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魔法庁附属、魔法学校・紺碧校。本科。
冬馬ハルト①
しおりを挟むユーリカの希望を叶えるべく、晩餐の招待客が増える手配をしてきた冬馬ハルトは、教師陣に向かって歩く主人を見つけ、足を早めた。
心なしか、口元が緩んでいるユーリカ。楽しいことでもあったのだろうと推察出来るが、名門貴族の中でも将来を嘱望される主人が、公の場で気を緩めているのは宜しくない。
「ユーリカ様」
「あら、冬馬。ご苦労様」
声を掛けると、一瞬しまった、という表情をして足を止めたユーリカ。自覚しているならこれ以上言うことはない。口に出しかけた指摘は飲み込み、用件だけを口にする。
「晩餐の手配は問題ありません。昼食は如何いたしますか?」
「食べるわ。でも、先にちょっと午後からのことを聞きたいの」
そう言って、担任へと再び歩き出したユーリカの後を追う。
何か用事があるのなら、自分に言ってくれれば良いのに、とは何度思ったかわからない。従者泣かせだとは思うが、この行動力こそが、ユーリカの人望にも繋がっていると思うと誇らしい。
「ヴェラー教師」
数人の教師の集まりの中に、担任のオスヴィン・ヴェラー教師がいた。
バインダーを片手に話していたところを見ると、さっきまでの模擬演習について、教師間でやりとりしていたのだろうか。
ユーリカの声に気づいたヴェラーは、振り返ると、その落ち着いた雰囲気のままに、表情を和らげた。
「あぁ、鷺ノ宮くん、冬馬くん。良くやったね。鷺ノ宮くんは、今回も成績トップだ」
「有難うございます。班の皆が頑張ってくれたおかげです」
「ふふ、謙遜だね。その実力を誇ったとしても、誰も文句なんて言えないだろうに」
ユーリカの実力を、ヴェラーは高く評価してくれている。教師歴30年以上という、魔法学校では珍しいほどのベテラン教師に褒められたのだから、自分のこと以上に喜ばしい。
本人も面映ゆいのか、照れたように小さく笑ったユーリカは、それ以上のコメントを控えて、本題を口にした。
「今日の午後からの実地訓練に、追加のメンバーはいますか?」
そう、午前の訓練で一定の評価を得た者は、実地訓練への選抜メンバーに選ばれるのだ。今日の模擬訓練で、新たに基準をクリアした者がいてもおかしくない。
ユーリカの問いかけに、ヴェラーはバインダーの紙をめくりながら頭を掻いた。
「そうだね……惜しい子はいるんだけど……」
声を潜め、背後の同僚とも何かを相談したようだが、結果は変わらなかったようだ。
「いずれ全員、実地に入ってもらう予定だから。急ぐ必要もないし、その時に、って感じかな」
「そうですか……わかりました。いつものメンバーで準備しておきます」
ユーリカの返答に頷いたヴェラー。
しかし、そこで何を思いついたのか、
「……あ、そうだ。あの編入生くん、君達の目にはどう映った?」
ニコニコと、真意の読めない笑顔のまま、思いもしない質問をしてきた。
ユーリカも大きな瞳を瞬かせている。
「峯月くん、ですか?」
「そう、彼。外から見るんじゃなくて、実際に対戦した君達の感想を聞いてみたい」
ヴェラーが、こうやって遠回しに気にかける意図はわからなかったが、まぁ稀な編入生なのだからそんなものかと納得する。
それに彼も特別棟なのだ。特待生として見るならば、実力が伴っているか確認する必要もあるだろう。
先程の模擬訓練を思い出しながら、好意的なコメントを考えてみる。
が、如何せん、褒めるべきところが見つからない。
前半戦は全くと言っていいぐらいに動けていなかった。魔法どころか、そもそも基礎科で鍛えているはずの肉体すら、本科生のレベルに到底達していない。本科の3年生を名乗っていい状態じゃない、というのが印象だった。
後半戦にしても、逃げるばかりで殆ど姿を見せなかったから、班として相対したとはいえ、特筆すべきことは無い。
強いて感想を上げるならば、『編入してすぐだったので、実力を発揮出来なかったようです』だ。
返答に困り、同じく悩んでいるだろうユーリカの様子を伺うと……その表情は、予想外にも楽しそうだった。
「私は、とても面白い、と思いましたね」
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