たおやかな慈愛 ~窓のない部屋~

あさひあさり

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式部霞、斎藤福寿に秘密を告げる。

2 寿管士の同僚らしい会話

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『じゃあ、僕からも。窓華さんに結婚しようって言われました』
『死んでからの結婚って話?それで眼鏡はどう答えたのよ?』
『僕はもちろん断りましたよ』
そんな度胸と覚悟は僕にはない。霞さんは行動を起こした。でも、見習うような行動ではない。霞さんも弱い人なのだ。
『それでそんなことを言ってきた相手を眼鏡君はどうしたの?』
『そりゃあ、困りましたけど普段どおりに接しています』
『まぁ、そうよね。次の保護人が来るのに一人に熱中したら後が辛いね』
そうだ、窓華さんが死んだら次の保護人が来る。僕はまた誰かと暮らして、その人を失う生活が続く。酷い日常だ。
『一人に集中すると辛いことは、霞さんだって同じだと思いますけど』
『そうね、私達は一人の保護人に執着していて馬鹿みたいよね』
呆れるように僕に言葉を放つけど、僕は自分の仕事について深く考えていなかったことも事実だ。ただ窓華さんに生きていて欲しいと思った。無責任だ。
『でも、窓華さんはお酒飲んでいたから』
『まぁ、そんなことはどうでも良いけど。私達は確実に失う人との時間を過ごすのが仕事なの。それは理解しなきゃね』
『関係性は割り切らないといけないですね』
『そういう意味で私も割り切れなかったわけ。思い出を残したいと思った』
霞さんも保護人に対する思いはあるのだろう。思い出で子どもを残したいと思ったのなら僕よりもすごい。今の時代はマッチングが当たり前で、選ばれた夫婦の選ばれた受精卵が当たり前になっているから。
『霞さんは死にたくないと言われたことはありますか?』
『それは言われてないけど。やっぱり私も好きなった人は失いたくないよ』
前に霞さんが思うところがあるというのは、保護人に対する恋心の話なのかもしれないしよく分からない。李さんには相談しているのだろうか。
『霞さんも思うところがあるんですね』
『そうだよ。こんな面倒な仕事もあるんだなって。じゃあ、またかける』
『分かりました。ではまた』
僕は電話を切るとそのままベッドに倒れ込んだ。次の日、窓華さんはいつもより遅く僕を起こしに来た。
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