1 / 32
序章
むかしむかし…(挿絵あり)
しおりを挟む昔々、あれは夏の夜のことだった。
私はいつもならとっくに眠っている時間に、両親に連れ出された。
あんなに夜遅くに外に出るなんて、私をいつも守りの刺繍でぐるぐる巻きにしていた両親にしては珍しかった。
もっとも、父は守りの木札をこれでもかと私に付けさせるのは忘れなかったがね。その木札がぶつかり合う、カラン、カランという音と、静かに草を踏む音を妙に覚えている。
水が入ったガラスの中、人形の上にきらきら輝く雪が降る、そんなオモチャを見たことがないか?
その夜は、まるでその中にいるようだった。
満天の星は、宝石をたくさん撒いたみたいに綺麗だった。
『きれいな、お星さまだね』
自分を抱き上げた父に、私は無邪気にそう言った。そして、つかめもしないのに空に向かって手を伸ばした。本当に、星がすぐそばで瞬いている気がしたんだ。
父は頷いた。だけど、その夜空のような目は、どこか寂しそうだった。
『見て。駆けていくわ』
隣に立っていた母が声を上げた。
見上げれば、輝く星たちがいっせいに流れているところだった。帚星の尾が、絹糸で天を縫うように現れては消えていく。その光が一つ、また一つと見えなくなる瞬間、草原は昼間のように明るくなった。
『お星さまたちは、どこへ行くの?』
恐らく海のほうだ、そうわかっていても私は聞かずにはいられなかった。
『楽園に行くのよ。永遠の約束された土地』
そう言って、母は私の頭を優しく撫でた。オパールみたいな母の瞳を、私はのぞき込んだ。
『いずれ、みんなそこに行くの?』
それに対し、善行を積まねばと母は言った。
そうでなければ自分たちは楽園に行くことを許されず、いずれは溶けて消えてしまうのだという。
怖くなった私は、善いこととは何かと両親に質問した。
『あなたのお父さまは命をかけて戦い、民を守っているわ』
『母上は、魔法でたくさんのひとびとを助けている』
二人は同時にそう言った。その後にお互い見つめ合って、私に微笑んでみせた。
その夜空と、宝石の瞳を交互に見て私は思った。とても強い、このようなひとたちになりたいと。
――だが、私は一体なにものになったのか。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
竜王の花嫁は番じゃない。
豆狸
恋愛
「……だから申し上げましたのに。私は貴方の番(つがい)などではないと。私はなんの衝動も感じていないと。私には……愛する婚約者がいるのだと……」
シンシアの瞳に涙はない。もう涸れ果ててしまっているのだ。
──番じゃないと叫んでも聞いてもらえなかった花嫁の話です。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました
taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件
『穢らわしい娼婦の子供』
『ロクに魔法も使えない出来損ない』
『皇帝になれない無能皇子』
皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。
だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。
毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき……
『なんだあの威力の魔法は…?』
『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』
『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる