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魔法庁附属、魔法学校・紺碧校。本科。
訓練が終わって……①
しおりを挟む「疲れたぁー……」
「くっそ、いってぇ……」
「あー……やっぱ会長たち強ぇなー…………」
訓練終了の笛が鳴り、誰もが一拍を置いてから緊張を解いた。
その場に座り込む者や、泥汚れを気にすることなく大の字で寝転ぶ者など、様々な形で身体を休める。
累も、ようやく終わったのか、と小さく吐息を零してから肩の力を抜いた。
ユーリカを仰ぎ見たままだった姿勢を戻し、砂埃に塗れた制服を叩く。
「おーい、累。大丈夫だったかー……って、無傷っぽいな。どんだけ上手く逃げてたんだよ、お前」
様子を確認しにきてくれたらしい和久は、累の姿を眺め、呆れたように笑った。
「いや、筋肉の繊維には相当なダメージが……」
「それは筋肉痛って言うんだ」
的確なツッコミを入れながら、側の木の根に座り込む和久。どうやら相当疲労しているらしい。
流れた汗を拭う元気すら無さそうだ。……と思ったが、片手を庇っているように見える。戦闘の中で痛めたのだろうか。
「ニイナ、呼んでこようか?」
「いい、最後で。先にあいつら回復してやって欲しいし」
和久の視線を辿れば、負傷したらしい数人が、ニイナの周りに集まっていた。
自身も疲れているだろうに、笑顔で回復魔法を繰り返しているニイナ。
大きな怪我をしている者はいないようで、簡易な魔法で済みそうだが、体力と集中力を必要とする回復魔法を、短時間に何回も使うのは大変なことだ。
「あんなに使ってちゃ、ニイナがバテない?」
「そんときゃ医務室行くわ。ニイナが活躍できる、唯一の出番だからな。みんなに頼られるのが嬉しいんだよ」
ほっといてやれ、という和久の言葉からは、ニイナへの慈しみが分かる。
毎回のことなのか思うと、本当に根っからの世話好きなんだなぁ、と苦笑してしまった。
「さてと。……じゃあ、後片付けでもすればいいのかな?」
「あ、そうだな——」
「——そうね。使った魔法陣とか、道を塞ぐ倒木があれば、可能な限り片付けましょう」
勝手がわからず、次の行動を和久に聞こうとしたが、返事をくれたのは予想外の人物だった。
「二人とも、模擬訓練お疲れ様。良い試合だったわ」
「会長……?」
「あ、鷺ノ宮会長。こっちこそ、訓練ありがとうございました」
和久が立ち上がろうとするのを手で制したのは、長いポニーテールに青いリボンを巻いた、鷺ノ宮ユーリカだった。
見本のように美しく着こなした制服からは、スラリと長い手足が伸びている。適度に膨らんだ胸元と、引き締まったウエストによって描かれる曲線は、誰の目から見ても抜群のスタイルだろう。
戦闘の時の俊敏さとは真逆に、優雅な足取りで近付いてくる姿は、どこから見ても良家の子女だ。
先程、3班をほぼ一人で相手にしたとは思えないほど、疲労の色は見られない。
「和久は今回もいい班長っぷりだったね。でも君はやっぱり、周りを気にせず動ける環境の方が、活きると思うんだよねー」
黒いスカートのプリーツを翻したユーリカは、和久の前に立って思案気に見つめる。
「そっすよねぇ。実は俺も、目の前の敵に集中する方が楽しいんですけど、つい、班長だから全体を見ないと、って気負っちゃうんですよね」
「班長だからって、常に統率する必要はないんじゃない? 私も、周りに任せる時はあるわよ」
「そこらへんの判断力と連携を、勉強しないといけないっすねー」
難しいところなのよねぇ、と晴れやかに笑うユーリカは、対戦相手をも冷静に見る余裕があったと言うことなのだろう。
和久の方も、ユーリカの話を真面目に受け止めていることから、ユーリカの実力を高く評価していることがわかる。
確かに、累の目から見ても、ユーリカの能力は突出している。
魔力の高さもそうだが、身体能力としても十分だ。この模擬訓練で、彼女は本気で戦う必要など無いだろう。
「峯月くん」
「……あ、はいっ」
二人の会話をぼんやりと聞いていて反応が遅れた。
累より数センチ背の低い彼女が、しなやかな四肢を動かし、まっすぐに累を向く。
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