禍羽根の王 〜序列0位の超級魔法士は、優雅なる潜入調査の日々を楽しむ〜

しののめ すぴこ

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魔法庁附属、魔法学校・紺碧校。本科。

訓練が終わって……④

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 ユーリカも、和久のコメントに吹き出していたから、同じ心境だったのだろう。

「やっぱり絶妙ねー。——あ、冬馬。貴方も暇なら、一緒に歓迎会、どう?」

 主人の言葉を否定する事は出来ず、だが決して歓迎してない様子の従者を、無謀にも誘ってみたユーリカだったが、

「有難うございます。ですが鷺ノ宮家でお迎えするお客様と同席するのは恐れ多く、今回は遠慮させて頂きます」
「そう……まぁ仕方ないわね。じゃあ私と峯月くん、和久、ニイナの4人分でお願い」
「かしこまりました。では早速手配を致しますので、お先に失礼させて頂きます」

 丁寧な所作で一礼し、歩き去っていく冬馬。
 急展開に翻弄されたままの和久を一瞥することもない、無駄の一切無い挙動には有能さが滲み出ているが、その分近寄り難い印象を受ける。

 結局一言も挨拶出来なかったなぁ……と思いながら視線をユーリカに戻すと、

「ごめんね、冬馬って一線引いちゃうタイプなのよ。同級生なんだから、気軽に付き合えばいいのにねぇ。固いんだから……」

 どうしたらあの性格は直るのかしら? と頰に手を当てている姿に苦笑する。立場上、どうしようも無いだろう。
 真面目な従者では、主人としては奔放なユーリカに付いていくのは、気苦労も多かろうと慮ってしまうが、自分も他人のことはとやかく言えない。

「副会長も大変なんでしょうねー」
「あら。峯月くんも冬馬の味方をするの?」
「いえいえそんな、滅相もございません」
「よーくわかりました。君は今度、私の班でみっちりシゴいてあげる」
「えぇぇっ」
「じゃ、そろそろ集合がかかりそうだし、先に行くわ。また後でねー」

 なんとも気安くバイバイをしていくユーリカに、こちらも手を振り返していいものか悩む。が、さすがに会ったばかりの名家のお嬢様に向かって、手を振るのは気が引けて、小さく頭を下げるに留めておいた。

「イメージと全然違う人だなぁー……って、和久、どうした?」
「……やべぇよー……、俺、テーブルマナーほんっと無理なんだけど……」

 木の根に座り込んだまま凍りついていた和久が、ようやく動いたかと思えば、額に拳を当てて大きく溜息を吐く。

「大丈夫。意外と何とかなるもんだって」
「何でお前はそんなに自信満々なんだよっ……って、特別棟のお坊ちゃんだったか」
「違う違う。出身はごくごく一般的な中流家庭だよ」
「はぁ? じゃあなんで特別棟なんだよ。どう考えても、探知能力だけじゃ割り振られんだろっ。ニイナ以下の運動神経ヤローがっ」
「酷いなぁー。まぁそれもそうなんだけど……あ、ニイナだ」

 何て言い返してやろうかと考えながら視線を上げると、悪口の材料に使われていた話題のニイナが、笑顔で手を振りながら歩いてくるのが見えた。頼ってきた面々に回復魔法を全て施してきたらしく、若干疲れた顔をしている。

 その進行方向には、先ほど別れたばかりのユーリカ。

 案の定、途中でユーリカと擦れ違ったニイナは、ふんわりとした笑顔で挨拶をした。……かと思ったら、突然焦り出したように両手を突き出し、首を振っている。白いふわふわの髪を左右に揺らしながら、必死に何かを遠慮しているようだ。

「……ありゃーニイナも会長に誘われたな……」

 憧れのアイドルに話しかけられたかのように、頬を紅潮させていたニイナが、だんだんと必死の形相になっていく。

「断れなかったみたいだね」

 清々しいまでに上品な笑顔で去っていくユーリカを見送りつつも、うわー……どうしよう……と動いているように見えるニイナの口元。
 混乱したままの仕草で、苦笑する累たちに向かって駆け寄り出した……というところで、足元の小さな石を踏ん付けた。

「あ。コケた」

 ……決して、運動神経がニイナ以下だという称号だけは撤回したい。

 そう強く思った累であった。


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