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【父視点】第一章③:王の沈黙を破る日
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カリスティア王国・中央王城。
白と金の大理石が敷き詰められた広間に、王国会議の出席者たちが集まっていた。
貴族の威厳を誇る老齢の者から、派閥の秘書官を連れた若き家臣まで。
彼らはひとつの共通した“認識”を持っていた。
——本日の会議も、王はただ座るだけだろう。
彼らにとって、国王とは“飾り”であり、“儀式の演出”にすぎなかった。
この国を真に動かしてきたのは、宰相ヴォルク・ラインベルグとその一派。
王は、黙って印を押し、言われた通りに頷いていればよかったのだ。
——だが、その認識は、今日を境に変わる。
「陛下、ご入場!」
廷臣の声が響き、私、国王レオン・カリスティア(中身:元国会議員、春野昭一)は広間へ足を踏み入れた。
真紅のマント、純金の王冠。
だが、もっとも重く感じるのは、**国の期待も失望もすべて乗せられた“王の椅子”**だった。
一歩、また一歩。
沈黙の中を進むその足音が、貴族たちの表情を少しずつ曇らせていく。
「これはこれは……」
中央席の前で、老宰相が笑みをたたえて頭を下げた。
ヴォルク・ラインベルグ。
この国の“首相”とも言える存在。笑みの奥に、牙を潜ませる政略家。
「長らく静養されていたと伺っておりましたが……本日の会議にご臨席とは。まことに、おめでたい」
その声にこもる皮肉を、私は正面から受け止める。
「そなたの忠言には、いつも感謝しているぞ。おかげで、ようやく身体も、そして“心”も整った」
「それは何より。やはり、“王たるもの”心身の健やかさこそが何よりの資質でございますからな」
「そして、“統治者たるもの”、責任を他人任せにするべきではないとも、再認識した」
ヴォルクの笑みが一瞬、ぴたりと止まる。
私が“口を開いた”。それだけで、彼にとっては想定外なのだ。
(口を開くだけではない。“理解し、判断する”王としての一歩だ)
「本日は、王として、予算案の再審議を求めたい」
「ほう……再審議を。失礼ながら、既に前月、陛下ご自身による裁可が下っておりますが?」
「その裁可は“儀礼的なもの”だったと聞いている。私は今、自らの意志で再確認を行い、問題点を見出した」
「……なるほど。“ご自身で”予算案をご覧になった、と」
声は穏やか。だが、その実、完全に“侮蔑”だ。
「ご多忙な王に、それだけの時間とご理解があるとは——いささか驚きでございます」
「それは、私が“王である前に一人の政治家”であったことをご存知なければ、当然かもしれんな」
私がそう言い返すと、周囲の空気が僅かに変わった。
「その上で確認したい。
第七予備戦略部隊への軍事費、五十万ゴールド。宰相殿、この費用の使途を説明願おう」
「……ふむ。“第七予備”でございますか。ええ、確かに計上されておりますが、こちらは軍部よりの要請に基づき——」
「その要請には“正式な文書”が添えられていなかった。“極秘指定”の印のみ。
しかも、その押印は、あなたの管理下である“内政宰相局”が発したものと記録されている」
どよめきが、起こった。
「さらに、付随する物資の搬入経路、補給ルート、装備品購入先の契約業者……
すべて実態の確認が取れていない。“帳簿上の数字”でしか存在していない」
「……随分とお詳しい。いやはや、陛下がここまで精読されたとは、我々も身が引き締まる思いですな」
ヴォルクは笑っている。だがその目は、完全に“敵を見る目”に変わっていた。
「精読だけではない。私はこの予算案を、財政の観点からも、軍の運用の観点からも、明確に“無駄”と判断した。
したがって、以下の改善案を提案する」
私は王の杖を軽く机に置き、用意しておいた文書を広げる。
「第一に、非公開予算の中で“戦略部隊”として計上された三部門を統合し、監査対象とする。
第二に、“王直属の監査室”を新設し、貴族・軍部双方の金の流れを洗う。
第三に、それらの再編予算として、既存の式典・贅沢費用を圧縮する」
「……“王直属”?」
「そうだ。法に反することはない。だが、これまで王が沈黙していたために、存在しなかった機構だ」
議場が、静まり返る。
私は今、宰相とその派閥が守ってきた“利権”に、正面から手を伸ばした。
王としての“静かな一撃”。
「……まことに、ご立派なご提案でございます」
ヴォルクは、かすかに目を伏せた。
だがその口調は、もはや“上からの皮肉”ではない。
彼の脳内では、おそらくいま私の“危険性”が分析されているだろう。
——この王は、口だけではない。理解している。動こうとしている。
そして、自分たちの“領域”に干渉するつもりだと。
「……陛下、もしや近ごろ、どなたか優れた参謀を得られましたか?」
それは遠回しな探りだった。
「参謀などおらん。ただ、私はこの国にとって必要なものを考えただけだ」
「そうでございますか……では、次回会議までに、こちらでも代替案を用意させていただきましょう」
ヴォルクは深く頭を下げた。
だがその目は、冷静で、そして警戒に満ちていた。
* * *
王座に戻ると、私は深く息をついた。
初戦は終わった。
言葉だけで終わるなら、ただのパフォーマンス。
——だが私は、この言葉の先に“実行”を置く。
この国は腐っている。だが、まだ死んではいない。
ならば、私は王としてこの国を、生きたものに戻す。
白と金の大理石が敷き詰められた広間に、王国会議の出席者たちが集まっていた。
貴族の威厳を誇る老齢の者から、派閥の秘書官を連れた若き家臣まで。
彼らはひとつの共通した“認識”を持っていた。
——本日の会議も、王はただ座るだけだろう。
彼らにとって、国王とは“飾り”であり、“儀式の演出”にすぎなかった。
この国を真に動かしてきたのは、宰相ヴォルク・ラインベルグとその一派。
王は、黙って印を押し、言われた通りに頷いていればよかったのだ。
——だが、その認識は、今日を境に変わる。
「陛下、ご入場!」
廷臣の声が響き、私、国王レオン・カリスティア(中身:元国会議員、春野昭一)は広間へ足を踏み入れた。
真紅のマント、純金の王冠。
だが、もっとも重く感じるのは、**国の期待も失望もすべて乗せられた“王の椅子”**だった。
一歩、また一歩。
沈黙の中を進むその足音が、貴族たちの表情を少しずつ曇らせていく。
「これはこれは……」
中央席の前で、老宰相が笑みをたたえて頭を下げた。
ヴォルク・ラインベルグ。
この国の“首相”とも言える存在。笑みの奥に、牙を潜ませる政略家。
「長らく静養されていたと伺っておりましたが……本日の会議にご臨席とは。まことに、おめでたい」
その声にこもる皮肉を、私は正面から受け止める。
「そなたの忠言には、いつも感謝しているぞ。おかげで、ようやく身体も、そして“心”も整った」
「それは何より。やはり、“王たるもの”心身の健やかさこそが何よりの資質でございますからな」
「そして、“統治者たるもの”、責任を他人任せにするべきではないとも、再認識した」
ヴォルクの笑みが一瞬、ぴたりと止まる。
私が“口を開いた”。それだけで、彼にとっては想定外なのだ。
(口を開くだけではない。“理解し、判断する”王としての一歩だ)
「本日は、王として、予算案の再審議を求めたい」
「ほう……再審議を。失礼ながら、既に前月、陛下ご自身による裁可が下っておりますが?」
「その裁可は“儀礼的なもの”だったと聞いている。私は今、自らの意志で再確認を行い、問題点を見出した」
「……なるほど。“ご自身で”予算案をご覧になった、と」
声は穏やか。だが、その実、完全に“侮蔑”だ。
「ご多忙な王に、それだけの時間とご理解があるとは——いささか驚きでございます」
「それは、私が“王である前に一人の政治家”であったことをご存知なければ、当然かもしれんな」
私がそう言い返すと、周囲の空気が僅かに変わった。
「その上で確認したい。
第七予備戦略部隊への軍事費、五十万ゴールド。宰相殿、この費用の使途を説明願おう」
「……ふむ。“第七予備”でございますか。ええ、確かに計上されておりますが、こちらは軍部よりの要請に基づき——」
「その要請には“正式な文書”が添えられていなかった。“極秘指定”の印のみ。
しかも、その押印は、あなたの管理下である“内政宰相局”が発したものと記録されている」
どよめきが、起こった。
「さらに、付随する物資の搬入経路、補給ルート、装備品購入先の契約業者……
すべて実態の確認が取れていない。“帳簿上の数字”でしか存在していない」
「……随分とお詳しい。いやはや、陛下がここまで精読されたとは、我々も身が引き締まる思いですな」
ヴォルクは笑っている。だがその目は、完全に“敵を見る目”に変わっていた。
「精読だけではない。私はこの予算案を、財政の観点からも、軍の運用の観点からも、明確に“無駄”と判断した。
したがって、以下の改善案を提案する」
私は王の杖を軽く机に置き、用意しておいた文書を広げる。
「第一に、非公開予算の中で“戦略部隊”として計上された三部門を統合し、監査対象とする。
第二に、“王直属の監査室”を新設し、貴族・軍部双方の金の流れを洗う。
第三に、それらの再編予算として、既存の式典・贅沢費用を圧縮する」
「……“王直属”?」
「そうだ。法に反することはない。だが、これまで王が沈黙していたために、存在しなかった機構だ」
議場が、静まり返る。
私は今、宰相とその派閥が守ってきた“利権”に、正面から手を伸ばした。
王としての“静かな一撃”。
「……まことに、ご立派なご提案でございます」
ヴォルクは、かすかに目を伏せた。
だがその口調は、もはや“上からの皮肉”ではない。
彼の脳内では、おそらくいま私の“危険性”が分析されているだろう。
——この王は、口だけではない。理解している。動こうとしている。
そして、自分たちの“領域”に干渉するつもりだと。
「……陛下、もしや近ごろ、どなたか優れた参謀を得られましたか?」
それは遠回しな探りだった。
「参謀などおらん。ただ、私はこの国にとって必要なものを考えただけだ」
「そうでございますか……では、次回会議までに、こちらでも代替案を用意させていただきましょう」
ヴォルクは深く頭を下げた。
だがその目は、冷静で、そして警戒に満ちていた。
* * *
王座に戻ると、私は深く息をついた。
初戦は終わった。
言葉だけで終わるなら、ただのパフォーマンス。
——だが私は、この言葉の先に“実行”を置く。
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ならば、私は王としてこの国を、生きたものに戻す。
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