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斎藤福寿、終わり始まる日々。
2 自然妊娠の行方と久しぶりのマザーの部屋
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バス停から庁舎の中に入っていく。僕はどこに連れて行かれるのか分からないけど李さんについていく。いろいろな人がスーツでここに居る。ここに居る人はマザーの秘密、日本の隠し事を知っている人達だ。僕みたいな理不尽な仕事だって他にもあるのだろう。何も僕ばかりじゃない。人生の幸福な生き方を決めてもらえるようになったと言っても、毎日が幸せなわけではないと思う。みんなきっと何かしら悩んで生きていると信じたい。
「斎藤君、初仕事お疲れ。まぁ、こんな仕事だよ」
「はい、なかなか疲れましたよ」
「どう?寿管士は。やっていけそうかな」
僕はこんなきつい仕事は嫌だと感じたけど、これで断って無職になることも避けたいと思った。僕は窓華さんのことを忘れられないだろう。
「僕にはまだ分かりません」
「霞さんはまだ続けるようだよ、子育てもあるし」
「今の世の中で自然妊娠なんて……」
「そう、だからいろんな値がおかしいから困ってるよ」
今はオプションもつけるけど、受精卵を選ぶから産まれる前にその子どもの特徴が分かる。数学が得意だったり運動が得意だったり、苦手分野も分かる。苦手はオプションで克服する。
「僕も寿管士を続けますよ」
「それは良かった」
「僕にとって見える世界が変わりましたから」
僕がそう言うと、李さんはうんうんと頷いた。僕はこれからどうするのだろうと思うと、李さんはエレベーターの最上階を押した。
「じゃあ、マザーが呼んでるからマザーの部屋行って」
「あのマザーさんがですか?」
「そう、任務完了の報告ね。ここまでが仕事」
どんどん上がっていくエレベーターの階数。最上階にはマザーさんの部屋しかなくて、そこからマザーは日本を眺めている。僕はこんこんとドアをノックした。
「こんにちは」
「どうぞ、お入りください」
「失礼します」
僕がマザーさんの部屋に入ると、マザーさんは前と同じフリルの付いたシャツのスーツを着ており、頭には三つのボールを浮かせている。そしてこたつの近くにある座布団に座っているので僕もそっちの方に向かった。ピンク色で統一された可愛らしい部屋に、日本の将来を隔離している。
「八0一番さん、お仕事お疲れ様でした」
「慣れないことするもんじゃないですね」
「手を怪我していますが、保護人と喧嘩でもいたしましたか?」
僕はここ数日慣れない料理をしていて、手を少し怪我していた。それをマザーさんは見つける。窓華さんとの最初の夜に首につけられた傷も包丁のもので、これも包丁が原因でできたものだ。
「いや、手料理を作ったんです」
「あら、素敵ですね。わたくしはそっちのエネルギー問題については解決しておりますので、料理からくるカロリーでの活動は関係のない話ですが……」
「あぁ、マザーさんが機械だからって話じゃないんです」
マザーさんのエネルギーは電気だったかと僕は思い出す。そして言わせてはいけないことを言わせたようで悪いなと思ったら、それをマザーさんは読み取った。
「そうですか、気にしないでください。八0一番さんは優しいのですね」
「僕は斎藤福寿と言います。福寿で良いです」
「困りましたね。英数字以外はプログラムされないと受け付けないのです」
首をかしげて困ったような表情をする。こんな表情までプログラムされているのに人の名前一つ覚えられないとは、やはりどこか抜けているパソコンだ。
「李さんのことはすももさんって呼びますよね?」
「それは最初にプログラミングされたからですね。わたくしの頭のサーバーには八0一番さんのデータは入っているのですが、お名前を口には出せません」
申し訳無さそうにマザーさんは言った。僕も無理に言わせるつもりはない。ただ八0一番と言われ続けることが嫌だっただけ。
「無理しなくて良いですから」
「今度、すももさんに頼んでみます」
マザーさんはにこやかに言った。この調子なら頼んでもらえそう。
「斎藤君、初仕事お疲れ。まぁ、こんな仕事だよ」
「はい、なかなか疲れましたよ」
「どう?寿管士は。やっていけそうかな」
僕はこんなきつい仕事は嫌だと感じたけど、これで断って無職になることも避けたいと思った。僕は窓華さんのことを忘れられないだろう。
「僕にはまだ分かりません」
「霞さんはまだ続けるようだよ、子育てもあるし」
「今の世の中で自然妊娠なんて……」
「そう、だからいろんな値がおかしいから困ってるよ」
今はオプションもつけるけど、受精卵を選ぶから産まれる前にその子どもの特徴が分かる。数学が得意だったり運動が得意だったり、苦手分野も分かる。苦手はオプションで克服する。
「僕も寿管士を続けますよ」
「それは良かった」
「僕にとって見える世界が変わりましたから」
僕がそう言うと、李さんはうんうんと頷いた。僕はこれからどうするのだろうと思うと、李さんはエレベーターの最上階を押した。
「じゃあ、マザーが呼んでるからマザーの部屋行って」
「あのマザーさんがですか?」
「そう、任務完了の報告ね。ここまでが仕事」
どんどん上がっていくエレベーターの階数。最上階にはマザーさんの部屋しかなくて、そこからマザーは日本を眺めている。僕はこんこんとドアをノックした。
「こんにちは」
「どうぞ、お入りください」
「失礼します」
僕がマザーさんの部屋に入ると、マザーさんは前と同じフリルの付いたシャツのスーツを着ており、頭には三つのボールを浮かせている。そしてこたつの近くにある座布団に座っているので僕もそっちの方に向かった。ピンク色で統一された可愛らしい部屋に、日本の将来を隔離している。
「八0一番さん、お仕事お疲れ様でした」
「慣れないことするもんじゃないですね」
「手を怪我していますが、保護人と喧嘩でもいたしましたか?」
僕はここ数日慣れない料理をしていて、手を少し怪我していた。それをマザーさんは見つける。窓華さんとの最初の夜に首につけられた傷も包丁のもので、これも包丁が原因でできたものだ。
「いや、手料理を作ったんです」
「あら、素敵ですね。わたくしはそっちのエネルギー問題については解決しておりますので、料理からくるカロリーでの活動は関係のない話ですが……」
「あぁ、マザーさんが機械だからって話じゃないんです」
マザーさんのエネルギーは電気だったかと僕は思い出す。そして言わせてはいけないことを言わせたようで悪いなと思ったら、それをマザーさんは読み取った。
「そうですか、気にしないでください。八0一番さんは優しいのですね」
「僕は斎藤福寿と言います。福寿で良いです」
「困りましたね。英数字以外はプログラムされないと受け付けないのです」
首をかしげて困ったような表情をする。こんな表情までプログラムされているのに人の名前一つ覚えられないとは、やはりどこか抜けているパソコンだ。
「李さんのことはすももさんって呼びますよね?」
「それは最初にプログラミングされたからですね。わたくしの頭のサーバーには八0一番さんのデータは入っているのですが、お名前を口には出せません」
申し訳無さそうにマザーさんは言った。僕も無理に言わせるつもりはない。ただ八0一番と言われ続けることが嫌だっただけ。
「無理しなくて良いですから」
「今度、すももさんに頼んでみます」
マザーさんはにこやかに言った。この調子なら頼んでもらえそう。
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