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第3章『愛執の檻の中で』
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サーヤが、シークの宮殿で暮らすようになってから7日が過ぎた。彼は、毎夜、床に召しては、激しく、ときに酷く甘やかに彼女を抱いた。
(……なんか、それしかない。これって愛し合うって言うことなのかしら)
サーヤはぼんやりと目を覚ました。彼がさっきまでいた寝台ベッドは、
体温が、微かに残っている。どこへ行ったのだろうと、窓際を見つめたら、彼は、煙管キセルをくわえ、朝日が昇るのを見つめていた。
その妖しい色香にゾクッとしたサーヤは、
気だるい体をまたシーツに沈ませた。
身体をもてあそんでいるだけなのか、
本当に愛情を感じているのか、
未だに信じきれずにいる。
(だって、私を抱いている時しか、
愛の言葉をくれないの)
「馬鹿みたい」
心中の呟きが、声に出てしまい、はっ、とした時には後の祭りだった。
鋭く聞きつけたシークが、彼女に覆いかぶさり耳元で囁く。甘い低音。ほろ苦い香りが、 鼻腔をくすぐり、男らしさを醸していた。
「何が馬鹿みたいなんだ? お前は何が不満だ」
「やっ……だめ」
シーツを剥ぎ取られると、真白まっしろな、身体が朝陽にさらけ出される。
ぷるん、と弾む乳房を大きな手のひらが、包み、
下腹部では、長い指が淡い茂みをまさぐる。
初対面のその日に、純潔を奪った男。有無を言わさず甘い快楽に落とし、翌日には宮殿へと、半ば強引に連れてきた。
「どこがだめか教えろよ。こんなに濡らしておいて」
サーヤの秘めた場所に触れた指先を見せつけてくる。恥ずかしくて、頭かぶりを振った。
「……王太子殿下が、そんな獣ケダモノだったなんて」
「まあ、間違った表現ではない」
開き直ったシークは、蜜にまみれた指を口に含む。
「や、やめて」
「うまいな、お前の蜜は」
サーヤの蜜を舐めた唇で、彼女の唇を塞ぐ。
乳首をこねながら、荒々しいキスをされ、
また意識が白く染まりそうになる。
「ふぁ……っ」
口蓋を吸われ、びくんと身体がうずく。
乳首を弾かれたら、秘部が潤う。
慣らされた身体は、シークの意のままに、
反応する。
「……サーヤ」
「……呼ばないで」
唇に吹きかけられた吐息に乗せて名が紡がれる。
泣きそうだ。愛おしげに呼ぶ声は
偽りなどないと伝えている気がして。
熱い指先が、唇をなぞる。顎を掴まれて、強制的に視線を合わせられた。どくん、と暴れる心臓の音がする。見つめるのが怖いほど、
美しい男性ひとだと思う。
その美しさゆえに、心の奥までは覗けない。
深遠な瞳はまだ何かを隠しているみたいで、
切なくなった。
「……シーク」
「セイと呼べといつも言っている」
傲慢な命めいは、抗うことなど許さないと、言っていて、彼女は、小さく名を呼んだ。
もう、とっくに、心まで奪われてしまってる。
認めたくなくて、わざと憎まれ口を叩く。溺れたら終わりだと、天使がいう。
悪魔は、このまま、彼の鳥かごにいるのが、
幸せなのだと、言う。2つの相反する気持ちに苛まれて、苦しい。
「……愛なしに女は抱かない」
「え……っ」
「想いの伝え方をこれしか知らないんだ」
「……あなたは、どれだけの女性を愛してきたの」
「……後腐れもなく別れているから、心配するな」
言いくるめられて、絆される。
何度も交わされる唇は、
情熱的で、決して体温がないものではなくて。
せめて、彼の肌と唇が、冷たかったなら、
信じることはなかったのに。
「サーヤのように、一目で心を奪われたのは初めてだった」
「……手が早いのよ」
頬が熱くなるのを感じながら、サーヤぼそっとつぶやく。
心を奪われたら、すぐ身体を奪う……。
獣ケダモノと言ってしまったのは、
撤回する気はなかった。
「手っ取り早くものにする術はそれしかないだろ」
悪びれもしない男はそれでも、朝から情事にふけるのはやめたらしい。
散々、抱かれて、
消耗していたサーヤはほっ、と息をつく。
きっと、有無を言わさない彼を、
悦んで受け入れてしまうのだろうが、今は、
抱かれなくてよかった。ろくに休めてもないのに、また行為に及んだら、鬼畜!と、
叫んでいたところだった。
(愛があったら許されるものじゃないわよ)
覆いかぶさっていた身体が、遠ざかるのに、寂しいと感じてしまい内心焦る。
「お前の花を散らした責任は取ろう」
「……は!? 」
どういう責任だろう。
「んん……」
塞がれた唇から吐息が漏れる。離れた唇と唇のあいだで、白い糸が、ぷつり途切れた。
「そんな顔されたら、せっかくの我慢も水の泡になる」
「……そんなことばかり考えて……変態」
「くっ」
悪態は笑い飛ばされる。
身構えていたサーヤはあっさり、離れたシークを怪訝に思った。
(少しは私の気持ちも考えてくれているのかしら)
夜から朝を共にしているだけだ。
言葉で強引なことを言っても、本当に、朝から
抱いたりしなかった。
セイは、王太子として、国王の補佐をしていて、
自室の中に、執務室と、寝室を設けている。
彼は、サーヤが寝台ベッドに眠っているのを
見届けて、寝室を出て行った。
昼食の皿を片付けたあと、話し相手に
来てくれた女官が、サーヤに微笑んだ。
「サーヤさまは、本当に愛されておいでですね」
あの日入浴を手伝ってくれた女官は、サーヤに仕えてくれている。セイが、命じたらしい。
彼女は、主の名に従っただけじゃなく、
心からの言葉で、あなたに仕えられて嬉しく思いますと言ってくれて、サーヤは目元を潤ませた。母と同じくらいの年齢の女性で、どこか、故郷の母を思い出してしまったのかもしれない。セイが、彼女をサーヤ付きにしたのは、
深い理由はないのかもしれないけれど。
「……あ、愛されているんでしょうね」
生半可な覚悟では、彼のそばにはいられない。身をもって教えこまれているサーヤは、頬を染めて、俯いた。
「あの方が、女性をここに住まわせたことはないんですよ。だから、あなたのことは、
本気で惚れこまれているんだと思います」
「本当かしら? 」
彼女の言葉に、驚きを隠せない。セイは、女性をここに住まわせたことがない。
「……巷で流れている噂は真実ですが、
ここに連れてこられた方はいませんね」
「……あはは」
あまたの女性と関係を持ったのは、本当だが、
ここには誰も連れてこられていない。
サーヤは、なぜか、笑ってしまった。
後腐れなく別れている。
面倒事は避けてきた彼が、自分の住まいに初めて連れてきたのがサーヤ。
そんなことを言われたら期待してしまうではないか。本当に彼が、サーヤを妻にするのだと。
身体を重ねたから妻と呼んだのではなく、
真実、彼の后になれるのだと自惚れてしまいそうになる。ぶるぶると首を振る。
「……でも、彼は第1王位継承者でしょう。
私は……一時的にそばに置かれているって
不安も消えないの」
顔を覆う。
甘い言葉を言われると、雰囲気に流されるのだけれど。
(容貌に惑わされすぎている気がする)
「サーヤさま、セイ王太子殿下を信じて差し上げてください。
あの方は孤独な方ですが、とても優しい方なのです」
「……でもとっても俺様よ」
「あら、それはサーヤ様だけに見せている姿なのではありません? 」
「……複雑な気分」
「独占欲はお強いでしょうね。子供の頃から、愛に飢えていらしたし」
「……だから、あんな獣に……」
「サーヤ様は、素直でいらっしゃる。
そんな所もシークは気に入られたんでしょうね」
よしよし、と頭を撫でられてきょとんとする。
たおやかな手は、母の優しさを思い起こさせた。サーヤは、ふと思い出したことを口にする。
「セイ……さまは、責任を取ると言ってくれたけど……あれって」
「そのままの意味じゃないでしょうか」
意味深に微笑む女官。
サーヤはこの女性を信頼していたが、
彼女の主人はシーク・セイだ。
彼のことを悪くいうことは決して無い。
目を伏せたサーヤに、大丈夫ですよと、
一言言いおいて彼女は、場を辞した。
夜が来て、セイはサーヤの部屋を訪れた。
毎夜、同じ頃合に彼はやってくる。
月明かりに照らされているのは、夜の獣。
「おや、元気がないな」
寝台ベッドの上に腰掛けていたサーヤは、
あっという間に距離をつめられて、唸った。
顎をつまむ手に顔を上向かされる。
(嫌味なほど美しい男)
月明かりに冴え渡るその美貌。昼間の格好とは違いフードを外し髪も、幾分艶めいて見える。
入浴してきたあとだからか、男の匂い立つ色香に釘付けにされる。乾ききっていない髪から、滴が落ちている。
ぶるり、と震えた。
「寒いのか……」
抱き寄せられた腕の中、こてん、と胸を預ける。
セイが、サーヤの髪を撫でる。
やさしげな手つきに、奪われてもいい。
この男ひとに、何をされても、構わない。そばにいられるならと思ってしまう。
「それとも、期待してるのか? 」
「ち、違う」
楽しげに笑うセイに、顔を赤らめる。睨みつけたら、唇を奪われた。甘くささやかなキスに、物足りなさと心地良さ両方を感じる。
「……お前は貴重な純潔を俺にくれたんだな」
「……真顔で言わないでよ」
この人に誘惑されて堕ちない女がいるのなら、知りたい。頬を打ってでも、抗えばよかったのに魅惑的な悪魔に囚われてしまい、できなかった。
「……ねえ、もう一度頭を撫でて。そうして、キスして」
「ずいぶん可愛いおねだりだな」
くしゃりと、髪をかき乱されたあと、
丁寧に梳かれる。キスは、先程とは違う激しさで、理性をとろかせる。くちゅ、りと音を立てて舌を食む。時には小刻みに震わせながら。
身体の力が抜けてしまったサーヤは、大きな背にしがみついた。
寝台ベッドに横たえられながら、
上目遣いで問いかける。
「私を愛してる? 」
「これ以上はないほどに」
その言葉が聞けただけで十分だった。
欲だけで、抱かれるのは、
嫌なのに、流されてしまう自分は、セイを恨む資格もない。
「……愛してるわ、セイ」
唇から零れ落ちた真実を彼はどう受け止めたのだろう。サーヤは、瑠璃色の瞳で彼を見上げる。ばさり、夜着を払い落とし、さらけ出された美しい裸身に視線が吸い寄せられた。
「初めて言ってくれたな」
嬉しいよ。
「……っ」
セイが、きつく抱擁する。それは、少し痛みを伴ったけれど、サーヤは笑った。
花が咲くような微笑みを彼の肩越しに浮かべて瞳を閉じる。
(もう、取り返しはつかない。
心も全部捧げてしまった)
「私は厄介なのよ。大人じゃないもの。
毎晩、あなたの身体に囚われて、めちゃくちゃにされて植え付けられた感情を簡単には消せないわ」
「それは、本望だな」
しゅるり。首元で結ばれていたリボンが、解かれると同時に夜着が、肩から滑り落ちた。
サーヤは何度となく啼いた。シークが、これまでになく、優しく抱くから胸がつまって仕方がなかった。楔を打ちつけられる度、呼吸は荒くなるし、腰は跳ねるし、みだらな蜜はこぼれ続けたけれど……、この時が、愛しいとさえ思った。
抱かれることが幸せだと
感じたのは初めてだった。
「優しくされると怖いの」
「……俺の我慢は無意味だったようだ」
「……っあ」
サーヤは自らの失言を悟った。
「今度はお前が俺の上で動け」
命じられるままに、セイの身体を跨いだ。触れたいきり立ったモノを飲み込んでいく。
いつも以上に快感を覚え、息が弾む。
「……ああん」
腰を揺らしていると、下から突き上げられ始めた。奥までセイを感じて、たまらない。
ぐちゅぐちゅと、混ざり合う音。肌がぶつかる濡れた音が、弾けては繰り返される。
前に傾いだサーヤの身体に、大きな手が伸びてくる。乳房を揉みしだかれ、秘部に、
指が忍び入ってくる。つつ、と触れられただけで、意識が一瞬飛んだ。
「ずいぶんと早いな……今日は」
くっくっ、と喉で笑われて羞恥が込み上げる。優しさを信じた自分が馬鹿だったのか。
嗜虐的な部分もあるのだと、忘れかけていた。
「……あなたが遅いのよ」
きっと、身体の快楽だけじゃなく、
心が感じたから、早く達してしまった。サーヤは、悪態にもならない言葉をもらす。
「褒め言葉だが」
ずん、と大きく突かれる。先端で奥をつつかれ、傘の部分が、蕾に触れている。濡れそぼっているので水音も激しい。
「あっ……んん」
胎内ナカと外とを同時に攻め立てられ、
白い焔ほのおが爆ぜる。
吸い上げられた乳首が、じんじんと、疼く。
「……ん」
セイの身体に覆いかぶさると頭を押さえられる。サーヤが欲したキスを、セイから与えてくれた。ねっとりと執拗なまでに舌を絡ませ口内を荒らした彼は、彼女の腰を抱えた。
解けかけていた繋がりが、また結ばれる。
「お前が達イく前に、俺が達イってどうする」
「あ、あ、あっ」
膨れ上がった欲望がサーヤの胎内ナカで、
びく、びくとうごめき、跳ねた。
「セイ……、私ね」
サーヤは、生理的な涙で頬を濡らしながら、
言葉を紡ごうとしたが、唇を塞がれ、
封じられてしまう。
(どうしてなの……わたしがせっかく……)
喘ぎむせび泣きながら、胸元にしがみつく。
「……おやすみ、サーヤ」
楔が、勢いよく打ち付けられる。
吐き出された熱いものに、意識が、弾け飛んだ。
「参った……」
セイは、窓辺で煙管キセルを吹かしながら、髪をかきあげる。
抱いたあと女の肌を清めることなど、今までの彼では考えられないことだった。
唾液で汚した乳房、繋がっていた下腹部を布で拭い去る。
あどけない表情で眠るサーヤ。
たまたま、視察に出かけた首都アルサリナの片隅で、
咲き綻んでいた大輪の薔薇の花。
瑠璃色の瞳を持つ類まれなる乙女。
彼女は、すさまじい引力でセイをとらえてしまった。
「こんなこと初めてだ。逃がしてたまるか」
身体ごと心も欲しい。
ただそれだけ、伝わっていればいい。
寝台ベッドに潜り込み、柔らかな身体を抱き寄せる。
愛なしに女は抱かない。
想いの伝え方をこれしか知らない。
セイが、サーヤのみに伝えた言葉。
年上、年下関係なく色んな女性と仮初かりそめの
関係を繰り返してきたセイにとって、
本気になったのは、サーヤだけだった。
(優しくされるのが、怖いならもう甘やかす
べきではないだろうか)
(……なんか、それしかない。これって愛し合うって言うことなのかしら)
サーヤはぼんやりと目を覚ました。彼がさっきまでいた寝台ベッドは、
体温が、微かに残っている。どこへ行ったのだろうと、窓際を見つめたら、彼は、煙管キセルをくわえ、朝日が昇るのを見つめていた。
その妖しい色香にゾクッとしたサーヤは、
気だるい体をまたシーツに沈ませた。
身体をもてあそんでいるだけなのか、
本当に愛情を感じているのか、
未だに信じきれずにいる。
(だって、私を抱いている時しか、
愛の言葉をくれないの)
「馬鹿みたい」
心中の呟きが、声に出てしまい、はっ、とした時には後の祭りだった。
鋭く聞きつけたシークが、彼女に覆いかぶさり耳元で囁く。甘い低音。ほろ苦い香りが、 鼻腔をくすぐり、男らしさを醸していた。
「何が馬鹿みたいなんだ? お前は何が不満だ」
「やっ……だめ」
シーツを剥ぎ取られると、真白まっしろな、身体が朝陽にさらけ出される。
ぷるん、と弾む乳房を大きな手のひらが、包み、
下腹部では、長い指が淡い茂みをまさぐる。
初対面のその日に、純潔を奪った男。有無を言わさず甘い快楽に落とし、翌日には宮殿へと、半ば強引に連れてきた。
「どこがだめか教えろよ。こんなに濡らしておいて」
サーヤの秘めた場所に触れた指先を見せつけてくる。恥ずかしくて、頭かぶりを振った。
「……王太子殿下が、そんな獣ケダモノだったなんて」
「まあ、間違った表現ではない」
開き直ったシークは、蜜にまみれた指を口に含む。
「や、やめて」
「うまいな、お前の蜜は」
サーヤの蜜を舐めた唇で、彼女の唇を塞ぐ。
乳首をこねながら、荒々しいキスをされ、
また意識が白く染まりそうになる。
「ふぁ……っ」
口蓋を吸われ、びくんと身体がうずく。
乳首を弾かれたら、秘部が潤う。
慣らされた身体は、シークの意のままに、
反応する。
「……サーヤ」
「……呼ばないで」
唇に吹きかけられた吐息に乗せて名が紡がれる。
泣きそうだ。愛おしげに呼ぶ声は
偽りなどないと伝えている気がして。
熱い指先が、唇をなぞる。顎を掴まれて、強制的に視線を合わせられた。どくん、と暴れる心臓の音がする。見つめるのが怖いほど、
美しい男性ひとだと思う。
その美しさゆえに、心の奥までは覗けない。
深遠な瞳はまだ何かを隠しているみたいで、
切なくなった。
「……シーク」
「セイと呼べといつも言っている」
傲慢な命めいは、抗うことなど許さないと、言っていて、彼女は、小さく名を呼んだ。
もう、とっくに、心まで奪われてしまってる。
認めたくなくて、わざと憎まれ口を叩く。溺れたら終わりだと、天使がいう。
悪魔は、このまま、彼の鳥かごにいるのが、
幸せなのだと、言う。2つの相反する気持ちに苛まれて、苦しい。
「……愛なしに女は抱かない」
「え……っ」
「想いの伝え方をこれしか知らないんだ」
「……あなたは、どれだけの女性を愛してきたの」
「……後腐れもなく別れているから、心配するな」
言いくるめられて、絆される。
何度も交わされる唇は、
情熱的で、決して体温がないものではなくて。
せめて、彼の肌と唇が、冷たかったなら、
信じることはなかったのに。
「サーヤのように、一目で心を奪われたのは初めてだった」
「……手が早いのよ」
頬が熱くなるのを感じながら、サーヤぼそっとつぶやく。
心を奪われたら、すぐ身体を奪う……。
獣ケダモノと言ってしまったのは、
撤回する気はなかった。
「手っ取り早くものにする術はそれしかないだろ」
悪びれもしない男はそれでも、朝から情事にふけるのはやめたらしい。
散々、抱かれて、
消耗していたサーヤはほっ、と息をつく。
きっと、有無を言わさない彼を、
悦んで受け入れてしまうのだろうが、今は、
抱かれなくてよかった。ろくに休めてもないのに、また行為に及んだら、鬼畜!と、
叫んでいたところだった。
(愛があったら許されるものじゃないわよ)
覆いかぶさっていた身体が、遠ざかるのに、寂しいと感じてしまい内心焦る。
「お前の花を散らした責任は取ろう」
「……は!? 」
どういう責任だろう。
「んん……」
塞がれた唇から吐息が漏れる。離れた唇と唇のあいだで、白い糸が、ぷつり途切れた。
「そんな顔されたら、せっかくの我慢も水の泡になる」
「……そんなことばかり考えて……変態」
「くっ」
悪態は笑い飛ばされる。
身構えていたサーヤはあっさり、離れたシークを怪訝に思った。
(少しは私の気持ちも考えてくれているのかしら)
夜から朝を共にしているだけだ。
言葉で強引なことを言っても、本当に、朝から
抱いたりしなかった。
セイは、王太子として、国王の補佐をしていて、
自室の中に、執務室と、寝室を設けている。
彼は、サーヤが寝台ベッドに眠っているのを
見届けて、寝室を出て行った。
昼食の皿を片付けたあと、話し相手に
来てくれた女官が、サーヤに微笑んだ。
「サーヤさまは、本当に愛されておいでですね」
あの日入浴を手伝ってくれた女官は、サーヤに仕えてくれている。セイが、命じたらしい。
彼女は、主の名に従っただけじゃなく、
心からの言葉で、あなたに仕えられて嬉しく思いますと言ってくれて、サーヤは目元を潤ませた。母と同じくらいの年齢の女性で、どこか、故郷の母を思い出してしまったのかもしれない。セイが、彼女をサーヤ付きにしたのは、
深い理由はないのかもしれないけれど。
「……あ、愛されているんでしょうね」
生半可な覚悟では、彼のそばにはいられない。身をもって教えこまれているサーヤは、頬を染めて、俯いた。
「あの方が、女性をここに住まわせたことはないんですよ。だから、あなたのことは、
本気で惚れこまれているんだと思います」
「本当かしら? 」
彼女の言葉に、驚きを隠せない。セイは、女性をここに住まわせたことがない。
「……巷で流れている噂は真実ですが、
ここに連れてこられた方はいませんね」
「……あはは」
あまたの女性と関係を持ったのは、本当だが、
ここには誰も連れてこられていない。
サーヤは、なぜか、笑ってしまった。
後腐れなく別れている。
面倒事は避けてきた彼が、自分の住まいに初めて連れてきたのがサーヤ。
そんなことを言われたら期待してしまうではないか。本当に彼が、サーヤを妻にするのだと。
身体を重ねたから妻と呼んだのではなく、
真実、彼の后になれるのだと自惚れてしまいそうになる。ぶるぶると首を振る。
「……でも、彼は第1王位継承者でしょう。
私は……一時的にそばに置かれているって
不安も消えないの」
顔を覆う。
甘い言葉を言われると、雰囲気に流されるのだけれど。
(容貌に惑わされすぎている気がする)
「サーヤさま、セイ王太子殿下を信じて差し上げてください。
あの方は孤独な方ですが、とても優しい方なのです」
「……でもとっても俺様よ」
「あら、それはサーヤ様だけに見せている姿なのではありません? 」
「……複雑な気分」
「独占欲はお強いでしょうね。子供の頃から、愛に飢えていらしたし」
「……だから、あんな獣に……」
「サーヤ様は、素直でいらっしゃる。
そんな所もシークは気に入られたんでしょうね」
よしよし、と頭を撫でられてきょとんとする。
たおやかな手は、母の優しさを思い起こさせた。サーヤは、ふと思い出したことを口にする。
「セイ……さまは、責任を取ると言ってくれたけど……あれって」
「そのままの意味じゃないでしょうか」
意味深に微笑む女官。
サーヤはこの女性を信頼していたが、
彼女の主人はシーク・セイだ。
彼のことを悪くいうことは決して無い。
目を伏せたサーヤに、大丈夫ですよと、
一言言いおいて彼女は、場を辞した。
夜が来て、セイはサーヤの部屋を訪れた。
毎夜、同じ頃合に彼はやってくる。
月明かりに照らされているのは、夜の獣。
「おや、元気がないな」
寝台ベッドの上に腰掛けていたサーヤは、
あっという間に距離をつめられて、唸った。
顎をつまむ手に顔を上向かされる。
(嫌味なほど美しい男)
月明かりに冴え渡るその美貌。昼間の格好とは違いフードを外し髪も、幾分艶めいて見える。
入浴してきたあとだからか、男の匂い立つ色香に釘付けにされる。乾ききっていない髪から、滴が落ちている。
ぶるり、と震えた。
「寒いのか……」
抱き寄せられた腕の中、こてん、と胸を預ける。
セイが、サーヤの髪を撫でる。
やさしげな手つきに、奪われてもいい。
この男ひとに、何をされても、構わない。そばにいられるならと思ってしまう。
「それとも、期待してるのか? 」
「ち、違う」
楽しげに笑うセイに、顔を赤らめる。睨みつけたら、唇を奪われた。甘くささやかなキスに、物足りなさと心地良さ両方を感じる。
「……お前は貴重な純潔を俺にくれたんだな」
「……真顔で言わないでよ」
この人に誘惑されて堕ちない女がいるのなら、知りたい。頬を打ってでも、抗えばよかったのに魅惑的な悪魔に囚われてしまい、できなかった。
「……ねえ、もう一度頭を撫でて。そうして、キスして」
「ずいぶん可愛いおねだりだな」
くしゃりと、髪をかき乱されたあと、
丁寧に梳かれる。キスは、先程とは違う激しさで、理性をとろかせる。くちゅ、りと音を立てて舌を食む。時には小刻みに震わせながら。
身体の力が抜けてしまったサーヤは、大きな背にしがみついた。
寝台ベッドに横たえられながら、
上目遣いで問いかける。
「私を愛してる? 」
「これ以上はないほどに」
その言葉が聞けただけで十分だった。
欲だけで、抱かれるのは、
嫌なのに、流されてしまう自分は、セイを恨む資格もない。
「……愛してるわ、セイ」
唇から零れ落ちた真実を彼はどう受け止めたのだろう。サーヤは、瑠璃色の瞳で彼を見上げる。ばさり、夜着を払い落とし、さらけ出された美しい裸身に視線が吸い寄せられた。
「初めて言ってくれたな」
嬉しいよ。
「……っ」
セイが、きつく抱擁する。それは、少し痛みを伴ったけれど、サーヤは笑った。
花が咲くような微笑みを彼の肩越しに浮かべて瞳を閉じる。
(もう、取り返しはつかない。
心も全部捧げてしまった)
「私は厄介なのよ。大人じゃないもの。
毎晩、あなたの身体に囚われて、めちゃくちゃにされて植え付けられた感情を簡単には消せないわ」
「それは、本望だな」
しゅるり。首元で結ばれていたリボンが、解かれると同時に夜着が、肩から滑り落ちた。
サーヤは何度となく啼いた。シークが、これまでになく、優しく抱くから胸がつまって仕方がなかった。楔を打ちつけられる度、呼吸は荒くなるし、腰は跳ねるし、みだらな蜜はこぼれ続けたけれど……、この時が、愛しいとさえ思った。
抱かれることが幸せだと
感じたのは初めてだった。
「優しくされると怖いの」
「……俺の我慢は無意味だったようだ」
「……っあ」
サーヤは自らの失言を悟った。
「今度はお前が俺の上で動け」
命じられるままに、セイの身体を跨いだ。触れたいきり立ったモノを飲み込んでいく。
いつも以上に快感を覚え、息が弾む。
「……ああん」
腰を揺らしていると、下から突き上げられ始めた。奥までセイを感じて、たまらない。
ぐちゅぐちゅと、混ざり合う音。肌がぶつかる濡れた音が、弾けては繰り返される。
前に傾いだサーヤの身体に、大きな手が伸びてくる。乳房を揉みしだかれ、秘部に、
指が忍び入ってくる。つつ、と触れられただけで、意識が一瞬飛んだ。
「ずいぶんと早いな……今日は」
くっくっ、と喉で笑われて羞恥が込み上げる。優しさを信じた自分が馬鹿だったのか。
嗜虐的な部分もあるのだと、忘れかけていた。
「……あなたが遅いのよ」
きっと、身体の快楽だけじゃなく、
心が感じたから、早く達してしまった。サーヤは、悪態にもならない言葉をもらす。
「褒め言葉だが」
ずん、と大きく突かれる。先端で奥をつつかれ、傘の部分が、蕾に触れている。濡れそぼっているので水音も激しい。
「あっ……んん」
胎内ナカと外とを同時に攻め立てられ、
白い焔ほのおが爆ぜる。
吸い上げられた乳首が、じんじんと、疼く。
「……ん」
セイの身体に覆いかぶさると頭を押さえられる。サーヤが欲したキスを、セイから与えてくれた。ねっとりと執拗なまでに舌を絡ませ口内を荒らした彼は、彼女の腰を抱えた。
解けかけていた繋がりが、また結ばれる。
「お前が達イく前に、俺が達イってどうする」
「あ、あ、あっ」
膨れ上がった欲望がサーヤの胎内ナカで、
びく、びくとうごめき、跳ねた。
「セイ……、私ね」
サーヤは、生理的な涙で頬を濡らしながら、
言葉を紡ごうとしたが、唇を塞がれ、
封じられてしまう。
(どうしてなの……わたしがせっかく……)
喘ぎむせび泣きながら、胸元にしがみつく。
「……おやすみ、サーヤ」
楔が、勢いよく打ち付けられる。
吐き出された熱いものに、意識が、弾け飛んだ。
「参った……」
セイは、窓辺で煙管キセルを吹かしながら、髪をかきあげる。
抱いたあと女の肌を清めることなど、今までの彼では考えられないことだった。
唾液で汚した乳房、繋がっていた下腹部を布で拭い去る。
あどけない表情で眠るサーヤ。
たまたま、視察に出かけた首都アルサリナの片隅で、
咲き綻んでいた大輪の薔薇の花。
瑠璃色の瞳を持つ類まれなる乙女。
彼女は、すさまじい引力でセイをとらえてしまった。
「こんなこと初めてだ。逃がしてたまるか」
身体ごと心も欲しい。
ただそれだけ、伝わっていればいい。
寝台ベッドに潜り込み、柔らかな身体を抱き寄せる。
愛なしに女は抱かない。
想いの伝え方をこれしか知らない。
セイが、サーヤのみに伝えた言葉。
年上、年下関係なく色んな女性と仮初かりそめの
関係を繰り返してきたセイにとって、
本気になったのは、サーヤだけだった。
(優しくされるのが、怖いならもう甘やかす
べきではないだろうか)
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