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閑話 秘策?
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「それで、執事を辞めるってどういう事なんですか? 教えてください」
僕はもちろん本気で執事を辞めようとしているわけではない。
アンリさんもそうさせたいわけではないことは、話しぶりから分かっていた。
僕はただ、お嬢様との仲を取り戻す為に、やれることをやりたいんだ。
だから、聞ける話は全部聞くことにする。
「友達に戻って話をするんだよ。執事と主人の関係で言えないことも、友達なら話せる」
「そんなこと……」
出来るわけない、と続きそうになって慌てて口を塞ぐ。
反射的に出る言葉なんて、碌なものじゃない。
でも、やっぱり現実味が湧かない。
それは言わば夢みたいなもので、僕がとっくの昔に諦めたことだから。
そうできたら、友達に戻れたらどんなにいいか。
そんな子供じみた考えを持ち続けている僕は、もうどこにも居ないのだ。
居ないはずなのだ。
なのに……
「何か策があるんですか? 友達になる」
僕の口は僕の意志とは別に動く。
体も気が付けば、アンリさんに向かって正していた。
「小難しい策はないよ。ただ、とてつもない勇気が必要になる」
僕はなんだってやれると思っている。
お嬢様との関係を良くできるなら。
だけど、とてつもないなんて言われると、身構えてしまう。
やっぱり僕は臆病者なのだろうか。
次の言葉を待つ。
「信じることだよ、お嬢様のことを。そのお嬢様も同じ気持ちであるってことを」
「同じ気持ち……」
「そう。本当はあなたのように、友達に戻りたい。昔のように仲良くしたいと思ってるって信じられる?」
「あなたが伸ばした手を、繋いでくれると信じることが出来る?」
今のお嬢様を思い出す。
横暴で、僕に強く当たってきて、何かと難癖をつけて。
僕の事なんて、もう何とも思ってないように思える。
だけど、それでも。
思い出される過去の記憶。
笑い合ってる僕らとエミリーは、どう考えても幸せそのもので。
こんな風に僕らもう一度話せたら。
そう思っているのはきっと……。
いや、絶対に僕だけじゃない!
心になかで吠える。
なら、僕がやらなきゃ。
自分とエミリーを信じて。
だけど、今少し心に残っている不安を、どうか神様、はらってください。
最後にお願いをする。
大勝負の前の願掛けを空に向けた。
「覚悟が決まったって顔をしてる」
その、優しく親身な声が、神様の代わりに僕の不安を蹴飛ばしてくれる。
「ええ、もう大丈夫です」
今はどんな困難にも立ち向かっていける僕なんだ。
僕はもちろん本気で執事を辞めようとしているわけではない。
アンリさんもそうさせたいわけではないことは、話しぶりから分かっていた。
僕はただ、お嬢様との仲を取り戻す為に、やれることをやりたいんだ。
だから、聞ける話は全部聞くことにする。
「友達に戻って話をするんだよ。執事と主人の関係で言えないことも、友達なら話せる」
「そんなこと……」
出来るわけない、と続きそうになって慌てて口を塞ぐ。
反射的に出る言葉なんて、碌なものじゃない。
でも、やっぱり現実味が湧かない。
それは言わば夢みたいなもので、僕がとっくの昔に諦めたことだから。
そうできたら、友達に戻れたらどんなにいいか。
そんな子供じみた考えを持ち続けている僕は、もうどこにも居ないのだ。
居ないはずなのだ。
なのに……
「何か策があるんですか? 友達になる」
僕の口は僕の意志とは別に動く。
体も気が付けば、アンリさんに向かって正していた。
「小難しい策はないよ。ただ、とてつもない勇気が必要になる」
僕はなんだってやれると思っている。
お嬢様との関係を良くできるなら。
だけど、とてつもないなんて言われると、身構えてしまう。
やっぱり僕は臆病者なのだろうか。
次の言葉を待つ。
「信じることだよ、お嬢様のことを。そのお嬢様も同じ気持ちであるってことを」
「同じ気持ち……」
「そう。本当はあなたのように、友達に戻りたい。昔のように仲良くしたいと思ってるって信じられる?」
「あなたが伸ばした手を、繋いでくれると信じることが出来る?」
今のお嬢様を思い出す。
横暴で、僕に強く当たってきて、何かと難癖をつけて。
僕の事なんて、もう何とも思ってないように思える。
だけど、それでも。
思い出される過去の記憶。
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こんな風に僕らもう一度話せたら。
そう思っているのはきっと……。
いや、絶対に僕だけじゃない!
心になかで吠える。
なら、僕がやらなきゃ。
自分とエミリーを信じて。
だけど、今少し心に残っている不安を、どうか神様、はらってください。
最後にお願いをする。
大勝負の前の願掛けを空に向けた。
「覚悟が決まったって顔をしてる」
その、優しく親身な声が、神様の代わりに僕の不安を蹴飛ばしてくれる。
「ええ、もう大丈夫です」
今はどんな困難にも立ち向かっていける僕なんだ。
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