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第3章『愛執の檻の中で』

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サーヤが、シークの宮殿で暮らすようになってから7日が過ぎた。彼は、毎夜、床に召しては、激しく、ときに酷く甘やかに彼女を抱いた。

(……なんか、それしかない。これって愛し合うって言うことなのかしら)

サーヤはぼんやりと目を覚ました。彼がさっきまでいた寝台ベッドは、

体温が、微かに残っている。どこへ行ったのだろうと、窓際を見つめたら、彼は、煙管キセルをくわえ、朝日が昇るのを見つめていた。



その妖しい色香にゾクッとしたサーヤは、

気だるい体をまたシーツに沈ませた。

身体をもてあそんでいるだけなのか、

本当に愛情を感じているのか、

未だに信じきれずにいる。

(だって、私を抱いている時しか、

愛の言葉をくれないの)



「馬鹿みたい」

心中の呟きが、声に出てしまい、はっ、とした時には後の祭りだった。

鋭く聞きつけたシークが、彼女に覆いかぶさり耳元で囁く。甘い低音。ほろ苦い香りが、 鼻腔をくすぐり、男らしさを醸していた。

「何が馬鹿みたいなんだ? お前は何が不満だ」

「やっ……だめ」

シーツを剥ぎ取られると、真白まっしろな、身体が朝陽にさらけ出される。



ぷるん、と弾む乳房を大きな手のひらが、包み、

下腹部では、長い指が淡い茂みをまさぐる。

初対面のその日に、純潔を奪った男。有無を言わさず甘い快楽に落とし、翌日には宮殿へと、半ば強引に連れてきた。

「どこがだめか教えろよ。こんなに濡らしておいて」

サーヤの秘めた場所に触れた指先を見せつけてくる。恥ずかしくて、頭かぶりを振った。

「……王太子殿下が、そんな獣ケダモノだったなんて」

「まあ、間違った表現ではない」

開き直ったシークは、蜜にまみれた指を口に含む。

「や、やめて」

「うまいな、お前の蜜は」

サーヤの蜜を舐めた唇で、彼女の唇を塞ぐ。

乳首をこねながら、荒々しいキスをされ、

また意識が白く染まりそうになる。

「ふぁ……っ」

口蓋を吸われ、びくんと身体がうずく。

乳首を弾かれたら、秘部が潤う。

慣らされた身体は、シークの意のままに、

反応する。



「……サーヤ」

「……呼ばないで」

唇に吹きかけられた吐息に乗せて名が紡がれる。

泣きそうだ。愛おしげに呼ぶ声は

偽りなどないと伝えている気がして。

熱い指先が、唇をなぞる。顎を掴まれて、強制的に視線を合わせられた。どくん、と暴れる心臓の音がする。見つめるのが怖いほど、

美しい男性ひとだと思う。

その美しさゆえに、心の奥までは覗けない。

深遠な瞳はまだ何かを隠しているみたいで、

切なくなった。



「……シーク」

「セイと呼べといつも言っている」

傲慢な命めいは、抗うことなど許さないと、言っていて、彼女は、小さく名を呼んだ。

もう、とっくに、心まで奪われてしまってる。

認めたくなくて、わざと憎まれ口を叩く。溺れたら終わりだと、天使がいう。

悪魔は、このまま、彼の鳥かごにいるのが、

幸せなのだと、言う。2つの相反する気持ちに苛まれて、苦しい。



「……愛なしに女は抱かない」

「え……っ」

「想いの伝え方をこれしか知らないんだ」

「……あなたは、どれだけの女性を愛してきたの」

「……後腐れもなく別れているから、心配するな」

言いくるめられて、絆される。

何度も交わされる唇は、

情熱的で、決して体温がないものではなくて。

せめて、彼の肌と唇が、冷たかったなら、

信じることはなかったのに。



「サーヤのように、一目で心を奪われたのは初めてだった」

「……手が早いのよ」

頬が熱くなるのを感じながら、サーヤぼそっとつぶやく。

心を奪われたら、すぐ身体を奪う……。

獣ケダモノと言ってしまったのは、

撤回する気はなかった。

「手っ取り早くものにする術はそれしかないだろ」

悪びれもしない男はそれでも、朝から情事にふけるのはやめたらしい。



散々、抱かれて、

消耗していたサーヤはほっ、と息をつく。

きっと、有無を言わさない彼を、

悦んで受け入れてしまうのだろうが、今は、

抱かれなくてよかった。ろくに休めてもないのに、また行為に及んだら、鬼畜!と、

叫んでいたところだった。

(愛があったら許されるものじゃないわよ)



覆いかぶさっていた身体が、遠ざかるのに、寂しいと感じてしまい内心焦る。

「お前の花を散らした責任は取ろう」

「……は!? 」

どういう責任だろう。

「んん……」

塞がれた唇から吐息が漏れる。離れた唇と唇のあいだで、白い糸が、ぷつり途切れた。



「そんな顔されたら、せっかくの我慢も水の泡になる」

「……そんなことばかり考えて……変態」

「くっ」

悪態は笑い飛ばされる。

身構えていたサーヤはあっさり、離れたシークを怪訝に思った。

(少しは私の気持ちも考えてくれているのかしら)

夜から朝を共にしているだけだ。

言葉で強引なことを言っても、本当に、朝から

抱いたりしなかった。

セイは、王太子として、国王の補佐をしていて、

自室の中に、執務室と、寝室を設けている。

彼は、サーヤが寝台ベッドに眠っているのを

見届けて、寝室を出て行った。



昼食の皿を片付けたあと、話し相手に

来てくれた女官が、サーヤに微笑んだ。

「サーヤさまは、本当に愛されておいでですね」

あの日入浴を手伝ってくれた女官は、サーヤに仕えてくれている。セイが、命じたらしい。

彼女は、主の名に従っただけじゃなく、

心からの言葉で、あなたに仕えられて嬉しく思いますと言ってくれて、サーヤは目元を潤ませた。母と同じくらいの年齢の女性で、どこか、故郷の母を思い出してしまったのかもしれない。セイが、彼女をサーヤ付きにしたのは、

深い理由はないのかもしれないけれど。



「……あ、愛されているんでしょうね」

生半可な覚悟では、彼のそばにはいられない。身をもって教えこまれているサーヤは、頬を染めて、俯いた。

「あの方が、女性をここに住まわせたことはないんですよ。だから、あなたのことは、

本気で惚れこまれているんだと思います」

「本当かしら? 」

彼女の言葉に、驚きを隠せない。セイは、女性をここに住まわせたことがない。

「……巷で流れている噂は真実ですが、

ここに連れてこられた方はいませんね」

「……あはは」

あまたの女性と関係を持ったのは、本当だが、

ここには誰も連れてこられていない。

サーヤは、なぜか、笑ってしまった。



後腐れなく別れている。

面倒事は避けてきた彼が、自分の住まいに初めて連れてきたのがサーヤ。

そんなことを言われたら期待してしまうではないか。本当に彼が、サーヤを妻にするのだと。

身体を重ねたから妻と呼んだのではなく、

真実、彼の后になれるのだと自惚れてしまいそうになる。ぶるぶると首を振る。



「……でも、彼は第1王位継承者でしょう。

私は……一時的にそばに置かれているって

不安も消えないの」

顔を覆う。

甘い言葉を言われると、雰囲気に流されるのだけれど。

(容貌に惑わされすぎている気がする)

「サーヤさま、セイ王太子殿下を信じて差し上げてください。

あの方は孤独な方ですが、とても優しい方なのです」

「……でもとっても俺様よ」

「あら、それはサーヤ様だけに見せている姿なのではありません? 」

「……複雑な気分」

「独占欲はお強いでしょうね。子供の頃から、愛に飢えていらしたし」

「……だから、あんな獣に……」

「サーヤ様は、素直でいらっしゃる。

そんな所もシークは気に入られたんでしょうね」



よしよし、と頭を撫でられてきょとんとする。

たおやかな手は、母の優しさを思い起こさせた。サーヤは、ふと思い出したことを口にする。

「セイ……さまは、責任を取ると言ってくれたけど……あれって」

「そのままの意味じゃないでしょうか」

意味深に微笑む女官。

サーヤはこの女性を信頼していたが、

彼女の主人はシーク・セイだ。

彼のことを悪くいうことは決して無い。

目を伏せたサーヤに、大丈夫ですよと、

一言言いおいて彼女は、場を辞した。





夜が来て、セイはサーヤの部屋を訪れた。

毎夜、同じ頃合に彼はやってくる。

月明かりに照らされているのは、夜の獣。

「おや、元気がないな」

寝台ベッドの上に腰掛けていたサーヤは、

あっという間に距離をつめられて、唸った。

顎をつまむ手に顔を上向かされる。

(嫌味なほど美しい男)

月明かりに冴え渡るその美貌。昼間の格好とは違いフードを外し髪も、幾分艶めいて見える。

入浴してきたあとだからか、男の匂い立つ色香に釘付けにされる。乾ききっていない髪から、滴が落ちている。

ぶるり、と震えた。



「寒いのか……」

抱き寄せられた腕の中、こてん、と胸を預ける。

セイが、サーヤの髪を撫でる。

やさしげな手つきに、奪われてもいい。

この男ひとに、何をされても、構わない。そばにいられるならと思ってしまう。

「それとも、期待してるのか? 」

「ち、違う」



楽しげに笑うセイに、顔を赤らめる。睨みつけたら、唇を奪われた。甘くささやかなキスに、物足りなさと心地良さ両方を感じる。

「……お前は貴重な純潔を俺にくれたんだな」

「……真顔で言わないでよ」

この人に誘惑されて堕ちない女がいるのなら、知りたい。頬を打ってでも、抗えばよかったのに魅惑的な悪魔に囚われてしまい、できなかった。



「……ねえ、もう一度頭を撫でて。そうして、キスして」

「ずいぶん可愛いおねだりだな」

くしゃりと、髪をかき乱されたあと、

丁寧に梳かれる。キスは、先程とは違う激しさで、理性をとろかせる。くちゅ、りと音を立てて舌を食む。時には小刻みに震わせながら。

身体の力が抜けてしまったサーヤは、大きな背にしがみついた。

寝台ベッドに横たえられながら、

上目遣いで問いかける。

「私を愛してる? 」

「これ以上はないほどに」

その言葉が聞けただけで十分だった。

欲だけで、抱かれるのは、

嫌なのに、流されてしまう自分は、セイを恨む資格もない。



「……愛してるわ、セイ」

唇から零れ落ちた真実を彼はどう受け止めたのだろう。サーヤは、瑠璃色の瞳で彼を見上げる。ばさり、夜着を払い落とし、さらけ出された美しい裸身に視線が吸い寄せられた。



「初めて言ってくれたな」

嬉しいよ。

「……っ」

セイが、きつく抱擁する。それは、少し痛みを伴ったけれど、サーヤは笑った。

花が咲くような微笑みを彼の肩越しに浮かべて瞳を閉じる。

(もう、取り返しはつかない。

心も全部捧げてしまった)

「私は厄介なのよ。大人じゃないもの。

毎晩、あなたの身体に囚われて、めちゃくちゃにされて植え付けられた感情を簡単には消せないわ」

「それは、本望だな」

しゅるり。首元で結ばれていたリボンが、解かれると同時に夜着が、肩から滑り落ちた。





サーヤは何度となく啼いた。シークが、これまでになく、優しく抱くから胸がつまって仕方がなかった。楔を打ちつけられる度、呼吸は荒くなるし、腰は跳ねるし、みだらな蜜はこぼれ続けたけれど……、この時が、愛しいとさえ思った。

抱かれることが幸せだと

感じたのは初めてだった。

「優しくされると怖いの」

「……俺の我慢は無意味だったようだ」

「……っあ」

サーヤは自らの失言を悟った。

「今度はお前が俺の上で動け」

命じられるままに、セイの身体を跨いだ。触れたいきり立ったモノを飲み込んでいく。

いつも以上に快感を覚え、息が弾む。



「……ああん」

腰を揺らしていると、下から突き上げられ始めた。奥までセイを感じて、たまらない。

ぐちゅぐちゅと、混ざり合う音。肌がぶつかる濡れた音が、弾けては繰り返される。

前に傾いだサーヤの身体に、大きな手が伸びてくる。乳房を揉みしだかれ、秘部に、

指が忍び入ってくる。つつ、と触れられただけで、意識が一瞬飛んだ。

「ずいぶんと早いな……今日は」

くっくっ、と喉で笑われて羞恥が込み上げる。優しさを信じた自分が馬鹿だったのか。

嗜虐的な部分もあるのだと、忘れかけていた。

「……あなたが遅いのよ」

きっと、身体の快楽だけじゃなく、

心が感じたから、早く達してしまった。サーヤは、悪態にもならない言葉をもらす。

「褒め言葉だが」

ずん、と大きく突かれる。先端で奥をつつかれ、傘の部分が、蕾に触れている。濡れそぼっているので水音も激しい。

「あっ……んん」

胎内ナカと外とを同時に攻め立てられ、

白い焔ほのおが爆ぜる。

吸い上げられた乳首が、じんじんと、疼く。

「……ん」

セイの身体に覆いかぶさると頭を押さえられる。サーヤが欲したキスを、セイから与えてくれた。ねっとりと執拗なまでに舌を絡ませ口内を荒らした彼は、彼女の腰を抱えた。

解けかけていた繋がりが、また結ばれる。

「お前が達イく前に、俺が達イってどうする」

「あ、あ、あっ」

膨れ上がった欲望がサーヤの胎内ナカで、

びく、びくとうごめき、跳ねた。

「セイ……、私ね」

サーヤは、生理的な涙で頬を濡らしながら、

言葉を紡ごうとしたが、唇を塞がれ、

封じられてしまう。

(どうしてなの……わたしがせっかく……)

喘ぎむせび泣きながら、胸元にしがみつく。

「……おやすみ、サーヤ」

楔が、勢いよく打ち付けられる。

吐き出された熱いものに、意識が、弾け飛んだ。



「参った……」

セイは、窓辺で煙管キセルを吹かしながら、髪をかきあげる。
抱いたあと女の肌を清めることなど、今までの彼では考えられないことだった。
唾液で汚した乳房、繋がっていた下腹部を布で拭い去る。

あどけない表情で眠るサーヤ。

たまたま、視察に出かけた首都アルサリナの片隅で、

咲き綻んでいた大輪の薔薇の花。

瑠璃色の瞳を持つ類まれなる乙女。

彼女は、すさまじい引力でセイをとらえてしまった。

「こんなこと初めてだ。逃がしてたまるか」

身体ごと心も欲しい。

ただそれだけ、伝わっていればいい。

寝台ベッドに潜り込み、柔らかな身体を抱き寄せる。

愛なしに女は抱かない。

想いの伝え方をこれしか知らない。

セイが、サーヤのみに伝えた言葉。

年上、年下関係なく色んな女性と仮初かりそめの

関係を繰り返してきたセイにとって、

本気になったのは、サーヤだけだった。

(優しくされるのが、怖いならもう甘やかす

べきではないだろうか)

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