たおやかな慈愛 ~窓のない部屋~

あさひあさり

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斎藤福寿、2回目の花火大会。

2 ショッピングモールで

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「前に聞いたけど、呪は金魚掬い得意なんでしょ?」
「まぁ、嫌いではないですね」
「なら花火大会で一緒にやろうよ」
どこまで窓華さんの記憶があるのだろう。僕は金魚なら命もろとも掬えるかもしれないけれど、窓華さんを救うことはできないと言うのに。
「僕は掬った金魚を殺したことがあるんだ」
「え、酷い子どもだねぇ」
「水槽より広い池の方が良いと思って」
僕は小学校の頃、家の畑に池を作ろうとしたことを思い出す。それはもちろん完成するわけもなく、水を入れても塗装のされていないただの土では貯まらない。ただの大きな穴ができただけ。
「呪の家はそんな池がある家なのね?」
「違いますよ。小学校のときに知り合いの家で、そういう飼い方をしている人が居て羨ましくて真似しただけですよ」
「知り合いって、またまた。小学校の知り合いは友達でしょう?」
知り合いと友達の堺が分からない。僕と窓華さんは保護人と寿管士だから区切りがはっきりしていて分かりやすい。それなのに僕は迷っている。本当に僕は窓華さんの死に耐えられるかどうか。
「僕は畑に池を作ろうとしてできなかった」
「そんな大工事みたいなことは小学生ができるわけないよ」
「それでも僕は水がどんどん吸収されていく穴に金魚を放った。もちろん、みんな死んでしまったけど」
僕がそんなことを言うと窓華さんは一瞬黙った。だって反応に困ると思う。こんな根暗な子ども時代を送った人間の、惨殺エピソードなんて。
「じゃあ、今度の花火大会で掬った金魚は一緒に育てようよ」
「金魚でも一つの命なんですよ。最後まで責任もてないなら飼うべきじゃないです」
「それとこれとは違う話だよ。私は生きている間は楽しみたいの。なら私が死んだら桜に花火大会での金魚をあげてよ。私の代わり」
悪びれもなくそんなことを言う。金魚という物体が残るとして、僕は何を思ってその残された金魚を面倒見れば良いのだろう。窓華さんは卑怯だ。僕からいろいろと奪って死んていくだけだ。窓華さんの死はしばらく僕のショックな出来事として残ることになるんだろうなって思った。
「私は呪よりは先に死ぬけど、金魚が先に死ぬかもだよ?だって、そういうところの金魚って不健康なんでしょ?」
「あぁ、金魚すくいの金魚は安物ですからねぇ……」
「そうだよ、誰が先に死ぬなんて分からないよ」
窓華さんに後、六日で死にますよなんて言えない。二回目の花火大会の二二日まで命があって良かった。浴衣も甚平も無駄にならない。
「僕だって一度殺されかけているんですよ。だから食事で毒殺される可能性もあってないようなもんですから。窓華さんより先に死ぬかもしれませんね」
「あ、そんなこと言うなら料理なんて作らない」
明るい口調で窓華さんは言うけれども。舐められているように感じた。僕だって窓華さんは怖くない。でも霞さんのように恋愛対象かと言われるとこれも違う。別次元の人間だ。マザーがなかったら出会うこともなかったような人。会えたことは幸せに繋がらないけれど。

「私、浴衣に合わせる髪飾りが欲しい」
ショッピングモールを歩いている。もちろん荷物は僕が持っているわけで、窓華さんは身軽に動いていた。
「分かりましたよ。でも浴衣があれだけしか売ってないなら、その髪飾りとかも販取り扱い少ないんじゃ……」
「髪飾りなんて、そんな浴衣専用じゃなくて良いよぉ」
僕らは窓華さんの勧めの三百円ショップに来ていた。百均にすれば良いのにと僕が言ったら、百均は可愛いのが置いていないから嫌だとのこと。僕は初めて三百円ショップに行くことになったが、中はこれが三百円?と驚くものが多いぐらい品質が良かった。窓華さんは水色の着物に合うように水玉模様の髪留めを選んでいた。僕は買うようなものはないので、そのまま会計に向かう。こういうときにスタンプカードを作るかと毎回のように聞かれるが、窓華さんが居なくなったら来ないわけだし、僕はいつも断る。それにも慣れてしまった。こんな生活に慣れるなんて、人として失格だと思う。
「これとこれなら、どうだと思う?」
と窓華さんは浴衣と同じ水色で、花の付いたの髪飾りを二種類見せてきた。
「それも似合うと思いますよ」
「本当にどっちが良いか考えてくれている?そういうのデートでは嫌われるぞ」
そっけなく似合うと行った僕を窓華さんはからかう。この生活が続けば良いのにとしか思っていなくて、しっかり見ていなかったのは本当のことで図星だった。でも窓華さんは僕の意見など聞かず自分で髪飾りを選んだ。
「お値打ちな良い買い物ができたね」
窓華さんはそれから楽しそう。花火大会は二日後の土曜日だ。僕も初めて間近で花火を見ると思うと、楽しさとかで胸がいっぱいだった。アパートでも買ってきた浴衣と髪留めの感想を僕に求める。窓華さんは僕がこういう話を苦手だと分かっている癖にわざとである。
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