹂躙した。

有無を言わさず、貫かれて、熱に狂わされて、何も考えられなくなった。彼の言う愛は、幾度となくサーヤの胎内ナカに、

注ぎ込まれた。

(単に欲の証だ。こんなのは……)

夜更けまで抱きつくされて、うっすら目を覚ましたサーヤは、

声を殺して泣いた。

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