たおやかな慈愛 ~窓のない部屋~

あさひあさり

文字の大きさ
上 下
77 / 87
斎藤福寿、守咲窓華と終わりに向かう日々。

1 雨が降る花火大会

しおりを挟む
堤防にレジャーシートを置いて、僕らは花火を見る。周りに居る人も平和そうで窓華さんだけに未来がないように感じる。花火がどんどん上がって消えていく。僕らの人生も窓華さんの好きな星に比べたら小さなものだ。窓華さんの手に持つ金魚たちもこれからの生活をどう思うだろう。窓華さんが死んだとして、金魚は悲しまないのだろう。僕は死を受け入れられるだろうか。
そんなことを思っていると突然雷が鳴り、急にザーザーと雨が降ってきた。花火大会はマザーさんの言ったように雨で中止になった。僕は教えられた未来を知っているというのに、傘なんて持ってきていない。僕らは濡れながらシートを片付ける。
「雨降ってきたね。こりゃあ、バスが混むぞ」
「バスに乗れると良いのですが……」
僕らは雨に濡れながらバス停の方に行くと、もうバスはいっぱいいっぱいで乗れないと係員がアナウンスしている。僕らは歩いて変えることになった。曇り空だから窓華さんの好きな星座は見えない。話すこともなく、僕らは黙っていた。
「何か面白いこと話してよ」
「僕に無理難題を言いますね」
「例えばあと何日で私が死ぬかとか?」
あと何日という具体的なことを聞く窓華さんにぎくりとする。残された四日を僕は言うことができない。もどかしさでいっぱいだった。
「それは言えないって言ったでしょう」
「呪は本当にケチだね」
僕らは下駄で足の親指と人差し指の付け根が痛い。それでも雨にあたりながらアパートまで帰る。窓華さんはケチだねというと無言になり、僕らはそこまで目立った会話もせず帰ってきた。僕はお風呂に入ってから寝るべきと言ったが、窓華さんは浴衣を脱いでそのまま自室に入っていく。これでは風邪を引いてしまうだろう。窓華さんは風邪で死ぬということだろうか。僕は焼かれなかったハンバーグの種を冷凍庫に入れて、お風呂に入ってから寝た。

次の日、窓華さんは僕を起こしに来ない。僕はだいたいログインボーナスの時間に習慣で目が覚めて二度寝すると言った感じだ。僕は八時半に起きて窓華さんの部屋を除くと、ベッドで窓華さんが真っ赤な顔をしている。僕はリビングに来るように促した。この状況では料理も作れないだろうから、昨日のカロリーも配慮してコントロールベーカリーで朝食を作るか。
「部屋の中なのに花火が見えるぅ、なんで?」
「どうしたんですか?」
その言葉を僕が発すると同時に、窓華さんは自室から出てきたと思ったらソファーに倒れ込んだ。リビングのソファーに受け止められて、それから立ち上がろうともしない。僕が近寄って真っ赤な顔に手を当てる。すると酷い熱だ。病院に連れていくレベルの熱だな。あぁ、窓華さんの命は八月二六日水曜日の二時五六分に本当に死ぬんだ。今日から三日後だ。僕はこの時のために一緒に居るというのに、とうとう来てしまったという実感しかない。
「高熱ですよ。昨日お風呂入らなかったからでしょう。とにかく食事を食べたら病院に行きましょう」
「私、病院で死ぬのは嫌だよ」
僕は何も言えない。死ぬ時間は分かってもどうやって死ぬかはマザーは僕らに教えてくれない。窓華さんは自分の死ぬ時間すら知らない。僕は何も断言することもできずに戸惑ってしまう。窓華さんに朝のヨーグルトを食べさせて、僕らは病院に向かうことにした。だって、このアパートで死なれたら僕が困る。
「あぁ、呪はここで死んで欲しくないだけでしょ?」
「そうですが、悪いですか」
「まぁ、私が呪の人生を左右しちゃ駄目だよね」
コンベの食事を食べながら、真っ赤な顔をした窓華さんを見る。もしかしたら今まで当たり前のように過ごしてきたこの朝も、これで終わりなのかもしれない。僕は喜代也を打って遺書を書いてあるから、遺書で書いた日付で死ぬ。決意はできているつもりだ。でも、窓華さんは違う。喜代也ができる前の、いつ死ぬか分からないという世界で生きている。人はいつか死ぬ。その窓華さんのいつかは、僕と上司が知っているだけだ。昔の人は死の恐怖にはどう耐えていたのだろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

世界史嫌いのchronicle(クロニクル)

八島唯
SF
 聖リュケイオン女学園。珍しい「世界史科」を設置する全寮制の女子高。不本意にも入学を余儀なくされた主人公宍戸奈穂は、また不本意な役割をこの学園で担うことになる。世界史上の様々な出来事、戦場を仮想的にシミュレートして生徒同士が競う、『アリストテレス』システムを舞台に火花を散らす。しかし、単なる学校の一授業にすぎなかったこのシステムが暴走した結果...... ※この作品は『小説家になろう』『カクヨム』『ノベルアップ+』様にも掲載しております。 ※挿絵はAI作成です。

日本国転生

北乃大空
SF
 女神ガイアは神族と呼ばれる宇宙管理者であり、地球を含む太陽系を管理して人類の歴史を見守ってきた。  或る日、ガイアは地球上の人類未来についてのシミュレーションを実施し、その結果は22世紀まで確実に人類が滅亡するシナリオで、何度実施しても滅亡する確率は99.999%であった。  ガイアは人類滅亡シミュレーション結果を中央管理局に提出、事態を重くみた中央管理局はガイアに人類滅亡の回避指令を出した。  その指令内容は地球人類の歴史改変で、現代地球とは別のパラレルワールド上に存在するもう一つの地球に干渉して歴史改変するものであった。  ガイアが取った歴史改変方法は、国家丸ごと転移するもので転移する国家は何と現代日本であり、その転移先は太平洋戦争開戦1年前の日本で、そこに国土ごと上書きするというものであった。  その転移先で日本が世界各国と開戦し、そこで起こる様々な出来事を超人的な能力を持つ女神と天使達の手助けで日本が覇権国家になり、人類滅亡を回避させて行くのであった。

夜明けのカディ

蒼セツ
SF
惑星マナへリア。地球から遠く離れたその星では、地球を巣立った者たちの子孫が故郷を模した文化を気づき、暮らしていた。 不安定かつ混沌とした世界は、S.Oという一つの組織によって秩序を保たれていた。 人々の尊厳や命、平和を守り、正しきを体現するS.Oに故郷を壊された『カディ・ブレイム』は、消えぬ炎を心に灯したまま、日々を生きていた。 平和で穏やかな毎日も、大切な人とのかけがえのない時間を持ってしても、その炎は消せなかった。 スレッドという相棒と出会い、巨大人型機動兵器『イヴォルブ』を手に入れたカディは、今の楽しい日々で消えなかった炎を完全に鎮めるため、復讐を決意する。 これは大切なものを奪われたカディが紡ぐ、復讐と反抗の物語。 悪も正義もない。ただ己の魂を鎮めるためだけに、カディは進む。蒼のイヴォルブ『ルオーケイル』とともに。

【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド

まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。 事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。 一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。 その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。 そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。 ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。 そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。 第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。 表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。

バグった俺と、依存的な引きこもり少女。 ~幼馴染は俺以外のセカイを知りたがらない~

山須ぶじん
SF
 異性に関心はありながらも初恋がまだという高校二年生の少年、赤土正人(あかつちまさと)。  彼は毎日放課後に、一つ年下の引きこもりな幼馴染、伊武翠華(いぶすいか)という名の少女の家に通っていた。毎日訪れた正人のニオイを、密着し顔を埋めてくんくん嗅ぐという変わったクセのある女の子である。  そんな彼女は中学時代イジメを受けて引きこもりになり、さらには両親にも見捨てられて、今や正人だけが世界のすべて。彼に見捨てられないためなら、「なんでもする」と言ってしまうほどだった。  ある日、正人は来栖(くるす)という名のクラスメイトの女子に、愛の告白をされる。しかし告白するだけして彼女は逃げるように去ってしまい、正人は仕方なく返事を明日にしようと思うのだった。  だが翌日――。来栖は姿を消してしまう。しかも誰も彼女のことを覚えていないのだ。  それはまるで、最初から存在しなかったかのように――。 ※第18回講談社ラノベ文庫新人賞の第2次選考通過、最終選考落選作品。 ※『小説家になろう』『カクヨム』でも掲載しています。

戦国時代の武士、VRゲームで食堂を開く

オイシイオコメ
SF
奇跡の保存状態で頭部だけが発見された戦国時代の武士、虎一郎は最新の技術でデータで復元され、VRゲームの世界に甦った。 しかし甦った虎一郎は何をして良いのか分からず、ゲーム会社の会長から「畑でも耕してみたら」と、おすすめされ畑を耕すことに。 農業、食堂、バトルのVRMMOコメディ! ※この小説はサラッと読めるように名前にルビを多めに振ってあります。

COVERTー隠れ蓑を探してー

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
潜入捜査官である山崎晶(やまざきあきら)は、船舶代理店の営業として生活をしていた。営業と言いながらも、愛想を振りまく事が苦手で、未だエス(情報提供者)の数が少なかった。  ある日、ボスからエスになれそうな女性がいると合コンを秘密裏にセッティングされた。山口夏恋(やまぐちかれん)という女性はよいエスに育つだろうとボスに言われる。彼女をエスにするかはゆっくりと考えればいい。そう思っていた矢先に事件は起きた。    潜入先の会社が手配したコンテナ船の荷物から大量の武器が発見された。追い打ちをかけるように、合コンで知り合った山口夏恋が何者かに連れ去られてしまう。 『もしかしたら、事件は全て繋がっているんじゃないのか!』  山崎は真の身分を隠したまま、事件を解決することができるのか。そして、山口夏恋を無事に救出することはできるのか。偽りで固めた生活に、後ろめたさを抱えながら捜索に疾走する若手潜入捜査官のお話です。 ※全てフィクションです。 ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

逢魔ヶ刻の迷い子3

naomikoryo
ホラー
——それは、閉ざされた異世界からのSOS。 夏休みのある夜、中学3年生になった陽介・隼人・大輝・美咲・紗奈・由香の6人は、受験勉強のために訪れた図書館で再び“恐怖”に巻き込まれる。 「図書館に大事な物を忘れたから取りに行ってくる。」 陽介の何気ないメッセージから始まった異変。 深夜の図書館に響く正体不明の足音、消えていくメッセージ、そして—— 「ここから出られない」と助けを求める陽介の声。 彼は、次元の違う同じ場所にいる。 現実世界と並行して存在する“もう一つの図書館”。 六人は、陽介を救うためにその謎を解き明かしていくが、やがてこの場所が“異世界と繋がる境界”であることに気付く。 七不思議の夜を乗り越えた彼らが挑む、シリーズ第3作目。 恐怖と謎が交錯する、戦慄のホラー・ミステリー。 「境界が開かれた時、もう戻れない——。」

処理中です...