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斎藤福寿、守咲窓華と終わりに向かう日々。
4 まずいキャロットケーキ
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八月二五日水曜日
「やっぱりキャロットケーキはまずいねぇ」
「ミックス粉は分量通りに作っても普通に美味しいですから、何か入れるというのは邪道だと僕は感じます」
小学生ぐらいのときの塾帰りのおやつはホットケーキが多かった。母さんは器用だからホットケーキミックスからクッキーも作った。それは味が美味しいと確定しているから約束された勝利だ。
「今日は豆腐のティラミスを作ってきて欲しいのだ」
「分かりましたよ、作ります」
「ココアパウダーって書いたけど、ミルクココアの粉で代用できるから」
そして、今度は少し難しいぞ?と窓華さんは笑う。僕はレシピを見て、具体的に書いてある方が有り難いと思った。今回はしっかり分量が分かるから。しかし作ったとして、二六日の二時五六分までに届けないといけない。僕はどうしようかと困り果てていた。
「繰り返す言葉は実現するんだよ」
「急にどうしたのですか?」
「ほら、流れ星にも三回願い事を唱えるじゃない?今の私は何度も呪いの言葉を言っているから、呪を呪い殺せるかもね」
そんな怖いことを平気に言う。確かに僕は窓華さんから呪と言われていて、それはもう数え切れないほどで。繰り返す言葉が現実になるなら殺せるだろう。
「そんな物騒なことを言って」
「物騒でもないよ。つらいと言えばつらくなるし、楽しいと言えば楽しくなるって言霊があるって学生時代に習ったなぁ」
「そんなもんですかね。僕が友達が多いって言えば友達は増えますか?」
僕は嫌な性格の男だからこんなことを聞いてしまう。でも、窓華さんは僕の質問に本気で向き合ってくれた。
「そうだねぇ。友達が居ないってずっと言っていたら、呪とは友達って思っていた人が友達だと思われてないと感じて、離れていくかもね」
「まぁ、僕には友達が少ないと愚痴る友達も居ませんけど」
「なら私の意見はなしね」
そうか、僕は自分から友達と思える範囲を狭めていたのかもしれない。もしかしたらもっと広範囲で見るのなら友達が居た可能性だってある。豆腐のティラミスのレシピを僕は確認する。『豆腐の三つセットの一個とクリームチーズ一箱だから、だいたい二00グラムぐらい?あと砂糖は好きなだけ入れて良いけど五0グラムぐらいが適量だと思うよ。ココアパウダーを使う場合は砂糖が入ってないから、もっと入れてOKだよ。ホットココアの粉末を使う場合は砂糖は控えめにね。これはネットで有名なレシピなんだよ。サイトはここね』今回は思ったよりまともに書いてある。なんと、このティラミスは豆腐の容器をそのまま活用できる。そのため洗い物も少ないとのこと。あぁ、やはり窓華さんは主婦なのだなと思った。
ココアパウダーも買って、材料を用意した僕はテレビにパソコン画面を映し出して動画サイトへアクセスしていた。そして有名な動画配信サイトを見ながらそのティラミスを作る。混ぜて冷やすだけとの謳い文句だったが、混ぜ方にもコツがあり思ったより難しいなと感じた。それでもそれなりに完成した。
しかし、明日の昼に普通に窓華さんへ面会に行ったとして、窓華さんは明日の夜の二時五六分には死んでいるわけで渡せない。僕はパソコンの配線をいじりながらどうしようか考えていた。これで渡しに行ったら、窓華さんに明日がないと思われるかもしれない。それでも僕は約束を守りたい。でも、どうするのが一番良い最期なのだろう。こういうときにマザーさんも直接アドバイスをくれたら良いのに。最初に会いに行ったとき、マザーさんは僕の眼鏡に警告を鳴らした。そういうことだってできるはずなのに、僕の眼鏡は普通の眼鏡のように何も反応しなかった。
「やっぱりキャロットケーキはまずいねぇ」
「ミックス粉は分量通りに作っても普通に美味しいですから、何か入れるというのは邪道だと僕は感じます」
小学生ぐらいのときの塾帰りのおやつはホットケーキが多かった。母さんは器用だからホットケーキミックスからクッキーも作った。それは味が美味しいと確定しているから約束された勝利だ。
「今日は豆腐のティラミスを作ってきて欲しいのだ」
「分かりましたよ、作ります」
「ココアパウダーって書いたけど、ミルクココアの粉で代用できるから」
そして、今度は少し難しいぞ?と窓華さんは笑う。僕はレシピを見て、具体的に書いてある方が有り難いと思った。今回はしっかり分量が分かるから。しかし作ったとして、二六日の二時五六分までに届けないといけない。僕はどうしようかと困り果てていた。
「繰り返す言葉は実現するんだよ」
「急にどうしたのですか?」
「ほら、流れ星にも三回願い事を唱えるじゃない?今の私は何度も呪いの言葉を言っているから、呪を呪い殺せるかもね」
そんな怖いことを平気に言う。確かに僕は窓華さんから呪と言われていて、それはもう数え切れないほどで。繰り返す言葉が現実になるなら殺せるだろう。
「そんな物騒なことを言って」
「物騒でもないよ。つらいと言えばつらくなるし、楽しいと言えば楽しくなるって言霊があるって学生時代に習ったなぁ」
「そんなもんですかね。僕が友達が多いって言えば友達は増えますか?」
僕は嫌な性格の男だからこんなことを聞いてしまう。でも、窓華さんは僕の質問に本気で向き合ってくれた。
「そうだねぇ。友達が居ないってずっと言っていたら、呪とは友達って思っていた人が友達だと思われてないと感じて、離れていくかもね」
「まぁ、僕には友達が少ないと愚痴る友達も居ませんけど」
「なら私の意見はなしね」
そうか、僕は自分から友達と思える範囲を狭めていたのかもしれない。もしかしたらもっと広範囲で見るのなら友達が居た可能性だってある。豆腐のティラミスのレシピを僕は確認する。『豆腐の三つセットの一個とクリームチーズ一箱だから、だいたい二00グラムぐらい?あと砂糖は好きなだけ入れて良いけど五0グラムぐらいが適量だと思うよ。ココアパウダーを使う場合は砂糖が入ってないから、もっと入れてOKだよ。ホットココアの粉末を使う場合は砂糖は控えめにね。これはネットで有名なレシピなんだよ。サイトはここね』今回は思ったよりまともに書いてある。なんと、このティラミスは豆腐の容器をそのまま活用できる。そのため洗い物も少ないとのこと。あぁ、やはり窓華さんは主婦なのだなと思った。
ココアパウダーも買って、材料を用意した僕はテレビにパソコン画面を映し出して動画サイトへアクセスしていた。そして有名な動画配信サイトを見ながらそのティラミスを作る。混ぜて冷やすだけとの謳い文句だったが、混ぜ方にもコツがあり思ったより難しいなと感じた。それでもそれなりに完成した。
しかし、明日の昼に普通に窓華さんへ面会に行ったとして、窓華さんは明日の夜の二時五六分には死んでいるわけで渡せない。僕はパソコンの配線をいじりながらどうしようか考えていた。これで渡しに行ったら、窓華さんに明日がないと思われるかもしれない。それでも僕は約束を守りたい。でも、どうするのが一番良い最期なのだろう。こういうときにマザーさんも直接アドバイスをくれたら良いのに。最初に会いに行ったとき、マザーさんは僕の眼鏡に警告を鳴らした。そういうことだってできるはずなのに、僕の眼鏡は普通の眼鏡のように何も反応しなかった。
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