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魔法庁附属、魔法学校・紺碧校。本科。
訓練開始①
しおりを挟む鬱蒼と生い茂る木立。
頭上には太陽が昇っているはずだが、木々の合間から漏れてくる光は鈍い。
随所には、いつのものだか分からない倒木や、抉れた地面が茶色くむき出しになっている。
ここは模擬訓練場。D地点に近い場所だ。
「累! そっちの木に隠れとけっ。ニイナは向こうの二人をサポート!」
「了解っ」
「——待ってニイナ、左から迂回で! 前方右側に魔法の痕跡があるよ」
「ありがと、累くんっ!」
荒い呼吸と共に礼を言ったニイナが、上気した頰で駆けて行く。
その後ろ姿を見送りながら、累は和久に指示された木陰に身を隠した。
右側に見える魔力の影は、そのままだ。ニイナは累のアドバイス通り、左へと走っているから、これでトラップ魔法は回避できた筈。
累は既に疲れている両足を見下ろしながら、暫くは大丈夫だろうと束の間の休息に息を吐いた。
小さくも見えた訓練場は、やはり森というだけあって、実際に動き回るには広いフィールドだった。
訓練自体、恐ろしく久しぶりだった累にとっては、鈍った身体に鞭を打っている状態だ。怠けていたからなぁ、と自分で自分に呆れながらも、周囲に漂う魔法の影を見つめる双眸は冴えている。
「やるじゃん累。お前の索敵、結構いいサポートだわ」
和久が、若干息を弾ませまながら、隣に滑り込んできた。
迫ってきている1班を確認するように、木の陰から周囲を見渡している。
「ただの足手まといで終わらなくて良かったよ」
「いやぁ、さっきの奇襲の時が使えなすぎたからなぁ……」
「……あっはっはっはっはー」
「攻撃系魔法が全くダメだってのは、まぁ、適性が無かったんだし仕方ないとしても、体術は基礎科でみっちりシゴかれてるだろ? まさかニイナよりもトロイ奴がいるなんて……」
何かを思い出すように遠い目をする和久。
つられて、先程までのフェーズを思い返してみるが、それはもう散々だった。
奇襲と言っても、相手の2班だって襲われるのがわかっているから、動かない的にはなっていない。相手の動作を予測する洞察力と、正確に魔法を扱う精密さ、そして居場所を悟られないように、常に移動し続ける体力を求められる訓練だった。
が、なにぶん運動不足の累である。
各ポイントへの全力疾走だけで、既にオーバーワークなのだ。
和久に急き立てられて、何とか付いて行くので精一杯。最後の最後で魔法を打てと言われても、そもそもそういう攻撃魔法は得意じゃないのだ。
「だから、使えないと思う、って最初からゲロってたよ?」
大袈裟に頭をかかえる和久に、一応、抗議しておく。
控えめに考えても貢献したとは言い難いので、あくまでポーズだ。気に病んでいるわけでも何でもないから、冗談めかしの軽口。
和久の方も分かっていて揶揄っているのだろう。悪戯っぽい顔でニヤリと笑った。
何となくこの男の性格がわかってきたような気がする、と思いながら、ニイナが向かった先に目をやると、そちらは既に、4班を守るように展開を始めていた。
「さぁーて、次は防衛戦だぜ。累はもう、防御しようなんて考えるなよ。確実にどっちから攻撃されるのか見て、逃げろよ」
酷い言われようである。
が、あんなヘタレな姿を見せた後なら、仕方ないだろう。
苦笑するしかない累は、再度周囲を確認してから、和久に頷いた。
「オーケー。今の所、魔法が発動する気配はないよ」
「よし。4班はさっさと組み上げろよぉー!」
共闘したばかりというのに、もう累の探知力を信頼しているのか、警戒を緩めた和久が、奥に向かって声を上げた。
そこでは、少し開いた場所を使って、数人が道具を使いながら地面に何かを組み立ている。恐らく4班に与えられた課題の、拠点設置型魔法なのだろう。
軽く手を上げて合図をする4班に、同じく片手を上げた和久は、それからどこか一点に視線を移した。
「んー。こっちの担当教師は、あの人か……」
和久の視線の先には、黒い教師用のコートを着た一人の男性が、バインダー片手に立っていた。
各ポイントで、生徒たちの安全と評価を行なっている、教師の一人だ。
「あの人、派手目な戦闘が好みなんだよなぁ……。累もなるべく目立って点数稼いどけよ」
「へぇ、そんな傾向があるんだ」
「教師によっては、な。さっきのフェーズで採点してた人は、魔法は必要最小限・戦闘能力で隠密行動、ってのが好みらしい。そういう奴の得点が伸びてたからな」
「ふーん……」
「ふーんて、お前なぁ……。ここで成績悪かったら、実地訓練にも入れねぇんだぜ?」
ただでさえ編入生で不利なんだから、もうちょっと頑張れよ、と呆れる和久に、そうなのか、と返すと更に溜息を吐かれた。
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