禍羽根の王 〜序列0位の超級魔法士は、優雅なる潜入調査の日々を楽しむ〜

しののめ すぴこ

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実地訓練−治安維持活動:編入3日目

不測の事態③

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「——懲りもせずに、無駄な相談か?」


 唐突に開いた扉から、先程も見た、退廃的な雰囲気をした男が入ってきた。後ろからも数人の男がついてくる。

 堂本が、強く睨みつけるように男たちを仰ぎ見た。

「……お前たちこそ、こんな事をしても時間の問題だぞ。紺碧師団では、証拠品も押さえている。俺たちが戻らなければ、すぐに応援が駆けつけるって事は……元師団員のお前ならわかる筈だろう?」
「元師団員だからこそ、簡単に無力化する算段があるんですよ。現に、堂本さんも捕まっているでしょう?」

 余裕たっぷりに見下ろしてくる男たち。確かに、その言葉に反論できる余地はない。

「結界のことを言ってるなら、時間の問題だ。こんな大型の結界を維持し続けるには、相当の魔力を消費する筈だからな」
「まぁ、それは当然、そうですねぇ」
「……っ、何かまだ考えてやがるな……っ。いやそもそも、あんな拠点設置型魔法を、どこで手に入れた……?」
「お前たち師団のイヌなんかに、教える義理はねぇなぁ」
「…………っ」

 口を噤む堂本を嘲るように笑い合った男たちは、何を思ったのか、4人から視線を外し、室内の祭壇へと近付いた。
 黒い羽の生えた十字架を見上げた男たちが、各々に祈りを捧げ、そして台の上に掛けられていた大きな布を、丁寧な仕草で取り払うと……、

「……何だその泥のついた塊は……」
「はははっ、堂本さん、『聖遺物』を見たことないんですか?」
「…………っ!?」

 現れたのは、泥が付着した何個もの黒っぽい塊だった。どれも四角から長方形の、平たい形をしている。一見、ただの正体不明なガラクタだった。

「これが……『聖遺物』……?」
「……むかしの、均衡崩壊前の埋蔵品、なんだよね?」

 和久とニイナも、興味深げに見つめている。
 が、累はその塊に、一瞬目を細めただけだった。

「こんな大量に……発掘現場の作業員もグルだな……!?」
「さぁてねー。仲間になるなら教えて差し上げあげますよ?」
「誰がなるか!! お前たちこそ、制圧される前に降伏しろ!」
「はははっ、頭固いんですねぇ……。じゃあ君たちは、どう? もっと強くなりたいって、思ったことはない?」

 そう言いながら、和久の前にしゃがみこんだ男。
 聞く耳持つなよ! と叫ぶ堂本を無視して、男が話を続ける。

「俺たちの仲間には、効率的に魔力を上げる方法を知ってる、凄い方がおられるんだ。魔法庁とは別の、より強い魔法士の集団を作らないか? 魔法学校の生徒も、何人か仲間になってるぞ?」
「え、魔法学校の生徒も……?」

 驚きの声を上げた和久に、食いついたと思ったのか、男がニヤリと笑う。

「そうだ。強くなりたい、っつー向上心さえあれば、誰でも大歓迎だ。……一緒に、近衛師団を排除して、陛下をお守りする親衛隊になろう」

 素晴らしいことを教えてやった、とばかりに、顔を輝かせて手を差し出す男。
 しかし和久は、最後の突拍子も無い発言に、戸惑いの表情で首を傾げた。

「……は? えっと……近衛師団を、排除……?」
「そうだ。強いだけで、思想の無い無能集団……目障りにも程がある! これは革命なのだ! 近衛師団を廃し、我々が……!」
「——んなもん出来るわけないだろ。近衛魔法士がどんだけ強いか、知らないとは言わせねぇ。近衛師団は、最強の精鋭部隊だからこそ、そう呼ばれて畏敬されてるんだぞ」

 気分良く演説していたのを掻き消すように、真っ向から否定した堂本に、苛立ちの眼差しを向ける男たち。

「っこの腑抜けが……っ。堂本さんたち師団員が、そうやって盲信するから増長するんですよ。俺たちの信仰は、俺たちの手で守ります」
「……何が言いたい」
「我らが陛下をお守りするのは、俺たちだって事です」
「今だって陛下のことは、近衛師団がしっかりとお守りしている。何の不満があるんだ」
「不満だらけだ!! 陛下をお隠しになり、あまつさえ自分たちだけが、そのお側を享受するなど……!」

 激昂した男たちが、大仰な身振りで訴えるのは、近衛師団への不満と、皇帝陛下への尊崇だ。

「話にならないっ! お前たちの浅はかな行動こそが、陛下のお立場を揺さぶっているんだ! 近衛師団を擁したのは陛下だぞ!」
「そんな話こそ、裏付けのないデマだ! 陛下の御名御璽でもあったっていうのか!?」
「……っ…………」

 確かに、そんなものは存在しない。

 言葉に詰まり、歯噛みする堂本に気を良くした男が、今度はニイナの縛られてる手を掴んだ。

「きゃっ……!」
「君だって思うだろう!? 近衛魔法士だけが特権を与えられる、その不平等を!」

 ヒートアップした男が、乱暴にニイナの手を引いた。

「……っぃたいっ……!」
「秘密主義だ何だ、コソコソと策略をめぐらすばかりでっ! 近衛魔法士さえいなければ……!!」
「……あのっ、引っ張られると……っ」

 痛みと恐怖で顔を歪めたニイナが、身を捩った——その瞬間。

 累が、動いた。

「——貴方たちの目的は、近衛師団の排除ですか?」

 パシリっ、と男の手を払い、ニイナと男の間に割り入った累。
 ひたすら冷たいだけの双眸が、動揺した男を写す。

「っ、なんだよお前……っ。女にイイトコでも見せようってか!?」
「累くん……!」

 睨みつける男と、両腕を庇うようにして累を見つめるニイナ。痛みで涙目になりながらも、累を心配する眼差しに気付き、安心させるように小さく笑んだ。

「おい累……っ」
「勝手に動くな……!」

 和久と堂本が、完全に男と対立した累を、下がらせようと腰を浮かせたが、それより先に、怒りで顔を赤くした男が累に詰め寄る。

「っ調子に乗るなよ、ガキが。奴らがお隠しになった陛下を、民衆に取り戻す、という崇高な活動が我々にはあるのだからな!」
「……なら尚更、僕がお相手すべきですね」

 胸ぐらを掴んできた男の手を、鬱陶しそうに振り払った累。

 そして、底冷えするような表情で、男たちを睥睨した。

「——近衛魔法士を、お探しなんでしょう?」


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